アカヤガラ

Fistularia petimba

 

 見た目からして”ああ、ヨウジウオかその仲間だな、たぶんアカヤガラだろう”という特徴的な姿のお魚さん。2007年10月頃に上野近辺にある某さかな屋で購入。口先が長くのびて管状、その先端に口が開口することからヨウジウオ目(Order Syngnathiformes)の魚であることが分かります。尻っぽの先っちょまでいれると63センチ。体の後ろに描かれたピンクの矢印は肛門の位置。

 Lauder & Liem 1983, Bull. Muss. Comp. Zool., 150(3): 95~197 に眼を通したところGasterosteiformes + Pegasiformes が持つ派生的な特徴として "Small mouth at end of tubular snout" があげられています。ちなみに Pegasiformes とはウミテングのことで、Fishes of the Wolrd 3ed ではどちらもトゲウオ目に所属することにされており、ウミテングはそのなかの Suborder Syngnathoidei(直訳するとヨウジウオ亜目)に含まれています。つまりトゲウオ+クダヤガラ+ヨウジウオ+タツノオトシゴ+etc のなかでもヨウジウオたちと単系統群をつくるとされているわけ。ちなみにウミテングは魚類検索ではPegasiformes で目の扱い。

 さて、Lauder & Liem 1983 によれば Gasterosteiformes + Pegasiformes ( Fishes of the Wolrd 3ed ではこの2つを Gasterosteiformes で一括)の共有派生形質として以上の他に、体がヨロイにおおわれる、鰓が縮小するか派生的な状態になる傾向がある、などが上げられています。実際、トゲウオはスパイクを持ち頑丈で板状のウロコが発達するし、ウミテングやタツノオトシゴではそれが極端であることは、彼らの姿を見ればすぐ分かることでしょう。上のアカヤガラでも体後半にあるスパイクはそういうものだと考えていいのかもしれません。ちなみにアカヤガラは鰓も特徴的だそうですがそれは確認していませんでした(詳しくは Johnson & Patterson 1993, Bull. Mar. Sci, 52(1), 554~626 が参考になる模様)

 さて、見ての通りアカヤガラの腹びれは(画面右下にちょこんと見えているちいさなものがそれ)胸びれよりもずいぶん後ろにあります。腹びれのすじは5本。棘は、、、あったかなあ? スケッチには棘があったとは記述なし。触った感じはふにゃふにゃであった記憶があります。Fishes of the Wolrd 3ed を読んだらアカヤガラが所属する Superfamily Aulostomoidea(直訳すればヘラヤガラ上科:アカヤガラ+アオヤガラ+ヘラヤガラ)の記述として”腹びれはたいていは6条で、まれに5”とある。さてはて、5という北村のカウントは正確でしょうか? ちなみに Superfamily Aulostomoidea にはわずか7種しかいないのだそうな。

 さて、外見の特徴に戻ると、見た目からしてそうなのだけども、タツノオトシゴのように板状の骨が体をヨロイのように極端に覆っているわけでもないし、背びれに大きな棘があるわけでもない。小さな棘が続くでもなし、そして尾びれの中央が糸のようにのびる。これらのことからヤガラ科(Fistulariidae)であることが分かります。さらに体の後半にある側線に後ろ向きにのびる棘があることからアカヤガラにまでたどり着きました。

 ちなみにちょいと肉をとって骨を観察したらなんとも珍妙な背骨をしています。頭骨の後ろの背骨がながーく伸びている。Fishes of the Wolrd 3ed によればアカヤガラが所属する Superfamily Aulostomoidea は共通の特徴として" Anterior four vertebrae elongate" という特徴があるそうな。頭骨は装飾の多いとてもエレガントな形をしているのですが、いかんせんぺらぺらなのでちょっと乾くとそり返り、もはや正確な接着が不可能に。標本の作成方法を工夫しないといけません。またスケッチではよくわかりませんが、頭骨の後ろから側線が下にカーブする腹びれのあたりにかけて、背中に板状の骨がじつはあります。記述によると、頭骨後ろの背中側によく発達した骨、とあるのだけども、これのことでしょうか?

 肉は白身。煮てもいいですが、焼くととてもおいしい魚です。肋骨がないって話ですが、肉をむしりやすいし、体の後ろにあるスパイクも焼いてしまえば問題なし。

 なお、Order Gasterosteiformes の内部系統に関しては例えばLauder & Liem 1983 やNelson 1994 (ようするにFishes of the Wolrd 3ed )のようにトゲウオ+クダヤガラとアカヤガラ+タツノオトシゴ+ヨウジウオたちetc と2つの系統にわかれるという意見があります。ただ、トゲウオ目の単系統性自体に疑問を投げかける意見があったり、単系統を支持する証拠が弱いということもあるらしい。

 また、分子で系統解析したら Indostomus paradoxus (インドストムス・パラドクス:日本では一般的にパラドックスフィッシュと呼ばれているらしい)がトゲウオなどとは別系統になってしまうという結果もあります( Miya etal 2002を参考に)。まあ、パラドックスフィッシュはもともと系統的な位置がよくわからない魚だったらしいので、これ自体はさほど驚くことではないのでしょう。ちなみにパラドックスフィッシュの鰓の構造はアカヤガラとかヨウジウオと共通のものがあるらしく、当たり前の話ですがヨウジウオなどに近いとされたのにはそれなりに根拠があるってことですね。

 *注:2007.12.30にアップした時点で、ウミテングの記述に誤りがあったので(なぜかパラドックスフィッシュとごちゃまぜになっていた)、2008.01.01 に修正

 

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