Opiliones

オピリオネス/ザトウムシ目

モエギザトウムシ?

Leiobunum japonicum ?

撮影は2004年の晩秋。北村がすむ神奈川県中央部、近所の公園では秋のかなり遅い時期までこの手合いのザトウムシが見られます。どれもこれも同じ形なので多分ここには1種類しかいないようです。身体が小さく、脚が長く、触肢が細長く、お腹と頭胸部が全体として丸っとしていること、色が明るい黄色、あるいは黄褐色であることからすると、多分、モエギザトウムシではないでしょうか?。少なくとも「原色動物大図鑑 「」北隆館 pp22の図とはよく一致するようです。

 右の写真の個体はこれも同じ公園で2004年に撮影したもの。時期は初夏。まだ小さくて黄色い明るい姿のザトウムシです。おそらくモエギザトウムシの子供のようです。身体にくっついている赤いものはダニですね。このような明るい赤色のダニがザトウムシによくくっついています。セミとかにもついています。

 ダニもザトウムシもどちらも鋏角類でケリケラータなのは御愛嬌。この写真には2種類のケリケラータが写り込んでいるというわけ。

 一応、説明しますと画面左上が、彼だか彼女だかの進行方向です。胴体の左上側に黒い点が見えますが、これが眼。脚は4対、8本ですね。鋏角や触肢は良く見ないとみえません。

 

 ザトウムシの特徴:

 ザトウムシはお腹がひどく短く、クモと違って胴体と頭胸部の間にくびれがありません。目は1対で2つ。全体的にまるっこく、外見はなんとなくダニっぽくも見えます。古典的には見た目の類似からダニに近縁ではないか?と言われたこともありますが、最近では系統解析の結果などからダニに近縁とは考えられていません。また特異な特徴として雄が交尾用のペニスを持っていることが上げられます。

 もっとも目立つのは丸っこく小さな胴体にたいしてものすごく長い足(ただし短い種類もいます)。

脚を掃除するモエギザトウムシ?のスケッチ

 上のイラストは一時期、試しに飼ったことがあったので、それをスケッチしたものです。実際の大きさはこの半分ぐらい。右上は腹側から見たところ。口元にそえられた長い鋏角とその左右にたたまれた細長い触肢が分かります。ザトウムシは異常なまでに脚が細長いので、動いているのを見るとなんとも奇妙な気持ちになる動物ですね。第2番目の歩脚が長く、これをつかって手探りをするかのように歩きます。だから”座頭”虫。このスケッチはその2番目の歩脚を触肢を使って掃除しているらしい様子を描いたものなんですが、見れば分かるようにこの脚先がしなやかに曲がるのですよ。立っている時でもこの部分はそりかえっています。筋肉やら外骨格の弾性なりなんなりを使っているのでしょうけど、どうなっているんだか。

 

モエギザトウムシ?

食事中。食べられているのはアリ。

 ザトウムシはいろいろなものを食べるそうで、散歩していたらアリの死骸を食べているザトウムシを見つけました。撮影は2004年9月。生きているのを捕まえたのか?、それとも死んだアリを見つけたのかどうかは知りません。彼だか彼女だか知りませんが、このザトウムシの足下では同じ種類と思われるアリがいったりきたり忙しく動いていました。

 ザトウムシ自身は顔の前でアリをもそもそ。多分、触肢だと思いますけど、それを使ってツンツンもそもそしていました。なにをどう動かして食べているのか理解に苦しみますが。触肢で押さえて鋏角、その他でばりばりやっているらしい。彼らの口の構造に関しては「動物系統分類学」7(中A) pp28に面白い話がでてきます。また種類によっては陸棲の巻貝を食べるものがいるそうです。先にいったようにモエギザトウムシをしばらく飼育したのですが、その状態では飯粒とかアリ用に作った寒天でかためた飼料などを食べておりました。文献によるとバターだのキャラメルだのまで食べた記録もあるらしい。

 ザトウムシは薄暗いところにいて、意外と脚も早く、なかなか撮影しずらい生き物です。刺激するとさっさと逃げたり、種類によると胴体をバネ仕掛けのように上下にビョヨヨ〜〜〜ンンとゆらします(モエギザトウムシらしいのはしなかったと思う・・・)。一部のクモもそういうことをしますけど、ビョヨヨヨ〜〜〜ンンとしていると身体が見えにくくなるので、防御の行動なんでしょうね。話では擬死をするものもいるそうな。

 

ザトウムシの系統:

幾つかの系統解析からするとザトウムシはカニムシ+ヒヨケムシの姉妹グループになるようです。それを支持する形質としては書肺(<クモなどに見られる呼吸器官)がないこと、気管を持つこと(<ただし一部のクモは書肺が変化した気管を持つ)、お腹と頭胸部が融合することなどがあるらしい(「クモ学」東海大学出版会を参考)。

 また、近年の系統解析の結果、ザトウムシの分類体系には色々な見直しが行われている模様。それと直接関係はなさそうですが、一般書籍でも所属する科に不整合があるように見えます。また「動物系統分類学 追補版」を読む限りでは生殖器の形質などをデータにして興味深い系統解析の結果が得られているらしい、しかしこうした器官が他のクモ形類に見られないものなので極性決定に問題が生じること、そうした解決するべき課題とそれへの研究者の取り組みが進行中とのことで、なかなか面白い話題がある動物群のようです。

  

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