シリウスの友人リーマス・ルーピンには酷い欠点があって、それは時折我慢ができないくらいシリウスの神経を刺激した。
 嘘。リーマスは呼吸するように嘘をつく。まるで本当の事を喋ると命を失ってしまうと言わんばかりに幾つもの嘘をつく。彼とその芸術的に編まれた嘘達は、びっしりと棘の生えた動物のようなものをシリウスに連想させた。
 それでも昔、シリウスは―――シリウス達は、特別に難解な嘘を見破った。おそらくは彼が命懸けでついていたに違いない嘘を。そう、あの嘘が露呈する事は状況において殆ど死に等しかった。それにはリーマスの人生と希望と祈りが込められていて、事実に行き当たった時に彼等は少し震えて、そして少し泣いた。
 あの時は隣にジェームズがいて、そして自分もまったく恐れを知らなかったとシリウスは目を閉じる。
『嘘を見破る方法なんてない。特に彼のような、名手中の名手が相手ではね』
 瞼の裏側で、ジェームズがしたり顔で講義をする。肘掛け椅子にだらしない格好で座った彼は、それでも優しい目をしていた。
『君に出来るのは、せいぜい暗示を掛けることくらいだ。嘘を、ついても、無駄だと。ムーニーは無駄な努力が嫌いだから』
 シリウスは彼の嘘を見抜く。少しばかりの経験と大部分は勘に頼って。表情は笑顔だが、内心は爆発しそうなほど緊張し、焦っていた。

「それは嘘だ。頭痛が治っていないだろう?リーマス。寝室へ行った方がいい」
「いいや。本当の事を言ってほしい。お前は実行しないほうがいいと思っている」
「駄目だよ、リーマス。それでは子供だって騙されない。そんな嘘をつかれても俺は嬉しくない」

 ――――でも、これはどう考えたって分が悪くはないかジェームズ。伝説のイカサマ師に、小学生が挑むようなものだ。小学生でなくても、実際漏らしてしまいそうな最悪の気分なんだぜ?俺は一体リーマスの嘘が見抜けているんだろうか。
 空想の中のジェームズは、シリウスのジョークに対して『グッド・ファイト、僕達の狂犬。そしてトイレに行くといい』と返事をした。

 チクタクと音のしそうな動悸を飲み込んでシリウスが繰り出す指摘に対して、しかし大抵リーマスはあっさりと嘘を認める。目を丸くして。たまに「何か秘訣があるのかい?」という質問が付随したりもする。
 神とジェームズに交互に祈るんだ、とも言えず、シリウスは適当にコメントをする。

 だが、彼は時々思う事もある。もしかして「嘘だという自白自体が嘘なのではないか」と。シリウスの感情全てを読み取った上で、リーマスは嘘をついたという嘘をついているのではないだろうかと。そう考えるとシリウスはどんどん馬鹿らしく申し訳なくなってきて、けれど何故か悪い気持ちはしないのだった。
 それについてジェームズに意見を求めると、彼は眼を閉じたまま
『ごちそうさま』
 としか言わなかった。


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