Rock'n Roll Car Jack - vol.1(March)


これは、私が某・クルマ雑誌に、98年に書いていた全6回シリーズのコラムです。 シチュエーションはフィクションですが、どうやったらクルマと音楽をシンクロさせられるか? と思ってひねり出した、苦肉の策なのです。 今回は、3月〜4月、「春」をテーマに考えた1回目の選曲です。





登場人物紹介

圭介
音楽は「表現」だといつも思っている、ベーシスト兼作曲家兼アレンジャー。
小学6年生で最初のロックバンド結成以来、無数のバンド活動を経て現在に至る。
仲間から生き字引とまで言われる70年代〜80年代のロックについての知識は、彼の作曲に多大なる影響を与えている。

えり
音楽は「はあと」だといつも思っている、コマーシャルの音楽プロデューサー。
幼少の頃からピアノや作曲を学び、ヤマハ音楽教室の講師を経て現在に至る。
聴く音楽のジャンルは幅広く、その事が彼女の仕事に大いに役立っている。


 
 電話のベルが鳴っている。眠い目をこすって時計を見ると午前3時だった。
音楽を生業としている人間は、基本的に夜が遅いし、勿論俺だってその類に属しているんだけど、
こんなトンでもない時間にかけてくるのは多分・・・・・。

「ねえねえ圭介、今度の休みにちょっとドライブしたいんだけどさぁ、車で聴く曲集めて欲しいの。春っぽいヤツ。
フレッシュロックベストテン!って感じの。順位はいらないから。よろしくね〜♪」

 いきなり言われたって、結構大変なのに。浮き浮きフレッシュな気分にさせる曲なんて、千差万別 、人それぞれ。
お経で踊る奴がいても演歌でヘッドバンキングする奴がいても良いのだ。俺はやらないけど。
フレッシュ。フレッシュかぁ。
コーヒーにさえ入れないってのに・・・・・。

 テープを(結局)作ってきた俺の車に有無を言わさず乗り込んできたえりは満面 の笑顔。

「出発進行〜!!」

どうやらドライブの相手は俺だったらしい。(よしよし。)そしてPLAYボタンが押された。


M- 1 IN THE CITY / THE JAM (1977)
イン・ザ・シティ / ザ・ジャム


車は快調な滑り出し。シーズンオフの海に向かって街を駆け抜けていく。

「ポールウェラーが、スタイル・カウンシルの前にいたバンド。俺、最初あんまり好きじゃなかったんだよ。」

「なんでよ?」

「曲は短いし、ギターはガシャガシャしてたし。それに、ネクタイしてたし。」

「は????

「でも、ルーツを辿った後で聞き直したら、すっげーカッコい〜!と思った。
この曲の8小節目のドラムのフィルの所では21年経った今でも思わずジャンプしたくなる!」

「ジャンプするのは良いんだけどさ、運転中はしないでよね。」

M- 2 COME ON EILEEN / DEXYS MIDNIGHT RUNNERS (1982)
カモン・アイリーン / デキシーズ・ミッドナイト・ランナーズ


いつもは混んでいる幹線道路なのに今日はやけに流れがスムーズで、気持ちいい。

「キャーッ!嬉しー!。私、この曲大好き。楽しいし。」

「こいつら全員、オーバーオールとバンダナのスタイルだった 。その格好で靴下履いてなかったって知ってた?」

「えーっ?じゃ、イロモノバンドって事なの?」

「そう言う奴らが多くて困る。1stと2ndアルバムは青春の必聴盤。一発屋じゃないっ!」

「じゃ、今度貸して♪」

「・・・・・・・。」(たまには自分で買え)

M- 3 MIDDLE OF THE ROAD / THE PRETENDERS (1983)
ミドル・オブ・ザ・ロード / プリテンダーズ


高速道路に乗った。エンジンのフケも絶好調で、車の中はノリノリの状態。

「オーオオオオーオ。オーオオオオーオ。ウッ!アッ!」

「オーオオオオーオ。オーオオオオーオ。ウッ!アッ!」

(いきなり2人で合唱。まるでウェインズ・ワールド状態)

「けっこう盛り上がるね。」

「うん!けっこう盛り上がるね。」

M- 4 YOU MIGHT THINK / THE CARS (1984)
ユー・マイト・シンク / カーズ


前を走る車を気持ちよく抜いていくと、

「メンバーのルックスが爬虫類っぽくて気持ち悪いんだけど、そこがカッコ良く見えたんだ。」

「私は爬虫類はパス。でもこの曲は名曲だと思う。覚えやすいし、ヌケがいい。」

「ギターの5・6弦の5度の刻みといい、シンセのアナログ感といい、ポップなメロディといい、
すごく計算されていて、知的な雰囲気がある。是非、再評価してほしいなぁ。」

「はい。再評価しましたっ!」

(えりに再評価してもらうつもりで言ったんじゃないんだけど・・・)

