Kanon Fantasia

第二部

 

 

第19話 救援者

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

モストウェイ 「死の呪いが小娘の命を奪うまで、五日といったところかのぅ。運がよければ七日くらいもつかもしれんのぅ」

佐祐理 「ぅ・・・ぅぅ・・・・・・」

舞 「さゆりっ、さゆり!」

祐一 「このクソジジイ・・・!」

苦しむ佐祐理、取り乱す舞、憤る祐一。
それら全てを高みから眺めながら、モストウェイは満足げに笑う。

モストウェイ 「ひょーっひょっひょっひょっひょ、いいのぅ、いいのぅ、その表情。最高じゃよ」

祐一 「・・・すればいい・・・」

モストウェイ 「ん〜?」

祐一 「どうすれば佐祐理さんを助けられるっ!?」

モストウェイ 「そうじゃのぅ・・・わしを殺せばどうにかなるかもしれんのぅ」

 

?? 「なら、そうするまでです」

モストウェイ 「む!?」

真上に気配を感じて、振り返る間もなくモストウェイは叩き落される。
態勢を立て直したところに横合いから攻撃を受けた。
何とかして空間移動で回避する。

モストウェイ 「ふぅ・・・まったく、ガレスもミスティアも不甲斐無いのぅ」

攻撃を仕掛けてきた二人を見据えながら、仲間の二人を嘲笑うように言う。

音夢 「・・・・・・」

レイリス 「・・・・・・」

祐一 「音夢! レイリス!」

あゆ 「ボクだっているよ」

前方に音夢とレイリス。
後方にはあゆで、モストウェイは完全に包囲されていた。
もっとも、物理的な包囲など空間移動を持つ魔族には何の意味もなさないのだが。

モストウェイ 「ひょっひょっひょっひょ」

あゆ 「何がおかしいのっ!」

モストウェイ 「ひょっひょ・・・どうやってわしを倒すつもりじゃ、お主ら」

余裕の表情で周囲を見回すモストウェイ。

モストウェイ 「見たところ、もうまともに戦えるのは天使の小娘だけじゃろう。レイリス、お主はミスティアに受けた傷のせいで立っているのがやっとのはず」

レイリス 「・・・・・・」

モストウェイ 「光の剣の小僧も、そっちの小娘も息が上がっておるしのぅ」

祐一 「ちっ・・・」

音夢 「・・・ふぅ・・・」

アルテミスノヴァを撃つために大量の魔力を扱った祐一の体は限界に来ていた。
音夢も、ガレスとの戦いの後で体力が落ちている。
同等以上の敵をもう一体相手をするのは無理そうだった。

モストウェイ 「天使の小娘一人では、わしは倒せんぞ」

あゆ 「うぐぅ・・・」

打つ手なし。
しかし、モストウェイを倒せなければ、呪いの効力で佐祐理は死ぬ。

モストウェイ 「逃げてもいいんじゃぞ。今ならば逃してやらんでもない」

祐一 「冗談じゃねぇ。てめえから佐祐理さんの呪いの解き方聞くまで逃げられるかよ」

モストウェイ 「そうか。じゃがわしも、ちと若いもんに付き合うのには疲れた。続きはこいつとやるがいい」

地面に向かってモストウェイは魔力を放つ。
魔法陣が浮かび上がり、そこから大型の魔獣が浮かび出てくる。

音夢 「うそ・・・」

祐一 「また魔獣かよ!」

モストウェイ 「グランザムやガナッツォほどの奴ではないが、死に損ないの相手には丁度いいじゃろう」

魔獣 「グォオオオオオオオ!!!!」

召喚された魔獣が咆哮する。
確かに覇王城でのグランザムや、不死身の魔獣ガナッツォと比べればプレッシャーは低いが、それでも地上の魔物とは比べ物にならない力を秘めている魔界の獣である。
万全の態勢ならばどうにかなるかもしれない相手でも、現状では相当にきつい。

