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<南・北アルプス全山縦走>
南アルプス(前 編)・・・寸又峡温泉から三伏峠
      期 間:平成18年7月10日から7月20日


1 はじめに 
 寸又峡温泉から日本アルプスの最南端峰・光岳へ、そこから主稜線を北上して甲斐駒ケ岳まで全行程約110km(累計標高差は約8千米)を縦走。下山は北沢峠から高遠町まで徒歩で先日トレースした上高地までのアプローチ編に繋ぐ。トレースの最大要因は天候と思えるので、梅雨明けの7月下旬から入山したかった。しかし、第4週に私用があり、しかたなく早目に出発。
 結果は、予想以上の悪天候が続き、天候回復の見込みも無いため途中の三伏峠から下山した。残りのトレイル・三伏峠から北沢峠経由高遠町迄は後日トレースしたい。

  
    光岳登山口と吊橋            聖岳遠望                                   


2 行動の記録 
 
  概略総距離=97Km。概略総高度差=6、550m。
  総行動時間=47時間50分(実績値)。


 第1日目 7月10日(天気 晴):寸又峡温泉入山
            (距離2Km)行動 20分
 朝のラッシュ前に出発。予定通り東海道線・金谷駅から太井川鉄道で終点・千頭駅に到着。寸又峡温泉行きのバス待ち時間を利用して町役場へ行き、入山路の寸又川林道と光岳へのトレイルの情報を入手。観光課員の「通行に問題ありません」とのコメントを得て一安心。寸又峡温泉の猿並橋方面へ下った所の公園に設営後、公衆露天風呂に入り鋭気を養う。


  第2日目 7月11日(天気 小雨):寸又峡温泉から小根沢造林小屋
            (距離20Km)行動6時間50分
 寸又川左岸の林道は途中の大根沢までは作業車が入り林道の補修済だが、一般車は通行禁止になっている。いくつもの尾根を廻り込み延々と林道は奥へ続く。現在は使用されていない造林小屋やプレハブが数ケ所あるので、テントが無くても宿泊に問題ない。作業車が3台通っただけで忘れ去られたような閑散とした道を進む。東海の黒部峡谷と云われる通り、深い渓谷へと林道は続く。比較的保存の良い小根沢造林小屋に到着してベランダの軒下にテント設営。


 第3日目 7月12日(天気 曇り):小根沢造林小屋跡から造林小屋跡
            (距離18Km)行動7時間10分
 深く切り込んだ大根沢を廻り込むと道幅は狭くなり、釜ノ小屋(無人)付近から先は林道全体が崩壊した岩屑で被われ足場を気にして渡る。数ヶ所こうした落石帯を通過して、ようやく<光岳登山口>の看板がある吊橋に到着。橋を渡り急登を高度400mほど稼ぐと小屋跡に到着。「小屋があったから給水も出来るだろう・・」と安易に考えて登山口で水を確保しなかったが尾根上には沢らしい所はない。しかたなく再度吊橋まで下り水汲みをする。夜にテントの周囲で鹿がキーンキーンと独特の警戒声を出していた。


  第4日目 7月13日(天気 曇後雨):造林小屋跡から光岳小屋
             (距離8Km)行動4時間10分
 今日は稜線まで標高差900mの登り「3日目でようやく光岳に立てる」と南アルプスの深さを思いながら出発。昨日と同様に古いテープに導かれて胸突き八丁の樹林帯を進む。200m毎に標高表示板があり現在地が判るので助かる。稜線近くに来ると下から風がガスを吹き上げてくる。視界はゼロだが「記念に・・」と小屋との分岐点に荷物を置いて光岳山頂へ。
山頂から20分ほど下って小屋脇のテント指定地に設営。


  第5日目 7月14日(天気 晴後雨):光岳小屋から聖平小屋
             (距離13Km)行動8時間
 光小屋からセンジが原を経て三吉平まで樹林帯を標高差400m下る。出発して2時間ほどで太陽が顔を出す。茶臼岳の先で、昨日夕方からの降雨で濡れたテントを干しながら周囲の展望を楽しむ。東方には富士山,西に中央アルプスが間近に眺められ夏山を満喫。
予定通り聖小屋に到着して「テントを張らして」と管理人に申し出ると「明日から営業だから勝手に張って、素泊小屋も空いている」とのこと。今日も夕立がありそうだから「小屋を使わせて下さい」と無料素泊にした。


