Trilobita

トリロバイタ/三葉虫類

 

 三葉虫とは?:

 三葉虫は古生代を特徴付ける生物で、クモやサソリ、カブトガニに近い生き物です。海の中にすむ生き物で大部分は数センチ程度の大きさですが、中には72センチに達したものもいます。5億4000万年あまり前に現れ、2億5200万年前に滅び去りました。

 

 古生代を特徴付けるとは?:

 地球の歴史は地層から知ることができます。ですから地層の区別は地球の歴史の区分そのものとなります。そして地層はそこに含まれる化石で識別されました。このため地球の歴史はまず二つに大別できます。それは生物の化石が見つからない先カンブリア時代と顕生累代です。顕生累代とは文字通り、生物化石が顕著に現れた時代です。ちなみにこの場合の化石とは、目でみてこれは生き物の遺骸であると、はっきりわかる化石のことです。バクテリアの化石などはここでは論じません。顕生累代はさらに3つに大別できます。古い方から三葉虫の化石が見つかる古生代、派生的なアンモナイトと恐竜が見つかる中生代、哺乳類が見つかる新生代です。

 細かく言うと古生代から見つかるアンモナイト(原始的なもの)や、中生代から見つかる哺乳類もあるのですが、顕著に見つかる化石によって地層と時代が特徴付けられると考えれば良いでしょう。三葉虫は古生代(5億4100万年〜2億5200万年前)を特徴付ける化石で、この時代の地層からしか見つかりません。ちなみに古生代とは、古い生き物の時代、という意味です。

 

 三葉虫という名前の意味と由来

 三葉虫は英語で、というよりは科学的にはTrilobiteと呼びます。読みはトリロバイト、発音によってはトライロバイト。これはギリシャ語で3を意味するトリアス(trias:τριασ)と葉(読みは”よう”)を意味するロボス(lobos:λοβσ)を複合したTrilobos これにさらに石を意味するリソス(lithos:λιθοσ)がついてトリロバイト(Trilobite)となったものです。直訳すると三葉の石という意味になります。

 ちなみに石を意味するギリシャ語リソス(lithos)は、石に関連した名前でしばしば使われる単語です。ただしギリシャ語のシータ(θ)がthではなくtになって、綴りはlite、発音はライトになっています。鉱物の名前の末尾がしばしば、なんとかライトになっているのはこのため。三葉虫の場合はリソス(lithos)の語頭であるLが省略され、イト(ite)になって語尾として使われています。

 

 葉(ロボス)とは?

 ギリシャ語のロボス(Lobos:λβοσ)とは、耳の下のでっぱり部分のこと。つまりは耳たぶのことです。これは肝臓にある耳たぶのように突き出た部分のことを指す言葉としても使われました。このためギリシャ語のロボスは医学や解剖学で扁平で突き出た器官のことを指す単語になっています。三葉虫の体は、中心を通る軸の部分と、左右に突き出た扁平な部分からできています。これを三つの葉と見立ててトリロバイトと名付けたわけです。ロボスの訳語は日本語では葉(よう)ですから、三葉虫は”さんようちゅう”と読みます。

 

 三葉虫の特徴:

 名前の通り、三つの葉に分かれた体が特徴です。しかし、こうした特徴を持つ節足動物は、古生代の初期には普通にいました。さらにそうした三葉の体を持つ節足動物の多くは、三葉虫の親戚であったことがわかっています。つまり、三葉の体は三葉虫独自の特徴ではありません。三葉虫独自の特徴としては

 :外骨格が硬質化している

これが挙げられます。三葉虫の化石というのは不思議なもので、どれも形がはっきりしています、他の節足動物の化石はここまで明瞭ではありません。エビやカニ、昆虫の化石はどれも形がはっきりせず、保存が良いものでも、細部はあまりよくわかりません。一方、三葉虫の化石はどれも形がはっきりしており、しばしばつやつやと輝いてさえいます。自分もこれは不思議で、研究者に聞いたところ、それは良い質問です。三葉虫は外骨格が貝殻と同じ構造になっているんですよ、と説明されたことがあります。

 三葉虫は外骨格がカルシウムで硬化しています。カルシウムで外骨格を強化することはエビやカニのような甲殻類も行っていますが、貝殻ほど硬くはありません。一方、三葉虫の外骨格は貝殻と同じ。だから化石の保存がよくなります。しかも三葉虫は外骨格動物ですから体の輪郭がきれいに残る。恐竜のような内骨格動物は死ねば輪郭が消えてしまいますからこうはいきません。三葉虫は化石の王様と言われますが、それはこの性質が原因でしょう。恐竜は生ものの王者にはなれますが、輪郭が消える以上、化石の王様にはなれません。

 ちなみに三葉虫以外にもフジツボや貝形類は体の硬質化を達成しています。ですから三葉虫を特徴づけるとしたら

:三葉の体を持ち、外骨格が貝殻のように硬質化していること。

これが三葉虫の特徴だと考えれば良いでしょう。

 

