Kanon Fantasia

第二部

 

 

第10話 天宮将襲撃

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サジタリアス 「確かに、妙なところで会う」

タウラス 「・・・・・・」

レオ 「これも巡り会わせか」

ライブラ 「迷惑な話だ」

四人の敵。
覇王十二天宮の生き残りである。

祐一 「十二天宮!!」

ライブラ 「その呼び方は正しくはない」

祐一 「何?」

ライブラ 「元来覇王様の直属の配下は我々に後一人を加えた五人のみ。十二天宮などは余興に過ぎぬ」

この場にはたった四人。
数の上から言えば以前よりも少なかったが、その威圧感は以前感じたものを上回っていた。
同じ敵とは思えなかった。

音夢 「何? なんなんですか、あの人達は・・・?」

莢迦 「私達の宿敵、覇王ゼファーに仕える連中だよ。しかも、その中でもトップ中のトップ・・・」

ライブラ 「そう、我らこそ、天宮将。もはや手を抜くような真似はせん」

佐祐理 「今までで手を抜いていたんですか・・・」

舞 「・・・・・・」

前の時点でも十分すぎるほどの強さを持っていたが、それでも全力でなかっとなると・・・。

莢迦 「美凪、被我戦力の差ってどれくらいかな?」

美凪 「・・・莢迦さんと朝倉さんを戦力外とすると、こちらの分が悪いでしょう」

アンデットは一体一体はそれほど強くないが、倒すのに手間取る上、数が多い。
さらにトップレベルの敵が四人。
味方は祐一、佐祐理、舞、美春、美凪、ことり、さくらの七人のみと考えねばならない。
全力で戦ったあとでは莢迦と音夢を戦力として期待はできない。

さくら 「問題ないない♪ むしろピンチは基本ってやつ?」

ことり 「やだなぁ、そういうのは・・・」

明らかに分の悪い状況にありながら、皆それほど動じていない。

祐一 「・・・なぁ、莢迦。おまえの知り合いはみんなこうなのか? それともおまえの能天気が伝染してるのか?」

莢迦 「どっちなんだろうね〜」

かく言う祐一も、割と落ち着いていた。
場慣れしてきたということか、少なくとも莢迦の能天気が伝染したのだとは思いたくなかった。

祐一 「まぁ、いいさ。さっきからおまえにばっかり目立たれてて、俺の立場がない」

祐一がデュランダルを抜いたのに続いて、皆戦闘態勢に入る。

祐一 「行くぜっ!」

それぞれに目標を定めて散って行く。

 

 

ライブラ 「計画のためにあえて力を抑えていたとは言え、貴様に味わわされた屈辱は許し難い。覚悟するがいい、相沢祐一」

祐一 「そうかい。だが生憎、俺も前とは違うぜ」

天宮将ライブラvs祐一。
アザトゥース遺跡以来の対戦である。
武器は、祐一の大剣デュランダルに対し、ライブラは天秤の皿のような二つの盾を手にしている。

祐一 「ハァッ!」

ガキィンッ

先制攻撃を仕掛けたのは祐一。
振り下ろされた剣の一撃は左の盾で防がれる。
すかさず右の盾が動く。

祐一 「!?」

悪寒を感じて、祐一は咄嗟に自らバランスを崩して倒れる。
すぐ頭上を盾が通過して行く。

祐一 「鎖付きかよ」

ライブラ 「よく避けたな」

両腕の盾はただ腕に装着している防御用のものではなく、飛ばして攻撃するための武器でもあった。
鎖で吊るした二つの盾を体の両側で旋回させるライブラ。
距離を取った祐一は相手のリーチを測りかねていた。

祐一 「・・・・・・」

鎖の長さがわからなければ、迂闊に飛び込むのは危険だった。
しかも盾は左右に二つ。

ライブラ 「どうした? 来ないならこちらから行くぞ!」

先に飛んでくるのは左の盾。
下手に受ければ武器か体を絡め取られる。
見切ってかわしても同じこと。

祐一 「ちぃっ!」

防御ができないのならば攻撃あるのみ。
祐一は盾をかまして懐に入り込み、鎖を狙って剣を振るう。

ライブラ 「武器破壊か、させんわ!」

だが、ライブラは巧みに鎖を操って目標を定めさせない。
その隙に右の盾で直接攻撃を仕掛ける。

祐一 「にゃろう!」

同時に背後から最初に投げた左の盾が迫る。

祐一 「光輪閃!」

片足を軸に、剣を水平にして一回転する。
360度オールレンジに向かって光の波紋が広がり、それが左の盾を吹き飛ばした。

ライブラ 「む・・・!」

直撃を避けるため、ライブラも後退せざるを得ない。

祐一 「へっ」

ライブラ 「ちっ・・・」

両の盾を手許に戻したライブラが舌打ちをする。
再び距離を取っての仕切り直しになった。

 

