パラレルOL物語



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パラレルOL物語
とある世界のどこかの国に、大変気の合わないOLが2人いました。
1人の名前をルーピンさん。もう1人の名前はスネイプさんといいます。
スネイプさんはルーピンさんをとても嫌っていますが
ルーピンさんはスネイプさんを「なんだか面白い人だ」と思っています。
考え方や恋愛観があんまり違いすぎて、2人は別の星の人のようです。
ルーピンさんは「相手が幸せならまあいいや」という筋金入りの愛人気質。
(まあいいや、がポイントですね。彼女の恋人は大変です)
そんなルーピンさんの事をスネイプさんは
「弄ばれてボロぞうきんのように捨てられるね!いやむしろ捨てられろ」
と思っていますが、そういう自分は片思い20年!(しかもとうの昔に
勝負の付いた)とか引きずっている訳です。
飲み会があったりしたら3次会くらいでルーピンさんはスネイプさんの
膝を枕にグーグー寝てしまったりします。そんなルーピンさんをスネイプさんは
タクシーで送ってあげたり。
「おい、ルーピン住所を言え」
「いやだ(ひとり大笑い)」
「ふざけるな!こら!膝の上で頭を動かすな!」

ああ、なんとなく楽しそうですね。そんな訳で物語が始まりました。

日記ではもう少し馬鹿っぽかった。そこへイナズマより早くシリーズ化を望まれる
大物からのフクロウ便が来ましたので、サクっと連載になりました。


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パラレルOL物語2
後輩のハリーさんやハーマイオニーさん、ロンさんは先輩の
ルーピンさんが大好きで、よく一緒にお弁当を食べたりします。
ルーピンさんのお弁当は時々ギョッとするような物が入っていますが
(折り畳んだ白い食パン二枚オンリーとか)それにも慣れました。
「ルーピン先輩は好きな人っていますか?」
「うん、いるよ」
ルーピンさんはひどく鷹揚なので尋ねられると大抵何でも話してくれます。
それこそ銀行のカードの暗証番号や、プライベートな体験の詳細まで。
質問する側が気を遣ってあげないといけないタイプの人です。
「えー?どんな人ですか?教えて下さい」
「あのね……」
そこへ眉間に横断歩道ほども皺を寄せたスネイプさんが割り込んできました。
さっきまでカロリーメイトを食べながら株価のチェックをしていたのにです。
「いつまでも下らん話をしていないで席に戻れ。昼休みは終わった」
ハリーさん達はスネイプ先輩が恋愛に興味がない、むしろ弾道ミサイルで
破壊したいくらい
憎んでいるから邪魔をしたんだと思っていますが
そうではありません。スネイプさんなりに思う所があったんです。

『まさかルーピン、「好きな人のうち1人は殺されて、
もう1人はバラバラに解体されて、
最後の1人は網走刑務所で服役中だよ」
とか言うつもりだったんじゃないだろうな……。
空気を読め空気を!

スネイプさんは席で1人ハラハラしていました。
ルーピンさんは鼻歌を歌っています。なんだか不公平ですね。
それにしてもルーピンさんの昔の男の話は
マザーグースの歌みたいでちょっと怖いです。


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パラレルOL物語3

「スネイプ先輩、ルーピン先輩が1時間ほど前から行方不明です!
電話待ちのメモが溜まってきましたが」
「ああ、2階のトイレの奥から4番目の個室で気絶している」
まるで霊能者のようなスネイプさんの予言です。でもこの予言は
いつも当たりです。あまり知られていませんが2人は同じ学校の出身で、
つきあいは長いのです。
「ポッター、お前では無理だ。我輩が行く!」
スネイプさんは腹立たしげに机に手を付いて立ち上がります。
バ○ァリンと小銭を握りしめて。
トイレに到着すると、スネイプさんは鍵の掛かった4番目の個室の前で
怒鳴りながら扉を叩きます。もちろん生○痛で気絶している
ルーピンさんはそんな事では目を覚ましません。心得たスネイプさんは
用意していた小銭を個室の中へと投げ入れ始めます。
まるで運動会の玉入れか銭形平次みたいですね。
5円玉や10円玉がガンガン当たって、ようやくルーピンさんが
意識を取り戻します。
「痛い……。酷いじゃないかシリウス」
けれどまだちょっぴり寝ぼけているようですね。スネイプさんはスナップを利かせて
バ○ァリンを投げ入れます。それは見事ルーピンさんの頭に当たりました。
「仕事をサボるな。それを飲んでとっとと来い!」
「分かった……ジェームズ……すぐ行くから」

でもルーピンさんはいつも小銭を拾って来てくれないのです。
仕方がないのでスネイプさんは後で1人回収に来ます。


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パラレルOL物語4

「セブルス、今日時間があるなら一緒に飲みに行かないか?」
ルーピンさんはある日スネイプさんを食事に誘ってみました。
しかしその日機嫌の悪かったスネイプさんの返事は大層素っ気無いものでした。
「寄るなこの汚らわしい生○痛人間め。生○が伝染る」
ルーピンさんはちょっとしょんぼりして、『生○痛人間と言うなら君だって
そうじゃないか』と思いました。彼女(…)はこういう謂われない差別を受けると
幸せだった学生時代のことを思い出します。

ジェームズ、シリウス、ピーター。3人の大切な友人はベッドの上で
苦しんでいるルーピンの側で、「これからは毎月僕達も一緒だ。
僕達も隣で苦しむ振りをするから」と言ってくれたのです。
3人のうち誰かがアフリカ人だったのでしょうか。
でも一緒に痛がるのは出産の時だけで十分です。
ていうか目の前にこんな事を言う男がいたらグーで殴りますね。
ていうか書いてるアマはあの感動的なエピソードをここまで愚弄して、
即売会で刺されたいのでしょうか。
ていうかこのパラレル物語のテーマは生○痛なのでしょうか。
色々気になります。

一挙に説明。
特に誰がモデルという訳ではないです。女の同僚なんか1人もいないし(潤い無ぇー!)
生○痛もないので実はよく分かりません。可哀想だから先生のを半分もらってもいいくらいです。
この世界では受と子供が女になりますので、鹿犬は(一応)男性です。でないと百合物語に!
あ、いらっしゃらないと思うのですが男性の閲覧者さんごめんなさい。アフリカの方も以下同文。



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パラレルOL物語5

課長と話をしていたルーピンさんは、凶悪な表情をしたスネイプさんに
緊急の仕事があるから来いと呼びつけられます。少しも意に介さず
マイペースでフラフラと彼女(…)の机に行くルーピンさんですが、
スネイプさんは大層怒っています。
「ええっと、緊急の仕事って何かな?セブルス」
「貴様は馬鹿かリーマス・ルーピン」
「?何が?」
「2分と30秒だ」
「……それは何の時間だろうか?」
「貴様が課長に尻を撫でられていた時間だ!」
「え?」
「とりあえず悲鳴を上げるなり笑って逃げるなりしろ!たわけ!
課長も手を離すタイミングが掴めずに困惑していたぞ!!
「それは……全然気付かなかった……」
スネイプさんの口がカクリと3pばかり開いて、
彼女(…)の目つきが珍獣を見るような物に変わったので
さすがにルーピンさんは恥ずかしくなって謝ります。
「ごめん。今度から気を付ける」
スネイプさんは口を開けたまま無言でした。
意気消沈して席に戻ったルーピンさんは定時が過ぎてから
やっと気が付きます。「あれ?セブルスは私を助けてくれたのかな?」と。
もうセブルスさんは外回り直帰で席にいないのですけれど。
(そして明日になったらルーピンさんはすっかり忘れています)

これのルーピン先生はちょっと頭が弱……。


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パラレルOL物語6

朝目覚めるとスネイプさんは、寝床から身の回りを視認します。
貴重品袋よし。防災袋よし。鉢植えコレクションよし。
室内に変化なし。物色された形跡なし。戸締りよし。
今日は休日なのでやる事は一杯あります。
一週間の家事の下ごしらえに掃除に洗濯、フランス語と広東語と
ハングル語とラテン語と日本語の勉強、衣類の出し入れ、メールの返信、
鉢植えとハーブ園の手入れ、家計簿の整理。
しかしソファの上に、服が脱いだままになっているのが目に入って
スネイプさんは眉を顰めました。彼女(…)にしては珍しい事です。
すぐさま立って、コートをハンガーに掛けようとしました。
でも何か変です。洋服には手足が生えていました。
ついでに言うと頭もありました。はっきり言えば服ではありませんでした。
コートを着たままソファで寝ていたルーピンさんでした。
あまりにも薄っぺらいので脱いだ洋服に見えたのです。
すぐにでも事情を問いただしたかったスネイプさんですが、
ルーピンさんが覚醒して人間の心を取り戻すのには
それから2時間を要しました。

「だって、セブルスが手を離さなかったから」
スネイプさんの作った朝食を食べながら、
平気な顔でルーピンさんはそう言いました。
スネイプさんはあまりのことにしばらく呆然としていました。
そういえば昨日会社の飲み会があったような気はします。
飲み会になると最後の方はいつの間にか隣にルーピンさんが
座っていて、タクシーに彼女(…)を押し込めるのが
スネイプさんの日常なのですがこんなことは初めてです。
「ルーピン」
頭の中で小言の順番を素早く組み立てて、最初は
『下の名前で呼ぶな。馴れ馴れしい』と言おうとした
スネイプさんですが、彼女はルーピンさんの顔をよく見て
絶句しました。
ルーピンさんが化粧をしています。
正確に言うなら口紅を塗っています。
彼女(…)は普段あまり化粧をしません。
ヘビーナチュラルメイクのスネイプさんとは対称的です。
ルーピンさんが今つけているのはどう見てもスネイプさん愛用の
穴スイのものです。自分に無断で使ったのかと1秒ばかり
考えましたが、どうもそうは見えません。その口紅は
色がぼやけていて、唇のラインに沿っていません。
どう見ても、塗ったというよりは……。
「ル・ル・ル・ル……」
歌っているのではありません。目を剥いたスネイプさんに
気付いて、ルーピンさんは「ああ」と言って
ぐい、と男らしく手の甲で唇をぬぐいました。
「気にしなくていいよ」
何を!?
大声で聞きたかったスネイプさんでしたが
どうしても出来ませんでした。
そうこうしているうちにルーピンさんは食事の礼を言って
さっさと帰ってしまいました。
スネイプさんはその日いちにちじゅう
何も家事仕事が手につきませんでした。


