Kanon Fantasia

 

 

 

第44話 崩壊

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

決着はついた。
幽の勝ちである。

美凪 「・・・・・・ほ」

莢迦 「よくやるね、まったく」

栞 「やりましたね」

幽が勝つことを少しも疑っていなかった三人だったが、それでもギリギリの戦いを見守るのは気疲れするものだった。
終わったことで、当然ほっとして胸を撫で下ろす。
だが、それが気の緩みとなった。

幽 「・・・・・・」

どさっ

栞 「?・・・幽さんっ!」

美凪 「!!」

莢迦 「幽!」

勝ったとは言え、幽とて覇王の奥義を立て続けに受けていたのだ、その場から動くだけの力は残っていない。
周りからは闘気の障壁に阻まれなくなった溶岩が押し寄せる。

莢迦 「(やばっ、間に合わない・・・!)」

この時ばかりはさすがの莢迦も焦った。
溶岩が幽の体をも飲み込もうとしたが、寸前で誰かがそれを防いだ。

莢迦 「みさき!?」

空気の流れを操って溶岩を防いだのは、川名みさきだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

浩平 「みさきさんが中に入っただぁ?」

雪見 「止める間もなくって。地震が起きてから急に血相変えて飛び出してったのよ。てっきり折原君のところに行ったと思ってたのに」

澪 『ずっと呼んでるんだけど、戻ってこないの』

瑞佳 「わたしが迎えに行こうか?」

浩平 「・・・いや、いい。みさきさんのことだ。大丈夫だろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

みさき 「・・・ふぅ・・・さすがに、溶岩を操るのはきついね・・・」

風水師は地脈の流れを操る。
風、水はもちろんのこと、自然に存在するあらゆる流れに干渉することができた。

幽 「・・・・・・みさき」

みさき 「・・・久しぶりだね、幽・・・」

 

 

 

美凪 「・・・みさきさん」

莢迦 「・・・・・・リヴァイアサン!」

空間が裂け、そこから長い体をうねらせながら蒼い大蛇が姿を現す。
水を司る召喚魔獣リヴァイアサンである。
そのうねりはどこにでも水を生み出す。
たとえ溶岩の上だろうと。

美凪 「・・・栞さん、乗ってください」

栞 「あ、はい」

三人は莢迦の呼び出したリヴァイアサンに乗り、その魔獣が生み出した水の流れに乗る。

莢迦 「みさき!」

みさき 「ん・・・」

水の流れを操るのは風水師にとってお手の物だった。
流れを自分の方へ引き寄せ、幽と一緒にリヴァイアサンの上に飛び乗る。
ほぼ同時に、床が全て砕けて溶岩が一気に溢れ出す。

莢迦 「超ダッシュで脱出だよっ、りーくん!」

洪水のような量の水が穴に流れ込み、その流れに乗ってリヴァイアサンが外へ向かって泳ぎだす。
後方からは、天井が崩れ落ちる音が聞こえてきた。
通り過ぎた場所は後から後から崩れ落ちていき、奥では爆発音も響きだす。。

莢迦 「突破するよ! 振り落とされた人は置いてくからねっ!」

崩れ落ちる早さに対抗するため、リヴァイアサンのスピードを上げる。
全員必死にその体にしがみ付いている。
巨大な瓦礫がどんどん落下してくるのを防ぐ余裕もなく、さらに背後からは溶岩と爆発が迫ってきていて、生きた心地もしなかった。

そして・・・出口が見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

夏海 「・・・来たわ」

香里 「!」

祐一 「?」

隣りの山まで避難していた祐一達が夏海の言葉で一斉に出てきた穴に注目する。
突然穴の中から水が溢れ出し、滝のように落ちていく。
何事かと思って見ていると、穴から続けて蒼い大蛇が飛び出てきた。

