外伝を含めると十三回。
俺達がテレビに登場していたのと同じだけの長さがあった夏休みが終わり、今日から新学期。
高校三年生である俺達にとってはいよいよ苦しい時期に入るわけだ。
色んな連中に引っ張りまわされて、夏休みは結局かなり遊んでしまった気がする。
別にいい大学に行こうなんて思ってないが、どこにも入れないじゃ困るからな、これからはしっかり受験勉強に勤しまなければ。

「よし名雪、さっそく勉強会でもするか」

「あ、ごめん祐一。わたし文化祭の出し物の準備しないと」

「・・・・・お・の・れ・は〜」

「う〜、なにするの〜?」

俺以上に勉強してないくせにやたら呑気にしているこいつがむかついて思わずこめかみを押さえつけてしまった。

「はーい、先につこーねー」

なんて事をやってると四分の遅刻で朱鷺先生が入ってきてHRになる。

「ま、色々あるけど、とりあえず目先の文化祭に向けてみんな頑張りましょー」

「おのれもかーっ!!?」

・・・いや、わかってたけどね・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紫苑―SHION―
〜Kanon the next story〜

 

第四十三章 演劇部初公演?・・その一

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「祐一は文化祭、何するの?」

「知らん。俺は部活にも入ってないし。クラスで出し物とかはないのか?」

「うん、うちの学校、体育祭はクラス対向だけど、文化祭は自主参加なんだよ。大抵は部活動が出し物やるんだけど、生徒会の許可もらえば個人とか部活じゃない団体でも何かやっていいんだよ」

高校というよりは大学の学園祭みたいだな。
自由参加との事だが、俺には特に何かをする予定もないし、アテもない。

「北川、おまえはどうするんだ?」

この場に集まっているのは俺と名雪と北川の三人。
お馴染みの美坂グループなのだが、肝心の香里はいない。
それはさておき、俺と同じで部活の類に入っていない北川の方針を聞いてみる。

「俺か?俺も別に予定はないな。どっかから助っ人頼まれたらやるってくらいか」

「助っ人なんかやるのか」

「ああ、結構あるんだぜ。人数の少ない部活が中のいいやつ集めて大きなイベント企画したりとか。基本的に常識の範囲内でなら何でもありだから、なかなか盛り上がるんだな、これが」

ますますもって大学みたいだ。
しかし助っ人と言っても、俺には別に部活をやってる親しい奴がそうそういるわけじゃない。
やっぱり見る方専門になりそうだな。

 

 

 

「たーのーむー、久瀬ー!」

 

「何だ?」

切羽詰った奇妙な叫び声と、聞き知った名前が聞こえたので俺達は一斉に振り向く。
見れば確かに久瀬と、それに泣き付いている男子生徒がいた。
三年生らしいが、知らない顔なので、仮に生徒Aとしておこう。

 

「後生だ〜!」

「・・・君も大概しつこいね。理由は何度も説明しただろう」

「そこをなんとか・・・」

「だから、問題を改善できたら検討すると言っている。僕は忙しいんだ、とりあえず放してくれ」

「嗚呼・・・!」

 

久瀬の方はやんわり手を放させたつもりだろうが、生徒Aの方は振りほどかれた様に大袈裟に崩れ落ちた。
それを見て久瀬は、やれやれといった風情で頭を抑えながら廊下の向こうへ消えていった。
やがて周りの生徒達は関心を失って各々に行動し始める。
俺はというと、北川と名雪が生徒Aのところみ寄っていったのでついていった。

「おーい、大丈夫かー?」

「・・・・・ああ、北川か・・・。あまり大丈夫じゃないかもしれない・・・」

顔を上げた生徒Aは北川の顔を確認すると、再び力なく項垂れる。

「とりあえず何があったのか話してみろよ。知らない仲じゃないし、もしかしたら力になれるかもしれないぜ」

「・・・・・そうだな・・・。実は・・・俺が演劇部なのは知ってるよな」

「ああ」

「一年の頃からずっとだ・・・。だが、俺のいる演劇部はこれまで一度も公演をした事がないんだ・・・」

「ああ、そうだったな」

「俺なんか演劇部があった事自体初耳だし」

「うわぁああああ!!!!」

「お、落ち着けって」

・・・もしかして俺、これは言っちゃいけなかったのか?
窓の外に向かって絶叫している生徒Aを北川が宥めている。

「・・・それで、今度の文化祭を最後のチャンスと思い、演劇部の全てを込めて公演をしようと思ったんだ」

落ち着いてから話が再開する。
だがここまで来ればまぁ、聞かなくてもおおよその事情はわかる。

「で、生徒会に掛け合ってみて、駄目って事になったんだろ」

「ああ・・・、色々言ってたが、要するに、地味だから駄目だ、って事だ・・・」

「まぁ、おまえは地味だからなぁ」

「や、やっぱりそうかぁ・・・。俺もそうは思ってるんだ・・・。それでどうしてか、演劇部には同じ様に地味な奴らがほとんどで・・・。相沢や北川みたいな派手な奴はいないんだ・・・」