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パラレルOL物語7

「お前のようなトンマは見たことが無い!!
辞めてしまえ!ポッター!!」
フロアにスネイプさんの声が響き渡ります。急な沈黙が落ち、
ハーマイオニーさんやロンさんははらはらしながら友人を
見守りました。ハリーさんは大きな瞳をスネイプさんに向けて
ぐっと唇を結んでいます。
ハリーさんは03年3月10日に納品するべき物を02年3月10日
納品とパソコンに入力していたのでした。そのせいで
工場の生産ラインにあがらず、手付かずの状態なのに納期は間近です。
今日ハーマイオニーさんが確認の電話をしていて、ミスが分かりました。
運悪くその商品は複雑なもので、数は大した事が無いのですが
工場の製造機を組替えるのに時間がかかります。しかも納品先は
大きな企業で、その担当者は基地外気難しいので有名でした。
「セブルス、時間がないからとりあえずそれくらいで」
後ろから声を掛けられて、スネイプさんは3歩ほど飛びのきました。
最近ルーピンさんを普段にも増して避けていたスネイプさんです。
幸いにして彼女(…)のその変な動きに気付いた人はいませんでした。
「ハリー、大丈夫かい?」
ルーピンさんはハリーさんの肩にそっと手を置きました。
ハリーさんが瞬きをすると涙がこぼれ落ちます。幾つも幾つも。
ハリーさんはルーピンさんにすがって泣き始めました。
ルーピンさんはハリーさんの背中を撫でながら
「大丈夫だから、落ち着こう?さあ、ハリー泣き止んで」と言いました。
ハリーさんは嗚咽しながらも、損失が何億も出るとか、
辞表を出すとかそういう事を早口でいいました。
ルーピンさんはしばらくそうやってハリーさんを宥めていたのですが、
ハリーさんは平静になれないようです。いつもの賢いハリーさん
らしくない事を次々に言います。
ルーピンさんはハリーさんの両肩を捕らえて真正面から向き合い、
にっこり笑いました。「分かった。ハリー、君は早退だ」
誰もが首を傾げました。ルーピンさんらしくない言葉です。
「そして、君は今からハリーの失敗をフォローするために来た
ハリー2号だ。よろしくハリー2号」
ハーマイオニーさんとロンさん、それからハリーさんも、
思わずぷっと吹き出しました。
そう言われると、急にパニックが治まって普段の自分に戻れたような気が
ハリーさんはしました。失敗したのは別の誰かで、今の自分の仕事は
その穴埋めをする事だとしたら、全力でやらなければなりません。
「さあハリー2号、ハリーを助けてあげてほしい」
「でも……でもルーピン先輩、無理です。西工場も東工場も
今120%稼働でパンク寸前だって……」
「そのハーネス(※ハースネではない)は何本?材料は?」
「20本です。材料は倉庫に揃ってます」
「余剰在庫が多くて助かったねぇ……20本か……
工場でなくても、20本程度なら機材があれば作れないかな?」
「機材って……でも……そんなものは工場にしか……」
ルーピンさんは首を傾げました。その瞳は「本当にそうかな?」
と言っているように見えます。
「あ……技術部……?でも無理です……あそこは」
技術部は本来、試作品を作って得意先に持っていく部署です。
あるいは企業から注文を受けてプロトタイプを作ります。
そこに販売する商品を作らせるなんて、イタリア料理店で
うどんを注文するくらい無茶な行為です。
「やってみなくちゃ分からないだろう?」
ルーピンさんは短縮ボタンを押して、技術のムーディ部長を
呼び出しました。部長は「穂具和津株式会社の暴れ馬」と
異名をとる伝説の人物で、以前キレて大型圧着機(※デカイ)を
投げ飛ばして壊したという噂があります。
「ああ、ムーディ部長お久し振りです。はい、私は相変わらず。
……彼ですか、まだ網走にいるみたいですけど」
しかしルーピンさんはいつもの調子でリラックスして話しています。
それに、なんとなく親し気ではありませんか。
「今回はお願い事があってお電話したんですが、これから
私の後輩の話を聞いて、協力してやってはもらえませんか?ええ、替わります」
ルーピンさんはポンとハリーに受話器を寄越しました。
そして「正直に全部話して、一生懸命頼むんだハリー2号」
と言ってハリーの肩を軽く叩きます。
ムーディ部長の声は地獄のゾンビのように掠れていて
恐し気でしたがハリーは頑張って話をしました。意外にも
ムーディ部長はハリーの話を最後まで聞いてくれて、
納期は何日何時なのか、材料はいつ届くのか、
出来上がった後はどうすればいいのか等、的確な質問をしてくれました。
夢見心地で電話を切ったハリーさんに、ルーピンさんは
「今度は資材のフーチさんに電話をして。彼女は大型バイクで
通勤しているから、倉庫と本社の間を1時間で往復できる」
と教えてくれました。

手配の全部が終わったあと、ロンさんは小さくガッツポーズを見せ、
ハーマイオニーさんは「今日ラーメンおごってあげる」と
囁いてくれました。ハリーさんがお礼を言おうと振り返ると
いつの間にかルーピンさんは自分の仕事に戻っていました。
そのいつも通りののんびりした様子を、気抜けしたハリーさんは
しばらくぼんやりと見ていました。

しまったボーっとして何かすごく真面目に書いてしまった……。
単なるアホ女体化文章の分際で企業小説を……?(笑)



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パラレルOL物語8

先日のお礼に、ハリーさんはルーピンさんを自宅に招待しました。
ハリーさんの高級マンションに、ルーピンさんの口は開きっぱなしです。
「ドラマみたいだねえ」(※ルーピンさんの家にはテレビがないのですが)
「いえ、そんなこと……普通ですよ」
家具やインテリアや小物は厳選されていて、趣味良く統一されています。
ドアが開いて女優が顔を出しても、不思議がないような感じです。
家賃月3万5千円の、ルーピンさんのアパートと同じ地球上に
建っているようには思えません。
そして器用で段取りのいいハリーさんはお料理も上手です。
パンにスープ、前菜からサラダ、メイン2種、デザートまで全部手作りで
すごいすごいとルーピンさんは子供のように驚いていました。
ハリーさんは少し赤くなっています。

食事をしながら2人は色々な話をしました。
会社の事やハーマイオニーさんのこと、ロンさんのこと
勿論スネイプさんのことも。ハリーさんはスネイプさんを
あまり好きではないと言いましたがルーピンさんは「あの人は
分かりにくいけど、いい所がある人だよ」とだけ言って笑いました。
それからハリーさんは最近下着泥棒が出るという話を
しました。ルーピンさんは「ハリーは可愛いから注意しなくちゃ」
と少し真剣に心配してくれました。ハリーさんはまた赤くなっています。
「私は男物の下着だから盗られた事がないなあ」
最初にルーピンさんがそう言ったとき、ハリーさんは
誰かと一緒に暮らしているのだろうか?と思って質問してみました。
「洗濯物の中に男性用の下着を混ぜておくんですか?
それとも彼氏の?」
しかしルーピンさんの返事は簡潔にして変でした。
「違う違う。トランクスを履いているんだよ私が」
「……え……どうして……」
「楽だから」
「・・・・・・・・」
意識の遠くなったハリーさんが我に帰ると、ルーピンさんは
うつむいて座った姿勢のまま寝息を立てていました。
時計を見ると10時過ぎです。一体この人は毎日何時に
寝ているんだろうと不思議に思いながらも毛布を掛けてあげる
優しいハリーさんでした。
本当に気持ちよさそうに全開で眠っているルーピンさんの
横顔を見ながらハリーさんは呟きます。
「相談したいことがあったのに……困ったな」

『貴方のことを好きになってしまったみたいなんですけど、
どうしたらいいでしょうか?』

ルーピンさんなら何か正しい答を教えてくれるような気がしたのです。


あああああああ。ごめんなさい!ハリー関係の他カプの方!!
先生ハーレムかコルァ!?という感じですけど、あの、違いますので。
私は先生をシリウスさん以外と出来上げる気はございません。
なので他のはみんな気の迷いです!ええと、人間愛?
ていうか全員女なので!!ていうか先生が穂具和津社のバンコランだよこれ!
にしても家賃3万5千円って……どこの話なんだろうこれは。
(注:3万5千円は東京でも十分あり得る家賃だヨーというメルが来た)


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パラレルOL物語9
「貴方には失望しました。リーマス・ルーピン」
マクゴナガル専務にそう言われて、さすがのルーピンさんも
表情がなくなりました。
穂具和津株式会社では昇進するのに、幾つかの資格取得と
昇進試験に受かる事が必須です。
マクゴナガル専務はルーピンさんがこの会社に入社した時から
何かと期待して目を掛けてくれる人で、厳しいけれど
仕事が出来て信用の置ける上司でした。ルーピンさんも
彼(ええ?)を尊敬しています。
しかしルーピンさんは昇進に興味がなかったので
マクゴナガル専務の忠告を無視して一切の努力を
していませんでした。同期のスネイプさんは
この会社では異例の女性課長代理になっています。

けれど、尊敬する専務に何を言われても、ルーピンさんには
与えられた仕事をする以外の気力は涌かないのでした。
あの日から。
こんな事を話しても相手が困ると思ってルーピンさんは
ずっと黙っていますが、過去にルーピンさんにとって
とても悲しい事件がありました。その時から
ルーピンさんの毎日は宙に浮いています。
花が綺麗に見えなくなりました。
ごはんの美味しそうな匂いもしなくなりました。
好きだという気持ちが出てこなくなりました。
何もかもが面倒でした。生きているのが面倒で、
でも死ぬのさえ面倒でした。

机に戻って仕事を続けているルーピンさんの周りで
声を掛けられない3人の後輩はオロオロとしています。
「元気を出せ」
フロアの社員全員が言いたかった事を、一番意外な人物が
言い放ちました。スネイプさんです。天変地異で
JRがストップするかもしれないからと早退の準備を
何人かが始めました。
「……とJが言っている」
ルーピンさんは派手に吹き出しました。
「……ありがとうセブルス」
「違う!!我輩ではない!!Jだ!Jが言ってるんだ!!」
後ろでJって誰?さあ、照れ隠しに作られた新しい人格じゃない?
という会話が交わされています。
「じゃあ、ありがとうジェームズ」
ほのぼのとしたムードの中、スネイプさんは半泣きでした。

何故なら、恐ろしいことにスネイプさんには本当に
ジェームズさんの姿が見えるのです。
生前も人格者とは
言えなかったジェームズさんは、死んで磨きがかかりました。
時折「リーマスを慰めて」「ちゃんと送ってやって」などと
スネイプさんに命令するのですが、それを無視すると

一晩中ドラえもんの主題歌を耳元で歌う。
バスタブの中をマヨネーズで一杯にしておく。
ストッキングを全部伝線させておく。


などという陰惨な報復が待っています。
直接言えと文句を垂れるスネイプさんですが、ルーピンさんは
鈍感なのでどうもジェームズさんの姿は見えないようです。
なんだかスネイプさん1人貧乏くじですね。


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パラレルOL物語10
お昼休みにお弁当(白い食パン)を持ってハリーさん達の所へ
行こうとしていたルーピンさんは途中、電話応対をしている
スネイプさんの席で立ち止まりました。彼女(……)の
机の上には食べかけのお弁当が出ています。
軽く20品目は入っていそうな、彩りも完璧のお弁当。
ルーピンさんは、しばらくじっとそれを見ていたのですが、
ごく自然に卵焼きをつまんで口に入れました。
スネイプさんは唇をUの発音をする形に開いて凝視します。
でも電話応対中で文句が言えません。
卵焼きは、冷めてから食べる事が前提の味付けになっていて
舌触りも繊細で絶妙です。1mgも計量をおろそかにしない
スネイプさんは実は料理上手なのでした。ルーピンさんは
次はひき肉の蓮根はさみ揚げをつまんで食べました。
暴虐の限りです。しかし彼女(……)の頭の中には
これが誰の食べ物で、これを食べると誰かの食料が
減るのだという認識は今のところないようです。追記すると
とても幸せそうな顔でした。飼い猫が、その家の食卓の魚を
失敬するような、自信に満ちた行動でした。
満足したのか指を舐めて、ふと気付いてルーピンさんは
自分の白い食パンを半分にちぎり、スネイプさんの
お弁当の上に置きました。そしてハリーさんたちの方へ
再び歩きだしました。それを一部始終見ていたハリーさん達は
「猫が、助けてもらったお礼に死んだ鼠を玄関に置いておく話
をなんとなく思い出していたのでした。


