TOP BACK
 **** 英国のナショナル・トレイル ****

        サウス・ダウンズ・ウエイを行く 

 
 
1 準 備 
1−1 トレイルの検討
 イングランド南東部はロンドンからのアクセスが良く、この時期でも天候も安定している。
 その中でも、サウス・ダウンズ・ウエイはこの地方の代表的なトレイルのひとつで、白亜層の丘の尾根上を伝って100マイル(161km)の展望が良いコースらしい。
 昨年、コッツウオルズ・トレイルを歩いた時から、有力候補のトレイルで地図やガイドブックによると標示識や道路条件も整備されている。弱点は宿泊先がB/B主流でテント地が少ない事だが、テントがダメな時はB&B泊にする。
 更に、1泊2日の短いクレアンドン・ウエイが延長にあるのでトレースしてマイナーなフットパスの状況を体験しよう。

1−2 食料・装備の準備
1)入山中は食料の補給が期待出来ないので、国内調達とし、YHA泊は町で買い物が出来るので現地調達にする。
2)ウイスキーは強過ぎるので、アルコールは疲労回復に効果的な焼酎(20度)にした。又下山後は現地産のワインにしよう。
3)燃料用のブタンガス缶は入山口のイーストボーンで調達。
4)軽量化を優先して居住性の悪い低天井テント(1人用)を持参。
5)地図はイーストボーンで「1/4万・サウス・ダウンズ・ウエイ」(注1)を購入したい。昨年現地で1/5万OS地図(注2)調達済み。



  2 記 録 
A)サウス・ダウンズ・ウエイ
 6月3日・曇り&小雨(時々雷)
     (イーストボーン・トレイル始点からアルフリストン)
      距離21Km。行動時間4時間40分
 タイム:イーストボーン駅(6:50)-海岸トレイル始点(8:00)-尾根トレイル合流(8:50)-ジェビングトン(10:00)-アルフリストンYHA(11:30)同ホステル投宿(17:00)
  キャンプ場から徒歩5分でウエストハム駅着く。始発電車(6時41分発)まで1時間あるので「折角来たのだから・・」と荷物をホームに置いて駅付近の散歩に出た。
 駅周辺はピベンシー地区と呼ばれ古い集落を形成している。地域内には西暦290年築城のピンベンシー城が城壁を一部残して往時を偲ばせる。又12世紀に建築されたバイレイ教会等を早朝のモヤの中で散策していると、中世期にタイムスリップしたような気持ちになる。
 始発電車に10分ほど乗って、昨日下車してイーストボーン駅に着く。地図によると、トレイルの始点は2ケ所ある。駅から海岸沿いに3km先・キング・エドワー通りの端(海岸コース)と駅から2km先・山寄りのゴルフ場端の始点(尾根コース)がある。
 小雨気味で視界も良くないので、尾根コース(短距離)を辿る事にして、市街地の複雑な道路を進む。案内所で貰った詳細ガイド図の範囲は間違わずに辿れたが、その先1km手前で道に迷ってしまう。
 何人かの通行人に聞いても海岸コースしか知らず、ウロウロと道を捜すが諦めて、一度海岸コースへ出て途中から尾根コースに合流とする。
 海岸コース・始点から車道を50分ほど歩いて目的のトレイルに合流。トレイルは自転車も走れる立派な道(ブライドルウエイ)で他トレイルとの交差点だけを注意して難なく今夜の宿・アルフレストン村のYHAに到着。
 「早く着いたので、YHAで昼食を作ろう」と思っていたのに<宿は17時からオープン>と施錠で拒否。しかたなく駐車場で時間をつぶして夕方無事投宿(注3)。