誰が派手だ、誰が。
派手なのは俺じゃなくて周りの連中だろうが。
ていうか、こいつ俺の事知ってるのか?
俺は記憶にないぞ。

「そういえばさ、さっきから思ってたんだけど」

「どうしたの?祐一」

「こいつ、誰?」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「うがぁああああああああああああああ!!!!!!!!」

「お、落ち着け斎藤!相沢はこういう奴なんだって、おまえも知ってるだろ!」

斎藤?
誰だっけ?
どちらにしても傷つけたようだ。

「二年の時一緒のクラスだった斎藤高志君だよ。・・・何度も教えたのに・・・」

「少しでも話さないでいると忘れるんだよ」

そもそも俺は斎藤と話した記憶が少しだってない。
何故か俺がクラスメートの名前を忘れると決まって引き合いに出されてたのがそういえばこいつだった。
そういうどうでもいい事は憶えてるんだよな。

「あんた達、何廊下で騒いでるのよ?」

と、呆れた声で話し掛けてきたのは香里だった。
それに誰よりも早く反応したのは俺でも北川でもなく、斎藤だった。

「申し訳ない!部長!やっぱり駄目だった!」

「「部長?」」

俺と北川の声が重なる。
話の流れから行くと、香里が演劇部の部長、って事か?

「初耳だ」

「俺もだ」

「うん、わたしもはじめて知ったよ」

「ったく」

ぽかっ

「てっ・・・」

「秘密にしてたのに、どうしてくれるのよ?」

「すまん・・・」

香里に叩かれてますますへこむ斎藤。
明らかな上下関係が見て取れる。

「ま、別にどうでもいいんだけど、その様子だとやっぱり駄目出しだったみたいね」

「・・・ああ」

同じ演劇部との事だが、斎藤がこの世の終わりみたいな落ち込み方をしているのに対し、香里はいたって落ち着いている。

「ところで美坂、こいつの話だといまいち要領を得ないんだが、何で公演が出来ないんだ?」

「役者がいないのよ」

「「「役者?」」」

三人同時におうむ返しに聞く。
役者のいない演劇部ってどんな部だ?

「つまり、あたしは演出、斎藤君は監督兼脚本、他の部員も小道具とか大道具とか、とにかく裏方ばかりが専門なのよ」

「でもそんなの、裏方でも役くらいやればいいじゃないか、掛け持ちで」

「試した事はあるわ」

「それで?」

「・・・みじめだったわ」

遠くを見詰めるような目で香里が言う。
一体どんな劇になったんだ?
答えは斎藤が代わりに出してくれた。

「・・・俺も含めて、みんなこれでもかってくらい大根役者なんだ。舞台に上がると緊張する奴ばっかりだし・・・美坂以外はまともな演技が出来ない・・・いや、演技と呼ぶのもおこがましい出来だった・・・」

そんなにひどかったのか。
確かに、どんなに素晴らしい脚本や演出があっても、役者が駄目じゃ劇にはならないよな。
どっちかっていうと、話がつまらなくても役者のお陰で人気が取れるっていうのが世の摂理だし。

「仕方ないからやっぱり諦めましょ、斎藤君。何も今出来なくたって、いずれ機会は訪れるものよ」

「だ、駄目だ・・・!今何も出来なかったら俺は自身を失ってしまう!たとえ失敗するとしても、くいの残らない舞台を作りたいんだっ」

意気込みは大したものだな。
斎藤が監督や脚本家としてどの程度なのかは知らないが、情熱だけは人一倍あるらしい。
けど役者がいないんじゃやっぱりどうにもならないよな。

「ねぇ、祐一」

「ん?」

「なんとかしてあげられないかな?」

「なんとかって、何がだ?」

「だから、演劇部が公演出来る様に、祐一の悪知恵を貸してあげなよ」

「・・・それは褒め言葉なのか?それとも逆なのか?」

なんだよ、悪知恵って。
まるで俺がいつも何か突拍子もない事をしてるみたいじゃないか。
冗談じゃないぞ、朱鷺先輩じゃあるまいし。

「ほ、本当か、相沢?何か知恵を貸してくれるのか?」

「いや、あのな・・・」

「祐一、ふぁいとっ、だよ」

「相沢、俺からも頼む。なんかないか?」

「だから・・・・・」

助けを求めて香里の方に視線を送るが、気付かぬ振りをされてしまった。
俺にどうしろと言うんだ?

