Kanon Fantasia

第二部

 

 

第18話 死の呪い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐一 「舞! 美春! 佐祐理さん!」

呼びかけに対して舞は顔を上げ、美春も僅かに反応する。
どちらもまだ生きてはいる。

祐一 「あいつの仕業か!」

新たな魔族と向き合っている佐祐理の下へ急ぐ。
一対一での戦闘で、佐祐理は防戦一方になっていた。

祐一 「佐祐理さん!」

佐祐理 「祐一さん、ご無事で何よりです」

祐一 「こいつは任せて、舞や美春の治癒を頼む」

佐祐理 「わかりました。気をつけてください、強敵です」

祐一 「わかってるよ」

今までに遭遇した魔族と言えばレギスのみ。
一度戦い、さらに夏海までも敗れた上位魔族の力はわかっているつもりだった。

モストウェイ 「次は小僧が相手かのぅ?」

祐一 「ああ。覚悟しろ、爺さん」

モストウェイ 「どいつもこいつも生意気な口を聞きおって!」

祐一 「行くぜっ、光翼閃!」

空中に浮かんでいる敵に対して光の刃を飛ばす。
一発目はあっさりかわされるが、最初から当たるとは思っていない。
続けて二発三発と繰り出していく。

モストウェイ 「ちぃっ」

空間移動を繰り返して回避をしているモストウェイだったが、何発目かの刃が僅かに掠った。

モストウェイ 「おのれっ」

次の瞬間、モストウェイの姿は祐一の背後に出現していた。

祐一 「かかったな」

モストウェイ 「む・・・!」

祐一 「光刃閃!」

接近戦こそ祐一の望むところだった。
一見がむしゃらな連続攻撃だったが、それで痺れを切らした相手が降りてくるのが狙い目だっただ。
しかし、寸でのところでモストウェイは空間移動で逃れる。
とはいえ、ノーダメージではなかった。

モストウェイ 「小賢しい真似を」

祐一 「簡単にひっかかってくれたな。魔族ってのは案外まぬけなんじゃないのか?」

正直なところ、今のと同じ戦法を繰り返すのは無理があった。
光翼閃にせよ、光刃閃にせよ、並の敵ならば一撃で倒せるだけの必殺技である以上、それなりの魔力を消耗する。
連続して使いすぎれば、先に息切れするのは祐一の方だった。
何とか挑発に乗ってくれればと思う。

モストウェイ 「・・・・・・ひょっひょっひょ、所詮は人間の浅知恵よのぅ。今ので少々頭が冷えたわ」

落ち着きを取り戻したか、モストウェイは笑みを浮かべながら眼下の祐一を見下ろしている。

モストウェイ 「今度は、こっちから行こうかのぅ」

空中に浮かぶ老魔族の周囲に、無数の魔力の塊が出現する。
蛍の光のような粒だが、一つ一つにかなりの魔力が込められていた。

モストウェイ 「ほれ」

軽く手が振られると、光の粒が一斉に降り注ぐ。

祐一 「げ・・・!」

回避は不可能だった。
デュランダルの光の刃を大きく広げて盾とすることで何とか防ぐ。
だが、雨のような攻撃は留まるところを知らない。

モストウェイ 「いつまでもつかのうぅ?」

祐一 「く・・・」

魔力の大きさでは相手の方が圧倒的に上だった。
祐一は自然に宿る魔力を扱うことで、理論上は無尽蔵に魔力を使い続けられるが、それをやるには体力の方がもたない。
持久戦では、明らかに敵に分がある。

 

モストウェイ 「ひょっひょ・・・・・・む!」

防戦一方の祐一を愉快そうに見下ろしていたモストウェイは、背後の気配を察して体を捻る。

ヒュッ

あゆ 「うぐぅ、惜しい」

モストウェイ 「ほほぅ、天使か」

あゆ 「ボクだっているのを、忘れないでよね」

モストウェイ 「じゃが、所詮子供。敵ではない」

あゆ 「言ってくれるね。なら、試してみなよっ!」

翼を羽ばたかせて、あゆがモストウェイに挑みかかる。
天使と魔族による空中戦が開始された。

 

祐一 「ふぅ・・・」

魔族が標的をあゆに変更したことで、ようやく祐一は一息つけた。
気を取り直して加勢しようとしたが、空間移動を繰り返すモストウェイと、超高速で動き回るあゆの戦いに、地上から介入する術はなかった。

