TOP

<南・北アルプス全山縦走>
北アルプス 編・・・上高地から親不知海岸
      期 間:平成18年8月3日から8月15日


1 はじめに 
 南アルプスの縦走から2週間を経て疲れも取れたので、予定通り北アルプスに入山する。北アルプスは南アルプスに比べて岩稜や足場の悪い鎖場や梯子が多いので慎重に行動したい。又、山行期間が長いので、中間地点にデポするか食料補給に一時下山することも考えたが「今後の長期間活動の試行に・・」と軽量化を図ってノンサポートで実行。梅雨明けの安定した天気を頼りに新宿から高速バスで上高地へ向かった。

     
        針ノ木岳と蓮華岳          北穂岳キャンプ場                                   


2 行動の記録 
 
  概略総距離=162Km。概略総高度差=10、300m。
  総行動時間=62時間20分(実績値)。


 第1日目 8月3日(天気 快晴):上高地から入山・横尾
                 (距離11Km)行動2時間40分
 観光シーズンの最盛期で上高地バスターミナルは大賑わい。登山姿よりも観光客が主流で大きな荷物を担ぐ自分が場違いに感じ早々に横尾谷へ向かう。
 予定では「今日は足慣しに徳沢まで・・」と思っていたが天候も良いし1ピッチ先の横尾山荘まで進んでテントを張った。


 第2日目 8月4日(天気 快晴):横尾から北穂南稜・キャンプ地
                 (距離8Km)行動6時間
 当分、好天気が続きそうで良い時期に入山出来た。大キレットを混まない内に通過したいので出来れば今日は涸沢の先の北穂高小屋・キャンプ場まで進みたい。
 一本橋を過ぎて涸沢の末端まで来るとトレイル上に残雪が残っていて案内所のメモの通り「南稜はアイゼンが必要か?」と不安になる。幸い涸沢小屋のメモでは「キレットに残雪なし」に一安心。南稜の急斜面を2時間、大汗をかきテント場に到着。荷物を置いて北穂高小屋へ15分ほど登りテント代と水代を支払う。3千米の野営地は素晴らしい眺めだ。


 第3日目 8月5日(天気 快晴):北穂南稜・キャンプ地から槍ケ岳山荘
                  (距離9Km)行動5時間20分
 コース上3つのキレット(北穂、鹿島槍、不帰)の最初のキレットを通過。対向者があれば大渋滞が予想されるが早朝でその心配もなく自分のペースで進めた。特に大きな荷物を担いでいるのでバランスが不安定になるから他者に気を使ないことは助かる。南岳小屋でキレット越えの疲れを癒し後は中岳、大喰岳を越えて槍ケ岳山荘に到着。
 時間が早いのでテント場はガラガラで一番風当たりが弱い隅のスペースに設営。ここのテント場は人気があり遅いと満員になり下の殺生小屋まで降りることもあるらしい。2日目の3千米の野営は昨夜の教訓を得て大目の水で米を炊く。


 第4日目 8月6日(天気 快晴):槍ケ岳山荘から三俣山荘
                 (距離12Km)行動5時間50分
 今日は西鎌尾根の一部ガレ場が難所。若い対向者が「恐くありませんか?」と心細い声で云うので「注意してトレイルを歩けば大丈夫」と励ます。慣れないとスタンス以外の周辺の景色に惑わされて恐怖心が湧くようだ。ともあれ不注意で転倒すれば事故は免れないのでザックの紐をニ重にする(大した転倒でなくも紐が解けて中身を紛失の恐れあり)。
宿泊予定の双六小屋は水場があり広いテントサイトだが、時間が早いので先に進み三俣山荘へトラバースする。
 三俣山荘は豊富な雪解水と雲ノ平へのアプローチ基地として人気が高い山荘で繁盛して1泊では勿体ないテント場だ。縦走でなくベースキャンプ地として数日宿泊して周辺の山々を訪れたい衝動に駆られる。