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パラレルOL物語11
昼下がりのオフィス、うららかな日差しの中
どこからともなくフラフラとやってきた
ルーピンさんは自分の席で口紅を引こうとしました。
その腕を押さえた人物がいます。スネイプさんです。
「待てルーピン、何をしている」
「S社と上半期の納入の打合せがあるんだよ。
 口紅くらいつけてきなさいって専務に言われた」
「それは……赤マジックに見えるが?」
ルーピンさんが今まさに唇に塗らんとしていたもの、
それは書類のチェックに使う赤マジックでした。
「うん。だって化粧品なんか持ち歩かないよ私は」
「馬鹿者!画用紙のラクガキか貴様は!
目にも止まらぬ早業1秒、スネイプさんの
右手にはMACのマロンレッドが握られていました。
問答無用で顎を押さえられ、ぐりぐりと口紅を
塗られてしまうルーピンさん。
(遠くで見ていたハリーさんはガチャックの玉を
机の上にぶちまけてしまいました)
しかし出来栄えを見て、スネイプさんの顔は
顰められました。ルーピンさんは色白なので
口紅の色だけが浮いています。
「ありがとうセブルス。じゃあ行くよ」
「待……」
オバケのQ太郎みたいだぞ貴様。そう言おうとした
スネイプさんですが、タイトルが恥ずかしくて
言えませんでした。ルーピンさんは鼻歌を
歌いながら行ってしまいました。


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パラレルOL物語12
少し前まではお昼休みにバトミントンで遊ぶブームだったのですが
最近は暑くなってきて、天気も悪いので空調のはいった部屋で
テレビなど見ているOLさん達でした。
「それでルーピン先輩の彼氏は何をしている人ですか?」
「ええと、生きてるやつ?」
「(死んだ彼氏がいらっしゃる……?)ええ、はい」
「刑―――」
「家具を作っている!!」
自分の机で商品の耐性テスト結果報告をまとめていた
スネイプさんが顔も上げずに返事をしました。
「家具……」
「まあ、そうらしいね。あとニポポ人形とか」
「ニポポ人形……?」
ハリーさん達は「たぶん木の製品一般を扱う店の
職人兼オーナーなのだろう」と勝手に予想しました。
「どんな感じの人なんです?」
ハリーさんはやたら熱心です。ハーマイオニーさんは
ちょっと首を捻りました。
「怒りっぽい。目つきが悪い。それから髪が黒い」
思い出し笑いなのかルーピンさんは小さく吹出しました。
しかしハリーさん達にはちっともイメージが湧きません。
「芸能人で言うと誰に似てますか?」
「うー…………ん。強いて言うなら
ツタンカーメン王のマスクに似てる
どうして芸能人と尋ねられてツタンカーメン王なのか。
聞いていたスネイプさんはちょっぴりシリウスさんのことが
哀れになりました。ほんのちょっぴりですけどね。
ハリーさん達はますますルーピンさんの彼氏の
実像が分からなくなって聞きました。
金色なんですか?」と。

刑務所では家具を作ったりするそうです。ニポポ人形というのはアイヌ系アイテムで
北海道土産なのですが、網走刑務所で彫ったりするという話……。



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パラレルOL物語13
ある日スネイプさんが出勤すると、誰もいないフロアで
ルーピンさんが1人で働いていました。
「……何をしているルーピン」
「??何って……仕事だよ。珍しいね、今日は遅刻?」
「今日は創立記念日で休みだ。我輩は休日出勤だ」
ルーピンさんはスイッチを切られたように止まってしまいました。
「ああ!それで誰も来なかったんだ。やっと謎が解けた!!」
「馬鹿か貴様は……」
「インフルエンザか食中毒かどっちだろう?と思っていたんだよ。
ありがとうセブルス、危うく定時まで勤務してしまうところだった」
「何年この会社にいるんだ!!……」
「じゃあ私は帰るよ。せっかくだからデパートにでも寄ろうかな」
「さっさと帰るがいい。デパートでも動物園でも好きな所に行け」
「最寄のデパートってどこだっけ……7年くらい行ってない」
「タンキュー百貨店だ。木魚線のポクポク駅下車!」
「……木魚線ってどういう乗換えだっけ」
「卒塔婆線のザクリ駅で連結している」
「・・・・・・」
スネイプさんは無言で立ち上がりました。ルーピンさんは
由緒正しい地図の読めない女(…)です。
「頭の弱い貴様に説明するのは無理だ。
貴様をデパートまで運搬して、それから戻る」
「ありがとう、セブルス」
ハンドバッグを再び肩に掛けていたスネイプさんは
見逃してしまいましたが、ルーピンさんは、ちょっぴり悪の表情で
笑いました。なんとなくスネイプさんは今日中には
会社に戻ってこれないような、何故かそんな気がしますね。

OL、とうとう1本に纏めることが出来ました。再録を希望されていた
高貴なシリルサイトのかたー!とうとうやりましたよー。(遅すぎます)



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パラレルOL物語14

「浴衣の下にはジャージとTシャツを着用しろ」
社員旅行の夜のことでした。女子部屋の真ん中に仁王立ちして
スネイプさんはそう宣言しました。
温泉に入って頬をピンクにしたハーマイオニーさんや
ハリーさん、ロンさんは
「せっかくさっぱりしたのに。また汗が出ます」
と不満顔です。
「セブルスの言う通りにしておいた方がいいよ」
とルーピンさんがにっこり笑いました。
「お酒が回ってくると、女子社員はコマ回しされるからね」
コマ回しって何ですか?と3人が尋ねます。
「今の時代劇では、やらないのかな?
お殿様がお女中の帯を引っ張るやつ」
世代の違いでしょうか、3人の後輩はみな首を振りました。
「こういう風にね」
そう言ってルーピンさんはごく当たり前のように
セブルスさんの帯を引っ張って解きました。
セブルスさんはクルンと回って立派なイタリア製の下着を
皆に披露しました。まるで変身シーンのような速さでした。
「ルーピン!!」
セブルスさんが真っ赤になって怒鳴るなか、
3人はさくさくとジャージを履きます。
「あれ?先輩達は下に何か着ないんですか?」
そうです。ルーピンさんも、イタリア製補正下着のセブルスさんも
Tシャツを着ている様子がありません。どうしてでしょう。
「こいつには誰も手出ししない」
帯を締め直しながらセブルスさんは吐き捨てました。
「なぜですか?」
ハリーさんが尋ねます。
「以前、誰かがこいつを剥いたら
男性用ランニングとトランクスという素晴らしい姿になった。
男共は全員酔いが醒めて部屋に帰っていった」
「ちなみにセブルスは」
「黙れルーピン」
「大昔に帯を引っ張られてフランス製下着を見られたとき
副支店長の目の前の山海の珍味をね、お膳ごと、こう
ボーンと上に蹴り上げたんだ。酢の物や天ぷらが
宴会場の天井にへばりついた。シーンと全員が静まりかえる中
伊勢エビが落ちてきて副支店長の頭の上に載った」
女子部屋もシーンと静まりかえりました。
自分達のような普通の子は、これからも大人しく
ジャージを着るしかないなとハリーさん達は諦めました。
ルーピンさんは宴会で出る日本酒の銘柄について、
一方的に楽しそうにセブルスさんに話しているようでした。


シリルな方の御要望により再開してみました。
去年の夏になんとなくやめたので、
今年の秋になんとなく再開するのも良いような気がしまして。
1年以上昔のことなので御存知でない方も多かろうと思いますが
そういえばパラレル女体化シリーズを日記で連載してました。ええ。
自分でも忘れがちですが、そういう変態的なサイトでしたよここは。
でも女体同士で延々と会社勤めをしているだけなので、
女体化の意味はあまりありません(笑)テーマは生○痛です。


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新春特別パラレルOL物語15 (前編)

もうあと数時間で2004年もおしまい、
そろそろ夜に見るテレビ番組を選ばないと……という刻限に
スネイプさんの1人住まいの部屋のドアを、誰かが遠慮がちに叩きました。
いぶかりながら彼女が外を覗いてみると、そこには安物のジャケットで
モコモコに着膨れたルーピンさんが立っていました。
折しも雪が降り出した頃、強風吹きすさぶ中で髪を乱して立っている姿は
さながら雪女です。ルーピンさんは白い顔色で言いました。
「紅白歌合戦を見せて下さいー」
スネイプさんは無言で鉄の扉を閉めようとしました。
「ちょっと!どうして閉めるのかな君は」
長靴をはいた足を、強制捜査官のようにドアの間に挟み、
ルーピンさんにしては珍しくしつこく言い募りました。
余程紅白が見たいのでしょう。
「自分の家で見ろ!」
「私の家にはテレビがないもの」
「ポッターかウィーズリーの家にでも行くがいい!去れ!」
「ハリーもロンも帰省中だよ。ハーマイオニーもね」
「かといって貴様にテレビを見せてやる理由にはならない」
「もちろん無料でとは言わないさ」
ルーピンさんは、さほど大きくもない鞄からさっと
瓶のような物を取り出しました。
「それは『飛猫』!」
ルーピンさんの持っているそれは新潟産の日本酒で、
近頃マニアの間で話題になっている物でした。
スネイプさんも何とか手に入れようと蔵元に電話までしたのですが
どうにも売り切れてしまったらしい品物です。来年には値が3倍になり、
おそらくもう一般人の口には入るまいと噂されているのでした。
「お前どうやってそれを……」
「去年の暮れ、話題になる前に買った。2本7千円だったよ」
「1本3500円!」
現在でも1本1万8千円あたりが相場です。
「お米の香りは良く出ているけど、口当たりはあくまで軽くてね。
君も私も辛口好きという訳ではないから、ぴったりだと思う」
どしっと一升瓶が手渡され、スネイプさんは思わず受け取ってしまいました。
水色の、懐かしい感じの瓶です。日本酒好きの勘で、中身も期待できそうな気がしました。
我に返って振り返ると、ルーピンさんはジャケットを脱いでこたつに入っていました。
スネイプさんは冬はこたつ派なのです。
「NHKって何チャンネルだっけ」
「……え?いや、ちょっと待てルーピン」
「……あ、もしかしてセブルスは違う番組を見る?だったらごめん」
考えてもみなかった!という慌てた顔をしたルーピンさんに
どうしてだか分からないのですが、スネイプさんは「いやそうではない」
と言ってしまいました。違う番組を見ると言えばルーピンさんの性格です、
落胆しながらも大人しく帰っていくだろうと知っていたにもかかわらず。
スネイプさんは自分の失言に口元を覆って顔をしかめましたが
一度言ってしまったことは取り返しがつきません。


