2001年<北米>マンモス・レイクスからヨセミテ公園

    

  1 登山の準備
1−1 ルートの検討と体力養成
 昨年、途中で下山した地点(シャドー湖)から、ヨセミテ公園まで約90Kmのジョンミユーア・トレイル(JMT)をトレースして本トレイルを踏破したい。
 昨年はトレーニングの成果に過信して足首を痛めたので、トレーニングで疲れを残さないように、スピードを落として長時間・低速のジョギングを年間3,700Km(1,560時間)実施した。
 *現地のレンジャー案内所に対して、入山申請日:FAX3月21日(3月1日受付開始)。
 *予約書類受領日:3月28日。とりあえず順調な滑り出しと云える。
 
 1−2 航空券の予約
 1)HISに当初8月27日発で大韓航空便を予約。往復¥7,9万円
   であったが、8月31日発に変更したら¥5,7万円と安くなった。
 2)傷害保険は、これまでのユニット保険を改め選別加入にして
   ¥2,600−(14日間)になる。、従来の1/3以下に低減。

 1−3 食料、装備の準備
 1) 主食は白米(洗米)を使用。予備にレトルト米飯を3ケ用意。
    圧力鍋の効果を期待して米飯を主体とする。
 2) 米飯に削り節、お茶漬の素を醤油味でまぶす献立とする。
 3) 装備は、テント一人用を購入し重量軽減。食糧5、5kg(水別)。
    装備は11、5kg(ガソリン別)合計17kg程度。背負子が、空輸時に損傷しないように
    <車用のカバー布>を利用した手製のザックカバーを用意。
 4) 夏と違うので暑さ対策しない分、重量軽減をした。
************
   

    2 登山の記録
  2−1まえがき
 昨年の失敗を教訓にして、無理せず謙虚な気持ちで計画にもゆとりを持たせた。と云うのも、JMT・スタート地点のホットニー山に入山して11年が過ぎ、今回は6度目の入山になる。
 不慣れな土地で色々と失敗もあり、2度は予定通りにトレース出来ずに敗退した。今回は最後の完歩を目指して、夏の混乱する時期を避けて初秋にずらし充分な日程を組んだ。
 これは、勤務から開放されて時間的に自由になったこと。航空券が夏シーズンの半額以下に安く入手出来る利点を生かし、完歩にふさわしい静かな初秋の山旅を期待して入山した。
  2−2 行動記録
 8月31日(成田空港からロス空港経由・マセイド)
 タイム:岩槻(8:02)-日暮里(9:30)-成田空港(10:20-14:30)-LAX空港(7:40-8:50)-バス・ターミナル(9:45-11:35)-マセイド(18:30)。
 予想以上に機内は混雑。当初シーズンをずらしたので「ゆっくり座席を3ツ位使って横になって行こう」なんて云う思惑が外れガッカリ。
 入山町のマンモス・レイクスまでのバス便が廃止(インターネットで事前に調べた時、ダイヤ表示が出ないので、不信感があったが・・)との事で、急遽大回だがヨセミテ経由に変更した。
 
 1日で予定通り入山町の案内所に行けるか疑問だが他に方法がない。とにかく今日行ける所まで進むべく、バスタ−ミナルからマセイドまで行った。
 マセイドからの<ヨセミテ行・最終バス>は既になく明日一番のバスとなる。マセイドの昨年泊まったモーテルに投宿。


 9月1日(マセイドからマンモスレイクス)
 タイム:マセイド(6:30-7:00)-ヨセミテ公園(8:40-17:00)-マンモスレイクス(20:45)
  朝一番のバスでヨセミテ公園へ行く。登山案内所で入山許可の申請をするが「管轄が違うので、ここでは発行出来ない」「マンモス・レイクスへ行くように・・・」との事。
 ともかく現状をマンモス・レイクスの登山案内所に電話してもらい「今日中に来れば許可書を渡す」との返事をもらう。しかし、当地とマンモス・レイクス間(車で約3時間)は夕方1便・17時のバスしかない。
 係員の「ヒッチハイクしたら・・・」のコメントをもらい公園出口でトライする。
 車は多いが全て観光客で大きなザックのオヤジを乗せるムードではなく、3時間ばかりトライするがダメ。
 もう一度案内所に戻り「明日の入山に変更したいが、その可能性は?」と調べてもらう「朝8時開所の一番に来れば空きがあるので、多分許可書を受け取れるだろう」との回答を得る。
 昨年の調査時に乗ったバスでマンモス・レイクスで行くしかない。
当地は夜明けが6時頃、暗くなるのが8時頃だ。マンモス・レイクスに着いたのが9時近くだったが、昨年の土地感で案内所近くのカーキャンプ場の隅に設営。  
                                            