 
6月4日・曇り&小雨
     (アルフリストンからハウスダウン農場)
     距離 23Km。行動時間6時間
 タイム:宿発(5:50)-ベイングハムヒル(7:00)-ミルヒル(9:45)-ハウスダウン農場(11:50)
 昨日より天気が悪く、広い尾根上には風除けもなく向い風に煽られるながら進む。1時間歩いてボストル丘で車道と合流。
 駐車場に数台の車と20数名のジョガーが準備運動をしていた「土曜日だからトレーニングか?」と思って通り過ぎ、しばらくして数名のランナーがバトンを持って真剣な表情で追い越して行く。気合を入れて走っているので「レースですか?」と聴く事も出来ず。更にランダムにランナーは続く。
 今日のコースは1時間毎のピッチに車道と合流しているので犬の散歩者やデイハイカーとも出会う。その中の一人に「今日のランナー達は何ですか?」と聞いたら「サウス・ダウンズ・ウエイのクロカン・リレー大会のランナーですよ」との返事。全長161kmの山道レースとは驚いた。
 時間差のスタートとしても最初に追い越したランナーから3時間も遅れて最終ランナーが走って行ったのでゴールでは相当の差になるだろう。
 途中の中継点で、準備体操をしているオジサンさんランナーに「どの程度の距離を走るの?」と聞いたら「1区間平均10kmを7名で交替してトレイル終点のウインチェスター迄」との事。
50組ほどの中には急坂を歩くランナーもいたが、平地なら1キロ3分代のペースで走れるハイレベルのフオームが多い。
 ともあれ、強風に向かうランナーから元気を貰い「歩け!歩け!」と前進した。
 今日の宿泊予定地・キングストン・ニヤーの集落に近づく。ガイド書には「ハウスダウン農場でテントを張れる」とあるのでその農園を頼りに進むうち、ハイウエイ・A27号の横切で同農場に到着。
 丁度昼休みでご主人が居たので「スミマセン、今晩テントを張らして下さい」と最上の笑顔でお願いして了解を得た。場所は放牧地の一画をバラ線で囲んだ区間だ。何だか檻に入った気持ちだが寝場所を確保して一安心。


 
6月5日・曇り後雨
     (ハウスダウン農場からアニングトン農場)
     距離24Km。行動時間6時間40分
 タイム:テント発(4:30)-ストリートヒル(6:15)-ペイコブ(8:00)-フルキングヒル(9:25)-トチングトンYHA(10:15)-アンニングトン農場・テント地(11:20)
 はっきりしない空に気遣いながら出発。日曜日のせいかマウンテンバイクのハイカーが多い。道は歩くには気にならないがバイクではラフ道だから運転技術が要求される。
 車道やトレイル分岐点および牧場の出入口のゲートには必ずトレイルマーク(ドングリの絵とトレイル名)があるので道を間違うことはない。不慣れな土地で現在地と行き先が明確なので大助かりだ。
 夜の宿泊予定地・スタイニング町の6km手前にトチングトンYHAが道脇にあり宿泊を一昨日申し込んだが満員で断られた。
 昨日の農場泊に味をしめて「農場があったら飛び込みで申し込もう」と地図で農場を確認しながら進む。
 スタイニング町の入口で<新鮮なタマゴ有ります>と門に標示したアニングトン農場の前を通る。場内に入り住居へ行くと奥さんが居たので事情を話してテントの許可を得た。「昨日もオランダ人夫婦が来たのよ」とのこと。水も台所から貰い感謝感謝。TVで放映の「田舎に泊まろう」の英国版のような気がした。
 夕方から本降りだ「雨は降らないだろう」と防水切れの軽量テントが裏目に出てしまった。ビニールシートをテントに被せたが全面を被うことは出来ず、ポタポタと落ちる雨音が恨めしい。明日も雨だったらB&B泊にしよう。


 
6月6日・小雨&曇り
     (アンニングトン農場からアムバーリー・B&B)
      距離21Km。行動時間6時間
 タイム:テント発(5:30)-A24(8:30-40)-スリングトン(9:30)-スプリングヘッドヒル(10:15)-アンバレー(11:30-13:00)-同・ストリームコテイジB&B(13:10)。
 雨の中のテント撤収は久し振りで、憂鬱になるが「風が無いので助かる」とポジテブに考え直し出発。
 時計の標示時間と明るさがズレているので、散歩の娘さんに「今何時?」と確認すると、やはり2時間遅れていた。「何だろう?」とあれこれ考えて歩く内に原因が掴めた。理由は昨夜テント内に時計を吊るした時にライト(マグネット付き)をウッカリ同じ所に吊るした為、マグネットの影響だった。歩きを止めてライトを取り出してマグネットの部分を撤去した。
 緩やかな広い尾根が低くなった所に車道が横切り西へ西へとトレイルは牧草の中を延びている。
 宿泊予定地・アムバーリー村に着いて雑貨屋のオバサンにB&Bを紹介して貰う。店の近くのストリームコテイジ(注4)はカレンダーに出るようなカヤブキ屋根の歴史的民家だ。留守なのでしかたなく隣家のオジサンに荷物を預けて村内を見物。ひと回りして戻ってみると宿主の奥さんが買い物から戻っていたので投宿出来た。
 築400年の家床は少し傾いているが綺麗に内装されワラ葺きの温もりが伝わってくる。二階(6畳ニ間)を全部開放したB&Bで客は一組しか泊まれない。1泊50ポンド(1万円)は常宿出来ないが、昨日のテントの雨を思うと「今夜は特別」と大目にみる。


