深海魚とその周辺、基礎的なQ&A

 注意事項:深海魚にかんする簡単な質問と簡単な答えを用意しました。ただ質問によっては質問内容が抽象的すぎて答えようがないものがあります。またそれぞれの質問に手ごろな参考資料を上げておきました。ネットで情報を探る場合はネットの情報に基づいて参考文献に直接当たるか、あるいは複数のHPでクロスチェックするか、公共機関のHPにあたるなど、そういう作業をすることが望ましいからです。もちろん、分野によってはネットを活用してもそういうことすらできないマイナーな、あるいは専門的すぎる/あるいは高度すぎるジャンルもありますが、そういう場合は市立図書館や県立図書館へいくこと、あるいは大学生や研究者向けの教科書、あるいはそれに類する書籍を読むことをお勧めします。啓蒙書はあまりお勧めできません。

 ネットには検索能力があるのは便利なのですが、情報源としてはきわめて片寄っているといえます。普段は眼にすることのない個人の日記までも検索できる一方で、すこし専門的な分野になるとごく小規模の市立図書館にさえもまったくおよびません。ネットはいかなる人も情報にアクセスできるように見えて、じつは情報の遮断を容易にできるツールであるだろうことをお忘れなく。

 

 Q:深海魚とはなんですか?

 A:200メートルよりも深い場所で生活する魚のこと(らしい)です 

 実は手持ちの幾つかの資料を見ましたが、深海魚の定義を述べた資料が見つかりませんでした。例えば、『岩波 生物学辞典 改訂第4版 岩波書店 2001 』には”深海魚”なる言葉は載っていません。ただし深海動物という言葉は載っています。それによると深海動物とは『深い海に生息する動物の総称』のことです。引用すれば、

 ふつう陸棚から沖合いのおよそ200m以深、すなわち深海水系・深海底系に生息する動物をいう

 以上のように記述されています。おそらく深海魚もほぼ同じ意味で使えるのでしょう。そういうことで少なくともこのHPや北村の著作「深海生物ファイル」ではおよそそういう意味でつかっています(まあ深海魚って言葉はもともと便宜的なものなんでしょうね)。

 次ぎの本を調べてみましょう

→「岩波 生物学辞典 第4版」岩波書店

→「入門ビジュアルサイエンス 海洋のしくみ」日本実業出版会

→「生物海洋学入門」講談社サイエンティフィック 116ページ

 (注:1996年の第1版の116ページで出てくる”クニトカゲギス類”というのは”ワニトカゲギス類”の誤植であることに注意)

 

 Q:深海魚はどういう生活をしているのですか?

 A:いろいろです

 深海は膨大な体積の海水と広大な海底から成り立っています。環境もさまざまです。薄暗い場所もあれば完全に暗黒な場所、清浄な場所もあれば毒ガスに満ちた有毒な場所もあります。おおきく分けても深海魚には海水中で浮遊生活するものもいれば、海底で餌をあさるものもいます。

 チョウチンアンコウは海水中で浮遊生活をします。海水中では餌が乏しいのでそうした環境によく適応した形態になっています。

 ハダカイワシも海水中で浮遊生活をしますが、こちらはむしろ行動の仕方が変化したと言えるかもしれません。

 その一方で海底で餌をあさるソコダラのような魚もいます。

 また、だれもが深海魚の代表であると考えるチョウチンアンコウは子供時代は海の表面に近いところで成長しますし、ハダカイワシの仲間は夜間になると海面に近い場所へ移動します。さてはてそれにしても深海魚とは深海にすんでいる魚であると先にいいましたが、こうなってくると、”すんでいる”って一体全体どういう意味なんでしょうね?。

 次ぎの本を調べてみましょう

→「日本産魚類大図鑑」東海大学出版会

→「入門ビジュアルサイエンス 海洋のしくみ」日本実業出版会

 

 Q:深海魚は何を食べているのですか?

 A:いろいろです

 深海は暗い世界なので植物がいません。いても上の浅い場所から落ちてきたもので、いずれにせよ光合成を行っていません。ですからここでは植物が芽生え、成長し、それを食べる動物がいる、ということにはなりません。ここにある食べ物はすべて上の世界から来たものです(ただし化学合成生物群集などは例外です)。上の世界から落ちてくる食べ物にはさまざまなものがありますし、そうしたものを食べている動物をさらに食べる動物がいます。

 次ぎの本を調べてみましょう

→「深海生物学への招待」NHKブックス  

 

 Q:深海では大きな水圧がかかるのに、なんで深海魚はつぶれないのですか?

 A:身体の外と内部で圧力の差がないからです

 物がつぶれるというのは物の外と内部で圧力に差があるからです。私たちが何かをつぶすには外からさらに力を加えなければいけません。あたりまえですけど力をさらに加えなければ新たにつぶれませんよね。このように圧力に差がないと物はつぶれません

 何気圧、何十気圧という環境にいようが、その場にいる深海魚の身体の外と内部では圧力に差がありません。だからつぶれないのです。深海魚にとって圧力が問題になるのは次ぎの2つの場合です。

 1:急激に圧力が変動する場合

外部と内部に圧力の差がないので深海魚はつぶれません。反対にいえば急激に外部の圧力が変動すると深海魚に限らず生物には悪影響がでるのです。特に生物の体内に圧力によって体積を大きく変えるもの(例えば気体)がある場合、それは深刻になります。生物は体内の状態を外部の状態にあわせてある程度調整できます。しかし調整可能以上の速度で圧力が変わるとなすすべがありません。例えば浮き袋を持つ魚の場合、急激に圧力が下がると浮き袋がふくらんでしまう場合がありますし、悪くすると血液中に溶け込んでいたガスが気体になってしまう場合もあります(→人間でいう潜水病)。反対に圧力を高くする場合も、じょじょに上げないで急激に圧力を上げると生物には悪影響がでます。

