Q2: 鳥と恐竜は別系統の動物なの?
A2 : そうしたことを言う人たちが幾人かいますが、そういった仮説を支持する科学的な論文はありません。
鳥と恐竜が別系統、この言葉は鳥と恐竜が以下のような関係にある場合を指し示していることが多いようです。
図2ー1:この図は分岐図ではありません、しかしそれ以上に重要なのは、
”このような形をした分岐図は得られたことがない”
という事実ではないでしょうか。要するにこうした類縁関係、あるいは系統関係が科学的に裏付けられた試しは残念ながらありません。なお、こうした概念は Feduccia 96. Jones et al 00 で知ることができます。
動物のシルエットは左からニホントカゲ・ハト・ロンギスクアマ・ヒプシロフォドン・ディノニクス
ちなみに上の図は”架空の分岐図”ではありますが、
”実際の分岐図に基づいたなんちゃって分岐図”
でさえありません。なぜなら80年代以降、鳥と”その他の恐竜”との系統解析は幾つも行われましたが、どれも鳥が恐竜の一種であることを示すものしかなく、この図のような結果が得られたことがないからです。
そうしたこともあって以上の仮説は、分岐学が恐竜の系統解析に用いられるようになった1986年以降、急激に根拠を失っていったように見えます。もちろん、そうした分岐学の成果に反対する研究者が今も幾人かいるのは事実です。ですが、彼らは”科学的と言える系統の推定”をまったく行っていないので”科学的な議論”をすることができません。
もちろん、そうした研究者や彼らの説に賛同する人たちは”幾つもの証拠”を根拠に取り上げます。例えば、
(1)始祖鳥よりも古い時代から、鳥に近い恐竜の化石が見つかっていない
(2)鳥の指と恐竜の指は同じものではない
(3)鳥と恐竜の特徴は一見同じに見えるが、よく観察するとそうではない
(4)鳥と恐竜の新しい関係を示す特徴を見つけた
以上の主張はいずれも的外れです。(1)と(2)に関しては次ぎをクリックしてください。『ロンギスクアマは鳥の祖先か??』
特に(1)についてお話したいことがあります。人によっては始祖鳥よりも祖先的(<少し不正確な用語ですみません・・・)な動物であるはずのトロエドンやドロマエオサウルスが、始祖鳥よりも後の時代から見つかることが気になる様です。ですがここで注意が必要です。この考え方は、
古い時代の動物は進化してすべからく新しい、より進化した動物になるという仮定
を前提にしていないでしょうか?。もしそうなら、あなたは、
生物の種が、分岐しながら変化し、最終的には無数の異なる種へと進化する
というダーウィンの考えを理解していないことになります。また、あなたは数百万年前に私たちホモ・サピエンスの祖先から分岐したはずのチンパンジーが、現在も生存していることを理解できないことになります。
おそらくあなたの持っている概念は”進化”ではありません。”存在の無限の連鎖”と呼ばれる、中世ヨーロッパで見られた概念と同じか、あるいはそれに類似した何かです。あなたは進化を理解していないのではないでしょうか?。
化石の保存が完璧で無いことを考えれば、始祖鳥よりも祖先的な動物が、始祖鳥よりも後の時代に見つかることは別に不思議でもなんでもありません。
このように始祖鳥よりも祖先的な動物が始祖鳥以前の時代から見つからないことは、鳥と恐竜が別系統であるという根拠にはなりえないのです。
(3)に関してはこうした研究者たちの観察力がすぐれていることを示しているのでしょうが、逆にいうとそれだけです。この考え方が正しいのならば、サメの顎と私たちの顎とトカゲの顎は独立に進化したものであって、同じ起源を持つものではないことになります。
観察で2つの特徴の相違点が明らかにされることと、その特徴が系統を反映していないことが分かることはイコールではありません。系統解析を行わなければ、その特徴が系統を反映しているのか否か判断することはできません。
さてその次ぎに(4)に関してです。このような主張に対して疑問に思われるのは
”なぜその特徴が系統を反映していると思うのですか??”
という点です。以上のような問いには大抵、重要だから、目立つからという答えが返ってきますが、なぜ重要なのか?、重要だとなぜ系統を反映していると解釈できるのか?そもそも重要とはいったい何なのか??、という点が問題になります。
実例を上げてみましょう。例えば Jones et al が2000年に主張したように
”複雑だから1回しか進化しなかった”
という論法もあります。ですがこれがなんで正しいのでしょうか?。
彼らの主張は非常に奇妙なものです。なぜ彼らは”1回しか進化しなかった”ということを知っているのでしょうか?。タイムマシンで確認したのでしょうか?。また複雑とはなんでしょうか?。複雑だと1回しか進化しなくなる科学的な根拠は何でしょうか?そしてこうした根拠を科学であるといってよいのでしょうか?
一方、分岐学では話はまったく異なります。動物の体の特徴を比較観察するという出発点こそ一緒ですが、余計な解釈や判断を差し控えて、まず系統解析を行います。そして最も確からしい系統関係を見つけだし(その確からしさは数値で表される)、そこから最終的に系統を反映しているであろう形質を探し出します。ワイリー その他 96 を参考にしてください。
人によっては、分岐学は任意に形質を選んでいると誤解している人たちがいるようです。これはおおきな間違いです。分岐学で重要と見なされた形質は、以上のように最節約という解析(および最適化)の結果で得られたもので、主観的に根拠もなく選ばれたものではありません。
分岐学が語る”重要な形質”とは最節約や最適化という根拠に基づいているのです。
一方、
この形質は複雑だから1回しか進化しなかった、そういうような視点で選ばれた形質は主観的な、正しさが分からない根拠しか持っていません。要するに根拠がないか、あるいは科学的な根拠を持っていないのです。
私たちは最節約という根拠に基づいた形質と、主観的で正しさが分からない根拠に基づいた形質を同列にあつかって良いのでしょうか?私は少なくとも”科学”という考えに立つ限りでは同列にあつかうべきではないと思います。科学な考えをしたくないと言うのなら別にかまわないでしょうが・・・・・。
残念ながら鳥と恐竜が別系統であるという仮説や意見は、いまだかって科学的な根拠を示したことがありません。そうした仮説を信じることは自由ですが、それらを
”科学である”
と思い込むことはお勧めできません。