祐一 「な、なんだぁ!?」

夏海 「リヴァイアサン・・・あの状態でまだこれほどの魔獣を呼び出す力が残っているとは、さすが莢迦」

羅王丸 「全員いるな。ってことは、覇王野郎は倒したか。やっぱり最後に倒すべきは幽の野郎だな」

みちる 「みっなぎー!」

香里 「栞・・・無事だった・・・」

胸をほっと撫で下ろす香里。
その肩を、潤が軽く叩く。

潤 「一件落着か」

香里 「そうね。とりあえず」

佐祐理 「そう言えば、さっきから浩平さん達の姿が見えませんが?」

舞 「・・・さっき向こうの山の方へ行った」

別の山を指して舞が言う。
その山の方に浩平達の姿を求めようとする佐祐理だったが、さすがに見えなかった。

祐一 「あいつらなら大丈夫だろ。本気で天下取るまで死ななそうだ」

真琴 「しぶとそうだもんね」

美汐 「真琴ほどではありませんよ」

真琴 「なによぉ」

美汐 「何です?」

あゆ 「この二人って喧嘩ばっかりだね」

祐一 「会った時からだ、気にするな、あゆ」

戦いが終わり、皆の無事を知りそれぞれに涌く祐一達。
その前で、覇王城のあったエントレアス山が噴火を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

栞 「悪役の居城の最後に相応しいですね」

美凪 「・・・はい」

爆発を繰り返し、煙を噴き上げる火口を空から見下ろす二人。
その傍らでは、残りの三人がどこかただならぬ緊張感を醸し出していた。

栞 「・・・あの、何なんですか? この空気は・・・」

美凪 「・・・ちょっと」

栞 「三角関係とか?」

美凪 「・・・そう単純なものでもないかもしれません」

 

幽 「・・・・・・」

莢迦 「・・・・・・」

みさき 「・・・・・・」

幽 「・・・ちっ、うぜぇ」

みさき 「・・・ごめんね」

幽 「みさき」

みさき 「うん?」

幽 「この借りはいずれ返す」

祐一達のいる山の方へ進路を取ったリヴァイアサンの上で、幽は立ち上がって淵まで歩いていく。

幽 「小娘、行くぞ」

栞 「はい?」

そこから幽は飛び下りた。

栞 「ちょっ、ちょっと幽さんっ!?」

慌てて栞は下を見るが、幽の体はどんどん小さくなっていって地面近くで見えなくなった。

栞 「だからどうしていつもいつもいっつもそうやって勝手なんですか! まったく・・・・・・あ、それじゃあ、お世話になりました。美凪さん、お姉ちゃんによろしく伝えておいてください。それじゃ」

一気に捲くし立てると、栞も同じ様に飛び下りていった。

美凪 「・・・行っちゃいました」

莢迦 「そうだね〜」

みさき 「・・・・・・」

三人だけになって、また別の緊張感が生まれる。
互いに口も聞かないまま、リヴァイアサンは下に降りた。
山は、まだ噴火を続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

郁未 「・・・なんか、終わっちゃいましたね」

元 「そうですね」

また別の場所では、元と郁未の二人が山の噴火を見ていた。

郁未 「これじゃ結局、七年前と同じなんじゃないですか? 覇王だけ死んで、十二天宮が何人か生き残って・・・」

元 「パターンどおりなら、また覇王が復活するところですね。しかし今回は、体が完全に溶岩に飲み込まれてしまいましたからね」

郁未 「斎藤さんは、これからどうするの?」

元 「もう覇王についていてもおもしろいこともなさそうですし、一度故郷にでも帰りますか」

郁未 「そう・・・」

元 「郁未さんは?」

郁未 「私には、行くところなんてないわ」

元 「なら、私と一緒に来ますか?」

郁未 「え?」

元 「私も一人旅は退屈だと思っていたところなんですよ。私の故郷はそれなりにいいところですし、落ち着ける場所が見付かるまで私と一緒というのも悪くないかもしれませんよ。もちろん強要はしませんが」

郁未 「・・・そうね。とりあえずついていってみようかな。それに・・・」

元 「それに?」

郁未 「ううん、なんでもない」

斎藤元という男は、いずれまた千人斬りの幽を求める。
となれば、この男と一緒にいればいずれまた栞と会う機会があるだろう。

郁未 「(まだ・・・負けたわけじゃないわ)」

元 「では、行きますか」

郁未 「ええ」

二人は噴火している山に背を向けて、いずこかへ去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サジタリアス 「さて・・・これからだな」

