Kanon Fantasia

第二部

 

 

第9話 超絶バトル

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

音夢 「いいタイミングで会えました」

莢迦 「何? 逮捕でもする?」

表情だけを見れば、互いに友好的に話しているように見えなくもない。
だが、奥にあるものはまったく正反対だった。

音夢 「まず、聞きたいことがあります。七年前の戦争で、覇王を倒したのはあなた方だと覇王の元手下が言っていました。けれど、そんな話は保安局に一切伝わっていません。一体どちらが真実なのですか?」

莢迦 「そんなことか。保安局なんて大層な名前がついてるけど、所詮は戦後の都合の悪いことを処理するための組織ってことだね」

音夢 「!? どういうことです?」

莢迦 「言ったとおりだけど?」

僅かだが、音夢の表情に怒りの感情が混じりだす。
自分の組織を貶めることは許せなかった。
しかし同時に莢迦の言っていることは、薄々音夢自身感じ始めていたことでもあった。

音夢 「何故・・・」

逡巡した挙句音夢が発した疑問は別のものだった。

音夢 「何故犯罪者であるあなた方が覇王と敵対しているのですか?」

莢迦 「敵の敵が味方とは限らないでしょ。私達はゼファーと敵対してたけど、別に連合軍の味方じゃない。あの時は連合軍の人間も随分殺したし」

音夢 「そんなこともなげに、殺したなんて言葉使わないでください!」

莢迦 「いいでしょ、別に。私達にとっては些細な問題だし」

音夢 「・・・・・・」

まったく悪びれない莢迦の態度に、音夢は唖然とする。
自分の抱いている常識を全て否定されている気分だった。
もっともそれは音夢のみならず、祐一達も常々感じさせられていることだった。

音夢 「・・・ちょ、こんな人野放しにしてていいんですか!?」

錯乱しかけた音夢は莢迦本人ではなく、その周囲の人間に対して食って掛かる。

莢迦 「音夢ちゃんだっけ? 自分の物差しだけで世の中全部計っちゃいけないよ。私達無法者に、あなた達の法は通じない」

音夢 「・・・・・・なら・・・」

また空気が変わる。
緊張感が一気に高まった。

音夢 「とっ捕まえて無理やりにでも法にかけてあげます!」

莢迦 「できる?」

ヒュッ

無遠慮な莢迦の居合が音夢に向けて放たれる。
本人はもちろん寸止めにするつもりだったが・・・。

ピトッ

莢迦 「はれ?」

音夢 「ふぅっ」

ドッ!

抜き放たれた刀身は音夢の手であっさり止められ、横に剣先を払いのけながら懐に入り込んで逆にカウンターの一撃を見舞う。
誰も予想できなかった展開に、皆唖然とする。
胸に痛烈な掌底受けて莢迦は遥か後方に吹き飛ぶ。

莢迦 「よっと・・・!」

宙返りで態勢を直した莢迦に音夢が追いすがる。
一瞬の詰めに反応しきれない。

ガッ!

莢迦 「つぁ・・・」

咄嗟にガードだけは間に合ったが、それでも容赦ない衝撃が全身を突き抜ける。
物理的攻撃は防いでも、その後からくる気による衝撃までは防ぎきれない。
さらに追い撃ちをしかける音夢だったが、百戦錬磨の莢迦は三撃目までまともに喰らうような真似はしない。
真っ直ぐ向かってくる相手に魔法を放って正面からぶつける。

音夢 「はっ!」

パァン

莢迦 「嘘っ?」

気合だけで、音夢は莢迦の放った魔法を掻き消した。
正確には気合と共に左手で弾いていたのだが、それを認識できたのは或いは莢迦だけだったかもしれない。
それほどまでの速さだった。
刀でカウンターを狙うが、それをすり抜けて音夢は莢迦の背後まで移動する。
振り替える間もなく強烈な一撃が莢迦を吹っ飛ばした。

 

祐一 「おいおい、マジか・・・?」

先ほどに続いて信じ難い光景を見ていた。
あの魔獣ガナッツォすら圧倒した莢迦が手も足も出ずに押されていた。
音夢の動きはほとんど瞬間移動の域で、目で追うことはほとんど不可能だった。

舞 「速い・・・!」

佐祐理 「ふぇ〜、佐祐理には何がどうなっているのかさっぱり見えません」

美春 「美春も同じです。音夢先輩の本気の動きを見切れる人なんていませんよ〜」

茫然と成り行きを見守っている皆の前で、音夢と莢迦の攻防は続く。
と言っても、ほとんど音夢の一方的な攻撃を辛うじて莢迦が防いでいる状態だった。
防いでいる、と言うが、実際にはほとんどまともに喰らっていた。