 第6日目 7月15日(天気 晴後雨):聖平小屋から百間洞小屋
            (距離9Km)行動7時間
 出発して直ぐ最南の最高峰・聖岳へ高度差700mの登りになる。天気の崩れを思わせる朝焼けに「午前中に百間洞へ着こう」と気合をいれる。前聖岳から赤い屋根の百間洞小屋が眺められる。しかし稜線は西方へ兎岳、中盛丸山、大沢岳と迂回している。大沢岳手前のコルから小屋へトラバースする新道を進んで小屋に到着。予想通り夕方から本降りの雨になった。


 第7日目 7月16日(天気 暴風雨):百間洞小屋から赤石避難小屋
            (距離3Km)行動3時間
 小雨の中を出発。樹林帯を抜けて百間平から稜線になり西からの強風に煽られる。赤石岳の登りになると風は更に強まり登行バランスを崩され立ち往生、風の息つきを待つ。その間シャワー状の雨で下着まで濡れて「これじゃ行動はムリ!」と赤石避難小屋に逃げ込む。予定では4km先の荒川小屋泊りだが、天気は更に悪くなりそうで今日は避難小屋迄とする。3連休を利用した登山者達(30名程)は明日殆んど椹島へ下山するそうだ。


 第8日目 7月17日(天気 暴風雨):赤石避難小屋から荒川小屋
            (距離3Km)行動2時間
 昨日と同様に強風が唸りをあげているが「早朝で少しは風も弱いだろう・・」と期待して出発。赤石岳、小赤石岳を越えて大聖寺平まで来ると、風の通り道らしく一段と暴風雨が強まる。反対側から数名の登山者が来るが向い風で前進出来ず確保体制で動かない。ようやく荒川小屋に到着。今日は2時間の行動だったが、1日歩いたような疲労感がする。今夜の泊まり客は3名だけで管理人も外を眺めて「・・台風並の荒れ模様」と暇を持て余していた。


 第9日目 7月18日(天気 暴風雨):荒川小屋から小河内避難小屋
            (距離10Km)行動5時間40分
 ラジオの天気予報では「当分天気の回復は見込めない」らしい。この調子では、何泊小屋泊まりになるか見込みが立たない。食料不足も問題になるので「明日三伏峠から下山」を考慮して今日は出来れば小河内避難小屋まで進みたい。
 小屋を出ると予想通り前岳の登りは後方からの強風に煽られる。しかし、前岳を越えて高山裏への下りは樹林帯になり自分のペースで歩けるようになった。この分なら三伏峠まで行けそうと高山裏避難小屋で小休止して出発。しかし、板屋岳から樹林帯を抜けると再び強風の稜線に出る。大日影山周辺は西面が崩壊したトレイルに神経を使いながら小河内岳に到着。地図上では前小河内岳、烏帽子岳まで同じようなトレイルが続ので「今日これまで!」と小河内岳脇の小河内岳避難小屋で素泊とする。今夜の客は自分だけ、「小石が飛んでくるので・・」と管理人が雨戸を閉めたので風の音が一段と大きく聞こえる。


 第10日目 7月19日(天気 暴風雨):小河内避難小屋から
                      三伏小屋経由・鳥倉バス停下山
             (距離11Km)行動3時間40分
 今日は大きな登りがないので、好天気であれば<ルンルン気分の稜線歩き>のコースだが相変わらず強風雨に煽られて三伏峠へ向かう。標高をさげても風は弱まる様子もなくウンザリする。<三伏峠>の表示板に従い樹林帯に入り傘が使える状況になる。三伏峠小屋に着くと<昨日からバス運休中>の表示にガックリ。管理人が「今、タクシーを呼んで下山した人がいる」との話で「便乗します」と早々に出発。幸い2名のマイカー者に追いつき「便乗お願いします!」と事情を説明して快諾を得た。
 マイカーで随所に落石と土砂流の車道を注意深く下り、無事伊那市街に到着。何度もお礼を云って下車。しかし、電車は勿論高速バスも運休で交通網は大混乱。駅員の説明は要領を得ない<今日の帰宅はムリ>と諦めて駒ヶ根駅の図書館隣の公園で野営。