ライブラ 「当然だ。まだ・・・我らの計画ははじまったばかりなのだからな」

タウラス 「・・・覇王様はどうする?」

レオ 「確かに、今度ばかりは遺体の回収はできんぞ?」

サジタリアス 「問題ないだろう。あの肉体にもそろそろ飽きられた頃だろうしな」

ライブラ 「愚かなり、幽よ。いずれ貴様は覇王様の真の恐ろしさを知ることとなる」

レオ 「しかし・・・今回は随分と欠けたな。アクエリアス・・・・・・レギスを含めてたったの五人とは」

タウラス 「だが・・・」

サジタリアス 「所詮数合わせども。もともと十二天宮など、我らの名前のたまたまの一致から名付けたに過ぎん」

ライブラ 「サーペントも戻ってくる。次こそが本番だ」

タウラス 「次こそは本気で行っていいんだな?」

レオ 「私もそれを待っていた。次はどれほど強くなってくるか、あの二人」

サジタリアス 「いずれにしても・・・奴らはひと時の平穏を楽しめばいい」

ライブラ 「千人斬りの幽、相沢祐一、そしてその仲間どもよ、今度見える時が、恐怖の始まりだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐一 「しっかし・・・よく全員生き延びたもんだ」

佐祐理 「本当に、激しい戦いの連続でしたからね」

舞 「・・・疲れた」

あゆ 「ボクも疲れたよ」

祐一 「おまえほとんど何もしてないだろ」

あゆ 「うぐぅ、ひどいよ。見てるだけって結構辛いんだよ」

佐祐理 「それにしても・・・みなさんあっという間に行ってしまいましたね」

莢迦達が戻ってから、ようやく一段落したところだ。
その間に、ほとんど者はどこかへ行ってしまっていた。
いつの間にかいたみさきはリヴァイアサンから降りるなりどこかへ行ってしまい、羅王丸と夏海も消えた。
潤と香里、真琴と美汐はそれぞれ帰り、幽と栞は戻ってさえこなかった。
そして莢迦と美凪、みちるもいつの間にかいなくなっている。

祐一 「ここに残っているのは俺達だけか」

佐祐理 「まぁ、ゆっくりしていきましょう。終わったんですから、急ぐ必要もないですよ」

あゆ 「うん・・・なんだか眠くなってきたよ」

舞 「・・・くー・・・」

祐一 「舞の奴はもう寝てやがる。名雪かよ」

佐祐理 「あははー、佐祐理も眠いです。寝ちゃいましょう」

あゆ 「ボクも」

祐一 「風邪ひくぞー」

と言いつつ祐一も瞼が重かった。
しばらく寝ていくのも悪くない。
そう思って目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

浩平 「いやー、戻ってきていきなりいなかったからびっくりしたぞ、みさきさん」

みさき 「うん・・・」

雪見 「一体どうしたってのよ、あんたが血相変えるなんて」

みさき 「うん・・・」

澪 『とっても心配したの』

みさき 「うん・・・」

雪見 「・・・・・・巨大なおむすびでも転がってた?」

みさき 「うん・・・」

雪見 「・・・隣りの客はよく柿食う客だ」

みさき 「うん・・・」

雪見 「お向かいさんの家の食事は毎日ご飯特盛りだそうよ」

みさき 「うん・・・」

雪見 「・・・・・・・・・重症だわ、こりゃ」

みさき 「え? 何が?」

ずっと上の空だったのか、みさきは話を聞いていなかった。
しかも食べ物関連の話にも反応を示さなかったことで、皆深刻な顔をして悩んでいるものだから、ますますみさきは混乱する。

みさき 「あの〜・・・・・・・・・!」

皆に気付かれないように、みさきはそっと振り返る。

みさき 「・・・・・・」

浩平達が頭を抱えてうんうん唸っている間に、みさきは来た道を引き返していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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