 
6月7日・快晴
     (アムバーリー・B&Bからコキング・ヒル農場)
      距離20Km。行動時間5時間
 タイム:B&B発(8:10)-ビグノアヒル(10:00)-A285交差(10:50)-コッキング・マナー農場(13:10)
 前半の雨模様の天候とも今日から開放されるようだ。久し振りの朝日を背に出発。
 タンパク質の朝食をタップリ取ったので疲れをリセットしたのか元気が湧いてくる。
毎日ガイドブック通りの行程で進んでいるので半日行動で終わる「テント地があれば日数を短縮出来るのに・・」と大分荷持も軽くなったので愚痴が出る。
 1時間歩くと幹線車道A29を渡る。この付近でトレイルの中間地点だそうだ「残りは半分、天気は回復!」と気分は上々。
 小高い丘を越えると今夜のテント地のコキング町が見えて来た。ガイド書にあったマナー農場が町への分岐点にある。
 昼休みが過ぎて午後の仕事に出ているので、住居には誰もいない。近くの牛舎へ行ったら奥さんが馬の調教をしていたので「農場の隅にテントを張らして下さい」とお願いすと「今仕事で手が離せないのでしばらく待って」とのこと。
 ダメとは云わないので「・・後で又来ます。よろしくお願いします」と礼を云う。近くに公共の水場(地図に標示有り)がありテント地としては適地だ。アルコールが無いので1kmトレイルからそれてコキング町へ行ってワイン入手した。農場へ戻って一昨日に濡れたテントを干しているとトラクターに乗った農場主が帰って来た。事情は奥さんから聞いていたようで、直ぐにテント地に案内してくれた。
 テント泊の場合に1日の2/3はテント地で暮らすので場所の確保は重要なポイントになる。その為にテント地の記述も多くなる。


 
6月8日・快晴
    (コキング・ヒル農場からイーストメオン・サステナブルセンター)
     距離28Km。行動時間9時間
 タイム:テント発(5:00)-ブリトン農場(7:00-8:00)-ビーコンヒル(8:40)-B2146交差(9:15)-ダーム農場(10:20)-ブリトン(10:10-40)-エリザベス公園(12:00-15)-サステナブルセンター(14:00)
 歩き始めて2時間ほどで、公衆水道のブリトン農場に着く。水場が見つからない「場所が違うのか?」と諦めて進む。水場に気を取られて違うトレイルを下り2km程で車道に出てしまい「間違えた!」と慌てて引き返す。
 ゴールまで3日の予定を1日短縮しようと思っていたので、このミスは痛い。今日までトレイルを間違えたことが無かったので多いに反省。悪いことにこの付近だけが曲がりが多いので他のトレイルに入り易い場所だった。
 昼にエリザベス公園に着いたのでテント地を紹介して貰う。出来れば公園内にしたいが、テントは禁止されているとの事。紹介された所はトレイルの約6km先・ウエザーダウン・ホステルでテントも可となっている。ここは新設の保養地と環境研修所の集落でテント地はサステナビリテーセンター(注5)と云う公益施設で管理人に「何処で聞いてきたの?」と質問された。一般には公開していないが好意で許可してくれた。ウエザーダウン・ホステルは研修者用の宿泊施設との事。


  6月9日・快晴
     (イーストメオンからウインチェスター終点経由モーンヒル・キャンプ場)
     距離30Km。行動時間7時間10分
 タイム:テント発(4:40)-ワーンフオード(6:30)-ビーコンヒル(7:25)-ローマ農場(8:07)-ホールデン農場(9:00)-キーパーコテイジ(10:00)-ウインチェスター終点(11:50-13:00)-キャラバンクラブ・キャンプ場 (13:10)
 昨日はテント地の都合で距離を稼げたので、今日中にゴール地のウインチェスターに着けそうだ。地図も最後のページになり1ピッチごとにウインチェスターに近づいてくる。荷物も軽く肩の痛さも和らぎ元気が湧いてくる。
 ゴールの2km手前の丘を越えると町並が「御苦労さま」と云うように迎えてくれ、高速道を慌しく行き交う車音が終点に来たことを告げる。
 市街地の案内所でテント地を聞いて、2ケ所の内近いキャンプ場・キャラバンクラブ(注6)へバスで行き、2泊の申し込を済ませた。


