みなさんおひさしぶりです。
秋子です。

最近、あゆちゃんが前よりもかわいくなったように見えるのはどうしてかしら。
うふふ、女の子は恋をすると綺麗になるっていうけど、もしかしたらあゆちゃんも、祐一さん以外に好きな人が出来たとか。
でも、ちょっと悩み事もありそうなのよね。
何かあったらしいのだけど、祐一さんも何も言わないし。
けど、若いうちは色々あるものよね。
私も昔は・・・。

ふふ、こんなおばさんの昔話なんて聞いてもつまらないでしょう。

若いうちの苦労は買ってでもするもの。
あゆちゃんもたくさん悩んで、後悔しない答えを出すべきね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紫苑―SHION―
〜Kanon the next story〜

 

第五十二章 仲直り大作戦

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瑞葉じゃ。

まさかわしのことを皆忘れておらんじゃろうな。
といっても、人間如きに憶えてもらわんでもいいがな。
ついこの間近くで騒ぎがあったが、人間同士の小競り合いなぞわしには関係のないことじゃ。

じゃが・・・。

「・・・・・」

それ以来こやつがよく来る。

東雲紫苑。

色々と興味をそそられる奴ではあり、前からよくここには来るのじゃが。
最近はほとんど一日中ここで寝ておる。
以前ならばもっとあちこちを歩き回っておったはずじゃのに。

「なにかあったか? 紫苑」

「・・・特に」

これじゃ。
こやつがはぐらかすなど珍しい。

「・・・・・」

「・・・・・」

・・・・・退屈じゃ。

いつもならばこうしてぼーっとしておってもおもしろいこともあるが、今は空気が重いわい。
本当に何があったのやら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何があったのやら。

ってのは事情を知らない連中の共通の思いだろうな。
紫苑とあゆは特別仲がいいとわけでもないが、さりとて仲が悪いわけでもなし。
それが最近では互いに避けているようなのだから。

「ねぇ、祐一。あゆちゃん、何かあったの?」

同居しているゆえに、代表格として名雪があゆの変化に気付いている。
もちろん秋子さんも気付いているのだろうが、こちらは特に何も言ってこない。
気にかけているのはもっぱら名雪だ。

「この間一緒に商店街に行ったけど、いつもは五つのたいやきを三つしか食べなかったんだよ」

「そうか」

「わたしなんか三つ食べたいイチゴサンデーを我慢して二つしか食べてないのに」

「・・・そうか」

こいつの物事の判断基準は食い物しかないのか・・・。
名雪らしいと言えば名雪らしいのだが。

「紫苑さんも最近全然家に来ないし」

「・・・・・」

「原因は祐一?」

「いや、俺じゃない」

俺は今回の一件では傍観者の一人に過ぎなかったからな。
とは言え、当事者のことを名雪は知らないのだから、どう話したものやら。

「・・・・・あやしい」

「あやしいのはおまえだ」

なんなんだ、こいつのこの格好は。

けろぴー?

いや、全身けろぴーだし・・・。

着ぐるみ・・・なのか?

「わたし、何か変?」

「思い切りな」

「じゃあ、まだ駄目かな〜?」

「何をしてるんだ?」

「けろぴー?」

「いや、訊かれても・・・」

「役になりきる練習をしてるんだよ」

「は?」

「また暇になったらね、劇に出ないかって言うから、今から役になりきる練習をしてるんだよ。でも、けろぴーになりきれてないんじゃ、まだまだだね」

「・・・・・」

「違和感があっちゃいけないんだよ」

そんなことを言いながら名雪は部屋に戻っていった。
けろぴーで違和感がなくなったらそれはそれで怖いぞ。
つーか・・・。

「あやしいのはけろぴーそのものなんだよ・・・」

そもそもなんでけろぴー?