紅白歌合戦はスネイプさんの眼からすると演出もセットも
民放のレベルと比べてお粗末な物でした。しかしルーピンさんは
目を丸くし、拍子を取ったりして応援しているようでした。
(その様子は少しおばあちゃんっぽかったのですが)
マツケンサンバやギター侍を初めて見られたのが特に嬉しいと
ルーピンさんは御機嫌でした。
「これで説明してもらわなくてもハリー達の会話が分かる」
「くだらん。いい歳をした中年男が恥ずかし気もなくあんな格好で」
「でもああいう偉い俳優さんが、可愛い愛称で呼ばれていて
キライラした衣装で元気良く踊っていたら誰だって楽しい気分になるよ」
「ならん」
「そうかなあ」
いつの間にか2人はルーピンさん持参の『飛猫』と
スネイプさん手製の肴でささやかな酒宴を開いていました。
あの事故以来(6話)二度とルーピンさんとは飲まないと誓ったにもかかわらず、
気付いたら飲んでいたのです。
スネイプさんはゴーリーという作家の『うろんな客』という
童話を思い出しました。その話も冬の夜に突然珍妙な生物がやってきて
家の中であらゆる粗相を働くというあらすじです。
そういえば顔もどことなくルーピンさんに似ているようでした。
そのお話の締めくくりはこうです。
「―――というようなやつがやって来たのが17年前のことで、
今日に至ってもいっこうにいなくなる気配はないのです」

「こうやっていると私達は夫婦みたいだねえ」
とルーピンさんが言ったので、スネイプさんは咀嚼中の
ササミの梅シソ巻きを吹き出してしまいました。2mは飛んだでしょうか。

新春特別パラレルOL物語15 (後編)

昨夜は、終電がなくなったので歩いて帰るというルーピンさんを
「貴様が強姦魔に殺されたら寝覚めが悪い」と止め、
ではこたつで寝るというのを
「夜中に頭を蹴飛ばす」と布団をすすめ、
寝間着を持ってきていないから裸で寝るというので
「部屋に原始人が居るのが耐えられん」とパジャマを貸し与え、
色々大変なスネイプさんでした。
朝になってきちんとお年賀の挨拶をして、
2人でスネイプさんのお節を頂きました。
伝統行事にはつい血道を上げてしまう彼女の料理は
伊勢海老黄身焼きやら栗きんとんやら筍、絹さや、高野豆腐に花蓮根、
彩りもお味も見事な物でした。
「お節料理って初めて食べるけど、なんだか幻想世界の食べ物みたいに綺麗だね」
とルーピンさんは言いましたが、それが本当なのかそれともいつもの
分かり難い冗談なのか判別が付かなかったのでスネイプさんは黙っていました。
年賀状が来たので、いつものようにすぐにファイリングするスネイプさんを
ルーピンさんは黙ってにこにこと見ていました。
「今年もあれを出したのか?」
「うん。出したよ」
ルーピンさんは毎年2枚だけ年賀状を出します。
1枚はピーターの遺族に向けて。そしてもう1枚は網走にいるシリウスにです。
丁寧な近況とそれからシリウスの健康に対する気遣いを綴った後、
彼女は締めくくりに必ずこう書きます。
「次に会ったときには殺すから」
途中が非常に暖かい文章なだけに、その結びは見る者の肝を冷やします。
「あの気色の悪い年賀状、いい加減にやめたらどうだ」
「いや、私もシリウスも忘れっぽいから、1年に1度くらい書いておかないと」
そして自分とスネイプさんの杯にお酒を注ぐと、
ルーピンさんは昔ジェームズにもらったユニークな年賀状の話をしました。
酔って書いたのかどうなのか「地球は丸い」とか「犬に食わせろ」という
意味不明な一言メッセージ。あるときはハガキですらなく、草履だったり
固めた靴下だったりしました。
「でもあれは捨てられないよねえ。ジェームズ、毎年真剣に書いていたから」
「・・・・・・」
スネイプさんもジェームズからの年賀状は大切に取ってあります。
勿論ルーピンさんにも誰にも絶対に秘密なのですが。
そんな調子で思い出話をしたり、TVに対するコメントをつけたり
お酒を飲んだりしているうちに夕方になりました。
一升瓶はいつの間にか空になっています。
つとルーピンさんがこたつから出て、きちんと正座をして言いました。
「一晩御世話になりました。ありがとう」
「……ああ、うむ」
やって来たときは雪女で、去るときは鶴女房です。
「何かお礼をするよ。改めて届けるから」
「いらん。それより2度と来るな」
「そんなに嫌がられると17年ほど居座りたくなるなあ」
「馬鹿を言え。……17年?」
「そういう童話があるんだよ。セブルスは童話とか読まないか。じゃあ会社で」
何か最後に不気味な術を発揮された気がして、ドアが閉まっても
スネイプさんはしばらくそこに立っていました。
急に静かになった気がします。
べつにルーピンさんもスネイプさんも大騒ぎする性質ではありませんので
ずっと静かだったのですけれど。
ルーピンさんは水族館の亀みたいに身動きもあまりしないでずっと座っていました。
派手な音をたてたり、部屋の中をあれこれ見回したり、一切しませんでした。
音も匂いも気配もありません。興味も主張も持っていません。
ルーピンさんは喋る観葉植物のようでした。
自分の部屋に他人が居るのは我慢がならないスネイプさんでしたが、
ルーピンさんは、それほどには邪魔に感じられませんでした。
それどころか、ルーピンさんを相手に紅白歌合戦や駅伝や時代劇に
くどくど難癖を付けたりするのは少し楽しかったりしました。
お節料理も、去年よりは美味しく感じられたようです。
お雑煮におもちを幾つ入れるのかと人に尋ねたりするのは
案外悪い気分ではありませんでした。
冬休みの終わりに仲良くなったいとこが帰ってしまうときの、
懐かしくて淋しい気持ちがしました。
スネイプさんは舌打ちをします。
だから彼女は来客が嫌いなのでした。


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新春特別パラレルOL物語16 (年賀状編)


あけましておめでとうシリウス

真面目にお勤めを果たしているだろうか。
私は相変わらず普通のOLをやっている。
セブルスも元気だよ。そういえば又痩せたとかこの間言っていた。※1
あの人、そのうちに線になって風で飛んでいくんじゃないかな。
私も全然人の事は言えないけれど。

網走では家具を作るのだとセブルスが教えてくれた。
君がタンスや靴箱を作っているのかと思うとちょっと可笑しい。※2
調子に乗ってチッペンデールやヘップルホワイトの家具とか作らないように。
君は器用な上に異様に凝り性だからね。極力普通に。
みんなと同じに働くんだよ。

そちらは寒いだろう。また一日70回くらい「寒い寒い」と
主張して、周囲をうんざりさせていないか心配だ。
ただでさえ君はその顔で目立つのだから、
くれぐれも、その、目を付けられたりしないようにしないとね。
(これもセブルスに教えてもらったんだけど)※3
君みたいなタイプはすごくもてるそうだ。気をつけて。
あまり迂闊に人のいないところをうろうろしてはいけないよ。
あ、もしこの文章があまり冗談にならなくて、
本当に君を酷く傷つけるような事態になっていたらごめん。
そうだったら……言葉もない。ええと風邪を引かないように。※4

最近では年賀状に写真が印刷できると後輩のハリーが言っていた。
来年はそのハリーに頼んで、セブルスの写真でも印刷しようと思う。
君もきっと獄中で懐かしく眺められることだろう。※5

それでは。

ああ、君が出所したら私は必ず君を殺すから。※6
忘れないでくれ。

R・J・ルーピン※7


※1:シリウスにとってはまったくどうでもいい情報。
※2:このまえメイド・イン・監獄特集セールが偶然やっていた。
   実に色々な商品があって趣深かった。
※3:「余計なことを喋るなあのヘドロ女め」
※4:あまりの適当さ加減にちょっとここで泣きそうになる黒田。
※5:親切で言っているんだろうなあ…と思って再び泣(略)
   そして強盗殺人犯に慰められる。
※6:毎年彼女から年賀状が来ると、
   この部分は折って見ないことにしている黒田。怖いから。
※7:ルーピンさん。黒田はルーピンさんの近況が
   知りたいんじゃないかな?なんかそんな気がするよ。

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パラレルOL物語17


「ハリーさんはもうルーピンさんを吹っ切ったんですか?」
と某マスター様(20歳←サービス)に質問いただいたハリーさんですが
吹っ切るなどとはとんでもない、いまも片思いライフを
思いきりエンジョイしていました。
もともとハリーさんは現代っ子なので
「ルーピン先輩は男性…じゃなくて女性だから、
この恋は間違っている。諦めないといけない」
などという辛気臭いことは一切考えない、ドライな子でした。
「やれるだけやってみて、駄目ならその時引き返す。
楽しければそれで後悔なし!」という主義で
これまでの人生ハリーさんは生きてきたのです。
ルーピンさんに接近するには餌付け家庭料理が一番だと
鋭い観察力で見抜き、せっせと自宅に招待しておもてなしをしました。

その甲斐あって、ルーピンさんがハリーさんの家に泊まっていくのは
珍しい事ではなくなりました。
会社の帰りにルーピンさんと一緒にスーパーによって買い物をし、
ビデオ屋で面白そうな映画を物色するのが最近のハリーさんの楽しみです。
ホラー映画を見ては怖いといってしがみつき
コメディ映画を見ては笑ったふりをしてしがみつき
恋愛映画を見ては泣いたふりをしてしがみつきました。
ハリーさんはルーピンさんの、何の匂いかよく分からない匂い
側で感じているだけで満足でした。
(でもシャンプーや石鹸のメーカーが気になりもしました。
それは本当に得体の知れない匂いだったので)

ところでいつもぼんやりとビデオを見ているルーピンさんですが
時々、映画によってものすごく真剣になる時があります。
それは「ザ・ロック」とか「グリーンマイル」とか「ロックアップ」
「ショーシャンクの空に」とかでした。
キングの作品が多いので、ファンかな?とも思うハリーさんですが
「シカゴ」を見たときも、ルーピンさんは食い入るように
画面を睨んでいたので、さっぱり分からなくなるのでした。


あとね、「アルカトラズからの脱出」とかもルーピンさんの目の色は変わると思うヨ。
しかしルーピンさん、「シカゴ」を見て黒田の生活を推し量るのは無理があると思う。
黒田は別に監獄で踊ってないから!