B)クレアンドン・ウエイ
  
6月10日・快晴
  (ウインチェスター始点からブロートン・バス停後キャンプ場テント地泊)
  距離27Km。行動時間6時間20分
 タイム:テント発(4:40)-トレイル起点(5:20)-ロムセイロード(6:00)-マウントパーク(7:00)-キングスソンボーン(9:00)-ブロートン(10:50-11:10)-バスでウインチェスター(12:00-13:10)バスでキャンプ場(13:20)
 キャンプ場から町へ出る始発バスが遅いので町まで歩く。トレイルは町を流れるイッチェン川沿いにスタートする。古い標識があるがウインチェスターの市街部は判断出来ず町並がきれるまで適当に歩きロムセイロードでトレイルに合流。
 今日からはキャンプ場にテントを張ったままで、行動食と水筒だけをザックに入れて空身のハイキングだ。天気は快晴でルンルン気分「夢にまで見た空身の山旅」を満喫する。
 マイナーなトレイルは整備がされていないが、近所の人達の日常の散歩道として活用されているようだ。
 4時間ほど進むとテスト川に着く。川幅は約1kmあるが水はその中に幾本も5mの細い川幅に分断されて流れていた。この川沿いには鉄道跡を利用したテストウエイが東西に延びている。
 川を過ぎて1時間で今日の予定地・ブロートンの町に到着。ほどなく小型バスが来たのでウインチェスターに戻った。次回はここまでバスで来て再スタートする。

  
6月13日・快晴
  (ソールスベリー発バスでブロートンからソールスベリー終点後・YHA泊)
  距離16Km。行動時間4時間
 タイム:ソールスベリーバス発(10:35)-ブロートン(11:00)-バックホールト農場(12:00)-ピトン(13:40)- ソールスベリーYHA(15:00)
 予定では始発バスに乗るつもりだったが「ハンプシャー校の休日は運休」とのことで1本遅れてブロートンへ向かう。今日は4時間程度の軽いトレースだから「まあいいか」とバス停から歩き始める。
 トレイルは前回と同じく西へ直進している。特にローマンロードは見事な一直線な道路だ。
終点のソールスベリーに向けて下降気味に歩くので歩き安い。約3km手前の森林帯を過ぎると展望が開けて終点のソールスベリーの古都と大聖堂の尖塔が見えて来た。


        ∞ ∞ ∞ ∞∞ ∞ ∞ ∞

  3 所感と教訓
1)サウス・ダウンズ・ウエイ
 ガイドブック(注7)で標準日程が紹介され、泊地の詳細が説明あるので、そのスケジュールに従うことになる。しかし、20km程度では半日行動で物足りないから、自分のペースで行程を組みたいが宿泊(テント地)が不明で標準日程に妥協した。
 数日そうした日が続くと充実感が薄れて来た。又、ガイドブックで紹介された宿泊地も最盛期でないので休業中もあり要注意だ。

2)クレアンドン・ウエイ。
オートキャンプ場が普及しているし、テント位であれば当日でもスペースがあり受け付けてくれる。
 今回のように、短いトレイルで公共交通の便があれば、テント定着で放射上にトレースする事も可能だ。この場合空身で歩けるので体力が衰えても実行出来るパターンと思えた。

3)交通機関の運行情報を計画に網羅しておくことがトラブルを避ける要点になる。乗車位置や割引制度についても、事前に不明な事項は、勝手に解釈せずに現地で直接聴くことが大事だ。

4)前半は雨模様で後半になって新緑の五月晴れを満喫出来た。やはり年によって多少ずれて6月中旬以降になれば安定した好天気が続ようだ。事前にウエブサイト(注8)で週間予報調べるようにしたい。

5)3日目までは天候が悪く強風に向かって進んだ。自転車では風の影響を受けるが歩くのには大きな条件とはならない。読図が容易な逆コースを選んで正解だった。

6)食料について:今回初めて持参した乾燥納豆、切りコンブ、節分の豆、焼酎は有用、YHA用としてスパゲテイーも適切。
 概算必用カロリーの70%程度取得し不足分は体脂肪の消化で補った。

7)装備について:テントは防水不良と内側のコーテングが剥離(ボロボロに剥がれた)ので廃棄処分した。ガスは7日間使用して残量4日位あり。1缶で10日間は使える。


           ∞ ∞ ∞ ∞∞ ∞ ∞ ∞

<注記>の解説

注1 HARVEY社発行 www.harveymaps.co.uk
注2Ordnance Survey発行
     サウス・ダウンズ・ウエイ:#185,#197#198,#199
     クレアンドン・ウエイ:#184,#185
注3 Alfriston YHA
      E:alfriston@yha.org.uk
注4 Stream Cottage
     E:enquiries@streamcottage.co.uk
注5 Sustainability Centre
     E:education@earthworks-trust.com
注6 Caravan Club Site
     www.caravanclub.co.uk
注7 Walking in Britain
     www.lonelyplanet.com
注8 Wether
   wwwbbc.co.print/weather/5day.shtml?id=3484

 ∞ ∞ ∞ ∞∞ ∞ ∞ ∞
TOP BACK