Kanon Fantasia

第二部

 

 

第8話 不死身の魔獣

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐一 「マジか・・・?」

佐祐理 「はぇ〜・・・」

舞 「・・・・・・」

音夢 「化け物ですか・・・」

美春 「美春にできる最高の一発だったのに〜」

莢迦 「とりあえず美凪、状況説明。見ない顔もいるし」

美凪 「・・・こちらが朝倉音夢さんと天枷美春さん、あちらが魔獣ガナッツォ、以上」

莢迦 「そう、わかった」

祐一 「あっさりすぎるだろ!」

毎度のことながら、説明が簡潔すぎた。
しかもそれで納得している莢迦も莢迦である。

莢迦 「十分でしょ」

祐一 「なんで魔獣がいるのかとか、色々あるだろ?」

莢迦 「美凪はわからないことは言わない。つまり、魔獣と交戦中っていう以上の情報はないってことだよ」

祐一 「あ・・・」

言われてみればそうだった。
自分とて突然魔獣と交戦状態になって、何事かと聞かれれば魔獣と戦っている以上の答えはない。
確かにそうなのだが・・・。

祐一 「けど、こんな魔獣がその辺うろついてるわけないだろ?」

音夢 「それを調べるために、こうして追って来たんです」

祐一 「君は・・・」

音夢 「大陸保安局の朝倉音夢と言います。よろしく」

営業スマイルと祐一に向ける音夢。

祐一 「保安局・・・・・・俺は相沢祐一、最近では光の剣士なんて呼ばれてるみたいだ」

音夢 「あなたが・・・」

美春 「うわぁ♪ こんなところで思わぬ有名人と遭遇です! さっそくサインを・・・」

音夢 「美春」

美春 「はい、しっかり音夢先輩の分も・・・」

音夢 「み・は・る♪」

美春 「は!」

笑顔の上に青筋が浮かんでいるのを、美春は確かに見た。
全身から汗を流しながら、取り出しかけた色紙を無言でしまう。

さくら 「おもしろい子達だね」

ことり 「あはは・・」

ほのぼのとしたやり取りがされているが、今は魔獣と交戦中であった。
しかし、魔獣は頭を再生した後襲ってこない。

莢迦 「・・・・・・」

ガナッツォ 「グルルルルルルゥゥ・・・」

それは、再生した時から今までずっと莢迦が睨みを利かせていたからである。
獣は人間よりも遥かに格上の存在に対して敏感だった。
莢迦は魔獣が完全に怯えて逃げ出さない程度に力を抑えていた。
正体を見極めるのが撃退するよりも重要だからである。

莢迦 「はて・・・魔獣ガナッツォ・・・・・・どっかで聞いたような気がするな〜?」

ことり 「そう言えば私も・・・」

しかし、悩んで小首をかしげた際に視線が外れた。
それが果たしてわざとだったのか、本人以外にはわからないが、睨みがなくなったことで魔獣が動き出した。
敵意を剥き出しにして突撃する。

舞 「来た!」

祐一 「散れ!」

巨大な敵を相手に固まっていては狙い撃ちにされる。
一撃で全滅されないよう、かつ相手の狙いを定めさせないために散開して取り囲む。

祐一 「いくらなんでも、いつまでも再生できるものじゃないだろう」

音夢 「絶対に、急所もどこかにあるはず!」

祐一、佐祐理、舞、音夢、美春の五人が四方から同時に仕掛ける。
まずは真上から舞。

舞 「グラビティプレス!」

広範囲の重力波を真上から落とすことで魔獣の動きを押さえつける。

美春 「ガトリング砲ですっ!」

両腕と肩越しに計六つの大型ガトリング砲を構えて一斉発射する。
口径が大きいため、直撃すれば魔獣の硬い表皮も破壊していく。
破られた端から再生していくが、絶え間なく打ち続けていればしばらくは穴が空く。
そこで懐に音夢が滑り込む。

ガナッツォ 「グァアアアアアアッ!!!」

正面から向かってきた相手に、魔獣が両腕を振り下ろす。

祐一 「光翼閃!」

佐祐理 「シャイニングレイ!」

二つの光が魔獣の腕をそれぞれ吹き飛ばす。
再生するまで一瞬だが、それでも音夢にとっては十分な時間だった。

音夢 「(狙いは心臓!)ハッ!」

ドンッ!

