Rock'n Roll Car Jack - vol.4(June)


6回シリーズの4回目は、6月〜7月。世の中は梅雨。うっとおしい天気の中、ドライブ中に聴くとすれば、どんな曲かなぁ??な〜んて考えて選曲してみました。あああ!雨なんて大嫌い!!!






登場人物紹介

圭介
音楽は「表現」だといつも思っている、ベーシスト兼作曲家兼アレンジャー。
小学6年生で最初のロックバンド結成以来、無数のバンド活動を経て現在に至る。
仲間から生き字引とまで言われる70年代〜80年代のロックについての知識は、彼の作曲に多大なる影響を与えている。

えり
音楽は「はあと」だといつも思っている、コマーシャルの音楽プロデューサー。
幼少の頃からピアノや作曲を学び、ヤマハ音楽教室の講師を経て現在に至る。
聴く音楽のジャンルは幅広く、その事が彼女の仕事に大いに役立っている。


 

電話のベルが鳴っている。 風呂から上がったばかりの俺は、アイスコーヒーをひとくち飲んだ後で、受話器を取った。

「 えりで〜す。あのさ圭介、なんだか私最近梅雨のせいでやたらうっとおしいのよぉ〜!!!
それでさぁ、雨なんかぶっ飛ばしちゃえ!って感じの曲を集めて欲しいの。よろしくねぇ〜!
じゃ、今度の週末ドライブ、楽しみにしてるからね〜!バイバ〜〜〜イ!」


いつもの癖で時計を見ると、午前1時。マトモな時間に電話する事が出来ないらしい。
よし!えりと戦ってやる!梅雨をぶっ飛ばすだと?冗談じゃない!日本に住んでんだから、季節は否応無しに巡ってくるんだ。
梅雨は北海道にでも行かない限り避けられないって事を解らせてやる!
とりあえず、忘れかけていたアイスコーヒーをがぶ飲みした。

天気予報が当たって、やっぱり雨。しかも結構激しい雨。多分、機嫌も悪いだろう。できれば会うのを避けたかった。
でも、約束を破ったりしたら雷が落ちるだろう。覚悟を決めてえりが乗ってくるのを待った。

「散歩も出来ないし、バイクにもチャリにも乗れないし、オシャレもできないし、景色も見えないし!!!
もう、雨ってホントに大嫌い!!圭介のテープだけが楽しみだったの〜〜〜♪」

ヤバい!注文と違うって言われそうだ!えりを説得する為の心の準備を整えて、PLAYボタンを押した。



M- 1 RIDERS ON THE STORM / THE DOORS (1971)
ライダーズ・オン・ザ・ストーム / ザ・ドアーズ


 雨足がかなり強い。ワイパーを最速にしても前が見えにくい。

「なんか、この曲暗いんですけど。」

「雷や雨の音を聞くと、この曲のイントロが頭の中で流れ出すんだよ。」

「なんか、けだるいんですけど。」


「いや、気持ちを落ち着かせたい時はドアーズ。」

「そういえば、このバンドのキーボードの人って、足でベースやってなかったっけ?エレクトーンみたいに。」

「そう。ベースがいないからね。」

「でも、やっぱりドアーズと言えば、Tシャツだよね。」

「 Tシャツの柄部門では、ジミヘンと共に、2大アーティストに入る。」

M- 2 RENDEZVOUS 6:02 / UK (1979)
ランデヴー6:02 / UK


 どうせ景色も見えないし、とりあえず誰もいないオフィス街へと向かう。

「74年に一旦解散したキング・クリムゾンのメンバーが結成したスーパーグループ。」

「プログレファンの期待を思いっきり背負ってたんだろうねぇ。」

「でもその頃はパンク最盛期で、プログレは売れなかった。」

「それにしては、UKって有名だよね。」


「日本ではね。」

「セコイELPって感じ。」

「というより、長いエイジア。」

M- 3 GHOST STORY / JOHN CALE (1971)
ゴースト・ストーリー / ジョン・ケイル


 あてもなくクルマを流す。休日で稼動してないビルが立ち並んでいる。

「彼は実はクラシック出身なんだよ。」

「そう言われてみると、現代音楽っぽい気もする。コード進行が変わってるなぁーって思って聴いてた。」

「しかも、奨学金をもらって勉強した程の才能があったらしい。」

「オルガンの音が懐かしくて良いね。ところで何でヴェルベット・アンダー・グラウンドを辞めちゃったの?」


「ルー・リードと仲悪くなったせい。でも、アンディ・ウォーホールが亡くなった時の追悼ライブでは、
ジョンがルー・リードの曲を歌ってた。」

「なんか、感動的だね〜。」

M- 4 SOMETIME WORLD / WISHBONE ASH (1972)
いつか世界は / ウィッシュボーン・アッシュ


 同じようなビルばかりで、景色が変わらない。ビルの間を縫うように走る。

「前半はたるいって思ったけど、後半のギターとベースがカッコイイ!」

「哀愁のツインリードと言えばこのバンド。」

「歌の所よりも、間奏やエンディングの所が好き!」


「このベースがとにかくカッコ良くて、よくコピーしたなぁ・・・。
ピック弾きで、メチャクチャ音数が多くて、ギターと同時に盛り上がって、
気が付くとギターソロなのにギタリストより前に出てってベース弾きまくって・・・・」