 9月2日(マンモス・レイクスからシャドウー湖)。 行動距離:10Km  
 タイム:起床(6:00) -案内所(8:00-8:25)-アグニュー登山口(9:25)
      -シャドウー湖(12:30) -テント地着(13:30).
 入山許可証をやっと受領してホッとする。タクシーとシャトルバスに乗り
 登山口に到着。・・何だか登山の半分が終わったような気分だ。
  昨年、左足首を痛めて苦労して下山したことを思い出しながら、
 しばらく自然の中で暮らせる開放感を味わう。 2ピッチでJMTトレイルの合流点・シャドー湖に着いた。テント設営地までは、あと1ピッチ進むことになる。
 テント地では女性レンジャーが入下山するバック・パッカーの許可書をチェツクしていた。
山の状況や天気の様子を聞くと、これまでのトレイルよりヨセミテ公園に近いせいか「クマの被害が多発している」とのこと。
 今回は登山案内所の強い推薦でクマ対策用<食料コンテナ>を$3でレンタルしたので、夜の心配は軽減されたが、ゴミ、クリーム等も対象になるので、初日はコンテナに入りきれず一部木に吊るした。


 9月3日 (シャドウー湖からラッシュ・クリーク)。行動距離:17Km。
 タイム:起床(5:00) -出発(6:25)-ガーネット湖(9:25-110:10)-1000アイランド湖(11:30)-ラッシュ・クリーク・テント地(12:20)
 荷物がこれまでに比べて軽くなった(18Kg程度)。これは途中に売店があり、食料や装備を補給出来るため。
 ザックが軽いのは大助かりだ。2時間歩いて大休止。ラーメンを作り、腹ごしらえをして昼にはテント地に着く。
 途中単独のバック・パッカーを追い抜いたが、彼の話では、「昨夜クマが来て寝るどころではなかった」との事。彼のテントは私のテントから2時間程先の湖だったが、この付近では頻繁に出現するようだ。
 やはり人気のコースなのでクマも<食物を容易に得れる>味を覚えたのだろう。コンテナを借りたのは正解だった。
 昨夜と同様今夜の米飯もうまく炊けない。標高が2・800m位あるのでその為と思える。午後に雷が来て雨になり夕方までまで降り続いた。
 テント地は他にパーテイーもなく夜半は満月の明かりが一段と明るく孤独を誘う。


 9月4日 (ラッシュ・クリークからライエル・テント地)。 行動距離:15Km。
 タイム:起床(3:20) -出発(5:25) -マリ湖分岐点(6:30) ドノヒュ峠(8:30) -一本橋(9:50)-ライエル・キャンプ地(11:10)
 昨日の降雨でフカフカの道が固くなり歩き易い。ルートはガラ場の緩傾斜を標高3,360mのドノヒュ峠へと標高差500mの登りだ。
 この付近は地形が複雑で道が残雪で被われたらルートを探すのが大変だろう。幸いその心配はないが、馬糞にたかる蝿がうるさい。

 峠を越えると反対側のヨセミテ方面が一望できる。いよいよ終点が見えてきた感じがして、フアイトが沸いて来る。
 ヨセミテから来たバック・パッカー数名と行き交うが、皆疲れた様子で登って来る。キツイ登りで<ここを下山に使って正解だった>と思いながら、樹林帯を下り切った所に設営。
 明日は売店のある泊地・トオルミーでビールが飲めると思うと、もう完歩したようなルンルン気分になる。


