坂野法律事務所 宮城県知事に対する北九州市災害廃棄物処理委託についての監査請求

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              宮城県知事措置請求書

宮城県監査委員 御中
                             2013年2月12日

                    仙台市青葉区中央四丁目3−28−3階
                          (電話022−227−3267)
                       請求人 仙台市民オンブズマン
                             代表 千 葉 晃 平
請求の趣旨

 宮城県知事が、平成24年8月31日に北九州市と締結した「災害廃棄物処理(北九州市搬出)業務委託契約」及び宮城県知事が締結し平成24年10月11日に成立した鹿島JVとの「災害廃棄物処理施設建設工事などを含む災害廃棄物処理業務(石巻地区)に係る業務委託契約の変更契約」の北九州市関連部分は、必要性を欠いており、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律第3条2項及び同法第11条1項の定める善管注意義務に違反する違法な契約である。同法は補助事業者に法令違反などの違法がある場合は補助金の交付決定を取り消し、交付済みの補助金については返還を命じるものとされている。この違法な契約によって宮城県は17億6040万4628円の債務を負担した(一部は支出済み)。よって監査委員は、宮城県知事に対し、17億6040万4628円の損害賠償をするなど適切な損害回復の措置をとるよう勧告することを求める。

請求の理由

第1 「災害廃棄物処理施設建設工事などを含む災害廃棄物処理業務(石巻地区)に係る業務委託契約」
 1 契約締結
   平成23年9月16日、県は、石巻ブロックにおける災害廃棄物処理のために、鹿島JVとの間で、契約金額1923億6000万円、契約期間平成26年3月末までとして、「災害廃棄物処理施設建設工事などを含む災害廃棄物処理業務(石巻地区)に係る業務委託契約」を締結した。
 2 委託業務の概要
   委託業務の概要は、災害廃棄物685万4000トン及び津波堆積物200万uを二次仮置き場で処理することである。具体的には第一段階で、石巻市雲雀野地区に二次仮置き場用地を確保するために、同所の一次仮置き場に搬入済みの廃棄物を県外への搬出・処分39万8000トン、県内リサイクル32万3000トンにより処分し、第二段階で二次仮置き場整備の後、粗選別、破砕、焼却などのプラント施設の整備を行い、一次仮置き場からの搬入を開始し、ブロック内・県内処理などで306万7000トン、県外処理で254万2000トンを処理し、場内焼却などで52万4000トン減量するというものである。
 3 災害廃棄物等処理の基本事項
   処理における基本事項として、ブロック内で処理できないものについては県内施設での処理を優先し、ブロック内・県内での処理が不可能な場合にあっては県外での処理を行うが、二次仮置き場での用地の確保の制約などにより県内での処理能力には限界があるため受託業者と民間の処分場間で広域的な調整を行うこととされた。
 4 処理スケジュール及び進捗状況
   国と県の災害廃棄物の処理スケジュールでは、平成24年4月頃からプラント試運転、その後プラント稼働、最終処分が行われ、平成25年12月まで稼働する予定とされた。このスケジュールは現在でも変更されていない。
   石巻ブロックの現状は、破砕選別ヤードは平成24年7月から全施設が稼働開始し、9月から稼働時間が24時間に延長された。焼却ヤードでは5基の焼却炉が5月〜7月にかけて火入れし、6月〜9月にかけて本格稼働を開始した(1日当たり1588.5トンの焼却能力)。

第2 災害廃棄物等発生推計量の推移
 1 プロポーザル発注時の推計量
   鹿島JVなどへのプロポーザル発注時の災害廃棄物等の量は、平成23年3月時点での推計に基づいて決められた。発注時の災害廃棄物(県受託分)は1107万トン、津波堆積物(県受託分)は408万uであった。
 2 平成24年7月「宮城県災害廃棄物処理実行計画(第2次案)」策定時の推計量
   平成24年7月時点における災害廃棄物(県受託分)は683万トン、津波堆積物(県受託分)は237万トンである。各JVとの災害廃棄物処理業務委託契約と比較して約4割も減少している。 
 3 石巻ブロックの減少量
   上記推計量の見直しにより、石巻ブロックでの災害廃棄物の処理量は785万トンから375万トン減の310万トンに、津波堆積物の処理量は292万から実に249万トン減の43万トンになった。
   減少率は災害廃棄物約69%、津波堆積物約85%であり、県全体の減少率に比べても遙かに減少幅は大きい。

