Kanon Fantasia
第二部
オープニング
遥かな太古。
この世界がメルサレヴと呼ばれるようになるより、数万年も昔のこと。
大戦で滅んだ先史文明、その前に栄華を極めた機械科学の古代文明、そのもう一つ前の文明に当たる、全ての魔法文化の発祥の時代。
その多くは、謎に包まれていた。
ただ、先史文明、そして現代文明における魔法科学のルーツは全てそこにあるという。
超古代文明最大の遺産、それが、世界の中心とも言われている世界樹ユグドラシル。
枯れない木である。
過去と現在と未来と、全ての次元に根を張っていると言われるその木は、何人の手も届かない場所に、静かに佇んでいた。
メルサレヴ歴1669年。
およそ百四十年前・・・・・・。「本当に行くの?」
「うん、行くよ」
世界のどこか。
ユグドラシルの根元に、二人の少女がいた。「もしかしたら、二度と戻ってこられないかもしれないよ?」
「大丈夫♪ なんとかなるから」
外見は少女でありながら、二人の瞳は長い年月を刻んできた深みがあった。
「強情だね。無鉄砲とも言うよ」
「褒められると照れちゃうな」
「魔界は広いんだよ。目的の場所を探し当てる前に迷子になるのがオチだよ」
「未知への冒険は心ときめくし、迷うのも楽しいものだから」
「・・・・・・」
「だ〜れも辿り着けない場所へ、どこまでも行ってみたいの〜」
「・・・相変わらず、人の道から脱線してる人だね・・・」
「でわでわ、行って参るのだ」
「む〜・・・しょうがない。武運を祈っているでござるよ」
黒髪黒眼の巫女服少女が木の洞の中に消えていく。
それを金髪碧眼の魔女少女が複雑な面持ちで見送っていた。少女達が去った後、この場所は何人にも発見されることはなかった。
そして、メルサレヴ歴1792年。
七年前、覇王軍と連合軍との決戦が終決した直後のこと・・・・・・。百年以上も一切の変化が起こらなかったユグドラシルに異変が起こった。
突如としてざわめきだした世界樹は淡い光を放ち、洞から一条の光が迸った。
光は世界樹を囲む巨大な樹海を飛び越え、人の住む地に落ちた。
その日、朝倉という男は偶然そこを通りかかった時、子供の泣き声を聞いた。
朝倉 「はて? こんな町外れに子供?」
訝しがって除いてみると、泣いている子供一人、それに寄り添って眠っている子供一人、それにどこか鍵を連想させる形をした杖。
朝倉 「ふむ・・・お嬢ちゃん達、ここでどうした?」
子供はどちらも少女だった。
歳は七、八才くらいだろう。泣いている少女 「ぅっ・・・ぅっ・・・ひっく・・・」
少女は何かを言おうとするのだが、思うように声が出せないでいる。
寝ている少女 「むにゃむにゃ・・・・・・ばにゃにゃ・・・・・・」
もう一人の方は呑気にも、幸せそうな寝顔をしている。
泣いている少女 「ぅっく・・・あの・・・あの・・・・・・」
必死に話をしようとする少女は、片方の手を寝ている少女の背中に当てている。
自分も辛いだろうに、もう一人の少女を守ろうとしている気持ちが見ていて伝わってきた。
もしかしたらお姉さんなのかもしれない。朝倉 「ふむ、とりあえず、おじさんはそれほど悪い人じゃない」
泣いている少女 「ひっく・・・ぅ?」
朝倉 「だからまぁ、とにかくついてきなさい」
少女を刺激しないよう、できるだけ優しく手を差し伸べる。
躊躇いながらも、少女は空いている方の手を伸ばして朝倉の手を掴んだ。少女達には名前があった。
泣いていた年上の少女が、音夢。
眠っていた方の少女が、天枷美春。何故、音夢の方だけ苗字がないのかと尋ねると、そういうものだから、という実に単純で意味不明の答えが返ってきた。
朝倉は彼女を養女とし、自分の苗字を与えた。朝倉音夢と天枷美春。
どこから来た誰なのか、誰も知らない二人の少女。
しかし、彼女達が現れたことが、この世界の運命に大きな影響を与えていたのだった。
そう、誰も知らないうちに・・・。
現代・・・・・・。
美凪 「・・・・・・」
星空の下、美凪は一人カードを切っていた。
星占いが占星術師たる彼女の本業だったが、他の占いも一通りできる。
もっとも今行っているのは占いではないが。美凪 「・・・運命のカードが、六枚追加されました・・・ちゃんちゃん」
シャッフルしていたカードの束から、六枚を抜き出して手許に持ってくる。
そこには既に何枚かのカードが置かれていた。美凪 「・・・もうじき全てのカードが揃う・・・運命の旋律が奏でられる日も近い・・・」
カードの中から、三枚を選び出して、全てのカードの中心に据える。
美凪 「・・・やはり・・・中心となるのはこの三枚」
一枚には、光り輝く剣を掲げた男が。
一枚には、理を示した鍵を持った女が描かれている。
一枚には・・・。美凪 「・・・相沢祐一と・・・朝倉音夢・・・そして・・・」
Kanon Fantasia 第二部 魔都決戦編 ・・・開始・・・