→手ごろな釣り雑誌や釣りの本で、アコウダイ、メヌケ、キンメダイなどのことを調べてみましょう

 2:300気圧以上の圧力がかかる場合

 身体の内部と外部で圧力に差がないからといって、どんなに高い圧力でも(じょじょに上げれば)生物に影響がないのかというとそうではありません。生物の組織を構成する分子構造にもまた圧力がかかっていて、すこしずつ影響をおよぼしているからです。水深3000メートルにあたる300気圧以上になると圧力による影響は生物の命に関わるものになります。水深3000メートルよりも深い場所にすむ生物はこうした環境に適応して進化したものです(ちなみに人間はガス交換の関係で10気圧でアウトになるそうです)。

 次ぎの本を調べてみましょう

→「深海生物学への招待」NHKブックス 36〜38ページ/48〜49ページ

 

 Q:深海には光る魚がいるといいますが本当ですか?

 A:ハダカイワシやチョウチンアンコウなど光る魚が数多くいます

 深海魚に限らず、深海には数多くの光る生物がいます。深海魚ではハダカイワシ、ワニトカゲギス、チョウチンアンコウ、ソコダラなどが光る魚の代表です。他にもフウセンウナギやセキトリイワシ、ハナメイワシそれにカラスザメのような小型のサメにも光るものがいます。

 また、深海魚以外ではイカやウミホタルに近い甲殻類やエビの仲間で発光するものが数多く知られています。一方、タコではあまり知られておらず、カニやヤドカリではおよそ皆無です。

 次ぎの本を調べてみましょう

→「発光生物の話」北隆館

→「入門ビジュアルサイエンス 海洋のしくみ」日本実業出版会 108ページ〜

 

 Q:なぜ光るのですか?

 A:いろいろです

 ある種の深海魚や深海生物が光る理由はさまざまであると考えられていますが、だいたい以下のようなことではないかと言われます。

 :仲間への信号(地上でいうとホタルのようなもの)

 :獲物をおびきよせる(ホタルでもこういう種類がいますね)

 :威嚇

 :光を使ったカモフラージュ(光学迷彩?)

 次ぎの本を調べてみましょう

→「日本産 魚類検索」東海大学出版会

→「日本産魚類大図鑑」東海大学出版会

→「発光生物の話」北隆館

→「入門ビジュアルサイエンス 海洋のしくみ」日本実業出版会 108ページ〜

→「イカ -その生物から消費まで-」 成山堂書店 48ページ 

→「動物たちの地球 無脊椎動物 5 」朝日新聞社 2-142ページ

 

 Q:チョウチンアンコウの雄が雌に寄生するって本当ですか?

 A:本当です。

 ただしチョウチンアンコウの仲間のすべてにおいて雄が雌に寄生するわけではありません。

 次ぎの本を調べてみましょう

→「日本産 魚類検索」東海大学出版会

→「日本産魚類大図鑑」東海大学出版会

 

 Q:アンコウ鍋のアンコウも雄が雌に寄生するのですか?

 A:しません

 アンコウ鍋にされるのはキアンコウという魚です。キアンコウはチョウチンアンコウに近縁ではあるのですが、チョウチンアンコウそのものではありません。

 次ぎの本を調べてみましょう

→「日本産 魚類検索」東海大学出版会

→「日本産魚類大図鑑」東海大学出版会

 

 Q:性転換をする深海魚がいると聞いたのですが・・・

 A:ヨコエソやオニハダカなどがこれをします

 魚では性転換を行う種類が幾つかあります。サンゴ礁にいるクマノミも性転換をする魚の代表です。深海魚のなかにもそういう種類がいて、ヨコエソやオニハダカはまず雄として成熟してから成長すると性転換して雌になります。他にもナガヅエエソのように雌雄同体で、雄でも雌でもある、という種類もいます。

 次ぎの本を調べてみましょう

→「新版 魚類学(上)」恒星社厚生閣僚175ページ〜 (この本は大きめの市立図書館や県立図書館にはあるかもしれません。)

→「深海生物学への招待」NHKブックス 61〜62ページ

→「魚の自然史」北海道大学図書刊行会 117ページ〜

→「朝日百科 植物の世界 69号」6-286ページ〜(植物に関する記事ですが、性転換や雌雄同体にどういう意義があるのか参考になりそうです)

 

 他の手ごろな参考図書:

 「魚の分類の図鑑」東海大学出版会 

現在スタンダードな魚の分類体系を示した本です。古い本の分類体系と新しい本の分類体系は違っている場合があるのでこの本で確かめましょう。また、魚の分類体系は古典的な分類学のそれではなくて、系統解析に基づいたものであることにも気をつけましょう。

 「山渓カラー名鑑 日本の海水魚」山と渓谷社

海水魚の図鑑ですが、当然のごとく深海魚が載っています。深海魚の写真を見ることができる一番手ごろな本ではないでしょうか。

 

 深海生物ファイルのページへ戻る→ 

 

 深海コンテンツへ戻る→ 

 

  深海生物図鑑2へ→ 

 

 hilihiliのトップへ戻る→