あゆ 「こんなのボクが・・・!」

モストウェイ 「ひょっひょ、天使の嬢ちゃんは、わしが相手をしてやろう」

あゆ 「うぐぅ・・・」

唯一戦力として残っているあゆはモストウェイに封じられている。
残ったメンバーは全員十分に戦える状態ではない。

祐一 「この・・・」

レイリス 「お下がりください、祐一様。ここは私が」

祐一 「馬鹿言うな! おまえだってひどい怪我だろうが」

レイリス 「仮にも魔族の血を引くこの私、この程度の傷で倒れはしません」

祐一 「だからってな・・・」

音夢 「相沢君」

祐一 「?」

音夢 「私とレイリスさんとで少しの間なら魔獣を抑えられると思います。その間に少しでも力を溜めて、一撃で倒してください」

祐一 「けど・・・」

音夢 「今は他に手はありませんっ」

音夢とレイリスには大技を放つ体力は残っていない。
祐一も同じことだったが、無理をすればできないこともなかった。
ならば、必然的にそれぞれの役目は決まってくる。

祐一 「・・・・・・一分・・・いや三十秒だ」

普段なら一瞬で溜められる魔力も、今の状態ではそれくらいかかるだろう。
しかも、一回が限度。

音夢 「わかりました」

レイリス 「・・・・・・」

二人は互いに頷きあって飛び出す。
すぐさま祐一は魔力を集め直す。
弱々しくなっていたデュランダルの刃が再び輝きを取り戻していく。

音夢 「鬼さん、こちら」

魔獣 「グルルルルル」

レイリス 「こちらです」

魔獣 「ガァッウッ!」

左右に動いて撹乱してくる二人に向かって吠え掛かる魔獣。
だが、すぐに祐一の方に反応する。

魔獣 「グォオオオオオオオオ!!!!」

危険を感じ取ったか、音夢とレイリスの二人を無視して祐一目掛けて魔力のブレスを吐きかける。

音夢 「ハァッ!」

セレスティアを使った音夢の一撃がブレスの軌道をそらす。
すぐ横を通っていったブレスを意に介さず、祐一は力を溜め続ける。

魔獣 「グルルルルルル」

続けて攻撃しようとする魔獣の顔に、レイリスが斬りかかる。
全力の一撃には程遠いが、顔となれば多少は通じる。

魔獣 「グァウッ!」

祐一 「よしっ、行くぜ!」

力を溜めた祐一は真っ直ぐ魔獣に向かって突撃する。

魔獣 「ガァアアアアア!!」

祐一 「おぉらぁっ!!」

袈裟懸けに斬りかかる。
まずは一撃。
そこからさらに剣を返して反対からの一撃。
続けて何度も剣を振るう。

祐一 「光刃連撃!」

多少威力を抑えて手数で勝負する光刃閃の派生技である。
十数発の剣撃と繰り出し後、最後の振り下ろしと同時に地面から光が撒きあがる。

祐一 「光皇天翔!!」

光の爆発で魔獣の体が浮き上がる。

祐一 「とどめだ!」

最後の一撃を加えるべく剣を振りかぶったが、魔獣はそこから反撃に転じてきた。
全身から魔力を爆発させるようにして放出したのだ。
全方位攻撃のため、一点集中すれば突破できなくはなかったが、祐一は残った魔力の全てを防御に使った。
止めなければ、防御する術のない他の皆がまともに魔力波を受けることになっていた。

祐一 「ぐ・・・!」

抑えきれたものの、祐一自身は大きくダメージを受け、魔力も尽きた。
もう新たに魔力を集めるだけの体力がない。
魔獣の方は多少のダメージを受けていたが、まだ健在だった。

音夢 「・・・ここまでなの・・・?」

レイリス 「(せめて・・・祐一様だけでも・・・)」

祐一 「くそぉ・・・!」

結局誰一人守れずに終わるのかと思うと、悔しさのあまり祐一は歯軋りする。

祐一 「・・・まだだ・・・!」

ここで倒れるわけにはいかない。
倒れれば、本当に誰も守ることはできない。
体力も魔力も残っていないが、それでも倒れることだけはできなかった。

 

あゆ 「! 祐一君っ!」

モストウェイ 「ひょっひょ、あの小僧、死んだかのぅ」

立っているのがやっとの状態で魔獣の前に立ちふさがる祐一。
あゆはモストウェイとの戦いから動けない。
魔獣の一撃が、祐一を狙っていた。

モストウェイ 「終わりじゃ」

あゆ 「祐一君っ!」

レイリス 「祐一様っ!」

音夢 「相沢君っ!」

舞 「! 祐一ッ!」

誰もが絶望を覚えかけた、その時・・・。

 

 

 

 

ズゴォオオオオオオオオオッッッッ!!!!!!!

