その時間に関する彼等の考察


 よく考えると物凄い事をしたものだと思う。友人の服を脱がせてその体を抱くというのは、並大抵の精神力では成し通せない尋常ならざる行為だ。つい先刻まで馬鹿な話をして笑っていたのと同じ唇にキスをするのだ。
 目前のリーマスの姿が二重映しになって目眩がする事がある。思い出すと頭が痛くなるくらい無鉄砲な真似を一緒にやらかした旧友の姿と、熱い吐息や匂いや柔らかい肌を持っていてこの腕の中で身をよじる彼の姿と。そんな時に限って無邪気に相手が話し掛けてきたりするものだから、一体自分はどちらの友人に返事をすればいいのか戸惑う。
 一度目の事は殆ど記憶に無い。二度目も反射的にだった。三度目は自覚的に。四度目でとうとう言葉を使って申し入れた。リーマスはまったく表情を変えずに了承した。彼がこのとき何故俺を拒まなかったのか、それは今でも分からない。過去の事を必要以上に恩義に感じていたのではないか、俺の状況について同情のあまり誤った選択をしたのではなかったかと、不安になり現在でも俺は彼に尋ねられずにいる。ともかく俺とリーマスはそれから一緒に寝室へ行き、ベッドの脇で彼は服を脱いだ。おかしな話だがそれを見て俺はショックを受けた。余程驚いた顔をしていたらしく、リーマスは「さすがにそんな目で見られると落ち付かないからあっちを向いてくれないか」とそう言った。それから俺は彼を抱いた。
 彼は自分の体が受けているこの感覚は果たしてどう分類するべき物なのかをずっと考えるような顔をしていた。それもそうだろう、リーマスは子供の頃から痛みと渇望、耐える方向の感覚しか経験していない。何度か回数を重ねてやっと、これは快いと感じていいのだと納得したらしく、以降はそう振る舞うようになった。
 そして俺の首の後ろに腕を廻すときや、吐息を付くときは「この反応は常識に適ったものだろうか?」というような不安そうな様子を時折見せた。しかし俺もさすがに同性と寝た経験はなかったので、彼に正しいところを教えてやるわけにはいかなかったのだが。
 こういう関係になって、2人の間で何か変化した事柄を探そうとするととても難しい。昔ならばパートナーに対してそれ相応の扱いをする作法くらいは俺も持ち合わせていたのだが。絶え間ない甘い囁きや賞賛や、女性への当然の礼儀エスコート。そう、女性への。しかし今の俺の恋人は男性である。しかも旧友。加えて言うなら笑い上戸だ。そういう訳でベッドを共にするようになっても、不本意ながら俺とリーマスの間にはあまり変わるところはない。時折彼がベッドマナーに関して頓珍漢な質問をし、俺が頭を抱えるとか。或いは俺が卑猥なジョークを仕掛けて、彼が応じるようになったくらいの事だろうか。つまりは話題の幅が広がった程度だ。



 仰向けになって、足と足の間に人を入れて抱きしめるというのは、人間の取り得る中で一番無防備な姿勢ではないかと私は思う。もしこれで腕の中の相手に殺意や害意があれば私には抵抗する手段が殆どない。(万が一そうなっても、特に後悔もないのだけれど)この姿勢故の従属感と無力感は、得られる快感と全くの無関係ではないというのが日頃の私の主張だ。
 しかしその話を聞くとき、シリウスは力任せに曲げた鋼鉄の棒のような口をして私を見ている。彼の造作はあんなにも思慮深げなのに、どうして中身はここまで拘りがないのか奇妙に思う。シリウスは今も昔も物事を深く考えるという事をしない。「君の外見は詐欺だ」と私が言うと、シリウスは吹き出して「外見の詐欺ならお前のほうが罪が重い」などと言う。彼の言葉は時折意味不明だ。
 ただ、驚くほど考えなしの彼ではあるが、私とのこの関係についてはどうやら思うところがあるようだ。時折酷く迷った眼をしている。私が構わないと何度も答えているにもかかわらず、それ以上何を悩む事があるのか?少し彼を不思議に思う。たまにシリウスは幼い頃に受けた道徳教育という異星人の宗教と より親密になり、私を仲間に入れてはくれない時があるようだ。
 これは掛け値なしに真実なのだが、私はシリウスと闇の中で過ごす短い時間を楽しんでいる。おそらく彼が考えているよりずっと。もしかするときちんと言葉にしたほうがいいのかもしれないが、余程表現を選ばないと間違いなく彼に誤解されてしまうだろう。そして私はそれが大層得意なのだ。
 月明かりに照らし出されるシリウスの顔と体は、まるでギリシャの彫刻と同衾しているような錯覚を私に起こさせる。ので私は吹き出しそうになるのを我慢しなければならない。「博物館から盗み出した彫像と必死に事に及んでいる自分」を鮮やかに想像してしまうからだ。幸いにしてシリウスに気付かれている様子はない。彼はいつも真剣な顔をしている。その表情は普段より少し若く見え、懐かしい気持ちがする。
 囁いて囁かれて、口付けて口付けられて、どちらが何をしているのか不明瞭になっても、私はシリウスを見ている。彼の瞳や、鼻筋や、髪の流れるところや、私の手首を掴んでいる手や、色々な部分を。彼の姿は本当に、見ていて飽きない。そして行為で自分の息が乱れるのも、自分の体のどこにどう触れられるとどんな風に感じるかも、私は知らなかった。彼とこんな事にでもならなければ一生知る機会はなかっただろう。いつも新鮮な驚きがある。発見といってもいいくらいの。
 そんな訳で私にとってのその時間は、愉快だったり楽しかったり興味深かったりするものだ。長い時間をかけて彼に説明を試みてもいいけれど、きっと彼は力任せに曲げた鋼鉄の棒のような口をして私を見るばかりだろう。特にギリシャ彫刻のくだりは。私はそれにチョコレート一年分を賭けてもいいと思う。






肉体関係が始まった当初は彼等に恋愛感情はなかった。
テンパって出来上がっちゃってから
好きに違いない……段々そんな気がしてきたぞ!(笑)
という感じで。まったくもってケダモノですが
まあ1組くらいそんなシリルがいてもいいですよね。

つーか、これ裏かなあ……。

2003/04/06


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