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パラレルOL物語18

夏になると穂具和津株式会社にはゾンビが出ます。
それは夏バテを起こして有り得ないほど夏痩せした
暑さに弱いルーピンさんとスネイプさんなのですが。
2人とも夏になると物が食べられなくなります。
そして右に左に揺れながら仕事をし、しょっちゅう倒れます。
更衣室で時々見かける2人の裸体は
「肋骨!」としか表現しようのないもので、
ブラの中身はほとんど空洞です。
まるで女装した男と一緒に着替えをしているようで、
ハーマイオニーさんなどは、そっと目を逸らすのでした。

最近では頻繁にルーピンさんに夕食を食べさせるハリーさんは
手を変え品を変えルーピンさんの体積の減少化に
ストップをかけようとしますが、なかなか難しいものがあるようです。
「せめて来年の参考にしよう……」と食事日記をつけることにしました。

7月29日 今日はかぼちゃのスープを少し食べた。

8月02日 今日はジャムをスプーン3さじ食べた。

8月05日 今日はゼリーを半分食べた。

8月08日 今日はスイカを一切れ食べた。

しかし読んでみるとどうも人間以外の物の観察日記のようで
失礼な気がしてすぐにやめてしまいました。


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パラレルOL物語19


「しかしそんなマブいスケ、一体どうやってモノにしたんですかい?旦那」

網走刑務所で仲良くなった外国人の囚人シリウスは
いつもいつもいついかなるときも恋人の話をするので
微笑ましくなって強盗殺人犯はある日尋ねました。
まるでキッコ口の群れの中に1匹だけいるモりゾーのように
図抜けて身の丈の大きなシリウスは、また外国のスターのように
整った顔をしていましたので、日本の囚人達の中で
くっきり浮いていました。
そして何か事情があるのか、いつもぎらぎらと鋭い目をして
無言でいたので、彼に話しかける囚人はおりませんでした。
しかしその凄みのある顔も、恋人の話になると
案外だらしのない笑顔になるのを強盗殺人犯は知っています。
「スケ?マブい?君の日本語は辞書にない言葉が多いな。
まあいい。リーマスと俺が会ったのは学校でのことだった」
話のさわりだというのにシリウスはもう照れて俯いています。
強盗殺人犯はなんとなく「どう見てもこの人ァ冤罪だよな…」と思いました。
「俺が初めて見たリーマスは前歯が1本欠けていた。
後で聞いたら転んで折れた所だったらしい。
次に校庭で見かけた時は腕から血を垂らしていた」
何か気になるなとは思っていたんだ……。
とうっすら頬をピンクにしてシリウスは語ります。
「親友のジェームズが見かねてデートをセッティングしてくれた。
約束の場所に現れたリーマスは右目の上に大きなこぶを作っていて
ほとんど……そう、君の国の幽霊みたいだったよ。
来る途中ぼんやりして角材にぶつけたと言っていた。
どきどきして、これが恋だと思ったんだ」
そのどきどきは、恋とは違うんじゃないかとあっしは思いますがね。
強盗殺人犯はそう思ったのですが、黙っていました。
うかつなことを言うと繊細なシリウスが
夜眠れなくなるのを知っていたからです。


2人の恋はどんなのだったんかしら?
という質問がありましたので書いてみました。
シリウスが出てくるので番外編です。

そして夏の即売会で「OL好きです」と言ってくださった方が
怖いくらいたくさんいらっしゃったので
疑問のあまりとうとう1人のお客様をランダムでとっつかまえて
「なんでじゃー?なんでなんじゃー!」
とお尋ねしたのですが
アイデンティティの話から始まってしまって、
参りましたという気持ちになりました。
(うちの閲覧者様は論客ばかりなのか!?)
あのときの方、どうもありがとうございました。
もう悩みません。

むかし友人が待ち合わせの場所に
腕から血を垂らしながら現れたことがあって
そりゃあもうどきどきしました。


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パラレルOL物語19

スネイプさんにはああ見えてコアな男性ファンが何人もいて、
終業間近ともなると幾つかのメールアドレスにお誘いメルが絶えません。
スネイプさんファンの中でも熱心な他社勤めの男性は、週に3日も
花束持参でスネイプさんを迎えに来ては冷たくあしらわれています。
そんなつれなさがまた堪らないのだと彼らは口を揃えて言うようです
(スネイプさんファンの男性の要望は
「踏みつけて欲しい」「僕を導いて欲しい」
「厳しく叱って欲しい」「僕を養って欲しい」「ツンデレで!」などなど
特殊なものが多いのでした)

ルーピンさんは何と言っても地味なので
スネイプさんほどではないのですが
それでも時折男性からのお誘いがあります。
しかし闇の中でお洒落に光る床やテーブルの座席で
供される変てこりんな料理は、
後輩のハりーさんが作るものに比べるといまいちで、
しかもお酒は甘くてよく分からない味がするのでした。
「週末は何してるの?」
「昼寝です」
「趣味とかって何?」
「昼寝」
「いま見てるドラマある?」
「家にテレビはありません」
交わされる会話がまるで禅問答のようで、
ルーピンさんはいつ相手が「そもさん!」
と言い始めるか
ドキドキするのでした。
(余談ですが、ルーピンさんがごくたまに
男性に誘われて食事に出かけると、
ハりーさんは同僚の2人を無理矢理巻き込んで
後をつけて行きます。自分のその行動に何の罪悪感も
疑問もなさそうなハりーさんに、
ハーマイオ二ーさんは一抹の不安を覚えるのでした)


「ジェームズピーターシリウスと遊んでいた感じとは
やっぱり違うんだよねー、せっかく誘ってもらって申し訳ないけど」
「それではまるで合体した一個の生物だ。
お前は奴等を個体認識していないのではないかルーピン」
「あの頃は面白かったなあ……。
あ、もちろん君と話しているのも楽しいよセブルス」
「会話をする気があるのか」
その夜は、日本酒通の間では神殿と呼ばれるほど鋭い品揃えの
知る人ぞ知る店で、ルーピンさんとスネイプさんは飲んでいました。
結局彼女(…)達は、酒の好みも、食べ物を沢山食べられないところも、
そのくせ大酒をするところも、過去の話が好きなところも生理痛がひどいところも
共通しているようです。
仲のいい友達同士になれば話は早いのに、
そうはならないようですね。変ですね。


書くのをつい忘れがちなパラレルOL。
ハりーさんの家には既にルーピンさんの
パジャマと歯ブラシが置かれている状態で、
ハりーさんは「次は下着だ」と
クールに駒を進めている最中のようです。
ハりーさんのように理性と感情が共謀するタイプが
恋愛には一番強いですね。
(ちなみに申し上げておくとハりーさんは女の子です)



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パラレルOL物語20

この季節になるとルーピンさんとセブルスさんはペアになって
得意先の購買部廻りを始めます。
来年度の、どの時期にどんな商品を納入するか
先方と相談するためです。
いつもなら2人で行動する彼女達ですが
今年は見習いということで、ノートパソコンを持ったハリーが
丁稚のように2人の後をついて回りました。
打ち合わせの内容筆記というのは格好だけのこと、
全体の空気や話の流れを覚えておくんだよ、と
ハリーさんはルーピンさんに言われています。
いつもはシャツがスカートからはみ出ているようなルーピンさんも
今日はビシっとした服装をしています。
打合せ室に入り挨拶が済むと、
先方はおおまかな日程表をおずおずと差し出しました。
配られたそれを見てハリーさんは仰天したのですが
まるで有り得ない、夢のように無理な数字がそこにはありました。
先輩はどうするんだろう?と思わず息を呑んで見守っていると
長い沈黙の末、スネイプさんは机に書類を投げます。
「話になりませんな。そんな無茶なスケジュールで納品できる訳がない。
魔法でも使えと仰るのか?残念ながら契約も今年までのようだ。
刑務所でも他国でも、好きなところへ話を持っていかれるといい。
この納期、この品質、このレベルのサポートを維持できる会社があればね」
まるで鞭を装備した女王様のような勢いです。
ハリーさんはよく知っているのですが、
この状態のスネイプさんに反論すると今度はそれを裏付けるデータを
倍ほども聞かされる羽目になります。
初っぱなから取引打ち切りか!?と思われたとき、
眉をハの字にしたルーピンさんがとりなしました。
「まあまあセブルス。先方も困っておいでだよ?
ここは双方歩み寄りということで、どうだろう
そちら様にも生産ラインというものがおありでしょうし
一括納入ではなく必要になる順番で分納ということでは?」
スネイプさんはギラギラ光る目でルーピンさんを睨みました。
取引先の購買部のひとは、自分が睨まれなくてよかったと
さぞや安堵しているであろう迫力のある顔です。
「何を言うかルーピン!送料がかさんで利益が出ないではないか!」
「しかしうちが蹴ってしまっては、他に受けるところはおそらくないよ」
「社長にどう説明するんだ!」
「私がなんとかするから。ここはひとつ」
スネイプさんはバシっと音を立てて鞄を閉じ、
物も言わずに立ち上がりました。
ルーピンさんが非礼を詫びている間に部屋を出て行きます。
ハリーさんもルーピンさんも慌てて後を追いました。

廊下で大喧嘩が始まったら、携帯でマクゴナガル部長に
電話をかけようかどうしようかと迷うハリーさんの目の前で
ルーピンさんはセブルスさんににっこりと笑いかけます。
「名演技」
さっきまでセブルスさんの額にあった青筋は
いつの間にか消えています。
「ふん」
訳が分からなくなって混乱しているハリーさんに気付いて
ルーピンさんは説明しました。
「そのうちに、ハリーとハーマイオニーとロンが
これをやらなくちゃいけないんだからね。
ハーマイオニーがセブルスの役で、
ロンとハリーが私の役かな。気性的に」
「あの……?」
「本気で怒ったと思ったか?先方の出してくる条件は
概ね営業が掴んでいる。
それを検討すれば妥協案は限られてくるではないか。
ただ先方の言うなりでは値下げまで言い出されんからな。
それをいかにこちらに有利な条件で呑ませるかが交渉だ」
そう言ってタクシーを止めるスネイプさんは、
これまでで一番格好良く、輝いて見えました。
それから3人は何社か回ったのですが、
スネイプさんとルーピンさんは状況、状況において
的確に演出と芝居を変え、
最大限に自社の負担が軽くなるような結果をもぎとりました。
ハリーはルーピンさんを好きなのとはまた別の、
この2人の先輩への純粋な尊敬が
湧き上がってくるのを感じました。

しかし。
「ハリー!これリグビー&ペ○○の新作だって!
いくらだと思う!?3万円だよ!」
出張先のホテルで、なぜかハリーさんは
スネイプさんのブラ姿とご対面していました。
「な!馬鹿者!手癖の悪い!通報するぞ!」
「私の何ヶ月分の食費だろう……」
銘酒一升を持ち込んで、女の子のよくやる
自分へのゴホウビ会が始まっていました。
めずらしく陽気に酔ったルーピンさんは
スネイプさんのシルクのパジャマ(持参)のシャツを
景気良くガバーっとめくり挙げました。
えもいわれぬ美しい意匠のブラウン色の下着が
ハリーさんにも見えます。
「貴様もこうしてやる!」
「はい残念でした。スーパーで売ってる男物下着です」
ハリーさんの目は漫画のように飛び出します。
これまたいつもよりは若干酔ったスネイプさんは
怒ってルーピンさんの着ていたホテルのパジャマを
めくり返したのです。
俄かに部屋の中は芸能人水着大会の様相を呈していました。
ハリーさんは自分もブラ姿になって参加すべきか、
ルーピンさんの下着姿をこっそり激写しておくべきか、
ちょっぴり悩みましたがあほらしくなってやめました。
せめてルーピンさんの下着姿をよく見ようとしたのですが
見るのも気の毒なくらい貧乳だったので、
そっと目を逸らしました。

ハリーさんの先輩に対する尊敬の気持ちは
出張先の夜空の星になりました。


セブルスさんの下着が殊の外お好きな方がいらして
シャウトなさりかねない勢いだったので書きました。
神サイトの神マスターさんなのですけど…。

私が「安西先生……えろが読みたいです……」
と言ったら書いてくださったのでお礼です。←私信

全国のOLスキーの方々、楽しんでるかーい!
ホントかーい?
そうかい…?
…………。
だったらいいんだけど。

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パラレルOL物語21

彼等の学生時代を!というリクエストを頂いたので書いてみました。
自主性ゼロのサイトです。

ジェームズは座ってニヤニヤしていました。
いかにも何か悪巧みをしている風の
感じの悪い笑顔でした。
しかしこれは彼の地顔であり、
実は案外まともなことを考えているか、
或いは今晩のおかずは何かなあレベルの
くだらない事を考えているかのどちらかだと
学生のルーピンさんは知っていました。
そしてジェームズは湖のほうを
チラチラと気にしているようにも見えます。
しかしそれは彼のクセであり、
彼は動物園のストレスの溜まった動物のように
いつも落ち着きなく全方向をチラチラ見るのです。
彼は野球のボールを投げてキャッチする遊びをしていました。
5mほど投げ上げて受け止めたり、
新体操のように右腕から肩へ、更に左腕へと転がしたり、
あるいは50回ヘディングに挑戦したりしています。
見せびらかすようでもありましたが、
矢張りそんな意図は彼にはないのです。
ピーターはジェームズを崇拝の眼差しで見ていましたが、
それは彼の趣味なので、他人がとやかく言う筋合いはないでしょう。
シリウスはハンサムでした。前髪が一筋、言いようもなく格好良く
はらりと額にかかっていましたが、
彼の意中の人はあいにく読書中で、
そんなものは見ていませんでした。残念。