 

 

 

天より一条の雷が降り注ぎ、魔獣の体を飲み込む。

魔獣 「グギャァアアアアアアアアア・・・・・・!!!!!!」

遠くから見ればただの一条。
しかし魔獣を丸々飲み込むほどの巨大な雷は、一瞬にしてその身を塵一つ残さずに消滅させた。

モストウェイ 「な、なんじゃとっ!?」

あまりに突然の出来事に、勝利を確信していたモストウェイの顔が驚愕に彩られる。

 

?? 「私のかわいい息子に手を出すなんて、いい度胸してるわね」

雷が落ちた場所に立っている女性が魔族に向かって言葉を投げかける。
新手に登場に、緩みかけていたモストウェイに緊張感が戻る。
長い年月を生きてきた者が持つ勘が、この女は危険と告げていた。

モストウェイ 「何者じゃ?」

?? 「青嵐の大魔導師、相沢夏海。特別に教えておいてあげるから、あの世で自慢しなさい、この私に倒されたことを」

モストウェイ 「また人間風情が偉そうな口を・・・ぐぼぉっ!」

何か見えない力を真上から受け、モストウェイの体が地面に叩き付けられる。

モストウェイ 「な、何を・・・!?」

夏海 「圧縮した空気を叩き付けただけよ。風や雷は私の一番得意な魔法だからね」

モストウェイ 「ぐ・・・」

老魔族は得体の知れないものを見るような目で夏海を睨みつける。
人間でありながら、上位魔族である自分にプレッシャーを与えてくるこいつは一体何者なのか。
そして、正体不明の強敵と予備知識もなしにやりあうほど、モストウェイは馬鹿ではない。

モストウェイ 「(ここは退くとしよう)」

夏海 「逃すと思ってるの?」

モストウェイ 「逃げるわい」

消え去ろうとしたモストウェイは、夏海の放った別の魔法によってそれを防がれる。

モストウェイ 「ちっ」

しかし老練の魔族はそれでも慌てず、あゆの後ろに回りこんでその体を夏海に向かって突き出す。

あゆ 「わっ、わぁっ」

夏海 「賢しい真似を・・・!」

モストウェイ 「年季が違うわ。相沢夏海と言ったな、覚えておくぞぃ!」

最初に出てきた時のような煙を発生させて、モストウェイは逃走した。
一度は追おうと身を構えた夏海だったが、すぐに無駄と思ってやめた。

夏海 「逃したか。ま、いいか」

祐一 「よくねぇ! あの野郎には呪いの解き方を聞かなきゃならなかったんだよ!」

助けられた礼を言うのも忘れ、祐一は夏海に食って掛かる。

夏海 「呪い?」

訝しげな顔をした夏海は、ざっと見回して祐一達の状況を把握すると、佐祐理のもとに歩み寄った。

夏海 「・・・・・・」

傍らにしゃがみこんで様子を見る。

夏海 「・・・なるほどね・・・。じゃあ、怪我人だらけみたいだし、あそこにでも行くか」

祐一 「あそこ?」

夏海 「あなたもよく知ってる場所よ、祐一」

 

 

 

 

 

 

 

 

転移魔法でやってきた場所は、サーガイア魔法学院だった。

夏海 「カタリナ、怪我人と病人がいるんだけど、部屋貸して」

突然現れて、あまりにぶしつけな物言いをする夏海に少しだけ驚いたものの、カタリナ学院長はすぐさま部屋を用意して怪我人達を運び込ませた。

カタリナ 「とりあえず、みなさんベッドに寝かせてください。倉田さんはこちらへ・・・」

即座に一人だけ様子が違うことに気付いたカタリナが佐祐理だけを離れた場所に寝かせる。

カタリナ 「これは・・・死の呪いの類ですね」

祐一 「わかりますか?」

カタリナ 「ええ、なんとか」

夏海 「アレ使えば、解呪法わかるでしょ」

カタリナ 「そうしましょう。一先ず、怪我人の方々の治療から・・・」

 

?? 「それなんだけどさ〜、こっちも怪我人だらけなんだけど、まだスペースある?」

扉の方から別の声。
全員が振り返ると、ドアのところに莢迦がいた。

祐一・夏海 「莢迦!?」

しかも、服がぼろぼろになっている。
傷は見当たらないが、莢迦はすぐに自己治癒してしまうため、実際にはあったのかもしれない。

カタリナ 「莢迦さん・・・怪我人はどれほど?」

莢迦 「私もいれて軽傷三、重傷三、おまけ一」

カタリナ 「わかりました。軽傷二、重傷三ですね」

莢迦 「うわ、さりげなくひどっ」

みちる 「んにゅ〜、そんなことより美凪がぁ〜!」

莢迦 「うん、とりあえず美凪が最優先かな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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