M- 5 GIRLS TALK / DAVE EDMUNDS (1979)
ガールズ・トーク / デイヴ・エドモンズ


クルマは走り続ける。

「これはもともとはエルビス・コステロの曲。この人の代表曲はほとんど、カバー曲なんだよ。」

「途中でマイナーになる所が何とも言えない哀愁が漂ってていーね。」

「性格は悪いらしいよ。」

「コステロバージョンも聴きたい!」

M- 6 BORN TO RUN / BRUCE SPRINGSTEEN' (1975)
ブルース・スプリングスティーン / 明日なき暴走


おいおい、こんなに道すいてていいのぉ?。気持ちいいーっ

「まさか、ボーン・イン・ザ・U.S.A.しか知らないなんて言い出すなよ。」

「・・・・・。レーガンのキャンペーンソングだった曲?」

「実際そんなものに使われるような歌詞じゃなくて、あれは光と影、夢と挫折のようなものを歌ってたのに。
誰も歌詞なんて気にしてなかったって事だよ。」

「バンダナとジーンズとネルシャツ。浜田省吾って感じ。」

「それはおいといて、この曲はスプリングスティーンがまだ若くててチンピラっぽいギラつきがあって、
かなり痩せていた頃のヒット曲。最近はかなり太ってオッサン臭くなってしまった。ロッカーは辛いよ!」

「圭介は太らないでよねっ!!」

M- 7 THE GOLDEN AGE OF ROCK'N ROLL / MOTT THE HOOPLE (1974)
ロックンロール黄金時代 / モット・ザ・フープル


クルマの流れをだんだん遅く感じてきた圭介。バックミラーに気を使いながらも・・・

「俺はグラム・ロックだと思ってる。マニアの間では意見が分かれてるらしいけどね。」

「グラム・ロックが次に流行るってファッション雑誌に書いてあった。
グラムと言えば、私、TーREXのトリビュート盤買ったよ。」


「ピアノを弾いてるモーガンフィッシャーは、今、東京に住んでいて、THE・BOOM関係の仕事をしてるんだよ。」

「この曲、サビの所のリバーブがやったら凄いね。」

「このバカバカしさと紙一重の感覚を楽しめるか否か。そこがポイント。よーく覚えておくように!」

「大ランチキ騒ぎって感じだ!」

M- 8 ACTION / SWEET (1976)
アクション / スウィート


「スウィートって、元々ディープ・パープルのメンバー達と一緒に演ってたって知ってた?」

「へえー。何だかイメージ違う。この人達って、ロンドン・グラム・ポップのアイドルって感じなのに。」

「そう言えば、イギリスのブレア首相が若い頃に演ってたバンドの写真がスウィートそっくりだったんで、
何だか嬉しかった。」

「その写真、見たい〜〜っ!」

「・・・持ってないって。」

M- 9 THE WILD ONE / SUZI QUATRO (1974)
ワイルド・ワン / スージー・クアトロ


気がついたらクルマもノッてスイングしている。ちょっとタイミングがとろいけど仕方がない。
ただリミッターが効いてるだけだったりして・・・。

「BOOWYもこの曲演ってたよね。」


「そう。スージーと一緒に。彼女は親日家で、結婚式も東京の神社で挙げたらしいよ。」

「私この曲、歌える。」

「歌詞、かなりエッチで赤面モノだって知ってて歌ってんの?」

「日本語じゃないから歌える。」

「英語が解る男の前で歌わなきゃいいよ。」

M-10 SEVEN SEAS OF RHYE / QUEEN (1974)
輝ける7つの海 / クイーン


「あ、海に出たよ!」
俺の計算通り、この曲がかかるタイミングで目の前がパーッと広がった。

「クイーンって、華麗で美しいわぁ。やっぱし。だーい好き!」

「そう言う日本の女の子達の中で、アイドル的に人気が出たのが始まりなんだよ。
当時イギリスでは酷評されてたけどね。」

「だってカッコ良かったもん。でもベースのジョンって、久米宏に似てるよね。」

「ブライアンのギターって、技術的には難しい事してないんだけど、音色がなかなか再現できなくて、
あまりコピーされなかったなぁ。」

「フレディの4オクターブのヴォーカルも大変そうだしねぇ・・・。」

・・・終始えりの機嫌を損ねることもなく聴き終えられた事で、とりあえずは合格ラインを突破した。
俺としては、この10曲の曲順にも意味を持たせて録音したつもりだったんだけど、その話は他のミュージシャン仲間とでも盛り上がる事にしよう。
言い足りない事はまだまだ山ほどあるけど、同じ曲を聴いてても、えりと俺とでは興味を持つ部分が違うから、俺の細かい説明なんか聞く耳を持たないのだ。
例えば、メンバー同士の友人関係やレーベル、出身地、時代背景等を楽しむ俺に対して、循環コードだとかアッチェレランド(だんだん速くなっていく事らしい)だとかをえりは喜んで聴いてる(らしい)。
でも、音楽って不思議なもんで、そんな2人でも、好きな曲はけっこう重なってんだよなー。
俺の作る曲のアレンジもえりは気に入ってるみたいだし。
 やっぱ、音楽って、奥が深いっス!とにかく今日は帰ったらゆっくりと風呂にでも入って・・・。
新曲でも作るとすっか!

 

音楽MENUに戻る
←click!→
コラム2を読む