坂野法律事務所 「Ai診断」オートプシーイメージング診断について 弁護士 坂野智憲 ツイートする

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 「Ai診断」オートプシーイメージング診断について               

                             仙台弁護士会 弁護士 坂野智憲

   「医療現場を描き、映画やテレビドラマにもされた小説「チームバチスタの栄光」などで知られる作家、海堂尊(たける)氏のインターネット上の文章で名誉を傷付けられたとして、日本病理学会副理事長の深山正久東大教授が、海堂氏と海堂氏の文章をホームページに転載した出版社2社に計1430万円の損害賠償と謝罪広告の掲載を求める訴えを東京地裁に起こしていたことが9日、分かった。」とのことです。
  「Ai診断」とはオートプシーイメージング診断の略で死亡時画像病理診断のことです。ツタンカーメンのミイラについてCT検査がなされ死因や生前の健康状態の調査が行われましたが、死亡直後に行えば比較にならないほど多くの情報を得られます。それを加味して死因を診断しようというのが「Ai診断」です。
  日本では死後剖検(司法解剖や病理解剖のこと)が行われるのは僅か2%程度で、それ以外は死亡までの臨床経過から死因が判定され死亡診断書に記載されます。しかし本当の死因は病理解剖してみなければ分からないことです。例えば臨床経過からは急性肺塞栓と診断されても、病理解剖の結果血栓は存在せず死因は別だったということもあります。この場合死後にCTを撮ってみれば血栓の有無が分かるので解剖しなくとも別の死因を探求しようということになるわけです。
  病理解剖は、病理医も極めて少ないし、遺族の抵抗感もまだまだ大きいため今後実施率が急上昇することはあり得ません。それを補うものとしてAi診断は注目されています。しかしこれについては臨床現場でアレルギーが強いようです。私が経験した医療事故でも、遺族が解剖はしたくないが死因に疑問があるのでCTを撮ってくれといって拒否されたケースが何件かあります。医師が説明した理由は保険適用がない、そもそも画像診断は治療のために行うもので死後に行うことは想定されていないというものだったそうです。上司の医師が説得しても担当医が応じなかったケースもありましたがそれは単に死因が明らかにされるのが嫌だったのかもしれません。また放射線科の医師は治療目的以外の画像撮影は許されないという考えが強いようです。
  現在厚生労働省は医療安全調査委員会を作って、医療事故の可能性のある死亡事例について調査し、死亡原因を救命し、医療事故防止に役立てようとの構想を持っており、法案化もなされています(医療界の反対で進んでいないようですが)。この構想は病理解剖の実施を前提にしていますが、いまの病理解剖の態勢で本当にやれるのか疑問です。また遺族が解剖に同意しない場合は当然調査できないわけですが、その場合にはAi診断によって調査することが考慮されるべきでしょう。
  医療過誤訴訟では死因が争われることが少なくありません。実際の医療訴訟での過失の主張は、診断書の死因の記載や臨床経過から推定される死因を前提に、それによる死亡を避けるにはどのような検査を行うべきだったか、どのような治療を行うべきだったかを明らかにして、それを怠っているから過失があるのだと主張します。医療機関側は原告主張の死因を前提に検査の必要はなかった、検査をしうる態勢になかった、そのような治療は必要なかったなどと反論するわけです。しかしそうではなく死因自体について争ってくる場合があります。特に原告主張の死因を前提にすると過失を否定できないという場合は必ずと言っていいくらいに死因不明論を展開します。つまりそもそも死因が不明なら、死亡を防ぐためにどのような検査や治療をすべきだったかということを検討すること自体が無意味になるからです。医療機関側は時として自らが記載した診断書の死因ですら、ひとつの推論を記載しただけで医学的に証明されていないとして否定してきます。このような主張は病理解剖がなされていない事案では特に有効で、臨床経過から強く特定の死因が示唆されない限り、患者側にはなすすべがないということも少なくありません。死因不明に逃げ込むことが医療機関側にとって最大の防御になっているというのが、死亡事故に関する医療過誤訴訟の現状です。
  このような現状に照らし、私はAi診断の普及を強く支持します。解剖と違って費用は安いし、遺体を傷つけないので遺族の承諾も得やすい。もちろん顕微鏡的な検索ができるわけではないので病理解剖の代替にはなりませんが、死因の推定には非常に有効な方法であることに変わりありません。ただ病理医としては職域を荒らされるようでおもしろくないのでしょう。
  正確には分かりませんが、海堂氏のブログを見るとが訴えられたというブログの記載は次の部分と思われます。「中立的第三者機関設置を含めたモデル事業が病理学会理事たちを交えて、過去二年展開したことに私はこれまでも言及してきました。(中略)こうした問題にもエーアイを導入すべきだという意見を私は主張し続けてきましたが、聞き入れてはもらえませんでした。一方、病理学会理事長、長村教授とやはり病理学会理事で東大病理学教室の深山教授のおふたりが、このモデル事業に深く関与し、厚生労働省とも緊密に連絡を取りながら、モデル事業を推進してきたことは周知の事実です。昨年四月、病理学会として「医療事故調査委員会」設置に向けてのパブリックコメントを求めた時、病理学会の意志としてパブリックコメントを作成したのが、このふたりを中心にしていたということもわかっています。そのパブリックコメントの中で、病理学会は「オートプシーイメージングなる検査を主体にしてはならず、解剖を主体に制度を構築すべきだ」と主張しています。 (中略)ひっそりと公募研究を募集します。この公募研究は、厚生労働省のホームページ上に掲載されました。それが、「解剖を補助するための画像研究」だったのです。そしてその公募研究に応募したのは前述の東大病理学教室、深山教授ひとりだった、というのです。(中略)厚生労働省の担当官は国会で、この公募研究は「オートプシーイメージングに関してつけたものだ」と答弁しているのです。 さて問題は、こうした公募研究に応募したのが深山教授(東大病理学教室)で、それをウラで支えたのが病理学会理事長の長村教授(東海大学)だ、という点です。彼らは、エーアイ研究に対する実績はゼロです。であるもかかわらず公募研究に応募し、研究費を取得した。これは研究内容を先行研究者たちからパクろうとしているに等しい行為です。 何とあさましいことでしょう。」
  形式的には名誉毀損的表現があることは事実で、あとは公益性、真実性の証明の問題になると思われます。ただ海堂氏のブログの他の部分も読むと、氏の言いたいことは、「病理解剖だけに頼っていては医療事故調査委員会はうまく機能しないのでAi診断を積極的に導入すべきだ、にもかかわらず病理学会の方でそれを阻害するような動きをし、そのために厚労省と組んで公募研究を利用するようなことはすべきでない」という点にあるのでしょう。その意見が正しいかどうかは別にして、日本の立ち後れた死因救命体制に警鐘を鳴らし、医療事故調査委員会についてもより実効的な手法をとるべきことを提言することは正に公益を目的とした言論であり、表現の自由として尊重されるべきではないかと思われます。反論があるなら正々堂々と言論を以て行うべきで、裁判という形をとるのは甚だ疑問といわざるを得ません。

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