 第5日目 8月7日(天気 快晴):三俣山荘から烏帽子小屋
                 (距離13Km)行動7時間30分
 山荘から稜線沿いに鷲羽岳・ワリモ岳へ登るコースを避けて岩苔乗越経由で水晶小屋を目指す。ワリモ岳分岐点で稜線コースと合流してひと登りして水晶小屋に到着。小屋からの下降は脆い急なガラ場で行き違う場所も制限される。
 その後は真砂岳、野口五郎岳、三ツ岳と小さな登り降りを繰り返して烏帽子小屋に着く。全トレイルで一番注目していた船窪岳周辺の崩壊部(ガイド図では唯一の一般路外の区間)の現状を小屋主の上条氏に聴いて情報を入手「毎日何人か通っている」のコメントにホッと安心。
 この区間はマイナーなせいか烏帽子小屋のテント場も空いていて、昨夜のイビキ・オンパレードから開放され静かな夜になった。


 第6日目 8月8日(天気 快晴):烏帽子小屋から船窪小屋
                 (距離9Km)行動7時間20分
 崩壊が特に激しい2231mピークと2459mピーク間で時間を費やすので早目に出発。中間付近で対向者に出会い「ガレ場の様子は?」と情報を交換。トレイルが明白なので不安になることはないが、地形が複雑で以前厳冬期にトレースした時を想い出し「良くも無事に下山出来たものだ・・」と往時を偲びながら通過(荷揚げ山行ではミゾレで苦労し、冬山ではビバークと乗越でトップが雪崩に遭いザックを流され散々な山行だった)。
 キャンプ場は小屋から1km近く手前なので、一休止後申し込みに行く。水場は不安定だったが現在はハシゴを仮設され問題なかった。


 第7日目 8月9日(天気 曇り後晴):船窪小屋から針ノ木小屋
                   (距離10Km)行動5時間10分
 今日は休養の予定日だったが、難所を通過して「ヤル気満々」停滞する気になれず先へ進む。入山後初めてのガスの中を七倉岳、北葛岳の山頂を踏み今日最後の登りの蓮華岳へ向かう。丁度ガスが晴れ雲海の境界線に出て、明確なブロッケン現象が現れたので急いでシャッターを切る。
 急いだ訳でもないが針ノ木小屋に10時前に到着。食料が減りザックが軽くなり負担が少なくなったせいだろう。当初から6時間行動(1日の1/4)を基本計画に日程を組んだので天候さえ良ければ今後もこのペースを守れそうだ。振り返ると昨日の不動岳や船窪岳が間近に眺められる。


 第8日目 8月10日(天気 快晴):針ノ木小屋から冷池小屋
            (距離17Km)行動8時間10分
 今日の区間で、針ノ木岳から種池小屋までは初めて通る稜線で興味が湧く。毎日の晴天で黒部を挟んで対岸の立山連山と数日眺めて歩いていると、山波の方が自分を眺めているような気分になるから不思議だ。
 明日の八峰キレット越えを早朝に通過したいので種池小屋泊を先の冷池小屋・キャンプ地に変更。歩行の修正で腱の痛みは減少したが、連日の不整地歩きで両靴の底が剥離気味になったので、出来るだけムリな負担を靴にかけないように注意してステツプを刻む。特に下りはスタンスが制約されてムリな衝撃を靴に与え気味。


 第9日目 8月11日(天気 快晴):冷池小屋から五竜小屋
                   (距離10Km)行動7時間
 キレット小屋泊りの最初の対向者と鹿島槍ケ岳・北峰で会い「キレットが混むか?」と案じて進んだが数名と会っただけでスムースにキレット小屋に到着。小屋から五竜岳まで小さなピークを幾つも越え、この間のトレイルはキレット以上に不安定。
 正月合宿でトレースした記憶を想い出しながら五竜小屋に到着。行程が進みザックが軽くなったのは歓迎だが、反面食料と燃料のガスが不足気味になったので今夜は、小屋の夕食を注文する。久し振りにまともな米飯のカレーライスを数回お代りして満腹感を味わう。


