Rock'n Roll Car Jack - vol.3(May)


6回シリーズの3回目は、5月〜6月、もうすぐやってくる夏を身体で感じて、何だか自然に夜更かしをしてしまうこの頃、夜中のドライブにピッタリな音楽をテーマに考えた10曲です。
シチュエーションはフィクションです。(^_-)





登場人物紹介

圭介
音楽は「表現」だといつも思っている、ベーシスト兼作曲家兼アレンジャー。
小学6年生で最初のロックバンド結成以来、無数のバンド活動を経て現在に至る。
仲間から生き字引とまで言われる70年代〜80年代のロックについての知識は、彼の作曲に多大なる影響を与えている。

えり
音楽は「はあと」だといつも思っている、コマーシャルの音楽プロデューサー。
幼少の頃からピアノや作曲を学び、ヤマハ音楽教室の講師を経て現在に至る。
聴く音楽のジャンルは幅広く、その事が彼女の仕事に大いに役立っている。


 

電話のベルが鳴っている。顔に近付けていたコーヒーカップを急いでテーブルに戻し、受話器を取った。

「はろーはろーっ! えりで〜す!!あのさ圭介、なんだか私眠れなくなっちゃって、すごく暇なのよ。
今晩12時ぐらいにそっち行くからさぁ、どっか走りに行こーよ!
で、その時、新作のテープがあったら聴かせてね!じゃ、あとでね〜!バイバイ!」


 時計を見ると午後10時・・・ってことは???ウソだろーっ?!時間がない!!
新作なんて言われても、その時々のシチュエイションで選曲は違うってのに・・・・。
とにかく飲みかけのコーヒーを流し込んだ。

 テーマを決め、テープを作り終え(2時間で!!)心地よい疲れを感じながらえりの車に乗り込み、助手席に座った。
ミッドナイトドライブの始まりだ。

「出発進行〜!!・・・で、どっちに行けばいいの?」

行く先も決めずに(そんな暇はなかった!)出て来た俺は、とりあえず、
「右に曲がったら、ずっとまっすぐ走ってて。」と言ったきりで、街並を眺めながらしばらく考えていた。
すると急に、見事にライトアップされた橋が視界に飛び込んで来て、わき見運転をしそうなえりと運転を代わり、
PLAYボタンを押した。