 9月5日(ライエル・テント地からトオルミー)。 行動距離:16Km。  
 タイム:起床(4:00) -出発(6:00) -トオルミー(10:00) -テント地(10:30)
 平坦な道を広々とした谷とは呼べないライエル谷を進む。今日は早いせいか誰とも会わない。
昨年偵察した時と違う旧道を歩き30分ばかり遠廻りして120号の舗装道に出た。ここのテント地には<ベアー箱>が設置したあり、コンテナの必要はない。
 50張り以上の敷地に3組のテントがあるだけで静かなテント地だ。5分程歩いて売店に行く。食料を買い絵葉書を投函していたら「イホシ!」と後ろから声をかけられた。彼は入山時マセイドからのバスで一緒だった若者で「今回18日間でJMTを完全トレースする」とはりきっていた。
 本来なら昨日に会うかと思っていたが、まだこの辺でモタモタしていては大変だナー思う。ともあれ、お互いの健闘を祈って別れた。
 計画では、ここで1日休養を取る予定だったが、体調も良く、予定より1日遅れているので明日は行動日とする。

 9月6日(トオルミーからサンライズ・キャンプ地)。行動距離:17Km。
 タイム:起床(5:00) -発(6:10) -カルデラ湖分岐点(9:10) -サンライズ・キャンプ地(11:20)
 テント地からカルデラ峠まで標高差300mの登りが今回最後の登りである。樹林帯の中を登り切ると後は緩やかな下りだけ。歩数や心拍数など一番身体に効果的な歩き方(後述)を試しながら歩いている間にテント地に着く。
 サンライズ・キャンプ地は、夏場だけの常設宿泊設備がありハイカー気分で宿泊出来る。機材は120号へ3・4時間でトラバース気味に運べるようだ。その為これ以降のJMTには馬が通らず、フカフカ道を歩かなくて済む。
 今回は案内所の強い勧めもあって<生水は飲まない(ランブリア菌がいる場合がありこれを飲むと生命に危険はないが、下痢・脱水で歩行困難になる)>事したが、清水を飲めないのは興味半減である。他のパッカーもフイルターを用意しているようだった。

 9月7日 (サンライズ・キャンプ地からヨセミテ)。行動距離:24Km。
 起床(3:20) -出発(5:40) -ハーフドーム分岐点(9;40) -リトル・ヨセミテ(110:00)-ヨセミテ・ハピーイアイル(12:00)-テント地(12:20)
 今日は1、700m下降する。計画ではリトル・ヨセミテで1泊だが、荷物も軽く先に何があるか判らないので、気を緩めず出来るだけ先へ進みたい。
 日本の山のような急な下降路ではないので助かる。樹林帯が続くと展望することも無く黙々と歩くだけである。
 登路と同じく下降時の歩数・脈拍及び呼吸数等を計りながら<最適な下降の状態>を調べる。ユックリ歩くことは必ずしも最適な歩きではない<疲れが最小で最高速度の状態が最も効果的な下降>で、言葉へ表現すれば<スイスイ下り>の状態が良い。
 
 ハーフ・ドーム分岐点以降は、日帰りでヨセミテからハイカーが列をなして登ってくる。最初は挨拶を交わしたが、こちらは1人で対応するので、20分も続けたらウンザリして、後は笑顔だけに省略した。リトル・ヨセミテからの600m下降は石段状の急坂になり、膝が痛くなるころヨセミテに到着。 昨年と同様、バツクパッカー用のテント地に設営。
 3度目のヨセミテに着き「JMTがやっと終った」と実感が湧く。午後からスーパーへ食料、酒を購入に行く。ここで帰国まで3泊時間調整する。
  

 9月8日 (ヨセミテ公園 テント地)。
 コンテナを返却し終日休養日とする。
 最初は5月、昨年は8月で今年9月と三度訪れたが、それぞれの季節に味わいがあり、スケールの大きさを感じた。
 

 9月9日 (ヨセミテ公園 テント地) 
 明日は当地を離れる。当分訪れる事もないだろうと思うと淋しさを覚える。秋の霞か、周囲の岩壁はモヤでかすれている。
 年間400万の観光客を受け入れるこの公園も9月を迎えると人影も少ない。案内表示板は勿論ゴミ箱まで、英語・スペイン語そして日本語で表示されているのをみると、日本人も主要な観光客のようだ。


 8月10日 (ヨセミテ公園からマセイド)。 タイム:公園発(9:35) -マセイド(12:30)
 入山時と同じモーテルに投宿。明日一番のバスでロスアンゼェルスへ出ることに変更。当初は最終便に乗り早朝ロスに着き、空港に直行するつもりだったが、リトル東京の日系人博物館が改装されたので覗いて見たい。