魔獣の左胸に音夢の手のひらが突き出される。
神速の突きに込められた気と魔力が魔獣の胸を貫く。
五人による総攻撃が始まってから終わるまで、一分もなかった。
即席でありながらも見事なコンビネーションと言えた。

莢迦 「おー、やるね〜、若い衆」

美凪 「・・・微々たるものです」

さくら 「うにゃっ、あれで?」

並の魔物なら数十匹同時に倒すほどの攻撃力が今の攻撃にはあったはずだった。
だが、美凪が持つ太極図に映し出されている数値によれば、魔獣の体力はほとんど減っていない。
それは防御力が高いからではなく・・・。

莢迦 「こりゃ。HPが桁違いな上にHP回復(大)がついてるようなものだね」

ことり 「なんですか? それは・・・」

莢迦 「気にしないしない。これじゃあ、確かにあれだけの攻撃でも微々たるものだね」

まさにその通りで、皆が見ている前で魔獣はまたしても完全な状態に戻っていた。
攻撃を仕掛けた五人は唖然とその光景を見ている。

祐一 「心臓に喰らっても生きてるのか・・・」

佐祐理 「ほんとに生き物でしょうか?」

舞 「・・・・・・」

美春 「はわ〜、ど、どうしましょう、音夢先輩〜」

音夢 「私に聞かれても・・・」

どんなに攻撃しても効果がないのでは戦いようがない。
このまま行けば先に自分達の方が息切れする。

莢迦 「あ、思い出した!」

ぽんっと手を打つ。

さくら 「お姉ちゃん、何を思い出したの?」

莢迦 「うん、ちょっとね」

そう言って莢迦は前に進み出る。

佐祐理 「こうなったら、もうアルテミスノヴァしかないかもしれません」

祐一 「あれか。あれなら再生する前に全部吹き飛ばせるか?」

莢迦 「う〜ん、ちょっと無理だね」

祐一 「何?」

戦っている五人のさらに前、魔獣のすぐ前に立つ。

莢迦 「思い出したの、ガナッツォと呼ばれる魔獣のこと」

祐一 「知ってるのか?」

莢迦 「結構有名だからね。魔界に生息する魔獣としては、力は中の上ってところだけど・・・」

美春 「あ、あれで中の上ですかっ!?」

十分すぎるほどの強大な力を持っている魔獣だった。
再生能力を抜きにしても祐一達や音夢達の感覚では、この魔獣は圧倒的なレベルである。
それが中の上ということは、魔界にはさらに恐ろしい存在がうじゃうじゃいることになる。

莢迦 「うん、大したことない。けど、こいつはちょっと別格で、魔界でも嫌がられてる。その理由は、こいつの持つ桁外れの生命力」

音夢 「生命力?」

莢迦 「魔獣ガナッツォ、別名、不死身の魔獣」

祐一 「ふ、不死身?」

莢迦 「それくらいの再生能力があるってことだよ。上位クラスの魔族や竜族でさえ、こいつを倒すのは骨が折れるよ」

ガナッツォ 「グルルルルルルル・・・・・・」

人語を解すわけではなかろうが、眼前に立っている相手を警戒するように魔獣は莢迦を威嚇している。

莢迦 「この場にいるメンバーの中で一番攻撃力が高いのは私だし。ここは私がやるよ」

祐一 「けど・・・」

莢迦 「やらせてよ」

ちらっと振り返った莢迦の目に、祐一は空恐ろしいものを感じた。
今までにも何度か見た記憶がある、莢迦の影の面だ。
普段明るく能天気に振舞っているため忘れがちだが、こういう時の莢迦には、あの千人斬りの幽よりも恐ろしいものを感じる。

莢迦 「ほんとは戻ってくる前に魔界で少し暴れてくるつもりだったんだけど、その機会がなかったから。あの名高い不死身の魔獣なら、相手にとって不足はないよ」

ゴォッ!!!

祐一 「ッ!!」

ドラゴンロードマスターと呼ばれる者。
その圧倒的な魔力が解放される。
あの魔獣ガナッツォが持つものよりもさらに巨大な魔力の放出は、それだけで突風どころか、大気が揺さ振られる。

ガナッツォ 「ガァアアアアアアアアアアアァァァァッッッ!!!!!!」

負けじと咆哮する魔獣。
はっきりと敵の力を悟った魔獣は、もはや逃げることすら叶わぬと見て全ての力を解放した。
どちらかが倒されなければ終わらない。
それを全員に予感させた。

さくら 「・・・・・・」

ことり 「・・・・・・」

美凪 「・・・・・・」

彼女のその力を知る者達さえ、ひさしぶりに感じる力に固唾を呑む。
それほどの力の持ち主であった、ドラゴンロードマスター莢迦とは。

莢迦 「・・・行くよ」

ドンッ!