佐祐理 「祐一さん」

祐一 「佐祐理さん、二人は?」

佐祐理 「大丈夫です。舞も美春さんも、動けそうにないですけど、命に別状はありません」

祐一 「そうか」

一先ず安心だった。
問題はやはり、目の前の敵をどう倒すか。
空中戦では、あゆが善戦しているが、魔族を倒すだけの決定打は繰り出せずにいるようだった。

祐一 「なんとか大技を叩き込めれば・・・」

しかし、祐一の大技は接近戦主体である。
空中にいられたのでは使いようがない。

佐祐理 「祐一さん、あれやってみませんか?」

祐一 「あれ・・・・・・マジか?」

佐祐理 「大丈夫です。今はこのシルヴァンボウがありますから、前ほど祐一さんに負担はかけません」

祐一 「・・・そうだな、あれくらいしか一発で決められる技はないか」

返事の代わりに、祐一はデュランダルを地面に突き立てて精神を集中する。
他の全てを頭から除外して、ただ自分を自然の一部として考える。
そうすることが一番魔力を大量に無理なく集めるコツだった。
すぐに膨大な魔力が集まってくる。
それを感じ取って、佐祐理も術の組み立てに入る。

 

モストウェイ 「む?」

あゆ 「余所見してる暇はないよっ」

動きが止まった瞬間を狙ってあゆが突っ込む。
しかし逆に大振りの一撃になったことで、あっさりモストウェイにはかわされた。

モストウェイ 「あれは・・・何の真似じゃ?」

地上に目を向けたモストウェイが怪訝そうにする。
すぐさま、大量の魔力が祐一と佐祐理を中心に集まっているのがわかった。
それは危険だと、モストウェイの長年生きてきた勘が告げていた。

モストウェイ 「いかん! させんわっ!」

あゆの方へ牽制のために数発魔法を放ち、それから大きく力を溜める。
大型の魔力球が生み出され、モストウェイはそれを佐祐理めがけて放った。
魔力を集めている祐一を狙うか、術を使っている佐祐理を狙うかで迷ったが、祐一の方は集めた魔力に攻撃を弾かれる恐れがあったため、佐祐理の方を狙った。

 

佐祐理 「はぇ!?」

術の起動に入っていた佐祐理は回避が間に合わない。
咄嗟に防御の魔法に切り替える暇もなかった。

佐祐理 「・・・!!」

舞 「っ!」

飛んでくる魔力球と佐祐理との間に舞が立ち塞がる。
佐祐理を庇った舞は、魔力球の直撃を受けて倒れる。

佐祐理 「舞ッ!!?」

舞 「佐祐理! 撃って!」

佐祐理 「っ・・・・・・はい!」

祐一が集めた魔力を、神弓シルヴァンボウに込めて、弦を引く。

佐祐理 「あゆさん、離れてください!」

あゆ 「うんっ。これでも喰らいなよっ!」

離れる前に、あゆはセントクルスが起こす光の風でモストウェイの体を包み込む。
僅か間だが、それで魔族の動きは封じられる。

モストウェイ 「!!」

佐祐理 「行きますっ、アルテミスノヴァ!」

バシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ

巨大な光の魔力が魔族目掛けて放たれる。
以前、魔獣グランザムを倒した佐祐理の最強魔法である。
必殺のタイミングで、かわすことは不可能だった。
光の奔流がモストウェイを飲み込んで空の上まで上っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

レイリス 「今のは・・・」

ミスティア 「敵に背中を見せるかっ」

ザシュッ

レイリス 「く・・・!」

空に向かって伸びる光の魔法に一瞬気を取られたレイリスの背中にミスティアの一撃がまともに入る。
しかし同時に、近付いてきたミスティアに対してレイリスの剣も入れられていた。

ミスティア 「ふん、わらわにその程度の攻撃など・・・・・・ぐはぁっ」

効かないと言おうとしたが、思わぬダメージにミスティアが体を折る。

ミスティア 「馬鹿な・・・貴様らの攻撃なぞ、全て影で受けきれるはず・・・」

どれほど攻撃を受けても平然としてミスティアは、実は自分の周囲に常に影を使った結界を施しているのだ。
気付かれないように絶えず修復されているので、攻撃した相手は、攻撃が当たったはずなのにダメージを与えていない錯覚に陥るのだ。

レイリス 「気付きませんでしたか? 先ほどから私が何度も同じ箇所に魔力を送り込んでいたのを」

ミスティア 「何?」

レイリス 「あなたとて、影で攻撃できるわけではありません。影と実態の位置の誤差がわかれば、本体に直接攻撃できます」

ミスティア 「ちっ・・・・・・」

自らの体を省みる。
傷は思ったよりも深く、このまま戦えば相手を殺せたとしても、自分が生き残れるかどうかだった。
口惜しいが、ここは一旦退くべきとミスティアは思った。