あいつ受験大丈夫か?
それに劇って、あれからあとも斎藤と会ってるんだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけで、パーティーを開くことにしたわ」

「・・・・・先輩、一体どういうわけかもわからないし、何のパーティーなのかもさっぱりだ」

唐突に呼び出しを食らって集まってみれば、開口一番朱鷺先輩がそんなことを言い出した。
もちろん俺だけでなく、他の面々、名雪、香里、栞、綾香、天野らも同じ気持ちだ。

「まぁ、先輩が突拍子もないことを言い出すのは慣れているからいいとして、せめて順序だてて説明してくれ」

「それくらいわかんないと、受験落ちるぞ、祐一ちゃん」

「・・・受験生の前で落ちるとかいう言葉使うなよ・・・」

「もうすぐ冬だし、スキーとかスケートってのも面白いかもね」

「聞けよ、人の話」

「要は何でもいいのよ。何かイベントやれば」

・・・・・・・ああ、そういうことか。

「あの二人のことね」

「そゆこと」

「あの二人とは?」

事情をまったく知らない天野が尋ねてくる。

「あゆと紫苑だ」

細かい事情は省いたが、俺は名雪、香里、天野らにとある原因であの二人の間がギクシャクしている旨を伝えた。そして先輩の言うパーティーというのは、二人の仲を皆で取り持とうという企画なわけだ。
もちろん反対する者もいない。
しかし・・・。

「祐一さん」

先輩を中心にパーティーの企画を立てている皆に聞こえないよう、小声で栞が俺に話し掛けてくる。

「どした?」

「あの二人の問題って、外野の私達がどうこうやってどうなるものでもないんじゃありませんか?」

「俺もそう思う」

男を挟んでの三角関係・・・なんて簡単なもんじゃない。
根本的な二人の物事に対する考え方の対立から生じてる問題だからな。
いつものようにどんちゃん騒ぎをして収まりもしないだろうが。

「ま、気分の問題だ」

「それもそうですね。二人が話せる場を設けるだけでも価値はありますし」

「そういうことだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

企画が立てば先輩の行動は早い。
話をしてから三日後の日曜にはもうパーティーだった。
ひさびさにずらり勢ぞろいだ。
そうなれば飲めや歌えの大騒ぎ必定。

「けろ〜 けろ〜」

名雪がけろぴー芸を披露すれば、

「「あぅーっ」」

真琴と正司が狐妖術で対向する。
てか、妖術の向こう張る名雪の芸って一体・・・。

「あははー、みなさんどんどん食べてくださいねー」

「・・・・・」

佐祐理さんが新作の料理やお菓子を振る舞い、舞は片っ端から食べていく。
今回の企画を中心になって進めたのが先輩をはじめ、佐祐理さん、舞、すみれさん達だったらしく、料理は全て佐祐理さんすみれさんによって作られている。
ゆえに秋子さんは暇しており、天野と談笑している。
やはり精神年齢が・・・。

「「♪〜」」

どこから出てきたのか、カラオケセットが部屋には置かれており、マイクは先ほどから美坂姉妹が放さない。

「紫苑勝負!」

乱入してきた鮫島は一瞬で退場させられた。

ちなみに、北川斎藤久瀬の男衆は今回のパーティーには呼ばれていない。

で、肝心の紫苑とあゆだが・・・。

「・・・・・」

「・・・・・」

紫苑はいつものことだが、あゆも先ほどからほとんど喋らない。
周りが話し掛ければ応えもするのだが、自分達からは何もしようとしない。

そして、今回のパーティーの趣旨を忘れた連中が果てしなく騒ぎを続けている。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ふぅ」

いつの間にか振舞われていた酒に酔って、俺は外の空気を吸っていた。
中ではへべれけになった奴らが今まで以上に騒ぎ散らしている。
まったく保護者がいながら何故こうなる・・・。

「ん?」

ふと、庭に誰かの気配を感じて、俺は咄嗟に身を隠す。
何故身を隠す必要があったのかわからなかったが、こういう時の俺の勘はわりと当たる。
思ったとおり、庭にいたのは紫苑とあゆだった。

「・・・・・」

「・・・・・」

相変わらず、互いに目を合わそうとしない。
ただ、二人してここにいるということは、お互い意識しあってはいるのだろう。
何かきっかけがあれば話もするだろうが・・・。
二人とも割りと意地を張りそうだからな。