M- 1 DIAMOND HEAD / PHIL MANZANERA (1975)
ダイアモンド・ヘッド / フィル・マンザネラ

人気のスポットもこんな時間だとガラガラで、スイスイ走れる。

「インストの曲って、圭介にしては珍しいね。私は大好きだけど。」


「俺も好きなんだよ実は。これはロキシー・ミュージックのギタリストのソロ。」

「ロキシーって、ブライアン・フェリーとブライアン・イーノの活躍しか目立たなくない?」

「この人は、自分のソロでさえも出しゃばらない。豪華なゲスト陣をうまく使って、
自分の作品として完成させてるところが凄いと思うよ。」

「味のあるギター。いい感じ!」

M- 2 MAIN MAN / T-REX (1972)
メイン・マン / T.レックス


クルマの窓を全開にして夜風を入れる。気持ちが良い。

「私にとってのT.レックスって、都会的なイメージが強いなぁ。」


「こういうアコースティックないい曲もたくさんある。
でも、この曲がラジカセか何かのCMに使われた時にはびっくりした。」

「ど〜せ、10年以上前のCMでしょ?担当者が好きだったんじゃないの?そういう事って、よくある話だし。」


「この曲に限らず、 T.レックスはストリングスのアレンジが実にかっこいいし、音質も優れてる。
プロデューサーの腕がいいからだと思うけどね。」

「コードの数があんまりなくってもかっこいいね。」


「ところでコーラスを歌ってんの、誰だかわかる?」

「え?黒人の女の人じゃないの??」

「"ワルイ、キタナイ、その上デブ"のフロー&エディ。」

「げっ。ショック。」

M- 3 TONIGHT / NICK LOWE (1978)
トゥナイト / ニック・ロウ

月が次第に明るくなってきた。郊外へと続く道を選んで走り続ける。

「やっぱしこのテの曲って、好みだわぁ〜!」


「デイブ・エドモンズ、ロック・パイル、そしてニック・ロウ。
俺の編集テープにはこの辺りの曲が必ず入ってきちゃうんだよなぁ。」

「その3人の中では、私はニック・ロウが一番馴染みがあるなぁ。」

「彼は、日本人からの評価が一番高い。英米では、可哀相なくらい低い。だから、日本人はエライ!」

「凄い理論。」

M- 4 MIDNIGHT SPECIAL / C.C.R. (1969)
ミッドナイト・スペシャル / CCR


だんだん人の気配がない道にさしかかってきた。この峠を登れば山頂に行けそうだ。

「えりはトワイライト・ゾーンって、観た?」

「ウン!確か、もともとはアメリカのSFテレビ番組かなんかで、全部で4話で成り立ってる映画だよね。
スピルバーグ製作のやつ。」


「そうそう。オープニングでさ、真夜中、今ぐらいの時間にトラック運転してるシーンがあったんだよね。」

「そうだっけ?」

「それで、ダン・エイクロイドとジョン・ランディスがさ、ちょうど今走ってるような感じの山道を走っててさ、
カーステだかカーラジオだかが壊れて、それで、・・・・・・」

「・・・・・。」

「こうやって、トワイライト・ゾーンごっこをして友達とよく遊んだんだよ。」

「私を怖がらせて、楽しい?」

M- 5 THE REAPER / BLUE OYSTER CULT (1976)
死神 / ブルー・オイスター・カルト


なかなか頂上には辿り着かない。さっきの分岐点を間違ったのか?とにかく進んでみよう。

「何?この死神ってタイトル。そんな風には聴こえないよ。」

「いや、実はこれは、"死神が二人を引き裂くまで"っていう、ラブソングなんだよ。
これもテレビシリーズのオープニングに使われていた曲。」

「私の大好きなキッスやチープトリックは、このブルー・オイスター・カルトの前座だったコトがあるんだよね。」

「その通り。ヘヴィメタルと形容された最初のバンドでもある。」

「ジャケットとかタイトルで、メタルって事がわかったりするよね。」

「他の曲のタイトルも凄いよ。狂気同盟、夜の叫び、臆病なクレチン病患者、懺悔、吸血鬼の訪問、
最後の朝、死の谷の夜、・・・・・」

「・・・・・いつまで続くの?」

M- 6 SHIPS THAT PASS IN THE NIGHT / THE STRANGLERS (1983)
シップス・ザット・パス・イン・ザ・ナイト / ザ・ストラングラーズ

景色を眺めようにも辺りは真っ暗。道もだんだん細くなっていく。心の中の不安を隠し通 す。

「当時、日本で一番人気があったパンクバンド。」

「ピストルズとかは?」


「解散してた。やっぱりパンクバンドは短命な方がらしいのかなぁ?」

「ストラングラーズってまだあるの?」

「うん。20年以上やってる。ベースのジャン・ジャックは空手の為によく日本に来てて、俺も何回か会った事ある。」

「この曲、ストリングスの掛け上がりの所が、グランドキャニオンに似てるなぁ。」

「ストラングラーズの曲にあるグランドキャニオンの事?えりってそんなにこのバンド好きだったっけ?」

「そうじゃなくって、グローフェのグランドキャニオン。」

「それ、誰?」

「クラシックの作曲家。ええ?ホントに知らないの?学校で習ったでしょ?」

(・・・・・・・オレが憶えてる訳ないじゃん。)

M- 7 TICKET TO THE MOON / E.L.O. (1981)
チケット・トゥ・ザ・ムーン / ELO


月が再び顔を出した。エンジンを止めてシートを少し倒し、サンルーフを開けた。

「ビートルズになりたかった男、ジェフ・リン率いるELO。今、彼はプロデューサーとして有名になってる。」

「月行きのチケットかぁ。高そうだなぁ。」

「この人の歌って、わりと好きでさ。声が乾いてるから、こういうマイナーなメロディでもベタッとしないし。」

「メロディ自体はシンプルだよね。作風が少しクラシックの作曲法に近い気がする。」

「そんな分析されるとは思わなかったなぁ。」

「・・・じゃ、何してればいいのさ?」

「月を見てれば?」

M- 8 WATCH THE MOON COME DOWN / GRAHAM PARKER (1989)
ウァッチ・ザ・ムーン・カム・ダウン / グラハム・パーカー


