セロ弾きのゴーシュ
セロ弾きのゴーシュ
  • 脚本・監督:高畑勲
  • 原作:宮沢賢治
     監修:宮澤清六 堀尾青史 天沢退二郎
     キャラクター・デザイン:才田俊次「じゃりン子チエ」
     製作:村田耕一「アルプスの少女ハイジ」美術:椋尾篁「銀河鉄道999」
     音楽:間宮芳生「太陽の王子ホルスの大冒険」
  • 声の出演:佐々木秀樹 雨森雅司 白石冬美 肝付兼太 高橋和枝 高村章子 よこざわけい
  • ベートーヴェン交響楽第6番ヘ長調作品68「田園」
     演奏:間宮芳生指揮・東京室内楽協会  岩城宏之指揮・NHK交響楽団
  • 上映時間:1時間3分 1982年/日本
  • (C)オープロダクション (1982.1.23公開)
  • 上映予定(2019/10/3現在)
    • 10月26日(土) 尼崎市立小田北生涯学習プラザ  10:30 12:30 14:10
青春映画としての「セロ弾きのゴーシュ」
賢治の考えていたゴーシュは決してかけだしの新米演奏家ではなく、前に別の楽団にいたこともあるウダツのあがらぬ職業楽士でした。長年のヘボ楽士が突然名人に変貌する。そこには寓話としての強さと明快さがありますが、私達はやはり自分達の素直な読みにもとづいてゴーシュを煙草を吸うには若すぎるくらいの青年にせざるをえませんでした。
私達は、ゴーシュという下手なセロ弾きのなかに、内気で劣等感が強く、それでいて自尊心を傷つけられることには敏感だった自分達自身の青春時代の思い出や、対人関係に極度に臆病なあまり、無愛想で無表情にみえるまわりの青年たちの似姿を見出したのです。(中略)
楽団で一番下手な楽士、セロ弾きのゴーシュとは私達自身のことであり、すべての青年のことです。だからこそ私達はゴーシュの奇蹟的上達をともに心からよろこんでやりたい。原作の素晴らしい幕切れ、あの深々とした余韻をたとえ犠牲にしても、ゴーシュをいくらかでも孤独から、対人恐怖症から救い出したい、ゴーシュに人の間に入っていってほしい、青年はそうして成長していくのだし、音楽こそは人と人の心をつなぐ最大の武器なのだから……私達はこういう思で私達の映画のラストシーンを構成したのでした。
映画「セロ弾きのゴーシュ」は、親と子のための楽しいメルヘンであり、音楽への愛と芸術の厳しさ暖かさを物語るものですが、私達にとって主観的には青春映画でもあります。親離れ=自立に向って苦闘している中高校生や青年達にもぜひ観てもらいたいと願う次第です。(高畑 勲)


セロ弾きのゴーシュ『パンダコパンダ』『火垂るの墓』の演出や『風の谷のナウシカ』『天空の城ラピュタ』のプロデューサーとして、数々の珠玉の作品を遺し、膨大な知識と豊かな想像力で日本のアニメーションに多大なる影響を与えた高畑勲監督。
本作は、自分たちの力で作品を作りたいという情熱に燃えた小さなアニメーター集団オープロダクションが『アルプスの少女ハイジ』など名作アニメを手がけてきた高畑監督を迎え、5年の歳月をかけて完成させた不朽の名作です。監督が幼少期から愛読してきたという宮沢賢治の原作に、自立へ向かって苦闘する自分たち自身の青春時代を重ね合わせ、斬新なゴーシュ像を作り上げました。また、高畑作品の特徴である映像と音楽の融合は本作でも一貫しており、チェロを弾く繊細な指の動きを再現するなどこだわりの強い演出に、当代最高の制作陣が見事に応えています。

<ストーリー>

セロ弾きのゴーシュ映画がまだ、活動写真と呼ばれていた頃、ある田舎町のはずれに、ゴーシュという青年が住んでいました。ゴーシュは金星楽団の一員でセロ(チェロ)の演奏者です。
近づいた市民音楽会のために毎日、小学校の教室を借りて、楽団員たちは練習にはげんでいます。曲目はベートーヴェンの田園交響曲。演奏会まであと十日しかありません。全員一体となって熱のこもった演奏が続けられます。
「セロがおくれた!! ゴーシくん、こまるよ」きびしい団長さんの声です。一生懸命やっているゴーシュですが、なぜかうまく演奏できません。家に帰ってからも夜おそくまで練習しています。すると誰かが戸をたたく音が…