 第10日目 8月12日(天気 晴後雨):五竜小屋から天狗山荘
                     (距離11Km)行動5時間50分
 出発して1時間ほどで最低鞍部に着き大黒岳への登りになると数ケ所鎖場になるが、鎖が必要なほどの難所ではない。唐松岳を過ぎていよいよ最後のキレットになる。この頃から台風7号の影響で風が勢いを増してした。3・2・1峰を過ぎて天狗尾根の登り(天狗の大下り)になり、トレイルは急斜面の岩場をマークに従って上へ上へ続く。対向者は下降路を神経を使って慎重に降りて来る。
 天狗の頭にヤッと着いて平坦路進んで天狗山荘に到着。ガスが吹き上げてくるが「雨も雷も大丈夫だえろ」と小屋を100mほど過ぎ稜線に出たら天候が急変して「白馬岳まではムリ」と天狗山荘へ引き返した。小雨が降りだしたので急いでテントを張る。30分ほどして雷と突風がテントを襲い「今夜は嵐か・・」と昼食の準備をしていたら一段と強い突風が来て張綱を飛ばしテントが飛ばされそうになった「やばい!」と慌てて外へ飛び出し補修するが「逃げるが勝ち」とテント撤収して小屋の素泊まり変更した。
 夕方には晴れて来たが、新規の登山者も少なくガラガラの部屋(8人用に2名だけ)で今回初めての小屋泊となった。


 第11日目 8月13日(天気 曇後晴):天狗山荘から雪倉岳避難小屋
                    (距離12Km)行動5時間10分
 下山まで残り雪倉岳避難小屋と栂海山荘の2泊(いずれも管理人がいない小屋)。当初の計画では、白馬山荘、朝日小屋、栂海山荘の3泊で栂海新道を下山する予定だったが、好天気のお陰で前倒の行動しているので食料・ガスの不足を考慮して変更した。幸い、α米は水だけでも充分食べられるので何とか在庫食で下山出来そうだ。
 雪倉岳避難小屋は「避難のための小屋で予定泊は禁止」と注記の看板があったが。数名の同宿者が泊まった。同宿者の話では、下山まで約20時間(一日10時間目安)らしいから明日は早目に出発しよう。


 第12日目 8月14日(天気 快晴):雪倉岳避難小屋から栂海山荘
                   (距離23Km)行動9時間10分
 栂海新道は1971年に「アルプスと海をつなぐ」をキャッチフレーズに整備され最近人気が出ているらしい。アプローチが長く体力と時間がかかるにもかかわらず入山者多いのは、豊富な高山植物と静かな山旅がポイントのようだ。
 白馬岳以北は一昔前の山の雰囲気が残っている。しかし、展望が良いのは朝日岳付近までで以降は、樹林帯のピークを幾つも越え、高度が下がる度に気温が上昇して蒸し暑くなる。 お盆休みを利用した登山者が多く定員40名の栂海山荘は満員になりそうで混雑しているので小屋前のテント場に設営。


 第13日目 8月15日(天気 晴後曇):栂海山荘から親不知駅下山
                    (距離17Km)行動7時間10分
 昨日より更に高度を下げ、夜明けと共に蒸し暑くなる。樹林帯の尾根沿いに北進して小さなピークを幾つも越える。下山時にピーク越えの登路は士気が上がらないが「今日が最後の日だファイト!」と云いながら下山。最後の小屋・白鳥小屋(無人)で一休みして「海は見えないか?」と眺めるが深い山波が続くだけ。
 小屋から1時間下った所にキリワリの水場到着。水分を補給して元気が出で「もうひと頑張り」と荷を担ぐ。しかし、30分進んで坂田峠で舗装道に出ると、終点に着いたような気持ちになるが更に2時間も下る。それも3回度の登路がありウンザリ。
 尻高山、入道山、そして無名峰を越えようやく車音が聞こえる所まで来たが、樹林帯で視界が悪く期待していた海原は見れず、杉林の急坂を降りて登山口に着いた。

    
   ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

3 あとがき(教訓と所感)

 1)梅雨明けの晴天時期を選んで入山したが、2週間も好天気が続くとは予想もしていなかった。お陰で予定より2日間も早く下山「山は登るのではなく登らせてもらう」と云った教訓を再認識した。特に、先月入山した南アルプスでは悪天候で苦労したので改めて天候の要因が大きいことを痛感した。

 2)入山日から3日目頃までは荷物が重い(約16Kg)ので意識してピッチを遅く(80歩/分程度)したが、岩場でスタンスが制約されると歩幅が乱れて筋肉より腱にムリが加わり違和感を覚えた。トレイルの状況(岩魂・ザラ場・一般路等)により歩幅、ピッチ数を変えて有酸素運動範囲内での歩行を試みた(スタンスが自由な登路では新雪時のステップのように歩幅を大きく且つピッチ数を普段の半分にすると腱への負担が軽減された)。

