保護者/読み聞かせ紹介/イソップ


イ ソ ッ プ

   本を読むのが好きな人のためのページです
             千葉昌之 HIP


1.本について
  書名「イソップ」 青木和雄・作   吉川聡子・画    金の星社  \1300税別
   実は、この本は、まだ読み聞かせていません。これから読み聞かせようと考えている本なのです。

 2.本の説明
 @どういうタイトルなの?
  「イソップ」というタイトルを聞いて,どのような内容の本だと思いましたか?だれもが、「イソップ物語」を思い浮かべるのではないのでしょうか?
 私も同様です。イソップ物語に関係のある本なのか、ただ単に「イソップ」というあだ名の子どもの話なのかと考えました。
 結局、どちらにも関係のある本だということがわかりました。
 副題に、次のようなことが書いてあります。

True Friends ほんとうの友だちを見つけるために大切なこと

 もし、子どもに上記のことを聞かれたら、何と言う風に答えますか?
 「本当の友だちを見つけるために大切なことは、友だちをよく知ることだよ」「大切なことは、やさしさだよ」‥‥、こたえるのは難しいようですね。でも、この本は、そんなことを感じ取らせてくれます。「ほんの少しの勇気が大切」「ほんの少しのやさしさが大切」そんなことを感じ取らせてくれる本なのです。
 
 A登場人物の解説
  3名の登場人物が、話の大筋に関わってきています。紹介しましょう。3名の登場人物は、全て5年生です。今のクラス(5年生)に読み聞かせしようとしている理由も「同じ5年生で  親近感が持てるのでは?」というものもあります。
  ●佐藤祥吾⇒名門私立の「楓(かえで)学園」を、ある事件のために自主退学します。「いじめ」が関わった事件です。「教師のスカートをめくれ!」と命令されて、祥吾は教師のスカートをめくってしまいます。教師に理由も伝えないまま、両親にも理由を話さないまま、自主退学し、公立校へと転校します。両親は、全く祥吾のことをわかってくれないのですが、唯一、姉が理解してくれます。姉も、いじめで転校させられた体験を持っているのです。この祥吾の心をわかってくれる姉と、これから紹介する登場人物の草馬と千里によって、祥吾の心がだんだん心が癒されてきます。
  ●磯田草馬⇒父親から虐待を受け、さらに母親が妹を道ずれに自殺。里親に育てられているという家庭環境の草馬は、みんなから「イソップ」と呼ばれています。里親に育てられる中で、本当の自分を草馬は取り戻していきます。また、草馬は、母親から唯一読み聞かされた本、「イソップ物語」を大切にしています。時折,「母親と妹を救えなかったのか?」と悩みながら。草馬は、温厚な性格で、みんなを和ませてくれるキャラクターです。ひょっとして、彼が主人公なのかも知れません。
  ●柏木千里⇒男言葉で話し、男子の服装をしている女の子です。それは、大切な兄が急に交通事故で亡くなってしまったため。「兄の分も、2人分で生きよう!」という思いからか、自然に男言葉や態度が出てきているのです。彼女も「兄ともっと話したり遊んだりすればよかった。」という思いを常に持ち続けています。祥吾と草馬の2人と接するうちに、千里も女の子の自分に戻っていきます。
   人の接し方がわからない子ども達が、それぞれのトラウマを乗り越え、真の友だちとなっていくようすが描かれています。
   この名3名の人物にスポットをあてて、読み聞かせていくとよいでしょうね。

 Bイソップ物語を通して

  小さい頃に、「イソップ物語」を読んでもらったことはあるでしょうか?私は「アリとキリギリス」が一番印象に残っています。
  「イソップ」の話にはイソップ物語の「クマと旅人」の話がよく出てきます。2人の旅人がクマに出合います。1人の男は驚いて木に登り、もう一人の男は逃げられずに死んだふりをします。クマは死んだふりをした男のそばに行きますが、生きているかどうか旅人の耳や顔をつついて確かめますが、やがてあきらめて去ります。木から降りた男は、もう一人に「クマは君に何て言ったのか?」と聞きます。すると、危ない目にあった男が言います。「友だちを見捨てるようなヤツとは、一緒に旅をするんじゃないよ」と。
 この話が、この物語のベースになっているのです。駅のホームから突き落とされた友だちを、見ていながら助けることができなかった祥吾。祥吾は自分を「もう一人の旅人」にたとえ、自分を責め続けるのです。
 他のイソップ物語は、「すっぱいぶどう」などいくつかのお話が出てきます。この「イソップ物語」を使用した意図について作者の青木さんは「あとがき」の中で次のように言っています。

 本書「イソップ」では、子どもたちの会話の中で、イソップ物語のお話をいくつか紹介しています。
 イソップ物語は古代ギリシャで生まれ、世界中で語りつがれてきました。擬人化された動物たちがくり広げる3百編以上もの寓話には、人の心の弱さやおろかさが鏡のように映されています。キツネたちの失敗と成功は、体験の少ない子どもたちの行動や判断に貴重なアドバイスを与えてくれるのではないかと思います。  (前掲書250頁)

 C大人の言葉がけの大切さ
 「読み聞かせ」を抜きにして、この本から私が学んだことは、「子どもに対する大人の言葉がけ」です。
 ●傷つく言葉
  「負け犬か。しっぱをまいて閉じこもっているわけだ。なっさけないなあ。おれの息子とは思えないよ。」
  「信じていたのに、なんか裏切られた気分だな。子どもへの投資は、リスクが多くて考えもんだな。」
  「ぜったい後悔するわよ。あんたなんか、どうなっても知らないからね。」
 ●癒される言葉
  「もし、わたしがクマにおそわれて、ほかに助かる方法がなかったら、友だちに叫ぶわ。逃げて!あなただけでも逃げて!」
  「逃げるのは悪いことじゃない。人を助けるだけの力が備わっていなかったのよ。救えなかったつらさに、心が痛むのなら、知恵と力を身につけて、次はしっかりと助けられるように自分をきたえることね」
  「この教室は、ずっと、きみを待っていたんだよな。」
  「みんな、いい友だちになれるよ。そのために、この教室はある。あそのために、きみはここにきたんだ。な、立河くん、ここがきみの居場所だ。そう思わないか。」
  「子どもは失敗しながら、成長していくものよ。失敗を知らない子どもは、いつまでも大人になれないの。ショウちゃん、ちっともはずかしいことないんだからね。もっと、どんどん失敗をしなさい。わたしが見ていてあげる。」

 D青木和雄さんの他の作品

 青木さんの作品については、以前から興味を持っていました。「ハッピーバースディ」という本は、有名でしょう。 「おまえ、生まれてこなきゃよかった」という母親の暴言から、言葉を失ってしまった少女の話です。ベストセラーにもなった本です。この本で青木さんを知りました。
 青木さんは、元小学校校長・教育カウンセラー・法務省人権擁護委員・保護司などの経歴があります。
 「先生、この本、いい本だよ」「ハッピーバースディ」の映画を見たよ、などの子どもの声から、私も興味を持ちました。
●「ハードル」  ●「ハートボイス」 などの著書があります。
            

   戻る                        ご意見