踏み込むだけで爆風が起こる。
反応する間もない速さの居合が炸裂する。
魔力を込めたその一撃は、魔獣の半身を吹き飛ばした。

ガナッツォ 「グォオオオオォッッ!!!」

すぐに再生する。
反転した莢迦はさらに追い撃ちを仕掛ける。
振り下ろされた刀が、今度は上半身をまとめて叩き潰す。
それもすぐに再生し、ようやく魔獣が反撃を試みる。

莢迦 「ハァアアアア!!!」

ガナッツォ 「グァアアアアアアッッ!!!」

大魔力が正面から激突する。
押し負けたのは魔獣の方だった。
魔獣は再び頭を吹き飛ばされるが、直前に吐いた炎のブレスが莢迦の体を包んでもいた。

莢迦 「ふんっ!」

片手の一振りだけでその炎を振り払った莢迦がさらに攻撃を続ける。
再生する時間など与えるつもりはない。

莢迦 「スターフレア!」

炎の隕石が数百発という単位で降り注ぐ。
一発一発が並の魔術師の大魔法クラスの破壊力があり、命中する度に魔獣の体が吹き飛んでは再生するというのが繰り返される。
しかし、徐々にだが、魔獣の再生速度が莢迦の攻撃に追いつかなくなってきた。

佐祐理 「す、すごい・・・」

舞 「・・・・・・」

祐一 「・・・・・・」

皆、戦慄しながらその光景を見ていた。
まったく次元の違う強さだった。

莢迦 「そろそろ終わりにしようか。レッドプリズン

無数の赤い球が魔獣の周囲に散る。
一つ一つが赤い光線を発して他の球と繋がっていき、さらに線から線へと面が発生する。
真紅の多面体の中に、魔獣は閉じ込められた。
面の内側に向かって、尚も炎の弾丸が打ち出され、絶え間なく魔獣を体を砕いていく。

莢迦 「今、細胞の一辺たりとも残さず消滅させてあげるよ」

刀を納めた莢迦の右手には、小さな魔力の塊があった。
今までの攻撃に使ってきた魔法に比べたら、遥かに小さなものなのに、それを見ただけで祐一は体に震えが走った。
ソレは危険だと、全身が警告する。

莢迦 「おやすみ」

多面体の中心部へ向けて、小さな魔力を放り投げる。
崩れ落ちていく魔獣の懐まで行ったソレが、光を発した。

莢迦 「リアクションボム

魔力の塊が弾けた。
ほんの小さな塊だったものが一気に膨れ上がり、桁外れなエネルギーを持ったもの変化する。
核融合反応による原子核爆発。
尋常ならざるエネルギーによる爆発が、多面体の結界の中で全てを飲み込み、さらに結界をも破って空まで届く爆炎を上げる。
天に向かって伸びた煙はまるでキノコのような形をしていた。
文字通り跡形もなく魔獣を吹き飛ばした莢迦は、悠然とした足取りで戻っていく。

莢迦 「うん、やっぱりたまには本気で暴れないとね」

とんでもないことを成した後でも、本人はいたって能天気な口調だった。
このギャップの激しさが怖さをより引き立たせている。

祐一 「・・・無茶苦茶しやがって」

莢迦 「そう? でもあれくらいやらないとガナッツォは倒せないよ」

祐一 「しかし・・・なんだよさっきの爆発は・・・?」

莢迦 「う〜ん・・・説明すると長いよ?」

祐一 「・・・いや、いい」

聞いてもどうせわからない。
わかりたくもなかった。

美春 「と、とんでもないですよ〜、み、見ましたか、音夢先輩!?」

音夢 「・・・ええ」

祐一達以上、予備知識のない音夢と美春の驚きようは大きかった。

音夢 「あなたは一体何者なんですか?」

莢迦 「私?」

辛うじて裏モードを保っていたが、音夢はかなり強い剣幕で莢迦に詰め寄る。

音夢 「あんなの、人間の常識を超えています」

莢迦 「そうだね〜。呼び方は色々あるけど・・・・・・あなた、保安局の子だっけ?」

音夢 「そうですけど?」

莢迦 「なら、一番馴染み深いのは、四死聖の莢迦、かな」

美春 「ええぇ!? し、四死聖って、確かあの千人斬りの幽の仲間で、SS級の指名手配の・・・」

莢迦 「あれ? 幽よりランク低いんだ。心外〜」

音夢 「なるほど・・・そういうことでしたか」

空気が変わった。
音夢の発する莢迦に対する気配が変化したのだ。
敵意と呼ぶものに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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