 第11日目 7月20日(天気 雨):駒ヶ根駅バス停から名古屋経由東京駅
 飯田線は運休で当分は期待出来ないので、高速バスで名古屋へ出て東海道線で帰宅するが新宿直通の高速バス利用より時間も費用を2倍になる。名古屋駅から4度普通電車に乗り換えて無事東京駅に到着。
    
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3 あとがき(教訓と所感)

1)台風であれば通過後は通常の行動が可能だが、今回のような強い前線が居座ると大幅に予定が狂う。今回は、日程に制約されないのでムリして行動することもなく楽だったが、タイトなスケジュールの場合、ムリを承知で行動し事故を招く。同宿者の殆んどがそうした人達で「ユトリの大切さ」を再認識した。

2)連日の雨天で「濡れたテントで宿泊」の対策を考えていたが、今回の結論として、テントが濡れている時は乾燥後使用(翌日晴れて干せること)それ以外は小屋素泊とする。今回初めて素泊を利用したが、テント使用とは格段の差があり登山寿命が延びたようだ。

3)登山路での<有酸素運動による体脂肪の燃焼>について急坂と緩坂での歩速と呼吸についてチェックした結果。大汗や荒い息をぜずに歩行出来る範囲として、急坂の場合は毎分75歩程度、呼吸は各1歩で鼻から2吸い口から2吐く。緩坂では毎分85から95歩程度で鼻から2歩で2吸い口から3歩で3吐く。又下降路は毎分100から110歩程度で鼻から2歩で2吸いから6歩で6吐く。脈泊は毎分100から120程度であった。

4)体脂肪の燃焼を促進させるために、食料と水を頻繁に少量摂取した(平均1、5時間毎に小休止してチョコレート、チョコバー、チーズ等)。イメージとして、摂取食料がロウソクの芯で体脂肪のロウを燃やす。

5)「入出力熱量のチェック」ついては以下の通り。結論から云えばカロリー不足は微量だったが、濡れた身体や衣服の乾燥に必要な熱量は不明。
1:消費熱量(E:Kcal)
   E=E1+E2+E3=30、990Kcal(2、820Kcal/日)
   E1=11、530Kcal・・・総基礎代謝熱量(11日間)
   E2=14、490Kcal・・・総行動時(急登行)の熱量(30時間)
   E3= 4、970Kcal・・・総行動時(急登行以外)の熱量(18時間)
条件:エネルギー代謝率(4&7)、性年齢補正係数(0.0162)、体重(58kg)、平均荷物重量(13kg)
   
2:摂取熱量(Q Kcal)
  Q=Q1+Q2=29、210Kcal(2、2140Kcal/日)
  Q1=24、860Kcal・・・持参食料分熱量  85%
  Q2= 4、350Kcal・・・現地購入分熱量  15%
3:消耗体脂肪量(W g)
  W=(E―Q)/9=200g  (体脂肪の燃焼カロリー=9kack/g)

6)食料・装備について(入山時ザック重量=15kg)
1:昼食に半ラーメン+α米少量が簡単で効果大。
2:標高2千米以上では米飯の水量を増量した(無洗米で米の1、5を2、2)。
3:雨天時は行動食を全部ポケットに入れてザックを開かない。
4:α米の改良で普通米と同じ食感が得られる(軽量化対策として今後採用したい)。
5:ビタミン剤のサプリメントを2種持参(効果があったように思える)。
6:炊事用ガスは9日間(約30分/日)で130g使用した(1缶で15日可能)。
7:ビスケットにマヨネーズ(高カロリー)を付けて試食(酸味で美味かった)。

7)3日目に水場の確認をせずに前進して失敗した。横着せずに懸念される時は安全策を取りたい。又、トレイルは立派で問題ないが、それ以外の場所(水場やトイレ等)は足元に要注意(2日目の水汲みで沢芯へ降りた時膝打撲)。

8)ストックの活用が不十分だった。特に強風時はストックに頼り過ぎてフリー時のバランスが疎かになり無駄な体力の消耗になる。基本はあくまで両脚で体重をスムース移動することが大事だから荷が重い山行ではストックは不要。

9)カメラの電池切れで小屋からカメラ付きフイルムを購入した(事前のチェック不足)。
10)下山までゴミの処分出来ないので、缶詰やプラケースは不適。ビニール袋も必要最小限にする。

  
    詳細な行動タイムと資料は・・・・・資料編へ