 3)1日の行動時間を6時間程度(残り3/4は疲労回復)にして翌日に疲労を残さないようにした。従って、早朝に出発して午前中には行動を終了するので、昼食もテント地でゆっくり取れた。結果、スムースに進み行動時間が短い割には距離が伸びた。

 4)食料不足気味になり五竜小屋で夕食の注文をした。最近は小屋泊の混雑を避けてテント泊・小屋食の登山者も珍しくないそうだ。

 5)「入出力熱量のチェック」ついては以下の通り。結論から云えば4割のカロリー不足で体脂肪減少量は約1,9Kg(実測地:出発時の体脂肪11,1Kg、下山時8,6Kg)。

 1:消費熱量(E:Kcal)
   E=E1+E2+E3=43、550Kcal(3、350Kcal/日)
   E1=12、280Kcal・・・総基礎代謝熱量(13日間)
   E2=20、650Kcal・・・総行動時(急登行)の熱量(43時間)
   E3=10、620Kcal・・・総行動時(急登行以外)の熱量(39時間)
 条件:エネルギー代謝率(4&7)、性年齢補正係数(0.0162)、体重(57kg)、平均荷物重量(13kg)

 2:摂取熱量(Q Kcal)
  Q=Q1+Q2=26、600Kcal(2、050Kcal/日)
  Q1=24、200Kcal・・・持参食料分熱量  90%
  Q2= 2、400Kcal・・・現地購入分熱量  10%

 3:消耗体脂肪量(W g)
   W=(E―Q)/9=1880g  (体脂肪の燃焼カロリー=9kack/g)

 6)食料・装備について(入山時ザック重量=16、5kg)
 1:重量軽減化のために、α米を持参した(以前は臭みがあったが、改良され水だけでも食可能)。
 2:食料の管理容易化で前後半用・2ブロックに梱包し効果有り。

 3:朝はお湯400ccを沸かし、ミソ汁+α米(50g)用に使用。昼は半ラーメン+α米(50g)。夕食はお湯600cc沸かし、ミソ汁用とα米(100g)用に使用。
 4:約2時間毎の小休止時に水分補給と同時に体脂肪燃焼用に行動食(カリント、クッキー又はビスケット・マヨネーズ付き)を取った。チョコレート等は消化効果が早く体脂肪燃焼に効果あり。
 5:ガスの残量をチェツクのために簡易天秤でバーナー(220g)を錘にして計測。
 ガス満タン量230g+容器重量150g(バーナーと同一重量時にガス残量は70g、同3/4時にガス残量は15g=1日分)。タンク1ケで3項ベース(15分/毎回)として13日間OK。

 7)行動終了後に身体の汗拭き用として最少水300ccが必要(行動服を着替えた)。

 8)靴のクリームを持参(4日毎に掃除して保革油で手入)。靴のダメージは行動にも影響大だから異常がないか設営後チェック要。

 9)トレイルには、キレットに限らず数ヶ所に安全確保用の鎖場やロープが設置されていたが、充分なホールドとスタンスがあり設置物に頼ることはなかった。しかし、梯子部が無くては通過出来ず(例え1mでもスタンスがなく梯子を使用出来なければ通過は困難)感謝して渡った。

 10)天狗山荘で台風7号の余波で天気が荒れた時、風向きが変わりテント側面からの突風で張綱が飛ばされた。原因は張綱固定の石が充分な大きさでなく複数の石で支持したので煽られている内に複数の石の重し効果が消え1ケのみになり飛ばされてしまった。(悪天時はペグにするか、充分な重さの石1ケで支持し、確認の為にセット後に強く引張って安全確認要)。

 11)近年人気が出て来た「栂海新道」は噂通り、お花畑と湿原地の静かなトレイルだった。しかし、海岸まで下降するので長い下りには閉口した。特に末端の峠で舗装道の出てヤレヤレと安堵する間もなく更にピーク越えにはウンザリした。

 12)今回のトレイルを自然歩道と比較して、利点は明白なトレイル・テント場・給水。反面厳しい点として距離は短いが足場が悪く、標高差が大きいこと。しかも天候の影響度が大きいのでバツクパックの範囲から逸脱しているかも知れない。

  
    詳細な行動タイムと資料は・・・・・資料編へ