Q:学名って何ですか?
A:学名とは国際的な生物の呼び名です。
解説:同じ生物であっても国や言葉によって呼び名が違います。例えばネコは日本語ではもちろん”ネコ”と呼びますが、英語では”キャット”、ドイツ語では”カッツェ”と呼びます。同じ生物であっても呼び名が違うわけですね。これは同じ言語を使っている人々の日常会話では問題になりませんが、別の言葉を使う世界中の研究者が同じ生物について議論をするとなると不便です。それぞれ呼び名が違うのでは困りますよね。
こうした問題を感じたのは17〜18世紀のヨーロッパの博物学者たちです。そこで彼らはヨーロッパの研究者みんなが国際的に使える共通の名前を生物の種類ごとにつけようと考えました。それが今でも科学の世界で使われる生物の呼び名、学名の始まりです。そして学名に使われる言語はラテン語とギリシャ語です。
ラテン語は古代ローマ帝国で使われた言葉でした。ローマ帝国は古い時代に栄えた大きな国で、5世紀まではヨーロッパから北アフリカ、トルコ、ギリシャ、シリア、イスラエル、エジプト、さらに一時的にはイラクまでも支配していました。しかし帝国は西暦400年ごろから解体をはじめ、ばらばらになった地方の人々はそれぞれ地方ごとに違う言葉を使うようになっていきました。しかしラテン語自体はヨーロッパの政治や科学の公用語としてかなり後の時代まで使われ続けたのです。例えば17世紀の哲学者で数学者であったデカルトはフランス出身でしたが、自らの著作をラテン語で書いています。同じようにイギリスのアイザック・ニュートンも万有引力に関する本をラテン語で書きました。当時のラテン語はヨーロッパの国際言語だったのです。
学名に使われるもう一方のギリシャ語ですが、先にローマ帝国はギリシャも支配していたことを書きました。ギリシャ征服当時、ローマは軍事的には優勢でしたが文化的には遅れた国でした。反対にギリシャは最盛期を過ぎてすっかり落ち目になっていたものの、文化や学問に秀でた、いわば先進国でした。そういうわけでローマはギリシャ征服後、その文化や学問を取り込んだのです。ラテン語にはギリシャ語に由来する言葉が幾つもありますし、同じ理由で後のヨーロッパの人たちも科学の言葉にはラテン語だけでなく、ギリシャ語も使っていました。
ですから学名にはギリシャ語も使われています。ただし、ギリシャ語をラテン語化したものです。ギリシャ語とラテン語は表記の仕方が違います(例えば次を参考)。そのためギリシャ語をそのまま使うのではなく、ギリシャ語をラテン語に書き換えて、つまりラテン語化させて使うのです。
こうしたことで学名にはラテン語、あるいはラテン語化されたギリシャ語が使われるようになりました。例えばネコの学名はフェリス・カツス(Felis catus)といいます。
恐竜のような古生物は、もともと人間には知られていませんでしたから、日常会話で使う呼び名がなく、学名しかありません。ネコに例えて話すと、フェリス・カツスという学名はあるけどネコとかキャット、あるいはカッツェという普通の呼び名がないということになるわけです。
ですから古生物の呼び名は大概の場合、学名です。逆に言うと学名が普通の呼び名になっているわけですね。私達はネコのことをフェリス・カツスなんて呼びませんが、例えば恐竜のことは学名で呼ぶのです。そして学名には意味があります。例えばティラノサウルスは”暴虐な君主のような爬虫類”という意味です。