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 **** 英国のナショナル・トレイル ****
       コッツウオルド・ウエイのトレール 

 
  
1 準 備 
 1−1 トレイルの検討
 
英国・フットパスの紹介書「ウオーキング大国・イギリス(明石書店発行・平松紘著)」を年初めに入手してトレイルの概念を把握。
 過去に業務で当地に何度か訪れた印象と合わせて、典型的な田園風景とトレイル難度の低い「コッツウオルズ・ウエイ」のナショナル・トレイルにした。
 同一地域に南及び北ダウンズ・ウエイやテームズ・パスあるが、コッツウオルズ・ウエイ・トレイルは、南北のコースで距離は約160Km・1週間の行程でテント泊地も数ヶ所ある。
 更にロンドンからのアクセスも良いし、入門編としてはこのような代表的なトレイルが無難と思えた。
 <参考:北ア・前穂高岳から白馬岳まで約100Km>


 1−2 航空券の予約
 
マイレージの加算と比較的安価な大韓航空に4月5日予約。
 難点は成田空港の集合が朝7時半、ロンドン到着が午後5時。又帰国時の成田到着が午後9時と時間帯が悪いこと。


 1−3 食料・装備の準備
 
1)米と調味料以外は現地で追加調達。
 2)ガソリン・コンロは機内持込禁止品で拒否される恐れがある(前回検査が厳しく拒否された)。今回からバーナ(注1)とブタンガス缶の分離形に変更して燃料は現地調達とする。
 3)軽量化を優先して居住性の悪い低天井テント(1人用)を持参する。
 4)地図はインターネット販売でアマゾン書店から「1/4万・コッツウオルズ・ウエイ」(注2)購入。現地で1/2.5万OS地図(注3)調達。
 5)出発時の荷物総重量は約13Kg。


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 2−1 まえがき

 コッツウオルズ地方は日本の観光案内書にも大きなスペースを設け「蜂蜜色の民家と美しい田園地帯・・」と人気の高いスポットで多くの観光客を集めている。
 点在した集落や町は羊毛産業の集落地として栄え、裕福なウール商人たちが建てた家が現在も居住し伝統の保っているとか。
 これ等の集落を結ぶ未舗装路と云うより牧場や樹林帯のシングルトレイルに心がときめいてくる。



 2−2 トレイル記 録
 6月5日・晴 (バース・トレイル始点からオールド・ソブリー)
       距離28Km。行動時間8時間20分
 タイム:バースYH(4:50)-バース始点(5:10)-ビーチ・ウッド(8:00)-サンデイ・タイニング(10:00)-オールド・ソブリー(12:50)-同ホテル(13:10)。

 夜明けを待ってYHを出発。前日に確認したトレイルの始点(注4)で記念撮影。
 昼間の賑やかさがウソのような町並を抜けてペン丘に向かう。丘全体が牧場になっていて幾つも柵で区切られ、その度、歩行者用に設けられたゲートを越える。
 ゲートの杭に丸いトレイルマークが貼ってあり、このトレイル案内の標示板は進路方向も標示し踏み跡がない草地では頼りになる。
 畑は脇でなく真中を通り踏跡が明瞭だ。地形と牧場地の関係で歪曲路が多く地図と磁石だけでは判断が出来ないので助かる。
 3時間も進めばトレイルの状況も判り周囲を眺める余裕が出てきた。予想通り未舗装路と標高差が少なく見通が良いので爽快になって歩も進みがちになる。
 初日は足慣らしの為、距離を短くしたいがテント地の都合上、今日と明日は30Kmベースの歩行になる。
 「マメが出来ては先が長いので大変」と身体の具合を気にしながら慎重に進んで、宿泊予定地のオールド・ソブリー到着。
 ここは小さな集落でB&Bが1軒しかなく、土曜日のせいか満員とのこと「近くに宿はありませんか?」と捜してもらう。
 幸い近くのホテルに空部屋があり無事投宿(注5)。



 6月6日・晴 (オールド・ソブリーからホッジコム農場)
        距離32Km。行動時間8時間20分
 タイム:宿発(4:50)-ホルトン(6:00)-アルダリー(8:30)-ノース・ニブレイ(10:30)-ダーズレイ(11:45)-ホッジコム農場(13:10)。
 
