分岐図(Cladogram)とは何か?:ボウシ島の冒険

 さて、あなたは分類学者です。さらに、あなたのすむ世界では”進化”という考えはまだ知られていません。そしてあなたの専門は

『ドコダカ諸島にすむ現地人の服飾の分類について』

ということにしてみましょう。

 実在、あるいは架空の生物種を例にしてもよいのですが、ここでは例えとして服装を上げてみました。

 

 ドコダカ諸島・ボウシ島へ

 ともあれ、ドコダカ諸島にいったあなたはまだ調査されていないボウシ島へいってみました。ボウシ島にいって調査を開始したあなたは、すぐにこの島の服装が他の島に比べて独特であることに気がつきました。この島の人々の服装は皆なんとなく似ていていますが微妙に異なります。また、帽子をかぶる部族がいるのも特徴です。それをまとめると以下のようになります。

 

アアア族:白いワンピースで帽子をかぶっていない

 

イイイ族:赤いワンピースで帽子をかぶっていない

 

ウウウ族:赤いワンピースで帽子をかぶっている

 

エエエ族:赤いワンピースで帽子をかぶり、帽子には赤いリボンがついている

 

オオオ族:赤いワンピースで帽子をかぶり、帽子には青いリボンがついている

 

 

 さて、ドコダカ諸島の人々は親から服装のデザインを受け継ぐだけで、他人や、ましてや他部族の人々の服装のデザインをまねるということがありません。付け加えると、各部族は全員が親戚ですが部族外から配偶者を見つけることはほとんどありません。多くの服装分類学者はこのことから、ドコダカの人々の服装は、各部族でそれぞれ独自に発達してきたと考えていました。それはあなたも一緒です。

 ですが、ボウシ島で調査し始めたあなたはすこし思い悩み始めました。ボウシ島にくるまであなたはドコダカ諸島の各部族の服装にはっきりした違いを見い出すことができました。ツーピース、セパレート、ズボン、ハイネック・・・・。部族ごとにそんな違いのある服装が見られたからです。

 ですが、ボウシ島は違います。全ての部族がワンピースを着ています。帽子を被るか被らないかで分類するにしても、赤い色で分類することも出来そうです。あるいはリボンで分けるべきなのか・・・。

 

 思い悩んでいたあなたはある日、ピンとひらめきました。あなたの頭に浮かんだのは、

 ”(ほとんど)交流もないのに、この人たちの服装が似ているのはたまたまではなく同じ起源を持つから似ているのではないか?”

 という考えです。この画期的な考えは調査中にエエエ族の人の中に白いリボンをする人を見つけたことが発端でした。

 

 

 服装は変わる:エエエ族のリボンは進化した

 エエエ族の人たちは赤いリボンを帽子につけています。しかしまれですが、中には帽子に白いリボンをつける人たちもいます。仲良くなった長老の話を聞くと、長老のおじいさんの時代には、白いリボンを付けていた人たちがもっといたようです。しかし、赤いリボンが人気があるため、白いリボンの人は結婚しにくく、たとえ結婚しても子供達は片親の赤いリボンを自分の服装に選ぶのだそうです。

 

 服装は固定されたものではなくて、ゆっくりと変化するんだ。僕らがそれに気がつかなかったのは、とてつもなくスロー再生されたビデオが止まって見えるのと同じなんじゃないのか?。あなたはそう考えました。この考えが正しいのか、もっと詳しく調べてみる必要があるようです。

 

 エエエ族の村の近くに古いお墓を見つけたあなたは、長老の許しを得て発掘してみました。すると白いリボンのついた帽子をつけ、赤いワンピースを着た人骨を幾つも見つけました。現在のリボンの色の割合からするとありえないことです。さらに古い壁画には白いリボンしか描かれていないことも発見しました。


エエエ族のリボンの色の変化

 本文中にあるように、数ある証拠からするとエエエ族のリボンは白から赤に変わったと考えてよいようです。これは服装の変化ですが、同じようなことは生物でも起こります。生物の特徴はしばしば形質(けいしつ)と呼ばれますが、この場合、エエエ族のリボンという形質は色が白から赤に変わったと表現できます。服装に限らず、形質は変化してしまうということは覚えておいてください。これを忘れると進化という概念自体が理解できなくなってしまいます。


 

 やっぱり長い間に服装は変わるんだ!。

 あなたはそう確信しました。これでボウシ島の人々の服装がなぜ似ているのか説明ができそうです。

 ボウシ島にやってきた最初の部族が同じ服装をしていたと考えてみましょう。しかしエエエ族の例にあるように、服装の特徴はやがて変化していきます。

 さらに、山向こうに住んでいる人と、こちらに住んでいる人とでは、同じ部族でも交流しにくくなるはずです。エエエ族で考えてみましょう。この部族で最近うまれた”赤いリボン”という特徴はエエエ族全体にほとんど広まりました。ですが、もし部族が山で分断されていたらどうでしょう。交流が少ないのです、赤いリボンという特徴は山を境に広がることができなくなるのではないでしょうか?。

 もしエエエ族がそういう状況にあったなら、エエエ族は白いリボン族と赤いリボン族に分かれていたかもしれません。

 ここまでは頭の中で考えたことです。しかしここであなたはふと気がつきました。赤いリボンのエエエ族と青いリボンのオオオ族の住んでいる場所は、間に大きな川と深い谷があります。これはとても興味をそそられる発見ではありませんか。リボンの色が違うだけで、エエエ族とオオオ族は同じ部族から枝分かれした部族どうしなのかもしれません。

 面白いことに川の周辺を探すと生活の跡がみつかり、白いリボンをつけた古い帽子のかけらもみつかったのです。

 

 ”服装は進化する”、そう確信したあなたは学会でそれを発表しました。最初は反対意見が多かったのですが、別の島でも服装がゆっくりと変化すること、服装の変化が部族の分化をまねき(好みの違いが結婚にまで影響を与えるためです)、やがて親戚の交流もなくなることも確認されました。

 

 これはある服装から別の服装が生じること、場合によってはそれが部族の分化をひきおこしてデザインの交流がなくなることを示しています。

 

 そうした報告もあって、ついにあなたの意見は認められ、服装が進化することが明らかになりました。

そしてあなたは”服装進化学者”になったのです。

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