そんな4人の前を若き日のスネイプさんが通りかかりました。
両手に一杯荷物を持っています。学校の備品のようです。
学生のスネイプさんも真面目で律儀で融通の利かない人でした。
そして「マイ善悪・マイ規律」>「周囲の空気・他人の感情」
という人でもあったので、あまり好かれてはいませんでした。
ところで唐突ですがジェームズはスネイプさんをちょっと意識していました。
それはジェームズにとって女の子はみな流行の同じ髪型、
同じ制服の着こなし、同じ話題同じ行動をとるので見分けがつかず、
むしろクローンのように見えるのに、
スネイプさんだけはいつどこにいようと
はっきり彼女だと識別できる!という理由です。
これは恋かしら?とジェームズは疑っていました。
するとラブコメのようなタイミングで突風が吹きました。
スネイプさんのスカートがめくれ上がってパンツが見えます。
両手に学校の備品を持っているスネイプさんはスカートを
押さえる事が出来ませんし、真面目な彼女はそれを
地に投げ捨てる事も出来ません。
ジェームズは慌てて野球のボールを放り、
走って行って彼女のスカートを押さえてやろうとしました。
ところがなんとしたことでしょう、
ジェームズの制服の袖口のボタンが、
スネイプさんのスカートの折り返しの縫い目というかヘムに
引っかかってしまったのです!!
ジェームズはパニックになって引っ張りました。
普段は器用な彼ですが、
スネイプさんのパンツがチラついて取れるものも取れません。
「バ……お前……なにやってんだよ!」
親友のピンチにシリウスも駆け出します。
シリウスは女ったらしですが一応フェミ男でもあります。
まあだいたい何が起きるか予測がつくでしょうが
当然シリウスのロレックスの腕時計の竜頭に
がっきりと糸がからまりました。
シリウスはほどこうとして腕を上げます。さあ大変。
「みんな見ろー!うわあ違った!みんな見るなー!」
「馬鹿者どもが!さっさとその汚らわしい手を離せ!」
「俺達はパンツじゃない!いやそうじゃなく!
パンツを見たかったんじゃないぞ!断じて違う」
もう滅茶苦茶です。
しかしジェームズもシリウスも男の子なのです。
その目は初めて間近で見る女の子のパンツに釘付けです。
ロックオンです。弁解に説得力などありません。
女の子のお尻は男より大きい(ように見える)のに、
なぜなぜそのパンツはああもミステリアスに小さいのか!?
なぜあの三角形はこんなにも魅惑的なのか!?
2人の頭はその謎で一杯でした。
そしてスネイプさんの方の事情と言えば
女子ならおそらく誰しも覚えがあるでしょう、
今日履いたら洗濯して捨てよう……と思っていたぱんつを
洗濯してしまったが故にまたうっかり履いてしまうという
悲しい永久輪廻を(男子の人すみません)。
まあその、そんな感じの理由で彼女は
死ぬほどの恥辱を味わっていました。
(余談ですが、いつ如何なるときも勝負下着!という
彼女の現在のポリシーはこのとき生まれました)
なんとなく煙たく思っていたスネイプさんが
スカートめくりの犠牲になっている様が面白かったのでしょうか、
周囲には人が集まり始めました。
ピーターはよく分からないまま歓声をあげています。

混乱はいつまでも続くかと思われたのですが、
すたすたとやってきた1人の少年(えー)、
ジェームズが唯一の好敵手と認める
赤毛のリリーが糸切りバサミでちょきんと解決してくれました。
お裁縫セットを持ち歩いていたリリーの女子間における株は
天井知らずのうなぎのぼり、
ジェームズとシリウスの株は紙くずと化しました。
錯乱しているジェームズはリリーにデートしてくれと申し込み、
スネイプさんはそんなリリー少年にも悪態をつきましたが
リリーはどちらも気にせず行ってしまいました。
彼はマイペースな少年なのです。

その夜、ルーピンさんはジェームズとシリウスに
「自分達はどうしたらいいと思う?」という相談を受けました。
女の子にとってぱんつを見られるというのが
どれほどの事態なのか分からない2人は
とりあえず女子のルーピンさんに相談したのです。
2人は「死んで詫びろと言われたらどうしよう」
と非常に動揺していました。
あの三角形にはそんな価値があってもおかしくないように
思われたのです。
「別にいいんじゃない?セブルスだってきっと気にしてないよ」
しかしルーピンさんの答えは簡単なものでした。
「見られたって減るものじゃないしね」
ルーピンさんの物事の基準は減る減らない、
プラスマイナスで構成されていました。
理系と言えなくもないですね。
その答えを聞いた彼等は安心して眠りについたのですが
シリウスだけは
え?じゃあ俺がぱんつを見せてくれと言ったら
リーマスは見せてくれるのか?

という新たな悩みを抱えました。

むかしにあったお話です。



これを書くために5巻の例のシーンを読み返したら
その日の夜、職場でいじめにあう夢を見たよ(笑)。
何回読んでも陰惨なシーンですね。
私の脳内では↑これだったことにするからもういいよ。

シリウス、ぱんつは見せてもらえると思うから頼んでみなー。



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パラレルOL物語22(特別編)

そういえばスネイプさんは男のリリーに負けてしまうのですね。
先日人様の指摘……というか人様の日記を拝読して気付きました。
なんかこうあのジェームズ(故人)は誰のことも等しく平等に
それでいて真剣に好き好き男なのですが、
リリーだけはジェームズに対して一切リアクションがなくて
彼のことが分からなくて知りたくて知りたくて奮闘しているうちに
なにかそういう関係になってしまったのではないかしらと空想しました。
そういうわけで特別編の、更に特別編です。ジェームズ×リリー。



「ちなみにこれから僕達のする事分かってる?」
「分かっているつもりだけど」
「僕が言うのも変だけど、何でOKな訳?」
「やったことがないから。どんなものかと思って」
「それだけ?!僕に対するモヤモヤとした…
なんかこう、甘酸っぱい、ときめきとかは!?」
「有無を尋ねているのなら、無いね」
「・・・・・・・」
「そのアクションはどういう?」
「僕は傷ついていますというジェスチャ…」
「共感は出来ないけど理解はできる」
「……失礼だけど……君の生い立ちを
そのうち聞かせてもらってもいいかな」
「別に構わないよ。今語ってもいいし」
「今は……たぶんタイミング的に違うだろう」
「ふうん。ところで一応聞いておくけどどうして僕?
いつも一緒にいるあの子らじゃないのはどうして?」
「だって君は僕に興味が無いでしょ?」
「・・・・・・」
「コメントは」
「傷ついていますというジェスチャが返ってくるから控えた」
「ああ、そう……。でも今までと違う関係になったら
もうさすがに僕に無関心ではいられないんじゃないかと思って。
どうだい?そうは思わない?」
「そうかもしれないね。ええと、服を脱ぐ?」
「ちょ……早!キスもしてないのに!」
「順番があるのか?」
「あるよ!とりあえずキスをするから!ええと……」
「何?」
「ちょっと笑って見せてよ。それくらいいいだろう」
「・・・・・・」


リリーの笑顔。
ここでメガネはノックダウン。
ちなみにディスカッション不足で
最初はリリー×ジェームズでした。
メガネ、さらにメロメロ(笑)。
卒業後も5万光年くらい追って
同居にこぎ着けます。
グレート!メガネ。

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パラレルOL物語23

スネイプさんは今夜も残業をしていました。
彼女は(…)義務感により夜食を食べに外出をしましたが
大敗して戻ってきました。
頭では食べなければならないと分かっているのですが
ヒートアイランド現象で灼熱地獄と化した夜道を
歩くだけで彼女の食欲はひゅるひゅると減退するのでした。
プリンとコーヒーという妙な組み合わせの食事をして
それでも「自分は卵を食べたのだ」と己を慰撫しつつ
穂具和津株式会社に戻ると、
出るときは点けたままにしておいた筈の8階の照明が
全部消えていました。
ハンドバッグの中に入れておいたスタンガンを
ぬかりなく取り出して、スネイプさんは社内に入ります。
胸が貧相で表情の険悪な女スパイみたいでした。

フロアのドアを開けると、中は静まり返っていて
人の気配はありません。匂いもしません。
先刻は意識が朦朧としていて、自分で照明を消したのを
忘れたのだろうかと電気のスイッチに近付いた時、
スネイプさんは妙なものと遭遇しました。
床の上30センチばかりの所に1対の目が光っています。
海外旅行に行ったときに見学したナイトサファリと、
田舎の夜道で散歩中に見たタヌキを彼女は思い出しました。
しかし都会のど真ん中にある穂具和津株式会社に
タヌキが出る訳ありません。スネイプさんは電気を点けました。
それはパジャマにハラマキといういでたちで、
いままさに机の下にもぐりこもうとしているルーピンさんでした。
ばっちりレジャーマットが敷いてあって寝る準備は万全のようです。
ルーピンさんはスネイプさんの目をじっと見ながら、
こそこそと机の下にもぐりました。
「ルーピン!!」
「これは夢だよ〜セブルス〜」
「その格好は何だ!?いや、貴様会社で寝て…?
いや、いつからこんな!?」
「そんな馬鹿な事する人なんていやしないよ〜。だから夢だ〜」
「ともかく出ろ!コピーのトナーを上からふりかけるぞ!」
「……嫌な発想だなあ…分かった。出る」