美凪 「・・・・・・」

じっと太極図を見ていた美凪はある事実に気づいた。
音夢の魔力が激しく増減を繰り返しているのだ。
攻撃する一瞬だけ凄まじい数値に跳ね上がり、それ以外の間は低くなっている。

美凪 「・・・瞬間的な魔力は・・・40000近いです」

ことり 「それに加えてあの動き・・・莢迦ちゃんが押されるわけですね」

さくら 「うにゃあ、あのお姉ちゃんがあそこまで押されてる光景っていうのは、結構貴重だよね」

うたまる 「にゃあ」

さくら 「お、でもちょっと変わった」

 

シュッ

刀が空を斬る。
その後に生じた隙を音夢がつこうとするが、刀はすぐに返ってきたため踏み込み切れなかった。

莢迦 「それっ!」

右手には刀、左手には魔力を込めて莢迦が反撃に転じる。
音夢の神速に対して、莢迦は魔力を動きに上乗せすることで対抗した。
それでようやく莢迦にも攻撃の機会が周ってきた。

莢迦 「スプリットボム!」

超速度で動き回る相手に対しては一転集中の大技よりも数をばら撒いた方が効果が高い。
莢迦の放った魔法は小さな爆弾式の火の玉を撒き散らすものだった。

音夢 「・・・!!」

だが音夢は、それらを全て見切ってかわしながら莢迦の眼前に迫る。
左手の魔力を放った後は右手の斬撃。
がら空きに見えた頭上から刀を振り下ろす。

パシッ

莢迦 「うわ・・・」

音夢 「・・・・・・」

振り下ろされた刀は、またしても音夢の手で止められていた。

音夢 「遅い!」

突き上げる一撃で莢迦の体が宙を舞う。
追って跳び上がった音夢が頭上から地面に向けて莢迦を撃ち落とす。

ドォンッ!

クレーターができるほどの勢いで莢迦の体が地面に叩きつけられた。
見る者を圧倒する、超次元の戦いだった。
そしてそれを優勢に進めているのは、最強と呼ばれる莢迦ではなく、音夢の方だった。

音夢 「とどめっ・・・!」

着地した音夢がさらに追い撃ちを仕掛けようとする。
しかし・・・。

音夢 「・・・ごふっ」

仕掛けようとしたところで、音夢が口元を手で押さえてうずくまる。
俯いた状態で何度か咳をする。
口を押さえている手の指の隙間から僅かに血が滲んでいた。

美春 「うわわ〜、音夢先輩、時間切れですか〜!?」

祐一 「時間?」

美春 「音夢先輩はとんでもなく強いですけど、その分体が弱いんですよ。長時間全開状態が続くと・・・」

莢迦 「ふぅん、刹那的な強さか」

地面に叩きつけられた莢迦の方は、服のあちこちが破れてぼろぼろになってこそいるが、まだまだ余裕を持っていた。

美春 「うわ〜、音夢先輩の攻撃をあんなに何発も受けてけろっとしてる人なんてはじめて見ました〜」

祐一 「なんつータフさだ・・・」

音夢の攻撃は並の相手なら一撃で全て葬るほどの威力があったはずだ。
それを莢迦はほとんどノーガードで受け続けていたというのに、ダメージがまるでなかった。
先の魔獣と同等以上の体力である。

音夢 「はぁ・・・はぁ・・・」

莢迦 「形勢逆転、かな?」

うずくまる音夢に、莢迦の刀が突きつけられる。

莢迦 「もう終わり?」

音夢 「く・・・!(この人にだけは・・・)」

音夢の手が背中の杖に伸びる。
掴んだ瞬間、膨大な量の魔力が放出され、莢迦が後退する。

音夢 「絶対負けない!」

莢迦 「なら、続きと行こうか!」

聖錠セレスティアの魔力を受けて音夢の体力が回復する。

音夢 「行くわよっ!」

そこからは完全に互角の攻防だった。
互いに守りは捨てて攻撃を繰り返す。
攻撃は最大の防御の言葉どおり、相手の攻撃は自分の攻撃で相殺し、手数で上回ろうとして攻めまくる。
常人を遥かに上回る超スピードと魔力のぶつかり合いだった。

 

ことり 「莢迦ちゃん、楽しそう」

美凪 「・・・はい」

さくら 「お姉ちゃんくらいになると、全力を出して尚おつりがくる相手なんてほとんどいないもんね。たぶん、あの子にしても同じなんだと思うよ。ライバルってやつだね」

美凪 「・・・全力をぶつけて、それを返してくれる相手」

 