ミスティア 「・・・忘れるなよ、レイリス。貴様は、必ずわらわがこの手で消してくれる」

そう言い残して、ミスティアは姿を消した。
三つの巨大な気配のうち一つが、その場から完全になくなった。

レイリス 「・・・祐一様」

背中の傷の痛みを堪えつつ、レイリスは祐一達がいる方へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

ガレス 「・・・・・・」

音夢 「・・・・・・っ」

アルテミスノヴァの光が、一瞬音夢の意識を目前の敵から逸らさせる。
好機と見たガレスは一気に飛び込む。

ガレス 「もらったぁっ!」

音夢 「・・・!!」

だが、少しくらい遅れても、音夢には十分反応することができた。
繰り出されてくる拳を紙一重で避け、その威力が死なないうちに相手の懐に飛び込む。

音夢 「ヤァッ!!」

ドンッ!

相手の攻撃エネルギーと、音夢自身の攻撃エネルギーとの相乗効果で、強烈なカウンターアタックが炸裂する。
衝撃にガレスの体が浮き上がった。

音夢 「美春・・・みんな・・・!」

すぐさま音夢は皆のいる方へ向かおうとするが、尚もガレスは態勢を立て直して攻撃を仕掛ける。

ガレス 「まだまだぁ!」

音夢 「邪魔をしないでっ!」

二度目のカウンター。
一度目は辛うじて視認することのできた攻撃を、ガレスは今度はまったく見ることができなかった。
攻撃をしたと思ったら顔面に強烈な衝撃を受け、気がつけば吹き飛ばされているのは自分の方だった。
仰向けに倒れるガレスを見向きもせずに、音夢は一目散に走っていく。

ガレス 「・・・ふっ、人間にこれほどの者がいるとはな。レギスの言っていたとおりというわけか」

死ぬほどではなかったが、もはやガレスも戦闘不能だった。

ガレス 「おもしろくなってきたわ」

笑みを浮かべながら、ガレスの姿もその場から掻き消えた。
残る気配は、一つ・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

モストウェイ 「・・・ふぅ・・・危なかったわい」

佐祐理 「外した!?」

圧倒的だった魔力がかなり弱まってはいたが、モストウェイは尚も健在だった。
魔獣すら一撃で葬り去った一撃を前に、耐えられるとは思わなかったため、佐祐理達は驚きを隠せない。

モストウェイ 「見事な魔法じゃが、使い手が未熟。まともに喰らえば危なかったがのぅ。しかし、このわしを驚かせたのじゃ、覚悟はできておろうな、小娘」

これまでは、相手を見下していたり、激昂したり、楽しんでいたりといった表情しか浮かべず、余裕の雰囲気だったモストウェイの顔に、はっきりとした怒りと殺気が浮かぶ。
底冷えする視線に射抜かれて、佐祐理のは恐怖に身を竦ませる。
動きの止まった佐祐理の額に、モストウェイの指先が当てられる。

モストウェイ 「―・・・――・・・・・・――」

人間には聞き取れない呪文が唱えられると、モストウェイの指先に一瞬何かの紋様が浮かんで、それが佐祐理の額に吸い込まれていく。

佐祐理 「あ・・・・・・」

全身が硬直し、佐祐理は意識を失ってその場に倒れた。

祐一 「佐祐理さん!?」

舞 「さゆ・・・り・・・!」

祐一 「貴様っ!」

ブゥンッ

祐一の剣が空を斬る。
デュランダルの一撃を受けるよりも早く、モストウェイは再び空中に逃れていた。

祐一 「佐祐理さんに何をした!?」

モストウェイ 「大したことではない、ちょっとした呪いをのぅ」

祐一 「呪いだと!」

モストウェイ 「そう。死にいたる呪いじゃよ。呪いが少しずつその小娘の体を苛み、やがて死ぬ」

祐一 「ふざけるなっ!」

光翼閃の光の刃が飛ぶ。
それをこともなげにモストウェイはかわしてみせる。
再び表情に嘲りが浮かぶ。

モストウェイ 「ひょっひょっひょ、よいぞよいぞ、その表情。怒り、焦り、不安、自責、そうした負の感情は見ていて快感じゃわい」

祐一 「この野郎・・・・・・!」

憤る祐一を見下しながら、魔族モストウェイは下脾た笑い声を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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