第3 本件契約の締結
 1 宮城県知事は、平成24年8月31日、北九州市との間で、委託料6億2220万4628円で「災害廃棄物処理(北九州市搬出)業務委託契約」(以下北九州委託契約という)を締結した。
 2 宮城県知事は、平成24年10月11日に成立した鹿島JVとの「災害廃棄物処理施設建設工事などを含む災害廃棄物処理業務(石巻地区)に係る業務委託契約の変更契約」(以下石巻ブロック変更契約という)を締結した。
   この契約による変更設計金額の増額分は11億3820万円である。

第4 損害の発生
 1 災害廃棄物は一般廃棄物であるから原則として市町村が処理をすることになる。しかし今回は地方自治法第252条の14、第1項の規定に基づき県が石巻市など13市町から災害廃棄物処理の事務委託を受けることになった。同法に基づいて締結された災害廃棄物処理の事務の委託に関する規約第4条で委託事務に要する経費は市(町)の負担とされている。
 2 東日本大震災に対処するための特別の財政援助及び助成に関する法律第2条第2項により市(町)が負担する災害廃棄物処理事業費の9割について国の災害等廃棄物処理事業補助金が交付される。残りの1割についても地域ニューディール基金と震災復興特別交付税によって賄われ実質市(町)の負担はない。
   しかし、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律第3条2項は、「補助事業者等は、補助金等が国民から徴収された税金その他の貴重な財源でまかなわれるものであることに留意し、法令の定及び補助金等の交付の目的に従つて誠実に補助事業等を行うように努めなければならない」とし、同法第11条1項は「補助事業者等は、法令の定並びに補助金等の交付の決定の内容に従い、善良な管理者の注意をもつて補助事業等を行わなければならず」と規定する。従って補助事業者がかかる善管注意義務に違反する場合は補助金が交付されずあるいは交付済みの補助金について交付決定が取り消されて返還を命じられることになる。市(町)から委託を受けた県はこの補助事業者に当たるのであって、県が善管注意義務に違反すれば、北九州委託契約及び石巻ブロック変更契約に基づいて受託者に委託料を支払っても、後日補助金の交付を受けられないあるいは返還を命じられることになる。
 3 またそもそも県と市(町)との間で締結された災害廃棄物処理の事務の委託は行政上の受託契約であるから、県には善良な管理者として「廃棄物の適正な処理」を行う注意義務が課されている。規約第2条も事務の範囲を「平成23年東北地方太平洋沖地震による災害により特に必要となった廃棄物の適正な分別、保管、収集、運搬、再生、処分などの処理」としており、県が「廃棄物の適正な処理」怠った場合には、その部分に関する委託事務に要する経費は市(町)の負担にはならないと考えることができる。
 4 いずれにしても、県が善管注意義務に違反すれば、北九州委託契約及び石巻ブロック変更契約に基づいて受託者に委託料を支払っても、後日補助金の交付を受けられないあるいは返還を命じられることになるのであるから県に損害が生じることになる。

