<ストーリー>
神戸の町を見下ろす坂の上に、その店はあった。「南洋裁店」という小さな看板が掛けられた、古びた洋風の一軒家。 店主の南市江が仕立てる服は、いつも人気。すべて昔ながらの職人スタイルを貫く手作りの一点ものだ。
神戸のデパートに勤める藤井は、市江にブランド化の話を持ち掛けるが、まるで“頑固じじい”のような彼女は、全く興味を示さない。
市江の手掛けるのは、祖母で一代目が作った服の仕立て直しとサイズ直し、あとは先代のデザインを流用した新作を少しだけ。「世界で1着だけの、一生もの」-それが市江の繕い裁つ服が愛される、潔くも清い理由だった。
だが、南洋裁店に通い詰めた藤井だけは、市江の秘めた想いに気付いていた。やがて、彼の言葉に、市江の心は初めて揺れ動く---。
<解説>
阪神・淡路大震災から20年目の2015年1月、
元気になった街が映画『繕い裁つ人』に登場しました。
学生時代を兵庫県で過ごし、阪神・淡路大震災も経験した三島有紀子監督。兵庫県と縁の深い監督が地元の街を舞台に、人々の絆やものづくりの大切さを、1コマ1コマ心を込めて製作しました。
三島有紀子監督
海があって、坂道を上がると風鳴りが聞こえ、高台から異国情緒溢れる街を見渡せる。
147年前に開港されてから、音楽、服飾、建築、食べ物、いろんな異国の文化が長い時の中で街に溶け込んでいます。
それらを生み出す職人さんの技術やこだわり、そんな魅力に溢れた神戸が小さい頃から大好きでした。
地震の時、それらの多くを失った姿も知っています。
だからこそ、今の神戸の力強さとさらなる美しさに心動かされ、映画『繕い裁つ人』は絶対に神戸で撮影すると決めていました。
ここでなければ生まれていない映画です。
中谷美紀さん
過去の遺物となりつつあるかもしれませんが、ものづくり大国日本の誇るべき職人のひとりを演じられることに魅力を感じました。
おしゃれでエレガントな背景が取り巻くなか、たったひとりのために作られた「夢を見るための洋服」を大切に真摯に繕う市江の姿に惹かれました。
老若男女を問わず肝心な人生をおきざりにしてお仕事に励む方や、単調な日常にわずかな豊かさを求めるすべての方に、ご覧いただきたいです。
2015.2.3 大丸神戸店のショーウィンドウ(現在、このディスプレイはありません)