月の海
Mare
2014年、4月15日の0:00〜3:00にかけてスケッチした月齢14の月と主要な海の名称
*月齢14:2014年4月14日正午の月齢は14.3、日付が変わった15日正午における月齢は15.3
スケッチした時点での月齢は14.8~14.9ということになります
月の西端が夜明けを迎えたところで、ほぼ満月
秤動の関係で東の海は見えていますが、北東(右上)にあるはずのフンボルト海などは見えていません
*ちなみに望遠鏡で月を見ると、上下左右が反転して見えるので注意(ようするに以上の画像をひっくり返した形で見えます)
月には暗い模様がありますが、これはマレ(Mare)と呼ばれるものです。マレとはラテン語で”海”の意味。本当に水があるわけではありませんが、周辺の明るい地域よりは標高が低くなっています。
月の海は明るい地域に比べると相対的に若い地形だと言う事ができます。満月の状態ではよく分かりませんが、海には大きなクレーターがほとんどありません。一方、明るい陸域はクレーターに埋め尽くされています。クレーターがある頻度で出来ると仮定すると、陸域は相対的に長い時間が経過していると考えることができます。一方、海の領域はなにかによって塗りつぶされてしまったのでしょう。塗りつぶしが完了すると、そこから再びクレーターの形成がスタートしますが、当然、クレーターの数は何もされていない地域より少なくなります。つまり、海は陸域に比べると新しく出来た地形で若い、ということになります。
もちろんこれだけですと、あくまでも相対的な年代、つまり古いか新しいかが分かるだけです。絶対的な年代は分かりません。しかし、望遠鏡で月を覗くだけで、どこが古いのか、どこが新しいのか、時代と時間を観察することが出来ます。また、クレーターの数と有様から年代を推定する方法をクレーター年代学と言います。
マレ(Mare)はベイスン(Baisn:ラテン語で水盤の意味)と呼ばれる場合もあります。日本語に訳せば盆地です。雨の海(マレ・インブリウム:Mare Imbrium)なら、インブリウム・ベイスン(Imbrium basin)です。個々の海に注目すると、海は基本的に円形の盆地であることが見て取れます。これは雨の海や湿りの海、危難の海、神酒の海で顕著でしょう。その有様は月面にある巨大クレーターと同じであり、海も、規模自体は非常に大きいものの、クレーターの一種であると考えることができます。
特に、東の海は三重のリングを持つ、巨大な多重リングクレーターとしての姿を残しています。ただし、東の海は月の裏側にあるので、地球からは条件の良い時に少し見えるだけ。一方、私たちが観察できる雨の海などはのっぺりしており、構造がほとんど見えません。多重リングの痕跡が点々と残るのみです。あるいはベイスンの内部に出来たクレーターが、稜線だけを残して埋没している場合もあります。ベイスンが出来てから、ベイスン内部が何かに満たされて埋まってしまったのでしょう。これほど広い領域を平らに埋めるものと言ったら液体です。しかし現在は固くなっている。それは海の表面に新しくうがたれたクレーターがあることで分かります。
水も空気もない月で液体となり、固まる自然現象と言ったら、それは例えば溶岩が考えられます。それにしてもあそこまで平坦であるということは、月の溶岩は地球のものと違って、非常に粘りが少ないことになります。他にも色々ある手がかりから考えると、過去の月で起きた火山活動と溶岩の有様は、現在の地球のものと全然違うと予測できます。例えば、月には富士山のように、爆発的噴火で成層構造を作って成長したような山がまったく見当たりません。
また、前述したように、海には溶岩に沈んでしまったクレーターが幾つも残っています。つまりベイスンが巨大クレーターとして作られてから、溶岩が吹き出て底が満たされるまで、新しいクレーターが出来るだけの時間が経過したということです。つまり、ベイスンの形成から溶岩の噴出までかなり間があったわけですね。望遠鏡で観察するだけでも、このくらいのことが把握可能です。