第5 北九州委託契約及び石巻ブロック変更契約の違法性
 1 処理量の大幅減少
   もともと各JVとの災害廃棄物処理業務委託契約は、県が設置した「災害廃棄物処理業務プロポーザル審査委員会」での慎重な審査の結果、災害廃棄物1107万トン、津波堆積物408万uの全量を平成26年3月までに処理しうる提案であると判断した上で締結されたものである。
   それがさらに4割も処理量が減少したのであるから、受託者であるJVが契約期間内に委託業務を完了できないなどという可能性は皆無であり、むしろ相当期間の工期短縮が見込めると判断するのが当然である。
   ことに石巻ブロックは上記のとおり減少率は災害廃棄物約69%、津波堆積物約85%という大幅なものである。
 2 処理設備の本格稼働
   しかも上記のとおり石巻ブロックでは破砕選別ヤードは7月から全施設が稼働開始し、9月から稼働時間が24時間に延長され、焼却ヤードでは5基の焼却炉が5月〜7月にかけて火入れし、6月〜9月にかけて本格稼働を開始した。宮城県知事が北九州委託契約を締結した8月31日は、正に石巻ブロックでの災害廃棄物処理が本格化して急ピッチで進もうとしていた時期である。
   このような時期に北九州委託契約を締結する必要性は皆無である。
 3 広域処理は当初から予定されていたこと
   県は広域処理の理由として「鹿島JVとの当初契約においては、一部の災害廃棄物について県外処理施設での処理を計画していたが、その後放射能への懸念が大きく取り上げられるようになり、鹿島JVが当初計画していた受入側の地方公共団体及び搬出予定先との調整に困難が生じた。そこで発注者である県も調整に当たることとした」と述べる。
   しかし鹿島JVは最初から、「第一段階での県外への搬出・処分39万8000トン」、「第二段階でブロック内・県内処理などで306万7000トン、県外処理で254万2000トン」という計画だったのである。県外処理量は県の言うような「一部の災害廃棄物について県外処理施設での処理を計画していた」どころではなく、処理を受託した災害廃棄物685万4000トンの実に43%に当たる294万トンを県外処理する予定だったのである。
 4 広域処理の必要性が皆無であること
   上記のとおり災害廃棄物の処理量は契約締結時から375万トンも減少したのであるから、仮に県外処理がゼロになっても鹿島JVの計画によれば処理可能ということになる。まして実際には県外処理がゼロになどなってはいない。
   しかも処理プラントは本格稼働が始まったばかりであり、業務完了期限までまだ1年半以上も残している。この時点で、鹿島JVが、委託契約を変更してまで自らが受託した廃棄物処理を北九州市に委託してもらわなければならないほどに「当初計画していた受入側の地方公共団体及び搬出予定先との調整に困難が生じた」などとは到底考えられない。
   平成24年7月「宮城県災害廃棄物処理実行計画(第2次案)」によれば、県が処理事務の委託を受けた災害廃棄物920万トンのうち処理確定量は708万トン及び県内処理拡大分112万トンを除いた100万トンが平成24年7月現在での処理未確定量であり、県外での広域処理の協力を依頼する必要があるとされている。ここでいう「処理確定量及び県内処理拡大分」の意味内容が詳らかでないが、最終処分の目処が立った量という意味と推測される。だとすれば処理プラントの稼働が本格化して間がなく、処理業務の履行期限まで1年8ヶ月もあるこの時点ではむしろ極めて順調に処理業務は進んでいると評価すべきである。広域処理を進める必要があったとしても、それは災害廃棄物処理を受託した各JVが行うべきことであって、県が鹿島JVとの契約の変更(実質的契約の一部解除)をしてまで自ら他の自治体と災害廃棄物処理契約を締結しなければならない事情があるとは言えない。この時点において残り100万トンについて処理の目処が立たないから契約を変更して欲しいと各JVが県に要請したというような事実はない。
   このように北九州委託契約の必要性は皆無である。そして北九州委託契約の必要性が皆無であれば、北九州市まで災害廃棄物を運搬する業務も不要であるから石巻ブロック変更契約(北九州市関連部分)も必要性がない。
 5 県の説明の不合理性
   県は北九州委託契約による広域処理の必要性について、@県の被災からの早期の復興推進と「がれき」が存在することによる県民の物理的・精神的な苦痛を早急に解消する必要があることから、災害廃棄物処理のスピードをあげなければならないこと、A県内での一般廃棄物最終処分場での残余容量を考慮すると、災害廃棄物を焼却処理することによって生じる焼却灰の埋め立て処分量を極力減量化する必要があること、をあげる。
   しかし石巻ブロックの処理を要する災害廃棄物は310万トンである。その僅か0.74%である2万3000トンを北九州市で処理したところで「がれき」が存在しなくなるわけではない。ましてこの程度で「がれき」が存在することによる県民の物理的・精神的な苦痛が早急に解消されることなどあり得ない。
   最終処分場については、県によれば平成25年1月の見直しで「最終処分については、現在調整中の県内最終処分場の確保及び県が災害廃棄物処理業務の委託を行っているJVと連携した最終処分量の削減、山形県、茨城県の民間最終処分場との交渉をすすめる」ことによって今後北九州市での広域処理は不要とされている。従って県の上記Aの説明は一般論を言うに過ぎず、到底17億6040万4628円もの委託費をかけてまで北九州で廃棄物処理を行うことの必要性・合理性を説明しうるものではない。
   重ねて述べるが、僅か0.74%であっても「がれき」が減るのは事実であるが、それをもって「必要性」が肯定されてはならない。災害廃棄物処理業務についての国庫助成の原資は、東日本大震災からの復興を目的とした特別増税である。補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律第3条2項が、「補助事業者等は、補助金等が国民から徴収された税金その他の貴重な財源でまかなわれるものであることに留意し」と規定するように、補助事業者は常に補助金の財源が国民の血税であることに留意して費用対効果を厳密に検討して国民の納得しうる事業を行うべき義務がある。従ってここで問われるべき「必要性」は17億6040万4628円もの費用をかけてまで僅か0.74%の「がれき」を処理する必要性があったのかである。実際に北九州市に搬出されたがれきは石巻市川口町一次仮置き場に置かれていたものであるが、付近住民に問うたとしても誰も必要だとは言わないであろう。
   県は北九州市での処理によって川口町一次仮置き場のがれき搬出が進んだかのごとくホームページで喧伝しているが、実際には仙台市や茨城県の民間処分場に搬出されたがれきの方が遙かに多いのである。そして雲雀野の焼却ヤードでは1日当たり合計1588.5トンの焼却能力を持つ焼却炉5基が9月には全てフル稼働したのである。北九州市に搬出した2万3000トンのがれきは僅か2週間で処理しうるのである。それを待てなかった理由を説明できて初めて「必要性」が肯定されうるのである。
 6 以上詳述したとおり北九州委託契約及び石巻ブロック変更契約は、必要性を有しないものであるから、宮城県知事が災害廃棄物処理業務を行うに当たって負っている善管注意義務に違反する違法な契約である。