 

 

同時に、舞vsレオも進行中だった。

ギィンッ

両者の剣が激しく打ち合わされる。
武器そのものの攻撃力は舞が上だったが、腕力で勝るレオとの激突はほぼ互角だった。

レオ 「おまえとの対戦は三度目か。最初はまったく話にならなかったものが、二度目はセーブしていた私と互角、今も私と互角。大したものだな」

舞 「・・・そうでもない」

総合的に見て、スピードは舞が勝り、レオがパワーに勝っていた。
剣の腕は五分。
現状ではどちらが上とも言えなかった。

レオ 「どうした? その剣の力を使わないのか?」

舞 「・・・おまえとは、剣だけで戦う。そっちこそ、どうして何も使わない?」

レオ 「! ・・・見抜いていたか」

剣以外の力。
それをあえて二人とも使っていなかった。

レオ 「・・・ふっ、愚問だったな」

舞 「・・・・・・」

レオ 「我々の戦いは、剣以外に決着をつけるものはない」

再び剣と剣とが打ち合わされる。
この戦いは、剣士としての腕と誇りのぶつかり合いだった。

 

 

 

 

天宮将の中で、タウラスとサジタリアスは積極的に戦いに参加してはいなかった。
代わりにアンデットモンスターをけしかけている。
祐一と舞以外の面々がそれを迎え撃つ。

佐祐理 「あははーっ、アンデットの弱点は炎と聖属性、光にもそれなりに弱いんですよね」

アンデット系に物理攻撃は効果が低かった。
痛みを感じない上、腕や頭が落ちても死なないからだ。
倒すためには粉々になるまで砕かなくてはならない。
だが魔法なら、その手間を省ける。

佐祐理 「ライトニングフラッシュ!」

広範囲用光魔法が十数体のゾンビをまとめて塵にする。
もはやこの程度のモンスターは佐祐理の敵ではなかった。
それはつまり、佐祐理以上のレベルを誇る他の面々にとっても同じということだ。

ことり 「死者はあるべき地へ・・・お眠りなさい。レクイエム」

柔らかな歌声がモンスターを包み込む。
優しい光に導かれて、死者の魂が浄化されていく。

さくら 「それじゃあ、ボクも。クリメイション!」

アンデットモンスターの足元から炎が立ち昇り、全てを燃やし尽くしていく。
死者に似つかわしい火葬である。

美凪 「・・・太極図」

羅盤が示すフィールドに侵入したモンスターが全て動きを止め、自壊していく。
太極図の支配するフィールドにおいては、術者よりもレベルの低い者には成す術はない。

美春 「うわ〜、みなさんすごいです。美春も負けていられません! 一斉掃射!」

みちる 「こっちだって・・・んにゃろー!」

雨のような弾丸が降り注ぎ、アンデットを肉片一つ残さず破壊していく。
撃ち漏らし分はみちるが蹴りをくれて倒していく。
見た目一番派手だったが、一番効率が悪かったりしていた。

 

莢迦 「う〜ん、出番ないね」

音夢 「楽はなのはいいですけど」

味方の圧倒的戦力により、休憩中の二人はのんびりと寛ぐことができた。
しかし一つ解せないのは、天宮将達がいまいち本気になっていないように見えることだった。
以前と違い、本来の力を解放しているのは間違いないが、それでも全力とは言い難い。

莢迦 「・・・何を待ってるんだろ?」

音夢 「?・・・・・・何か聞こえない?」

莢迦 「ん?」

耳を澄ますと、地響きのようなものと共に、低い唸り声のようなものが聞こえてくる。
どこかで聞いたような声だった。

莢迦 「まさか・・・」

 

 

大地を突き破って、その巨体が再び姿を現した。

ガナッツォ 「グォオオオオオオオオ!!!!!」

まだ体の一部が再生し切れておらず、全身に体液が付着しているが、ほぼ完全に復活していた。
倒したはずの魔獣ガナッツォである。

 

音夢 「そんな! どうして!?」

莢迦 「なるほどね、連中さっきからずっと見てたんだ。私がフレアプリズンを使う直前に魔獣の体の一部を切り離していたんだね」

魔獣ガナッツォは不死身の魔獣。
僅かな肉片からでもその身を再生することができる驚異の魔獣だ。
だからこそ莢迦は結界でその身を包み、最大の破壊力を誇る魔法を叩き込んだのだった。