 天気予報の「今週中は曇天と晴れ」で安心する。未舗装路と草地のトレイルは雨が降っては視界も悪くなるし、快適な歩行には天候が大きな要因になる。
 朝露で膝下はビッショリになるが気温の上昇と共に何時の間にか乾き、大小の典型的な田舎町を通る。観光案内書に出て来そうな中世を思わせる町並に着くと「異国だナー」と実感する。小さな集落にも必ず教会があり日本のお寺と同じようだ。
 今夜は初めてのテント泊になるので「どんな野営地かナー」と興味が湧いて来る。
 私営のテントサイトとは云え、イメージでは専用のスペースがあるのだろうと思っていたが、泊地に到着してB&Bも兼ねる管理者に「テント泊をお願いします」と申し込むと「使用料は3ポンド。水とトイレはこちら」と案内して「テント場所はあの付近で・・」と牧場内を指定。
 馬や羊と同じ敷地で馬とは区切りがあるが羊の群れと同居には驚いた。
 このB&B宿泊料金は35ポンド(約7500円)だそうだから「そんなモンカ」と同居を納得。水場の湯沸しポットを利用してガスコンロの節約が出来た。



 6月7日・快晴 (ホッジコム農場からスタンデッシ・ウッド)
       距離14Km。行動時間5時間50分

 タイム:テント発(4:30)-ウッドサイド農場(7:00)-ストーンハウス(8:00)-スタンデッシュ・ウツドテント地(9:20)。リングヒル方面往復(9:40-10:40)。

 今日のトレイルは丘稜の中腹に続く樹林帯を行く。雑木林の自然林は新緑の季節で、上高地辺りを歩いているような錯覚を覚える。
 1時間程進むと「縄文時代の古墳」(注6)に着く。約4500年前の遺跡で付近に100ケ所ほど点在しているとのこと。又同時代の住居家(石積み小屋)跡も多く発掘されているそうだ「昔から人々が暮らしている」と思うと風景にも親しみが湧いてくる。
 比較的大きな町・ストラウト付近で鉄道線路を横切る。今日までトレイルを歩く人もなく静かな丘旅?だったから町中での大勢の人波に戸惑う。
 今日は半日行動で楽な行程だ。キャンプ地は樹林帯の中だから公営施設だろう。
 近くの人家で芝刈りをしていたオジイサンに「キャンプ地は何処でしょう?」と聴くと「この裏だが無人で水もないヨ」とのこと。
 水を貰いテント地に行ってみると、キャンプファイヤーの跡があるだけの草地で、トレイルから20mも離れていない。
 明朝のトレイルはループ状になっているので「今日の内にピストンしよう」と小休止後1時間空身で出かけた。
 暑いし、まだ時間が早いので「パブで冷えたビールを飲もう」と1kmほど離れた集落へ行く。丁度昼時で店内のスタンドは一杯、庭先の木陰に出てジョッキーを傾けた。



 6月8日・晴 (スタンデッシ・ウッドからチェルトナム)
       距離28Km。行動時間7時間30分

 タイム:テント発(4:30)-ペインスイック(6:05)-バードリップ(8:40)-ウレン・ウツド(10:50)-チェルトナム(12:00) )-同 B&B(13:10)。

 昨日のうちに一部トレースしたので、今日は舗装道をショトカットし30分進んでトレイルに合流する。
 毎日、草地や樹林帯を歩いていると舗装道が懐かしくなる。早朝の田舎道は車も通らず、うさぎやリスが横切るぐらいで実に静かだ。
 トレイル行程の半分が過ぎ、終点迄が読めてくると元気が湧いて来る。今日の泊地はチェルトナム町のB&Bだ。
 レックハンプトン丘でトレイルから離れて「取りあえず観光案内所へ行こう」と町へ向かう。
約4km車道を進んで歩行者と観光客で賑わう繁華街の案内所でB&B(注7)の宿泊を予約する。
 明日は再度トレイルに戻り北上するが、町郊外を周遊するトレイルの途中で合流予定。


 6月9日・晴 (チェルトナムからハイレス果実農園)
          距離26Km。行動時間7時間30分

 タイム:B&B発(5:30)-A40合流点(6:40)-クリーブ丘(9:00)-バックスナップ古墳  (10:30)-ウインチコム(12:00) )-ハイレス果実農園(13:00)。