「・・・圭介みたい。」

M- 5 HERE COMES THE FLOOD / PETER GABRIEL (1977)
ヒア・カムズ・ザ・フラッド / ピーター・ガブリエル


いきなりスコールのような雨。お互いの話が聴き取りにくい。

「直訳すると、"洪水がやって来る"」

「洪水っぽく聴こえないなぁ〜って思ってたら、ちゃぁんと曲の途中から洪水がやって来た。」


「元ジェネシス。それが、プログレファンの俺にとってのこだわり。」

「間奏の泣きのギターがいいなぁ〜。」


「気に入るのは当たり前。だってギターのディック・ワグナーは、えりの好きなキッスのトラもやってたしね。」

「コーラスの所が、クイーンの"手をとりあって"に似てる気がする。」

M- 6 99MILES FROM LA / ART GARFUNKEL (1975)
LAから99マイル / アート・ガーファンクル


ちょっとこの辺で街から離れてみよう。

「サイモンとガーファンクルの、ガーファンクルの方だよね。」

「ポール・サイモンの方が上に見られてるけど、アート・ガーファンクルは、あくまでも歌い手としての役割なんだからねぇ。」

「"スカボロー・フェア"や、"サウンド・オブ・サイレンス"は、ほかの男の人が歌うと汚くなりそう。」


「天使の歌声って言われる人は、そんなにはいない。」

「いつのまにか歌ってて、いつのまにか終わってた。」

M- 7 (A)FACE IN THE CROWD / THE KINKS (1975)
フェイス・イン・ザ・クロウド / ザ・キンクス


 ファッションビルの脇を通過する。色とりどりの傘が横断歩道を渡る。

「俺の中での方程式では、雨=イギリス=キンクス。」

「何だかずいぶん強引だね。」


「"ユー・リアリー・ガット・ミー"しか知らない人に聴かせたい。」

「私は"サニー・アフタヌーン"が一番好き。」


「キンクスってほんの少し前まで全部のレコードを手に入れる事が出来なかったんだ。」

「へぇ〜、意外だね。訳詞が付いてないなぁとは思ってたけど。」


「暗黒のRCA時代という時期があって、売れない、理解されない、廃盤になったままという3拍子が揃ってた。
この曲はその頃のやつ!」

M- 8 SMOKEY DAYS / COLIN BLUNSTONE (1971)
スモーキー・デイズ / コリン・ブランストーン

 雨は次第に小降りになってきた。この分だとどうやら上がってきそうだ。

「元ゾンビーズのヴォーカル。売れなくて解散したから、この人も当時はソロを出す気なんてなかったんだけど、
解散した後にゾンビーズの曲がヒットしちゃって、また音楽をやる事になったんだ。」

「今でもやってんの?」


「もちろん現役。もし来日したら、俺、全部見に行く。」

「昔のGSの人達とか、杉真理とか、ピチカートの小西さんとかも行きそうだね。」

「俺、この人の声が好きでさー。特にこのアルバムは、ポピュラーミュージックの中で一番美しいアルバムと言われてるんだよ。」

「サントラっぽいアレンジだね。弦楽器を上手く使ってる。」

M- 9 AS TEARS GO BY / MARIANNNE FAITHFULL (1987)
アズ・ティアーズ・ゴー・バイ / マリアンヌ・フェイスフル


 いつの間にか埋め立て地の上を走っている。道には所々に水たまりが残っているが、もう雨は降っていない。

「あ。ストーンズの曲だ。」


「と言うよりも、元々このマリアンヌの為に書かれた曲。」

「男の人が歌ってると思っちゃった。」

「若い頃はアイドルシンガーだった。でも、ミック・ジャガーと付き合ったのが運の尽き。
ボロボロで廃人同様になってしまったんだ。」

「アイドルだったのはいつ頃なの?」


「60年代。そして20年後、大人のシンガーとしてカムバック。これは大人バージョン。」

M-10 ON SOME FARAWAY BEACH / ENO (1973)
オン・サム・ファラウェイ・ビーチ / イーノ


「あ!砂浜があるよ!」
 こんな所に海水浴場が造ってあるとは知らなかった。この夏にオープンするらしく、まだ工事中の所が見える。

「インストと思ったら歌があった。」

「イーノがまだギンギンにメイクしてた頃の曲。」

「初期の方が好きだなぁ〜。」


「初期の4枚で充分。それ以降は環境音楽みたいになってしまった。」

「最後のピアノが辿々しくて良いね。」


「実は、この曲、自分の葬式の時に掛けたい曲なんだ。」

「まかしといて!」

 えりの機嫌が悪かったのは最初だけで、だんだん落ち着いてくれたようで、ほっとした気持ちで帰路につけた。
天気が悪いなら悪いなりに、それを楽しむ方が、人生得なんじゃないかなぁ。
俺の考えをえりがどのくらい解ってくれたのかは定かではないけど、砂浜でハシャギ過ぎてコテッと眠ってしまったえりを
起こして聞いてみる訳にもいかないし。ま、大して遠くには行けなかったけど、俺としては満足出来た休日だったなぁ。
しかし、えりが、少しずつロックの事を突っ込んで話すようになってきて、俺もうかうかしてらんないな。まだまだ当分は大丈夫だけどね。

 とにかく今日は帰ったらゆっくりと風呂にでも入って・・・。ゾンビーズのボックスでも聴くとすっか!

 

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