Rock'n Roll Car Jack - vol.3(May)
6回シリーズの3回目は、5月〜6月、もうすぐやってくる夏を身体で感じて、何だか自然に夜更かしをしてしまうこの頃、夜中のドライブにピッタリな音楽をテーマに考えた10曲です。 |
登場人物紹介
圭介
音楽は「表現」だといつも思っている、ベーシスト兼作曲家兼アレンジャー。
小学6年生で最初のロックバンド結成以来、無数のバンド活動を経て現在に至る。
仲間から生き字引とまで言われる70年代〜80年代のロックについての知識は、彼の作曲に多大なる影響を与えている。
えり
音楽は「はあと」だといつも思っている、コマーシャルの音楽プロデューサー。
幼少の頃からピアノや作曲を学び、ヤマハ音楽教室の講師を経て現在に至る。
聴く音楽のジャンルは幅広く、その事が彼女の仕事に大いに役立っている。
電話のベルが鳴っている。顔に近付けていたコーヒーカップを急いでテーブルに戻し、受話器を取った。 |
M- 1 DIAMOND HEAD / PHIL MANZANERA (1975)
ダイアモンド・ヘッド / フィル・マンザネラ 人気のスポットもこんな時間だとガラガラで、スイスイ走れる。 「インストの曲って、圭介にしては珍しいね。私は大好きだけど。」 「俺も好きなんだよ実は。これはロキシー・ミュージックのギタリストのソロ。」 「ロキシーって、ブライアン・フェリーとブライアン・イーノの活躍しか目立たなくない?」 「この人は、自分のソロでさえも出しゃばらない。豪華なゲスト陣をうまく使って、 自分の作品として完成させてるところが凄いと思うよ。」 「味のあるギター。いい感じ!」 |
M- 2 MAIN MAN / T-REX (1972) メイン・マン / T.レックス クルマの窓を全開にして夜風を入れる。気持ちが良い。 「私にとってのT.レックスって、都会的なイメージが強いなぁ。」 「こういうアコースティックないい曲もたくさんある。 でも、この曲がラジカセか何かのCMに使われた時にはびっくりした。」 「ど〜せ、10年以上前のCMでしょ?担当者が好きだったんじゃないの?そういう事って、よくある話だし。」 「この曲に限らず、 T.レックスはストリングスのアレンジが実にかっこいいし、音質も優れてる。 プロデューサーの腕がいいからだと思うけどね。」 「コードの数があんまりなくってもかっこいいね。」 「ところでコーラスを歌ってんの、誰だかわかる?」 「え?黒人の女の人じゃないの??」 「"ワルイ、キタナイ、その上デブ"のフロー&エディ。」 「げっ。ショック。」 |
M- 3 TONIGHT / NICK LOWE (1978) トゥナイト / ニック・ロウ 月が次第に明るくなってきた。郊外へと続く道を選んで走り続ける。 「やっぱしこのテの曲って、好みだわぁ〜!」 「デイブ・エドモンズ、ロック・パイル、そしてニック・ロウ。 俺の編集テープにはこの辺りの曲が必ず入ってきちゃうんだよなぁ。」 「その3人の中では、私はニック・ロウが一番馴染みがあるなぁ。」 「彼は、日本人からの評価が一番高い。英米では、可哀相なくらい低い。だから、日本人はエライ!」 「凄い理論。」 |
M- 4 MIDNIGHT SPECIAL / C.C.R. (1969) ミッドナイト・スペシャル / CCR だんだん人の気配がない道にさしかかってきた。この峠を登れば山頂に行けそうだ。 「えりはトワイライト・ゾーンって、観た?」 「ウン!確か、もともとはアメリカのSFテレビ番組かなんかで、全部で4話で成り立ってる映画だよね。 スピルバーグ製作のやつ。」 「そうそう。オープニングでさ、真夜中、今ぐらいの時間にトラック運転してるシーンがあったんだよね。」 「そうだっけ?」 「それで、ダン・エイクロイドとジョン・ランディスがさ、ちょうど今走ってるような感じの山道を走っててさ、 カーステだかカーラジオだかが壊れて、それで、・・・・・・」 「・・・・・。」 「こうやって、トワイライト・ゾーンごっこをして友達とよく遊んだんだよ。」 「私を怖がらせて、楽しい?」 |
M- 5 THE REAPER / BLUE OYSTER CULT (1976) 死神 / ブルー・オイスター・カルト なかなか頂上には辿り着かない。さっきの分岐点を間違ったのか?とにかく進んでみよう。 「何?この死神ってタイトル。そんな風には聴こえないよ。」 「いや、実はこれは、"死神が二人を引き裂くまで"っていう、ラブソングなんだよ。 これもテレビシリーズのオープニングに使われていた曲。」 「私の大好きなキッスやチープトリックは、このブルー・オイスター・カルトの前座だったコトがあるんだよね。」 「その通り。ヘヴィメタルと形容された最初のバンドでもある。」 「ジャケットとかタイトルで、メタルって事がわかったりするよね。」 「他の曲のタイトルも凄いよ。狂気同盟、夜の叫び、臆病なクレチン病患者、懺悔、吸血鬼の訪問、 最後の朝、死の谷の夜、・・・・・」 「・・・・・いつまで続くの?」 |
M- 6 SHIPS THAT PASS IN THE NIGHT /