地図を開いて場所を確認。目の前の峠を登れば視界が広がる筈だ。胸をなでおろす。

「月が沈むのを見ていよう。」

「さっきから私、言われた通りに、ず〜〜〜っと見てるんですけどぉ。」

「だからそういう歌詞なんだってば。俺のこの人に対する思い入れ指数は、かなり高い。」

「かなりってどのくらい高いの?また追っ掛けやったとか?」


「当然!ギター持って行ってサインもらって。ハッキリ言って日本で5本の指に入ると思うよ。
今では人気も落ちて、インディーズからショボいアルバムしか出してないけど、
弾き語りのライブを見た時に凄く感動して、俺、泣いたもん。ライブ見て泣いたのって、彼のライブだけ。」

「ふーん。私はシャムシェイドでもキッスでもローリーでもポールでも泣いたよ。」

「感情の起伏、激しいんじゃない?」

「そこがまたミリョクでショ?うふふん♪」

M- 9 THE SONG / JOHN GREAVES WITH ROBERT WYATT (1995)
ザ・ソング / ジョン・グリーヴス ウィズ ロバート・ワイアット

ヘアピンのカーブが続く。外の空気がひんやりしているのとは対照的に、ハンドルを握る手は熱くなる。

「山陰の町に、山の王が降りてくる。っていう歌詞。」

「へんてこな曲!」

「こういう曲って、予備知識のない人が聴いたらどう思うかって事が凄く興味ある。
かなりマニアックな人達だからね。」

「ジャンルが無いよね。フリージャズとか現代音楽の匂いがする。
自由気ままに演奏している訳じゃないんだろうけど。ボアダムズもこのジャンルに入れたい。
プログレっぽい気もする。ついカウントとりそうになる所とか。基本的には好み。・・・・これくらいでいい?」


「この声もすごいでしょ?」

M-10 FLYING / YONINBAYASHI (1979)
フライング / 四人囃子


「あっ!朝日が登って来たよ!」
下界が見えた。朝日を背に見下ろす快感が体中にゆき渡る。
タイタニックじゃないけど、世界は俺のものだ!という気分を満喫。

「ビートルズの"マジカル・ミステリー・ツアー"の中のインスト曲のカバー。」

「私、四人囃子って、ずーっと四人だと思ってたら、いろんな人が入ったり出たりしてたんだって知ってびっくりした。
今では"五人囃子"って言葉の方が違和感ある。」


「それぞれプロデューサーになったり、音楽事務所やったりしてる。」

「L⇔Rのバックで岡井さんがドラム叩くの聴いたけど、かっこ良かったよぉ〜。」

「この曲のゆったりしたアレンジ、俺はオリジナルよりも好きだなぁ。ピンク・フロイドっぽいトリップ感がある。」

「空を飛びたい気持ちになるよね。」

 急な選曲、急なドライブだったけど、ちゃんとまとめられた自分の才能に感謝。
真夜中のドライブは道も空いてるし、走り心地もよい。
今回、やたらクラシックって言葉がえりの口から出て来てたけど、そんな反応が返ってくるなんて思ってもみなかったなぁ。
いやぁ、毎回毎回新鮮でアリガタイよマッタク。
しかしこうやってテープを聞かせてるうちに、少しずつ俺の好みの音楽を理解していってくれてるんだと思うと、
つい選曲にも力が入ったりしてくるんだよなぁ。実はそれが狙いなんだけどネ。
やっぱしセンス良いって思われたいし。既に思われてるからこそ、いつもいつも頼まれるんだろうけど。
 やっぱ、音楽って、奥が深いっス!とにかく今日は帰ったらゆっくりと風呂にでも入って・・・。
楽器屋にでも行ってみるとすっか!

 

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