 早朝の出発でB&B朝食は省略。国道A40号線を南西に進み上空を高圧線が交差する所でトレイルに入る。
 標高差200mの丘稜を登り見晴らしが良い牧場を北上する。
 西方の眼下には、昨日泊まったチェルトナムの町が眺められる。合流点から5kmほどで広い牧場に着く。ここの一部はゴルフ場になっていてグリーンの旗がゴルフ場であることが判る。しかし、羊が放牧されてあちこちで草を食んでいる。
 そんな中をトレイル杭に従い進むと、独りでゴルクをしているプレーヤと会う。練習中のようで3コほど同じ場所からボールを飛ばしていた。
 オーナーが同じとは云え、羊と歩行者とゴルファーが混在している様子はこの国ならではの風景だ。
 ゴルフ場を過ぎた所で対向から今回初めてのトレイル歩行者に逢う。夫婦ずれで奥さんが大きな荷物を担ぎ「バースから歩いているの?」と聞かれるので「エエ、5日目です」と返事する「荷物が大きネ、ご苦労様」と労ってくれた。
 昼過ぎに3度目のキャンプ地に到着。3ポンドの使用料を払って果樹園の隅の平地にテント設営。
 農園は直販場を併設しており、地ビールとポップコーンを買う。周囲の住民が新鮮な果物や農産物と調達に車で来て繁盛していた。



 6月10日・晴(ハイレス果実農園からチッピング・カムデン終点、後チェルトナム)
        距離25Km。行動時間6時間20分

 タイム:テント発(4:30)-ウッド・スタンウエイ(6:00)-シエンベロー丘(7:26)-ブロードウエイ(8:30)-チツピング・カムデン(11:00-13:00)。バスでチェルトナム(16:00)。

 予定より1日早くゴール出来そうだ。テント地から昨朝同様に200m登り台地の牧場歩きになる。台地の上にも幹線道路が走っていて谷間の道路に挟まれるようにトレイルが出来ている。
 「中世から交通の要衝」と云われる町並のブロードウエイも早朝で人影もない。ここまで来れば終点のチッピング・カムデンまで残り2時間弱で着いたも同然だ。
 帰路のアクセスを気にしながら、羊の群れの牧場伝いに北上する。羊は逃げてくれるが、牛は「避けて行けヨ」とでも云うような顔をして動かず、こちらが遠回りしなければならない。
 ドーバーズ丘の展望地から200m下ると終点のチッピング・カムデンの観光村に着いた。
 観光客で狭い道路は大賑わい、大きなザックが場違いのようで肩身がせまい。観光案内所でアクセスを聞いて一昨日通ったチェルトナムまでバスで引き返した。


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 2−3 所感と教訓
 1)「散策の人」と云われるほど、ウオーキング好きな国民性が現地を訪れて良く理解出来た。
 国土の7割は私有地なのに歩行者のトレイルを認めて多くの長距離トレイルを始め郊外には無数の散策路(公認トレイル)が設置されているのに感心した。

 2)それに比べて日本の自然歩道は、殆んどが舗装道で名ばかりの自然歩道だが、文字通りの「自然歩道」が英国にあった。

 3)資料によると、標識と牧場の踏み段がトレイルに不可欠な目標物とのこと。南部に比べて北部地方のトレイルは整備が不十分らしいから、入門編として本トレイルを選択して正解だった。

 4)トレイル上にキャンプ地が少ないのは欠点だが、B&B泊が標準のスタイルのようで、それだけ誰でもトレース出来る一般向けトレイルと云える。

 5)今回初めてガスコンロを持参した。230gのタンクで10日間以上のキャンプもOK(中程度の炎で4時間30分燃焼した。実際は更に細火で使用するから2倍の時間OK)で軽量化にもなるのでガソリン燃料を変更したい。

 6)磁石が大活躍をした。1km以内も方向をセットして曲がり角を確実に把握出来た。

 7)トレイル専用に編集された1/4万地図は、多色刷りでトレイルの状況により、舗装路は赤線、未舗装路は赤点線、牧場路は短赤点線、その他テント地や遺跡等の標示があり利用者の立場で編集され助かった。

 8)一般の道路地図にも本トレイル始め代表的なナショナル・トレイルの標示がある。

 9)通年トレース可能だが、天候が安定している新緑のこの時期がチケットも安く最適のようだ。

 9)次回もロンドン付近の南部のトレイルを選択したい。


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