第6 復興予算の無駄遣いは許されない
   環境大臣は、平成24年4月23日付けで宮城県知事に対し「内閣総理大臣による協力要請結果を踏まえた今後の災害廃棄物の広域処理の推進について」の依頼を発出した。これが本件北九州委託契約及び石巻ブロック変更契約締結の全ての始まりである。
   おそらく宮城県知事にとって本件契約締結は本意ではなく、忙しい最中に余計な事務作業を強いられるだけの迷惑千万なものだったと推測される。当時進めていた災害廃棄物量推計の見直し作業で既に大幅な減量が見込まれると共に一次仮置き場への災害廃棄物の集積、分別、二次仮置き場での処理プラント建設も順調に進んでおり、各JVが進めている以上の広域処理の必要性などないことは県知事自身がよく知っていたはずである。
   にもかかわらず本件契約締結に至ったのは国の要望に逆らえば復興に支障が出るかも知れないとの危惧と、所詮全額国庫負担なのだから敢えて断る必要もないとの考えからであろう。これが一部でも県の予算を使う内容であれば当然断っていたと推察される。その意味では当時の民主党政権と環境省のスタンドプレイに利用されただけで責任を問うのは酷とも考えられる。
   しかしながら復興予算の原資は特別増税までして捻出した国民の血税である。17億6040万4628円もの無駄遣いは余りにも巨額すぎてこれを見過ごすことはできない。今後も長期間に渡って続く復興事業遂行に当たって、県知事は常に費用対効果を厳密に検討しなければならない。鹿島JVとの「災害廃棄物処理施設建設工事などを含む災害廃棄物処理業務(石巻地区)に係る業務委託契約の変更契約」の内容は、今回対象とした北九州市関連部分以外にも多々問題点がある。災害廃棄物量推計量の減少をそのまま委託料減額に反映したのでは減額幅が大きくなりすぎるので、ゼネコン救済のために当然当初業務に含まれるはずの業務を追加工事として増額変更しているとしか思われないものもある。復興事業に当たっては迅速性もさることながら費用対効果の厳密な検証が不可欠であり、この見地から敢えて本件監査請求に及んだ次第である。

第7 結論
   宮城県知事が北九州委託契約及び石巻ブロック変更契約を締結した行為は、善良な管理者として災害廃棄物処理業務を行うべき義務に違反するものとして不法行為に該当する。よって宮城県知事には県に対し、県が被った17億6040万4628円の損害を賠償すべき責任がある。
   以上、地方自治法第242条1項の規定により、事実証明書を添えて、宮城県知事に対し、17億6040万4628円の損害賠償をするなど適切な損害回復の措置をとるよう勧告することを求める。

  
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