  三葉虫の分類

 三葉虫の科学的な呼び名はTrilobiteですが、このページの冒頭ではTrilobitaと書いてあります。語尾がaになっている。これは英語やラテン語が語尾変化を起こす印欧語族だからです。私たちが使うアジア系の言語と違って、印欧語族は使用目的によって語尾が変化する。三葉虫に分類階級を割り当てて三葉虫綱と表記する場合、印欧語では分類階級の綱(class)を書いた後、Trilobiteの語尾をaに変えて続け、Class Trilobita と書きます。つまりTrilobitaとは三葉虫綱、あるいは三葉虫類という意味だと受け取ってください。

 生物の分類には基本的に、界、門、綱、目、科、属、種を用います。そして三葉虫には綱が与えられて、現在、9つの目に分けられています。しかし三葉虫の目や分類階級を熱心に覚える必要はありません。まず第一に、分類階級は便宜的なものであること、そして第二に、三葉虫の目と分類は歴史的に不安定であり、今も議論の余地が多く残っています。以下に述べる三葉虫9つの目も、単系統であるのか疑わしいもの、明らかに多系統と思われるもの、目としてまとめる根拠が薄いものなどがあります。ですからこれから述べる分類も、およそ2万種にのぼると言われる三葉虫を理解すること、それに便利な整理整頓術のひとつ程度に思った方が良いでしょう。

 アグノスタス目

 レドリキア目

 コリネクソクス目

 プティコパリア目

 プロエタス目

 ファコプス目

 アサフス目

 リカス目

 オドントプレウラ目

 

 三葉虫分類の歴史

 三葉虫は20世紀前半まで顔線(Facial suture)で分類されていました。顔線というのは三葉虫の頭を走る縫合線のこと。三葉虫は脱皮する時、この線から外骨格が割れて、古い殻を脱ぎ捨てます。顔線に基づいた分類は代表的なもので以下の4つ。

 原頬型(げんきょうがた) Protoparian:プロトパリアン 顔線が顔の縁を走るので、上からは顔線が見えないもの。カンブリア紀のオレネルスがこの型。顔線の型の中では一番原始的と考えられたもので、この見解は現在も変わらないらしい。

 後頬型(こうきょうがた) Opisthoparian:オピスソパリアン 顔線が後頭部へ。頬の棘(頬棘:きょうきょく:genal spine)よりも後ろへ抜けるもの。ほとんどの三葉虫はこの型。

 前頬型(ぜんきょうがた) Proparian:プロパリアン 顔線が横へ曲がって頬の前へと抜けるもの。この型はファコプスの仲間のみで見られる。

 下頬型(かきょうがた) Hypoparian:ハイポパリアン 顔線が頭の腹側を通るもの。原頬型と似ているが、こちらは派生的なものと考えられ、ハルペスやオンニアなどが含まれます。

 以上の他にGonatoparian:ゴナトパリアンというものもあります。ゴナトパリアンの訳語は不明。これは顔線がちょうど頬棘を通る珍しい型で、実例としてはカリメネが挙げられます。ちなみにこの型はあくまでも顔線の形式についた名称であって、三葉虫の分類で使われたことはないようです。

 このような、顔線の型で三葉虫を分ける分類は20世紀前半まで行われました。しかし三葉虫の種類によると成長の過程で顔線の形式が変わってしまうものもいます。そこで顔線以外の特徴も加味した分類体系が作られるようになります。そうして作られたものが

 アグノスタス目 レドリキア目 コリネクソクス目 プティコパリア目 ファコプス目 リカス目 オドントプレウラ目

 以上の7目です。この後さらにイギリスの研究者フォーティーがコリネクソクス目からプロエタス目、アサフス目を分離しました。こうして出来たのが現在の9目

 アグノスタス目 レドリキア目 コリネクソクス目 プティコパリア目 プロエタス目 ファコプス目 アサフス目 リカス目 オドントプレウラ目 

となります。ちなみにフォーティーの分類は、かなりな部分、三葉虫の頭部腹面にある嘴板(しばん:rostral plate)の有り様に基づいています。この嘴板は摂食に関する器官のようですが、こういう食生活に関する器官は、まったく縁遠い種族でも似た形になったり、反対に近縁でもまるで違う形になることがしばしばです。当然、嘴板を重視する分類に疑問を投げかける人もいます。

 三葉虫の分類は、顔線重視から多様な特徴重視、これに加えて嘴板をやや重視するという具合に、時代ごとにその有様も根拠も大きく変わってきました。もちろん、長い時代の中で研究や科学の思想が洗練されるにつれて、分類も洗練されてきてはいます。しかし、現在の9目も将来、どうなるのかわからない未解明な部分があるのは事実でしょう。そういう不安定さがあることを踏まえた上で、分類を参照してください。

 

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