パジャマのまま自分の席に座ったルーピンさんは
あっさり事情を説明しました。
彼女は予想最低気温の高そうな日は、家に帰らず
周囲の本屋などで時間を潰して誰もいなくなった会社に戻り
そして冷房の恩恵にあやかりながらぐっすりねむっていたようです。
「うちの会社、冷房切られないからね」
「……一体いつからこんな事を……」
「3年前。社長には話しているし、守衛さんには挨拶してるよ?」
「社長のお優しさは常識を超越している!」
「帰ったと思ったら食事に行ってたんだね君」
「お前と違って地位相応の仕事が−−−」
「君がやった方が何でもそりゃ完璧だろうけど、
不出来でも部下に任せるようにしないと、体を壊すよ?」
「な!!!」
「なんちゃって。私は休むけど気にしないでくれ。
仕事が終わったら普通に警備装置をオンにして帰っていいよ」
「・・・・・・」
「それとも手伝おうか?」
「いらん」
「おやすみ」
「……あっ」
机の下にもぐろうとしていたルーピンさんは、
スネイプさんが小さな声をあげたので、また出てきました。
「なに?」
うっかり声を上げてしまったのでしょう、
気まずそうにスネイプさんは答えます。
「……いま、花火が上がった」
スネイプさんが見ている方向の窓を、
ルーピンさんは振り返ったのですが
胃腸薬の看板と夜空がが見えるばかりでした。
「たしかにあっちは河原がある方角だけど」
「・・・・・・」
「花火大会なんかあったっけ?」
「・・・・・・」
2人はしばらく無言で花火を待ちました。
「……まあ、あれだ。今まさに終わった所なのかも」
「……見間違いをしたと思っているだろう。違うぞ」
「いや、そんな事は思ってないよ」
「確かに見た!花火だった!」
こういう場合、軽く「見間違いだったよー」と言ってしまえば
簡単なのに、スネイプさんは如何なる時にも絶対その手の言葉を口にしません
たとえ口が裂けても、たとえ牛裂きにされてもです。
そのあたりにこだわりの無いルーピンさんには不思議な事でした。
必死の形相のスネイプさんの為にも
花火が上がらないかなあと、ぼんやり思っていると、
ビルの群れのちょっと上に
申し訳程度の小さな花火が開きました。
音のない小さな光は、パチンコ屋のネオンと見間違えそうな程
ささやかなものでしたが、それは確かに花火でした。
「見たな!?確かに見たな!?」
「うん。見たよ。花火だねえ」
安堵で小鼻を膨らませているスネイプさんを見ながら、
ルーピンさんは「この人は学生時代からちっとも変わらないなあ」
と思いました。自分の事を棚に上げて。
「今年の夏も終わりだね」
そう言って一人頷くと、
ルーピンさんは射的の的のようにサッと机の下に姿を消しました。
タイミングを失ってスネイプさんはルーピンさんに
帰れという説教をし損ねました。いつものことですけど。

しばらくすると虫の声ならぬ
ルーピンさんの寝息が聞こえ始めました。
仕方がないのでそれをBGMに、スネイプさんは22時まで残業しました。


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パラレルOL物語24


この時期になると、ルーピンさん達の所属する営業部は
徐々に異様な雰囲気になってゆきます。
仕事の追い込みもあるのですが、
「今月は18回忘年会があるよ」
「いやあ私などは血圧が200を越えてしまってね」
「昨日は10万使ったなあ」
などと、妙に嬉しそうな顔で
職員達は愚痴をこぼし、ふらふらと歩きます。
午前中欠席する者も多いようです。
そう、12月こそは営業の総仕上げ。
接待したりされたりのカオスがサンタと共にやってくる月です。

「3軒目、4軒目まで長引いて
高いボトルなどねだられては予算オーバーだ。
この店で敵を一気に潰す」
いま敵って言わなかったか?この人。
とハリーさんはスネイプさんを見上げました。
今日はスネイプさん、ルーピンさん、そしてハリーさんの3人で
接待忘年会です。ハリーさんは見習いの立場ですが
いつもよりお化粧をきちんとして、
髪もお洒落に巻いています(天然であっちこっち巻いているのですが)。
連日午前様らしい先輩2人の顔はさすがに疲労の色が濃く、
さきほども化粧室で2人並んで
ガハーっと胃薬を飲んでいたようです。
「自分に合った胃薬を見つけるのが接待道の第一歩だよ」
ルーピンさんは大真面目にそう語りました。
しかし酒席に出ると2人の様子は劇的に変わり、
彼女達(……)の表情は完璧な笑顔になって
声も1段高くなりました。
ガンマンの撃ち合いのように素早くお酌合戦が始まります。
ハリーさんは慣れないもので、ビール瓶を持ったまま
あわあわとしました。
こちらうちの新人です、と紹介されると
名刺とコップが次々に差し出され、手が8本あっても足りません。
まずは、ということで乾杯があり、その3秒後には
席の大半の人のコップは空になっていました。
  2センチしか減っていないコップを持って
固まってしまったハリーさんの前で再びお酌の銃撃戦です。
ハリーさんについて尋ねられたのと
仕事の話を振られたのが同時で、
なおかつ目の前にいる如何にも偉い人の
グラスが空いたのでお酌をと思うのですが、
何もかもを同時にはできません。
「ハリー君ぜんぜん飲んでないじゃないか!」
と言われたのですが、そもそも開始して4分です。
会話とお酌が精一杯で、とてもお箸を持つまでには至りません。
先輩のほうを見れば、スネイプさんが会話をしている隙に
ルーピンさんが素早く連続でお酌をしています。
しかも彼女達(…)は料理もきちんと手をつけているのです
。 水泳のように、きっと何かコツがあるに違いない、
とハリーさんは思いました。
恐るべきハイスピードで飲んだ彼等は
盛り上がりも急激でした。
はっきり言って学生時代の飲みでも、
ここまでシャカリキではありませんでした。
前に座っている人々が、色調の狂ったテレビの如く
赤くなり始めたのを見て、ハリーさんはいっそ遠い目で
死因が忘年会というひとが実は毎年いるんじゃないか?
と思っていました。
熱燗と焼酎のお湯割りの登場です。
「おやおや〜?おじさん達が隣の人の肩を
笑いながらバシバシ猛烈に叩き始めましたよ?
でも心配ありません。これはこの動物特有の親愛の儀式です。
痣になるかもしれませんが、酔いが冷めたら本人は忘れてます」
と動物番組系のナレーションがハリーさんの頭で始まります。
油断していたハリーさんの眼鏡が、ひょいと奪われました。
「眼鏡がないほうが可愛いんじゃないかな?」
得意先の偉い人が
手を伸ばしてハリーさんの眼鏡を取ったのです。
ここはお礼を言って照れるのが正しい反応だと 
頭では分かってるハリーさんですが
しかし彼女は会社でこそ大人しくしていますが
実はなかなかの癇癪もちです。
折れた割り箸を口につっこんで
グーで殴ってやろうかとハリーさんが考えたとき
「ああ、本当だ」
ルーピンさんがハリーさんの頬を両手で包んで
ぐい、と自分のほうに寄せました。
「眼鏡がないのも可愛いねえ」
ルーピンさんの吐息がハリーさんにかかります。
得意先の偉い人は
「仲が良いんだね」
と、感心したような気が抜けたような変な顔で言いました。
「うちの社員はみな仲良しなんですよ。先輩後輩は特に」
ルーピンさんはハリーさんを抱きしめて頭を寄せます。
得意先の若手からは「いいねいいねー」と大声が上がりました。
ハリーさんは捕獲されたフェレットのように不審な挙動で
思考停止しています。
ルーピンさんがとても柔らかかったせいです。
いえ、胴体は硬いのですが、なぜか頭が柔らかいのです。
発想が柔軟という意味ではなく、
頭蓋骨の代わりにウレタンが使われているような柔らかさでした。
ハリーさんは今のこの状態を写メりたい!切実に!
ああ誰か撮ってー!撮ってー!と現実を忘れて
ハーマイオニーさんとロンさんをテレパシーで呼びました。
もちろん通じませんでしたけどね。

「どうして彼等はこんなにもお酒が好きなんでしょう」
「酔っているこの世界こそが本当のように思えるからじゃないかな」
ベロベロに酔っ払った得意先の人をタクシーに押し込んで
ダメ押しの二次会の店の場所を運転手さんに伝えると、
スネイプさんは自分達のタクシーを止める為に
夜空を切り裂くシャープさで手を上げました。
「風景がいつもよりちょっとだけキラキラして見えて、
人もちょっとだけ普段より優しそうで、
嫌な事は思い出せなくなって、
冗談もいつもより面白く聞こえるじゃないか」
ルーピンさんは、よいしょよいしょとおばあさんのするように
タクシーに乗り込みながら、ハリーに話します。
「ちょっとインディアンの友愛の儀式みたいだね。
知ってるかな?煙草を回し飲みするんだよハリー」
ルーピンさんは、これまで見た中で一番優しい顔をして笑いました。
「それから彼等の使用していた幻覚サボテンは
現在でも違法じゃないんだよフフフ」
「ルーピン先輩?」
ルーピンさんは酔っているのでしょうか。
この人は酔っ払うと優しい顔になるんだな…と思うと
なんとなく頬の赤くなるハリーさんです。
酔いのせいもあるのでしょうけれど。
「こいつはこの状態になってからの先が長い。まだ2,3本は飲むぞ」
吐き捨てるようにスネイプさんが言います。
彼女(…)の顔色は冴え冴えと白く、
言動も普段と何ら変わるところはありませんでした。
「そう言えばセブルスが酔っているところを最近見ないね」
「当たり前だ。酔ったら酒の味が分からなくなるではないか」
「お酒は酔ってあげないと可哀想だよ」
「ポッター」
「は?はい!」
ぼんやり2人のやりとりを聞いていたハリーさんは
慌ててスネイプさんに向き直ります。
「気分はどうだ」
「フワフワしてます。ちょっと酔っているかも」
「うつむいてみろポッター。床は上下しているか?」
「……いいえ」
「ではまだ大丈夫だ」
イエッサー!と言いたくなるような軍隊口調でしたが
しかしなんとなくハリーさんは安心をしました。
まだまだ未経験な事の多い社会人生活ですが
この2人の先輩がいてくれたら、全然大丈夫のような気がするし
それどころか楽しくすらあるかもしれないぞ、と。
ハリーさんはタクシーの中から見える
光るお菓子のようなネオンを見ながらそう考えました。


3人は接待を無事終えました。
深夜2時のタクシーの中、スネイプさんの膝を枕にして
安らかに目を閉じたルーピンさんとハリーさんは寝ています。
もう2人とも酔いが冷めるまで意識が戻りそうもないので
スネイプさんが自分の部屋に連れ帰ってあげるしかないようです。
腕組みをして憮然としている彼女の後ろで
ジェームズの霊が「あれ?この子、僕に似てなくなくない?」
と騒いでいます。
なぜかジェームズは頭に
トナカイの角とサンタの帽子を付けていました。
幽霊のくせに季節イベントには敏感なようです。
  そういえばお盆には茄子が、
10月にはカボチャが頭の上に載っていました。
「そっちの世界にもハ●ズがあるのか?」と聞きたかったのですが
でもスネイプさんは黙っていました。

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パラレルOL物語25

女性の方なら大概お困りだと思うのですが、
梅雨時になると髪がボワワーってなって本当に大変ですよね。
ドライヤーでブローしても、ヘアアイロンで伸ばしても
外に出て湿気を含むとあらふしぎ。
怒ったネコのような、ボワボワ頭の出来上がりです。

ここ穂具和津株式会社のOLのみなさんも例外ではなく
ハーマイオニーさんやロンさんは
ワックスやスタイリング剤で奮闘しています。
カット、カラー、ヘアエステ、デジタルパーマ、
すべてこうきゅうサロンで指名のスタイリストがいるスネイプさんも、
梅雨にはてこずります。
(というかそれでも尚油っぽくウネウネしている髪は
スネイプさん7不思議のうちの1つです)
ハリーさんに至っては、「かぶりもの?」と錯覚させるほどの爆発ぶりです。
どんなに頑張ってセットしても、会社に着く頃には元通りなのです。
そんなある日の朝、
出勤したルーピンさんを見た会社の者は皆、
青ざめて言葉を失いました。
穂具和津株式会社の者だけではなく、通勤途中の
近所の人も電車の中の人も皆見ていたのですが
ルーピンさんは気付いていなかったようですね。
なんでもいつも安くで散髪してくれていた
近所の床屋さんが高齢を理由に閉店してしまって
困ったルーピンさんは自分で髪を切ってみたらしいのです。
ハリーさんはうめくように
「これから斬首されるひとが、
首切り役人に適当に刈られたみたいです」
と言いましたし、
ハーマイオニーさんも
「まるで社内で酷いいじめがあるみたい」
と複雑な表情でした。
中でも一番顕著に反応したのはスネイプさんでした。
「皮膚病の犬!……」
と愕然とした後で一言だけ言い、
それ以上何も嫌味が出てこなかったくらいです。
ルーピンさんはあまり器用な人ではありませんでした。

