ソコイトヨリ

Nemipterus bathybius

 

 2007年、10月4日(たぶん)に購入したソコイトヨリ。全長32センチ、お値段はたしか680円。立派な高級魚。南国の沖縄とかならいざしらず、関東のスーパーで見る魚としては一番派手なお魚さんでしょう。赤い体に3本の黄色い線。ウロコは透明で大きく頑丈。ぴかぴか光ってます。スーパーで並んでいる時にはあまり目立たない背びれは長くて黄色いうねうねした模様が入っており、尾びれの後方上がにょろんと伸びて黄色く染まっています。やや深い場所にいるせいか浮き袋が膨張したらしく、胃が反転して喉まで押し出されているっぽい。横から見ると喉が妙に膨らんでいるように感じるのは、多分そのせいです。また、そのさいに胃の内容物が喉や鰓の部分にまき散らされたのか、時間経過にしたがって少し臭ってきたような、、、、^^;) まあ、スケッチした時点では賞味期限が過ぎてたってこともあるんですけどね。

 さてはて、こいつの検索はこれがまあまた長くて、便宜的にもろもろすっ飛ばして”腹びれが1棘5軟条(ようするにお腹にあるヒレが1本の棘と5本の柔らかいスジ(軟条)で支えられているという意味)”からスタート。ちなみに”腹びれが1棘5軟条”ってPercoidei (ペルコイデイ:スズキ亜目)の特徴なんですな。もっともスズキ目やらスズキ亜目やらの単系統性が疑わしいなか、この特徴にどれぐらいの系統的な意味があるのかは知りませんが、、、、。

 さて、カサゴ目やらサバ科などではないと、ざざっと「日本産 魚類検索』を突き進む。そして検索表の”主上顎骨の大部分が涙骨で覆われる/覆われない”ではたと迷ってしまいました。このお魚さんの場合、”涙骨で覆われる”をいくのが正解なんですが、最初はあまりそうは思えずに間違ったルートに入ってしまったり。ともあれ、このまま進んで臀びれの棘が3本であること、背びれが1つになっていること、臀びれの軟条が7本であること、尾びれの形が二股型で尾びれを支える部分が比較的細いこと、そして背びれの棘の数が10本、軟条の数が9本であることから Nemipteridae (イトヨリダイ科)にようやくとりあえずたどり着いた次第。

 とはいえ途中で、口蓋骨に歯がある/ない、とか、前鋤骨に歯がある/ない、とか、そういう素人にはちょいとばかしハードな”確認の有無を有する形質”が出てきたりしたので頭を抱えたり。一応、骨格標本にして組み立てたソコイトヨリの頭骨を見たら口蓋などに歯は一切ありませなんだ。

 注:哺乳類や鳥類を含む恐竜類などはともかく、かなりの数の爬虫類や両生類、魚類の多くは上下の顎だけではなく、口蓋などにも歯をもっています。

 さて、Fishes of the world 3ed では Family Nemipteridae ではこのグループの特徴として、

 :背びれは連続していて10の棘と9つの軟条を持つ

 :臀びれには3本の棘と7あるいは8本の軟条がある

という特徴があげられています。他にも、もろもろ細かい特徴がある模様。こっから先はまたもや検索に従って、前鰓蓋骨にギザギザがないとか頬のウロコの列が3列だとか、尾びれの上が糸状になって伸びる、臀びれは3棘7軟条であるとか体に3本の黄色い帯があって(体側に2本、腹面に1本)、なおかつ胸びれが長くて肛門に達すること(上のイラストでピンクの三角マークは肛門の位置を示す)からソコイトヨリ N.bathybius にたどり着いた次第。

 ちなみにスーパーでのラベルは”イトヨリ”でした。日本には他に何種類かNemipterus 属の魚がいますが、3本の黄色い帯を持っているのはソコイトヨリだけらしい。素人目にはソコイトヨリはキンギョハナダイとかに近いの?? とも思ってしまうのだけども、一応、手持ちの資料では両者は科が違うということになっております(キンギョハナダイはナガハナダイ属で Serranidae セラニダエ:ハタ科に所属するとされる)。例えば、キンギョハナダイとかナガハナダイ属では背びれの軟条の数がイトヨリダイ科よりも多いらしい。

 さて、このソコイトヨリ、ウロコが大きくて頑丈で重なりあっていて。ちょうどスパンコールというかある種の財布やバッグにある鎖帷子状のプラスチックの装飾のような感じになっています。おかげで調理がしにくいったらありやしない。ウロコが頑丈で包丁がなかなか通りません。ウロコを取り除くのも面倒なので、3枚におろした後、皮を下にまな板に敷いて、削ぐようにして皮から肉をとって調理しました。美味だって話なんですが、焼くよりは新鮮なものを刺身にした方がいいかもしれません。背びれの棘は10本もあるので刺さると痛い痛い。手間がかかるし高いし痛いというお魚さん。

 でも頭骨は透き通った半透明な骨でなかなかきれいです。

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