THE STRANGLERS (1983) シップス・ザット・パス・イン・ザ・ナイト / ザ・ストラングラーズ 景色を眺めようにも辺りは真っ暗。道もだんだん細くなっていく。心の中の不安を隠し通 す。 「当時、日本で一番人気があったパンクバンド。」 「ピストルズとかは?」 「解散してた。やっぱりパンクバンドは短命な方がらしいのかなぁ?」 「ストラングラーズってまだあるの?」 「うん。20年以上やってる。ベースのジャン・ジャックは空手の為によく日本に来てて、俺も何回か会った事ある。」 「この曲、ストリングスの掛け上がりの所が、グランドキャニオンに似てるなぁ。」 「ストラングラーズの曲にあるグランドキャニオンの事?えりってそんなにこのバンド好きだったっけ?」 「そうじゃなくって、グローフェのグランドキャニオン。」 「それ、誰?」 「クラシックの作曲家。ええ?ホントに知らないの?学校で習ったでしょ?」 (・・・・・・・オレが憶えてる訳ないじゃん。) |
M- 7 TICKET TO THE MOON / E.L.O. (1981) チケット・トゥ・ザ・ムーン / ELO 月が再び顔を出した。エンジンを止めてシートを少し倒し、サンルーフを開けた。 「ビートルズになりたかった男、ジェフ・リン率いるELO。今、彼はプロデューサーとして有名になってる。」 「月行きのチケットかぁ。高そうだなぁ。」 「この人の歌って、わりと好きでさ。声が乾いてるから、こういうマイナーなメロディでもベタッとしないし。」 「メロディ自体はシンプルだよね。作風が少しクラシックの作曲法に近い気がする。」 「そんな分析されるとは思わなかったなぁ。」 「・・・じゃ、何してればいいのさ?」 「月を見てれば?」 |
M- 8 WATCH THE MOON COME DOWN / GRAHAM
PARKER (1989) ウァッチ・ザ・ムーン・カム・ダウン / グラハム・パーカー 地図を開いて場所を確認。目の前の峠を登れば視界が広がる筈だ。胸をなでおろす。 「月が沈むのを見ていよう。」 「さっきから私、言われた通りに、ず〜〜〜っと見てるんですけどぉ。」 「だからそういう歌詞なんだってば。俺のこの人に対する思い入れ指数は、かなり高い。」 「かなりってどのくらい高いの?また追っ掛けやったとか?」 「当然!ギター持って行ってサインもらって。ハッキリ言って日本で5本の指に入ると思うよ。 今では人気も落ちて、インディーズからショボいアルバムしか出してないけど、 弾き語りのライブを見た時に凄く感動して、俺、泣いたもん。ライブ見て泣いたのって、彼のライブだけ。」 「ふーん。私はシャムシェイドでもキッスでもローリーでもポールでも泣いたよ。」 「感情の起伏、激しいんじゃない?」 「そこがまたミリョクでショ?うふふん♪」 |
M- 9 THE SONG / JOHN GREAVES WITH ROBERT
WYATT (1995) ザ・ソング / ジョン・グリーヴス ウィズ ロバート・ワイアット ヘアピンのカーブが続く。外の空気がひんやりしているのとは対照的に、ハンドルを握る手は熱くなる。 「山陰の町に、山の王が降りてくる。っていう歌詞。」 「へんてこな曲!」 「こういう曲って、予備知識のない人が聴いたらどう思うかって事が凄く興味ある。 かなりマニアックな人達だからね。」 「ジャンルが無いよね。フリージャズとか現代音楽の匂いがする。 自由気ままに演奏している訳じゃないんだろうけど。ボアダムズもこのジャンルに入れたい。 プログレっぽい気もする。ついカウントとりそうになる所とか。基本的には好み。・・・・これくらいでいい?」 「この声もすごいでしょ?」 |
M-10 FLYING / YONINBAYASHI (1979) フライング / 四人囃子 「あっ!朝日が登って来たよ!」 下界が見えた。朝日を背に見下ろす快感が体中にゆき渡る。 タイタニックじゃないけど、世界は俺のものだ!という気分を満喫。 「ビートルズの"マジカル・ミステリー・ツアー"の中のインスト曲のカバー。」 「私、四人囃子って、ずーっと四人だと思ってたら、いろんな人が入ったり出たりしてたんだって知ってびっくりした。 今では"五人囃子"って言葉の方が違和感ある。」 「それぞれプロデューサーになったり、音楽事務所やったりしてる。」 「L⇔Rのバックで岡井さんがドラム叩くの聴いたけど、かっこ良かったよぉ〜。」 「この曲のゆったりしたアレンジ、俺はオリジナルよりも好きだなぁ。ピンク・フロイドっぽいトリップ感がある。」 「空を飛びたい気持ちになるよね。」 |
急な選曲、急なドライブだったけど、ちゃんとまとめられた自分の才能に感謝。 真夜中のドライブは道も空いてるし、走り心地もよい。 今回、やたらクラシックって言葉がえりの口から出て来てたけど、そんな反応が返ってくるなんて思ってもみなかったなぁ。 いやぁ、毎回毎回新鮮でアリガタイよマッタク。 しかしこうやってテープを聞かせてるうちに、少しずつ俺の好みの音楽を理解していってくれてるんだと思うと、 つい選曲にも力が入ったりしてくるんだよなぁ。実はそれが狙いなんだけどネ。 やっぱしセンス良いって思われたいし。既に思われてるからこそ、いつもいつも頼まれるんだろうけど。 やっぱ、音楽って、奥が深いっス!とにかく今日は帰ったらゆっくりと風呂にでも入って・・・。 楽器屋にでも行ってみるとすっか! |
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