けど、俺が思っていた以上に、紫苑もあゆも大人だった。

「・・・とりあえず、殴ったことは謝るわ」

「・・・うん」

「けど、あたしは自分の考えを曲げるつもりはない」

「・・・・・・」

「鬼と化した者を野放しにすることは出来ない。あれを捨て置けば、多くの命が間違いなく失われる。力の管理者として、それを容認するわけにはいかない」

「・・・・・・」

「納得しろとも理解しろとも言わないわ。けどこれが、東雲紫苑のあり方よ」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

それからはまたしばらく二人とも黙ったままだった。
少し経ってから、今度話し始めたのはあゆの方だった。

「やっぱり、納得も出来ないし、理解も出来ないよ」

「・・・・・・そう」

「でもボクは・・・・・・紫苑さんのあり方は嫌いだけど、紫苑さんは好きだから」

「・・・・・・」

「みんなにも心配かけちゃってるし、もう仲直りしようよ」

「・・・そうね。変な意地を張ってたかもしれないわね」

「ボクからも、言いたいこと言ってもいいかな」

「・・・・・・」

「紫苑さんと一緒。ボクも自分が間違ってたとは思わないよ。炎君に死んでほしくはなかった。たとえそれでたくさんの人が死んじゃうとしても・・・・・・勝手な考えだけど、それでもボクは炎君を助けたかったんだ」

「・・・その思いを否定する気はないわ。受け入れることはないだろうけど」

「・・・・・・」

「それでも・・・・・・あたしもあゆのことが好きだから」

「うんっ」

二人は向き合う。
もうすっかりわだかまりは消えたように、あゆは満面の笑顔、紫苑はいつもと変わらないが明らかに胸のつかえが取れた表情をしている。

「・・・次に同じことがあっても、あたしは炎を殺すわよ」

「その時は、またボクが止めるよ」

端から聞けば物騒な会話だが、漂う空気は穏やかだった。

 

 

 

居間に戻ると・・・。

「うらーっ、みんな飲んでるーっ!?」

「あははーあははーあははーあははーっ!!!」

「ぐす・・・私は暗い・・・・・・ぐすぐす」

「これしきで酔っ払って、みなさんまだまだ弱いですね。酔い覚ましに誰かドライブに付き合いませんかー?」

「よいですか真琴、正司、そもそも日本人というものは・・・・・・くどくど云々」

「あぅ〜・・・ぎもぢばるい・・・・・・」

「あぅ〜ぅ〜♪」

「・・・・・・くー」

「・・・まったくこの子は・・・飲むだけ飲んで、さっさと寝やがって・・・・・・しおり〜、こっち来て酌をしなさい」

「わ、私は栞さんじゃありません〜」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「・・・まぁ、半ば予測できたことだが、なんだこの有り様は」

「見たとおりですよ」

全員完璧に酔っ払っている。
朱鷺先輩はいつにも増してハイテンションだし、佐祐理さんは笑いまくり、舞は泣きまくり、すみれさんは何故か壁に向かって話しているし、美汐は誰にともなく説教をし、正司は潰れ、真琴は踊り、名雪は寝、香里は栞と間違えて綾香に絡んでいる。
おそらく早めに退避したらしい栞の判断は正しいが・・・。

「おまえも少しは飲んだろうに、割と強いな」

「お姉ちゃんと飲み比べしたらまず勝ちますよ」

「したのかよ?」

「いいえ」

このままここにいても巻き込まれるだけだな。
そもそもこいつら、既にこのパーティーの趣旨を忘れてるだろ。

「どうしたの? 二人ともドアのところで」

「・・・・・・」

後ろから現れたのは、庭から戻ってきたあゆと紫苑だった。
さて、ここにまだ素面の四人がいる。

「了承」

「そして何故か横には笑顔の秋子さんが財布を持って立っている」

「誰に向かって喋ってるんですか?」

「気にするな。で、何が了承なんすか?」

「ですから、まだ無事な四人で二次会に行かれてはどうかと思いまして。はい、祐一さん」

手渡されたのは諭吉さん一枚。
今度絵柄が変わってもやっぱり諭吉さんなお札だ。
もはや何も言うまい。
俺は三人の顔を順番に見て周る。

栞、あゆ、紫苑。

「・・・行くか」

「そうですね」

「うん、行こうっ」

「・・・・・・」

 

とりあえず、一件落着、ってところか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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