 9月11日 (マセイドからロスアンゼルス)。タイム:マセイド(6:10) -ロスアンゼルス(12:25)-宿(12:50)
 2時間毎に小休止を取って定刻通りバスはダウンタウンに到着。今回初めてリトル・トウキョウ内の<ダイマル・ホテル>に泊まる。
 ここは、日本の若者が殆どで宿泊費が安い(1泊$20から$38)のが特徴。
 宿で今朝起きた<ニューヨーク・テロ惨事>を知る。既に今日帰国予定の数名が空港から引き返して来ている。

 大変な事になったとにかく明日も空港の閉鎖は確実なので、いつまで待つか思案する。前例がない事件で見当がつかないが<出来るだけ早く帰りたい>気持ちは皆同じだ。
 JALやANA便はかなり確かな情報が入るが、大韓航空は情報が錯綜していて混乱する。
 幸い11日帰国予定の数名の中に英語が堪能な若者がいたので「私のフライト変更も一緒にお願いします!」と便乗した。
 15日の便の予約が取れたが、果たしてその日までに空港が開き、飛行機が飛ぶか不安である。もし、当日キャンセルになれば、次は20日過ぎまで待つ事になるようだ。それにしても、この安宿に投宿したのは正解だった。
 

9月12日 (ロスアンゼルス 待機)
 終日テレビや近くの高級ホテルのロビーで空港の情報集める。
 同じ目的の人が数名いることは心強い。食事は近くのスーパーで食材を買い宿のキッチンで作る。山中の炊事を思えば便利である。
 時間を見つけて、直ぐ近くの全米日系人博物館へ行く。旧館よりもデスプレイーを豊富にして、展示品も多く集められ充実した内容であった。


 9月13日 (ロスアンゼルス 待機)
 先日と同様待ちの時間をつぶす。
 空港は開いたようだか、待機者が大勢いるのでいつ乗れるか不明。

 9月14日 (ロスアンゼルス 待機)
 空港へ行って現状を把握。
 通常は宿からスーパシャトルで空港へ行くのだが、地下鉄・シャトルバスを乗り継いで行ってみる。
 所要時間は1時間20分で大分かかるが、費用は片道$1,6で安いのが魅力。


 9月15日 (ロスアンゼルスから成田)
 タイム:宿発(5:10)-ロスアンゼルス空港(6:30-15:30)-成田(16日18:50-20:00)-岩槻(22:00)
 地下鉄まで10分程暗い道を歩くので一寸危険でもあったが、地下鉄のルートで空港へ行く。

 大韓航空便は何も表示がないが、150名程の列が出来ておりその列に並ぶ。
 8時過ぎに定期便が5時間遅れて飛ぶ事になり希望が湧いてくる。
 当日の予約者リストに登録されており、何とか待望の搭乗券を受け取る。ヤレヤレである。
 機内は勿論満席。隣席の2人ずれ若者はウエイテングで昨夜から並んだとか。列の前方30名位しか今回は乗れなかったそうだ。
 11時間弱の機内からやっと開放され、夜中に自宅に帰ると疲れが一度に出た。家人から<一回り小さくなったネ>と云われてしまった。
********************

   2−3 あとがき
 年間400万人もの観光客が訪れるヨセミテ公園に近いとあって、マンモス・レイクスからヨセミテ間のバックパックは人気が高い。
 バックパッカー以外に多くの日帰りハイカーとも会った。ルートの途中に売店があり食料や装備の補給。又は、ここから入山するトレイルもあり、難易度も低い様で手軽に歩けるようだ。
ともかく、JMTを今回で踏破出来て大きな満足感を味わえた。

 今回の特記事項は、山行中でなくアプローチの入下山共大変であった。1)入山時これまで使っていたバスの便が廃止で、大回りして2日がかりになった事。
2)下山時ニューヨークのテロ惨事に伴うロス空港閉鎖と云う未曾有の事件により、3日間足止めを強いられた事。
 登山以外でのトラブルに神経を費やし疲れた。JMTの山旅の思出としては、大き過ぎる体験であった。

  

                INDEX    NEXT    BACK