莢迦 「私としたことが、迂闊だったよ」

こつんっと拳で頭を叩く。
特に困っているようにも見えず、忘れ物をしました、くらいの態度だった。

莢迦 「思ったとおり、あれも連中が呼び寄せた魔獣みたいだけど、あんなものをどうするつもりだろ?」

音夢 「使役するんじゃないんですか?」

莢迦 「上位魔族でもてこずる魔獣だよ。普通の手段じゃ人間に操ったりできないよ。それに、いくらそこそこ強いと言っても、あれ一匹程度いるいないで覇王軍の強さが変わるほどじゃない。わざわざ私達に遭遇する危険を冒してまで回収にきた理由がわからない」

計画の全容はわからないが、天宮将はずっと力を隠してその計画とやらのために動いてきたのだ。
そう考えると、計画が実行段階に入るまで姿を現すのは考えにくかった。
姿を見せてまで手にする要因が、あの魔獣にはあるということだ。

莢迦 「はて?」

 

 

 

サジタリアス 「大したものだな。尻尾の先数センチを落としただけだったというのに」

僅かな時間にほぼ完全に再生していた。
人間の感覚からすれば、信じられない再生能力だった。

サジタリアス 「なるほど、これなら申し分ない、か。どうするのだ、ライブラ?」

ライブラ 「丁寧に扱え、貴重な存在だ」

魔獣は自らを囲んでいる天宮将の正体を判別できずにいるようだった。
敵意を感じないためか、しきりに首を捻っている。

サジタリアス 「所詮は化け物、知能は低いか。そうでなければ困るがな」

タウラス 「・・・捕えておいた方がいいのではないか?」

サジタリアス 「そうだな。また逃げられると骨だ」

刺激しないよう、サジタリアスの放った矢が魔獣の周囲を囲んでいく。
一つ一つが魔力を帯び、それらが連なって魔獣をその場にとどめる結界の役目を果たす。

 

 

 

ライブラ 「さて、この手で貴様を始末したいところだが、こちらの方が重要だ」

祐一 「逃げるかよ。不利だからって」

二度三度と同じような攻防を繰り返していたが、徐々に祐一がライブラの盾の動きを読み、優勢に立つようになっていた。

ライブラ 「貴様と違って忙しいのだ。そんなに相手をしてほしければ、こいつらでも相手にしていてくれたまえ」

すぅっとライブラが手をかざすと、さらに数百という数のアンデットモンスターが姿を現す。
さすがに洒落にならない数に、皆思わず引き下がる。

祐一 「くそ・・・どっからこんなに・・・」

一体一体は雑魚同然だが、数が揃うと厄介なことこの上ない敵である。
モンスターが一斉に突撃の準備をするように身を乗り出す。

祐一 「来るか?」

それに備えて剣を構える。
だが、いつまで経ってもアンデットの群れが動き出す気配はない。

 

?? 「楽しそうじゃねぇか」

 

祐一 「!!」

莢迦 「!」

赤い筋が何本もアンデットの群れの中に走る。
それが剣の描いた軌跡だと気付けるには、相当にいい目が必要だった。
何十体ものモンスターがまとめて切り刻まれてバラバラになって落ちる。
その後に一人の男が肩に剣を担いで立っていた。

幽 「俺も交ぜろよ」

 

サジタリアス 「お」

タウラス 「・・・千人斬りの幽」

レオ 「来たか」

ライブラ 「まったく、次から次へと・・・」

 

莢迦 「来たね、幽」

音夢 「あれが・・・」

見慣れている者も、はじめて見る者も、一目見ただけで体に震えが走る。
その男の存在感は、それほど大きなものだった。

 

千人斬りの幽。
伝説の死神、四死聖の頂点に立つ男で、地上最強の魔人である。

幽 「さぁ、最初に遊んで欲しいのはどいつだ?」

ライブラ 「ふっ、馬鹿め。アンデットどもは斬られたくらいでは死なん」

悠然と佇む幽の背後から、今し方切り刻まれたばかりのモンスターが襲い掛かる。

幽 「ふん」

だが、幽が手を下すまでもなく、モンスターの群れは一瞬にして凍り付いた。
さらに、今度は黒い筋が無数に走り、全てのモンスターは氷ごと砕け散った。

栞 「なら、跡形もなく消してしまえばいいんですね」

アンデットモンスターを一瞬で屠り、幽の隣りに現れた少女は、肩からストールを羽織り、右手には自身の体以上の大きさがある漆黒の大鎌を手にしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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