互いに全てを出し切る気力の戦いは、尚続き、結局決着は付かずに終わった。

音夢 「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

莢迦 「ふぅ・・・ふぅ・・・ふぃ〜」

精根使い果たした二人はその身を地面に投げ出している。
莢迦はこの上なく清々しい表情で天を仰ぎ、音夢は憮然としながらも気持ち良さそうに同じく上を見ていた。

音夢 「なんでこんなことやってるのかしら・・・?」

莢迦 「楽しいからよしとしよう」

音夢 「私は別に楽しくなんか・・・」

莢迦 「ない?」

音夢 「む〜」

楽しくなかった、と言えば嘘になる。
ここまで全力を出し切ったのは音夢にとってははじめてのことだった。
だがそれを認めるのは癪に障る。

音夢 「私は喧嘩して楽しむような野蛮人じゃありません」

莢迦 「力のある者がその力を振るうのに喜びを感じるのは当然だよ。何も恥じることじゃない」

音夢 「また、ああ言えばこう言う」

莢迦 「そっちこそ、あくまで否定するね?」

音夢 「・・・・・・・・・あ〜あ、もうなんだかどうでもよくなっちゃった」

ぼ〜っと空を眺める。
そもそも保安局に入ったのも、人の役に立つことがしたいというのが理由だった。
しかしそれとて、絶対にそうしたいと言うほどのものでもなかった。
結局のところ音夢には、自分を賭けて貫くほどの思いはない。

音夢 「とりあえず、一つだけわかったことがあります」

莢迦 「何?」

音夢 「あなたはそんなに悪い人じゃないということです」

莢迦 「それは光栄だね」

音夢 「でも、あまり好きじゃありません」

莢迦 「結構なことで。いいんじゃない、それで」

二人して空を仰いだまま笑い合う。

 

佐祐理 「雨降って、地固まる、ですね♪」

美春 「はい♪」

祐一 「・・・そういうもんか?」

喧嘩して分かり合うというノリは男のものだと思っていたが、女にも適用されるものらしい。
世の中の奥の深さを思う祐一であった。

舞 「・・・私も交ざりたい」

祐一 「マジですか?」

同じタイプが身近にもいた。

祐一 「あー、ところで慌しかったんで聞きそびれてたんだけど、どうして佐祐理さんと舞がここに・・・?」

この問いかけは、やぶ蛇だった。
ギロっと二人に睨まれて、祐一はたじろぐ。

舞 「祐一を追いかけてきた」

佐祐理 「に、決まってるじゃありませんか!」

祐一 「は、はい」

舞 「・・・祐一、私達を置いていった」

佐祐理 「それは、祐一さんの考えはわかりますけど、残された方はとても悲しかったんですよ」

美春 「うわ〜、なんだかよくわからないけど、悲しいお話ですね〜、よよよ」

祐一 「いや、あの・・・」

置いていった、というのは当然半年前に祐一が一人で華音を出た時のことだろう。
祐一自身、あの時の判断が間違っていたとは思っていない。
実際この半年間、死にそうな体験をしたのは一度や二度ではなく、その都度一人でよかったと思っていた。
そしてそのお陰で、大分強くなった。

祐一 「俺の話を・・・」

舞 「聞かない」

佐祐理 「こっちの話を聞いてもらいます」

美春 「そのとおりです!」

何故か美春まで加わった女性陣の説教を喰らう羽目になった祐一。
下手な反論はさらなるやぶ蛇になりかねないので、甘んじて受けることにした。
いずれこうなることは予想していたのだから。

 

さくら 「男の子は大変だね〜」

ことり 「でも、ああいうのもいいですよね」

何かしきりに感心している面々もいた。

 

美凪 「・・・・・・莢迦さん」

莢迦 「んにゃ?」

美凪 「・・・囲まれています」

莢迦 「そのようだね」

 

祐一 「!! 佐祐理さん、舞、説教は後回しだ」

佐祐理 「はぇ?」

舞 「・・・敵?」

美春 「はい? ど、どこですか!?」

辺りを見回しても誰もいない。
しかし確かに、何者かの敵意が感じられた。
そしてそれは、突然現れた。

ぼこっ

美春 「うわわ〜! 地面から手が!?」

みちる 「にょわっ、なんだあれは!?」

美凪 「・・・アンデットモンスター・・・・・・二百はいます」

周囲の地面から、次々にモンスターが現れてくる。
いずれも腐敗した体をしていた。
ゾンビを主体としたアンデッドモンスターの群れである。

?? 「まったく、ことある毎におまえ達が現れる。何の因果か・・・」

祐一 「おまえは・・・!」

アンデットに混じって、見知った人間が四人いた。

祐一 「十二天宮!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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