みな動揺を押し隠して仕事を始めるのですが
来る客来る客全員が、スネイプさん、ハリーさん、ルーピンさんの頭を見て
ぎょっとした顔をします。
変な頭のOLが働くコントのようにしか見えないのでしょうね。
たまりかねたスネイプさんが、
お昼休みにルーピンさんの頭にスカーフを巻いてみたのですが
なにかこう寮母さんのようになって、へんちくりん度は変わらないのでした。
ルーピンさんはのんびり「夜中にお礼に行かないとね」とか言っていました。
意味がわからず、その場では皆ハハハと笑って流したのですが
「笠地蔵ねたの発言か!」と会社から帰って、就寝前になってから
ハリーさんは気付いたのでした。

梅雨が明ける頃にはきっと、
ハリーさんの頭もスネイプさんの頭も
ルーピンさんの頭も元に戻っていることでしょう。
穂具和津株式会社に早く夏が来るといいですね。


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パラレルOL物語26



ハリーさん、ハーマイオニーさん、ロンさんのファッションは
課の忘年会のときよりも気合が入っています。
髪もおしゃれにくるくる巻いてあって(ハリーさんはいつもの1割増し巻いてます)
手首や足首や髪に小さなアクセサリーが光っています。
ルーピンさんは後輩達を見て目を細め
「きれいだねえ、クリスマスみたいだねえ」とひとしきり感心しました。
ルーピンさんの言葉通り、メタルメッシュのバッグや、ビーズのバッグ
模造真珠、ラインストーン、フェイクファー、パール入りのお化粧で飾られた彼女達は
クリスマスツリーのオーナメントのようです。
そしてルーピンさんの隣にいるスネイプさんの胸には
本物以外では在り得ない重厚感を放つ宝石が揺れています。
もちろん衣装も宝石と吊り合いの取れた高級品です。
さしずめ彼女(……)はツリーの頂点を飾る星、といったところでしょうか。
カラスに狙われないといいですね。
今日はハリーさん達の企画した仲良し女の子忘年会なのでした。
ハリーさん達後輩組の馴染みの小さなフードバーを借り切って
5人だけの気楽なパーティーです。

まず最初は後輩達3人から、お世話になっている先輩2人に
少し遅いクリスマスプレゼントが贈られます。
スネイプさんへは磁気入りのインナーキャミソール。
ルーピンさんへは電子レンジで使用するタイプの湯たんぽです。
説明書きを見て、ちょっと残念そうな顔になったルーピンさんに
(たぶん家に電子レンジがないとかそういう理由でしょうね)
すかさずハリーさんはにこにことフォローをしました。
「電子レンジなら、いつでもうちのを使いに来てください」
恋の諸葛孔明ここにありです。
こんな企画があろうとは思っていなかった先輩2名は
プレゼントなど用意してこなかったと、
めずらしくしどろもどろで礼を言いました。
「見ての通り高価なものではありませんから!感謝の気持ちです!」
と3人の後輩は声を揃えて答えます。
そこへタイミングよくマスターが綺麗な紫色をしたカクテルを運んできてくれました。
ハーマイオニーさんが説明をします。
「これは、マスターに我侭を言って作ってもらいました、
スネイプ先輩をイメージしたオリジナルカクテルです!
ジンと、クレーム・ド・バイオレットと、ひみつのフルーツを使っているそうです。
浮かんでいるのは菫の花びらの砂糖漬けですって。
もちろんあとでルーピン先輩のカクテルも出てきますが、
乾杯はスネイプ先輩のカクテルで!
今年一年、お二方には色々とお世話になりました。
尊敬する先輩お二人の健康を祈って!乾杯!」
「かんぱーい」と元気一杯の唱和があって
5人はグラスを掲げました。
ルーピンさんはカクテルを感心して眺めています。
スネイプさんはペースを乱されがちのようで
二三度何事かを言いかけて止め、その後カクテルを口に含みました。



オレンジや黄色や赤色、色とりどりの具材を載せたカナッペや
揚げたてのごぼう&にんじんチップス、
れんこんとセロリとタコの暖かいイタリア風サラダ、
パリパリのほうれんそうとマッシュルームとベーコンのサラダ、
山芋の熱いサラダ、
蒸し鶏とキュウリのサラダ、
キャベツのオープンオムレツ、
湯気のあがっておいしそうな料理が次々と運ばれてきます。
忘年会ラッシュで胃を傷めている先輩を気遣ってか
野菜が中心のメニューなのでした。
「もちろん先輩のお好きな日本酒も用意してあります」
とロンさんが言ったので、
スネイプさんは心配になって、会費は足りているのかと
こっそりハーマイオニーさんに囁きました。
彼女が答えたところによると、なんでも総務に友達がいるそうで、
お歳暮で社に届いた一番上等の日本酒を横流ししてもらったとのことでした。
さすがですね。

次はポッキーゲームで、
器用なハリーさんはくじに細工して自分とルーピンさんが
組になるようにバッチリ企んでいたのですが
なぜかルーピンさんとスネイプさんが組になってしまい
彼女は用意してあったポッキーをうっかり落としたふりをして
箱ごと踏み折ってしまいました。
ロンさんが大声を上げ、ハーマイオニーさんが笑います。
紫色のカクテルが思いのほかおいしくて、3人はもう陽気になっています。
ロンさん曰く「ちょっと先輩の説教みたいな味がする…」とのことです。
でも後味は意外に甘く、もう一杯飲みたくなるカクテルでした。
ハーマイオニーさんはスネイプさんにカラオケのデュエットを申し込み
返事も待たずに腕を取ってモニタの前へ引っ張ってゆきます。
(スネイプさんはもちろん歌も鬼上手く、レパートリーは無限です)
そこからしばらくはカラオケ大会になりました。
歌われている歌がさっぱり分からず、
「また紅白を見ないといけないあ」とルーピンさんは呟きます。
家にテレビがないのに、どこで見るつもりでしょうね。




後輩3人は元気よく合唱しています。明るい曲、明るい歌声でした。
テーブルで見ているルーピンさんへ、ハリーさんが大きく手を振り
ルーピンさんも片手をあげて応じます。
スネイプさんはいつのものように、
会社の収益が1割も減ったような顔をしていますが
しかし今夜の彼女の気持ちは表情と逆であると
ルーピンさんは気付いています。
「ルーピン。大人なら自分の管理をしろ」
並んで腰掛けたスネイプさんが突然そう言った時も
ルーピンさんは知っていました。彼女は今日は特別気分が良くて、
だから彼女なりの親切をしているのだと。
「貴様の自暴自棄な生活態度は見ていて虫唾が走る。
もっと目的意識を持ってちゃんと生きろ」
見ればスネイプさんのグラスは空になっていました。
ルーピンさんはマスターを目で呼び止めて2つのグラスを
指差しお辞儀をします。新しい紫色のお酒が注がれました。
「だって私はシリウスが出てくるまで待たないと」
予想していた答えだったのか、スネイプさんは素早く軽蔑の表情を作ります。
「奴を殺すのか?まだそんな事を」
「私は口にしたら必ず実行する。その為ならどんな手も使うし何でもするけど
それ以外はどうでもいいよ。君だって知っているだろう?」
「一度しか言わないからよく聞け」
「?」
「我輩はもう忘れた。貴様も奴の事など忘れるといい」
「ありがとうセブルス」
「違う。礼を言うな」
「私はたぶん君のことも一生好きだと思う」
「嫌がらせか?悪趣味だぞ」
「でもね。例え私が彼等を忘れたとしても、
君はそれが出来ない人だ。忘れてなどいないだろう。違うかい?」
スネイプさんは聞こえなかったのか返事をしませんでした。
なにしろハリーさん達の歌声はとても元気がよくて大きかったのです。

「なんの話をしてるんですかー」
語尾が笑い声になった後輩3人が子犬のように一塊になって
テーブルに駆けつけてきました。
スネイプさんは「行儀が悪い!パンツが見えているぞウィーズリー!」と
小言をいい(ちなみに見せパンだったのですが)、
ルーピンさんは3人があまりに犬めいているので
一人ずつ彼等の頭を撫でてやりました。
「深刻そうですけど!悩み相談ですか?恋愛ですか?」
とハリーさんが誘導しようとし、
天然のロンさんが
「そういえば2人とも好きな人っているんですかー?」
とぶちかましました。
ルーピンさんが虚を突かれた風に笑顔ではなくなり
スネイプさんの眉間には、くっきりと皺がよりました。
それを見たハーマイオニーさんとハリーさんの酔いは
滝の如く足元から冷めてゆき、
しかしロンさんだけがくすくす笑っていました。


「3年目の浮気を歌うぞルーピン」
凍りついた空気の中、スネイプさんがそう宣言して
ルーピンさんの腕を取りました。
「あっ、その後でピンクレディーを一緒に歌って下さいルーピン先輩」
「ほらマイクだ。さっさと取れ」
多方面から声が掛けられ、ルーピンさんはあちこちに頷き
一瞬の呪縛は解けたのでした。
ハーマイオニーさんはロンさんの耳を嫌というほど引っ張って
彼女に悲鳴を上げさせました。
先輩2人による「3年目の浮気」は形容し難いほど壮絶で、
その地獄のメロディーは2008年の後輩3人の夢に時折鳴り響きました。

それから後も
「マスターによるタロット占い」や
「目隠しして握手し、相手を当てるゲーム」や
「かぶりものをして写メ大会」などで大いに盛り上がり、
(黒猫の耳をつけたスネイプさんを激写したハーマイオニーさんの携帯を、
奪ってメモリ消去しようとしたスネイプさんが
ハーマイオニーさんが自分の胸の谷間に携帯を隠してしまったため、
目的を果たせなかったあたりが盛り上がり最高潮でした)
(スネイプさんは人間相手で触ったり触られたりするのが苦手のようです)
(もちろんハリーさんの待ち受けはその日から変わりました)
(女の子忘年会、かわいいですね)
最後はラム酒とメロンリキュールとバナナジュースを使った
ライトグリーンのカクテル「リーマス・ルーピン」で乾杯です。
最後の音頭はスネイプさんで、
彼女(……)は出土した般若の面のような顔をして
「……今日は楽しかった。後輩3人の成長を願って乾杯」
と、小さな声でそう言いました。
ぱちぱちと可愛らしい拍手がありました。
カクテルは、飲んだか飲んでないかよく分からないような寝ぼけた、
でも優しい味がしました。

後輩達を地下鉄の入口まで送り、
ルーピンさんとスネイプさんは特に相談することもなく
繁華街の方向へ取って返していました。
「ハーマイオニー、トナカイの角をつけたまま電車に乗ってったね」
「食べ物のおいしいお店だったなあ」
「楽しかったね」
などとルーピンさんは言い、
スネイプさんは
「そうだな」
と、その都度返事をしました。
最後にルーピンさんが「2軒目は『春鹿』でいいよね」
と尋ね、スネイプさんが何かを答えたようです。
そのまま2人の姿は雑踏の中にまぎれ、
やがて見えなくなってしまいました。


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