「と、とりあえず、もう一度生徒会と話をしてみるってのはどうだ?」

言ってから、しまった、と思ったがもう遅かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・君とはどうも変な縁ばかりがあるな」

「俺もそう思う」

場所は変わって生徒会室。
舞の一件以来だな、ここに来るのは。
あまり顔を合わせたい相手じゃないんだが、周りから背中を押されて仕方なく来ている。

「まぁ、この顔ぶれなら用件はわかると思うが、どうだ?」

「それなら君も事情はわかってるんだろう。講堂を使いたがっている団体はたくさんいるんだ、こちらとしてもやはりそれなりに見せられる企画でないと使用許可は与えられない」

だろうな。
講堂っていうのは、前に舞踏会もあったあそこの事だろ。
確かにあそこなら色んなイベントが出来そうだ。

「台本は見せてもらっている。決して悪くはないと思うが、演じる人間がそれなりに優秀でなければ、劇としてはなりたたないだろう」

「だ、そうだ」

「うがぁあああああああ!!!」

「落ち着け斎藤!」

「やかましいわ」

どすっ

「ぐほっ・・・」

香里の肘内により、斎藤撃沈。
気持ちはわからないでもないが、こればっかりは俺もどう言っていいのか。

「・・・あの・・・」

「・・・・・天野、頼むからいつの間にか隣りに立っているのはやめてくれ」

「最初からいましたが」

存在感が薄いんだよ。

「何も言う必要はないみたいですね」

「待て、悪かった天野。何か意見があるなら遠慮なく言ってくれ」

後ろからの期待の視線が痛いんだ。
とにかくもう少し粘らないと俺の立場がない。
知恵を貸してくれ、天野。

「・・・はぁ、仕方ないですね」

「何かな?天野君」

「はい。オーディションをやってみてはどうかと思いまして」

「オーディション?」

っていうと、あれか。
アイドル選考とか、そういった類の事をやるあれ。

「海外の学校では、役者を希望者の中から選んで公演をするというのはしばしばあるそうです。部内に役者がいないのでしたら、生徒の中から募ってみてはどうでしょう?」

なるほど、つまりはさっき北川が言ってたみたいな助っ人だな。
何も部内の人間だけでやる必要はないわけだ。

「おもしろそうね。そういうのは一回やってみたかったわ」

どうやら香里も乗り気のようだ。
斎藤は・・・まだノビてるか。

「そういう事ならいいかしら?生徒会長」

「何をするかはそちらの自由だよ。それなりの形になったら一度見せてくれ。まだしばらくなら講堂の時間枠を空けておける」

「ありがとう。じゃ、早速行くわよ、斎藤君。さっさと起きなさい」

げしっげしっ

おまえが撃墜したんだろうが、おまえが。
蹴られている斎藤も哀れだな。
あれが北川ならまだ愛があるようにも見えるが、相手が斎藤だとまったく容赦がないように見える。

「言い出しっぺなんだから、相沢君にも手伝ってもらうわよ」

「へいへい・・・・・ってなぬっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。
膳は急げという事で、さっそくオーディション開催。
しかし、既に文化祭まで一ヶ月強。大半の生徒は何に参加するが決めているらしく、なかなか人が集まらない。
そんな中、何故か集まってきたのはこいつらだ。

「祐一さんとお姉ちゃんのピンチと聞いてやってまいりました」

「私、演劇ってやった事ないですけど・・・興味はありますから」

「いざ、楽しまん!」

あんたは生徒じゃないだろう。

「いいじゃない、臨時の顧問って事で」

オーディションなんて言ってみたものの、人はまったく集まらず。
強制的に昨日あの場にいた俺、北川、名雪の三人も参加する事になった。
北川と名雪は最初からやる気だったみたいだが。

「なんで俺まで・・・」

「まぁ、いいじゃないか。これだけいればとりあえず形にはなるんじゃないか?」

「演劇に関しては素人がほとんどだろ。これじゃ演劇部の連中がやるのと大して変わらんと思うが」

「いや、素材が段違いだ。演技力は仕込めばなんとかなる!」

たったこれだけの人数でも集まってくれた人間がいたので、斎藤は嬉しいらしい。
大いに張り切っている。

「仕方ない。やるだけやってみるか」

「さっそく役決めオーディションを開始するぞー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブロロロロロロ・・・ドキュゥゥゥン・・・・・キキィー!!!

「はい、到着しましたよー」

「・・・・・」

「それにしても、まず学校の方に来るなんて・・・ぬふふ」

「・・・・・」

「ふふっ、それじゃ、私は先に向こうに行ってますね。荷物も持っていかないといけませんし。遅くなってもいいですから、ちゃんと顔出してくださいよ」

「・・・・・ん」

「それでは、ひさしぶりなんですから、楽しんできてくださいねー」

ブゥンヴゥン・・・ドシュゥゥゥン・・・・・ブロロロロロロ!!!!!

「・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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