坂野法律事務所 医療過誤事例報告   骨折後フォルクマン拘縮を来した事例

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医療過誤事例報告
  骨折後コンパートメント症候群発症によりフォルクマン拘縮を来した事例

                     仙台弁護士会 弁護士 坂野智憲


被告 地方自治体(公立病院における医療過誤)

平成30年2月22日 訴訟上の和解成立。

 

(1)事案の概要

患者は4歳。平成26年に,保育園の鉄棒から落下して右橈骨・尺骨骨幹部を骨折。

当日,被告病院においてギプス固定。

2日後,整復が不十分であったため再度ギプス固定。処置中は,初回のギプス時には見られないような大声で泣き,処置後も少しでも動くと痛がる様子であった。同日中に再度診察を受けるも,医師からは特段の指示はなく,その日は帰宅した。

帰宅後も痛そうな様子であり,1〜2時間ほどしか眠りが続かなかった。翌日以降も痛みは継続している様子であった。

約一ヶ月後にギプスを外すと,痛々しい傷痕があり,また手指の動きは悪く固まっていた。その後も2週間に1回程度受診し,経過観察を続けたが,手指の動きは改善されなかった。

フォルクマン拘縮との診断を受け,再建術のために転院。

後医においては,MRI検査等の結果,外傷やギプスの巻き方のため,骨・筋膜によって囲まれた区画内圧が上昇し,微小血管の潅流障害を起こして(コンパートメント症候群),

筋組織が萎縮,これによって指が曲がった状態になっているとのことであった。癒着している筋肉を剥がすため腱剥離術を施行。

 現在も手関節と指関節に可動域制限が残る。

 

(2)原告の主張

@本件では,受傷から2日後の整復処置中に大声を上げて泣いただけではなく,処置後も同じ状態が1時間続き,そのために母親が整形外科の受付に相談して再度担当医の診察を受けることになった。この再診までの間,1時間ほど待ったがその間も状態は変わらなかったこと,受傷当日の整復後はそのような再診察の要請などはなく痛みが持続している様子もなかったことからすれば,担当医は,受傷から2日後の再診の際,母親から待っている間の原告の状態を詳細に聞き取った上で,ギブス固定が強すぎた,あるいはギブス固定後に腫脹が増大して結果的にギブスによる区画圧迫が生じている可能性を念頭に置き,診察すべき義務があり,これを怠った過失がある。

 A仮に@の義務違反がなく,整復直後には適切なギブス固定であったとしても,その後の腫脹の増大によって区画内圧が上昇することは十分想定される事態である。従って整復後に持続的な痛みが存在する可能性が否定できない患者を帰宅させるに当たっては,注意すべき合併症としてコンパートメント症候群が存在すること,重篤な合併症なので強い疼痛の持続や指先の色調に注意し,それが認められたら再度直ぐに受診する必要があることを患者の保護者に説明する義務がある。本件では上記説明義務を怠った過失がある。

 

(3)争点

@コンパートメント症候群を念頭においた診察義務の有無,A患者を帰宅させる際の説明義務の内容,B本件におけるコンパートメント発症の有無,C因果関係,D損害の評価等

 

(4)結果

400万円で訴訟上の和解が成立。


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