Kanon Fantasia

 

 

 

第43話 戦う姿

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

詩子 「わっとっと・・・・・・、いきなり地震?」

澪 「・・・・・・」あわあわおろおろ

茜 「まさか・・・エントレアス山が活動を始めている?」

瑞佳 「って、まだ浩平達がいるのに・・・!」

みさき 「・・・・・・」

雪見 「わっ、こらちょっとみさき! どこ行くのよ?」

 

 

 

 

 

外でもはっきりとわかるほど揺れているのだから、中心部に近い城内の揺れは半端ではなかった。
既に魔獣との戦いで半壊していた通路はどんどん崩れていく。

羅王丸 「やべぇな、こりゃ完璧に崩れるぞ」

祐一 「冗談じゃないぞ。勝ったって生き埋めにされたら意味ないだろ」

夏海 「ええ、覇王と心中なんてごめんだわ。それにしてもあの魔族・・・行きがけの駄賃にしてはちょっと派手過ぎよ」

 

 

 

 

 

レギス 「ふん。まとめて溶岩に呑まれるがいい。覇王よ、運がよければ貴様も生き延びるのだな」

はるか上空から山を見下ろしていたレギスは空間移動でその場から立ち去った。
その前に、火山の中心部に強力な圧力をかけ、噴火を誘発していったのだ。

 

 

 

 

みちる 「大変だー! 元来た道はさっきのでふさがってる!」

来る時に使った道は、先ほどの魔獣の攻撃で埋まっていた。
引き返すことはできない。

莢迦 「さっきのアルテミスノヴァで空いた穴が外まで通じてるよ。そこなら一直線に行けるでしょ」

祐一 「よし、逃げるぞ!」

夏海 「羅王、先頭行って。どこが崩れてくるかわからないから」

羅王丸 「俺は盾代わりか? ま、適役だがな。おっしゃぁ! 野郎どもついてきな!」

先頭を切って走り出した羅王丸がハンマーを振り回して、邪魔が瓦礫をどかす。
開けた道を後から皆がついていく。

祐一 「? 莢迦!」

佐祐理 「美凪さん、早く!」

莢迦 「あ、私達のことは気にしないでいいから」

美凪 「・・・みちる、先に行って」

みちる 「でも・・・」

莢迦 「ほ〜ら、行った行った〜」

美凪に抱き起こされた莢迦が追い払うような仕草で手を振る。
まだ顔は青かったが、元の調子は戻っている。

祐一 「先行けって・・・おまえ病人のくせに・・・」

莢迦 「いいから」

夏海 「祐一、行くわよ」

祐一 「けど・・・」

夏海 「・・・あの男が残る限り、二人は残るわ」

祐一 「え?」

あの男と呼ばれる者が一人しかいないだろう。
見れば幽とゼファーはどれだけ揺れが激しくなっても向き合った状態から動かない。

祐一 「あいつら・・・こんな状況で決着つける気かよ!?」

莢迦 「そういうことだよ。わかったら先に行って。むしろ私らに余計な心配は無用っていうか、君達が早く逃げないとそれはそれで面倒っていうか」

栞 「・・・私はご一緒します」

香里 「栞!?」

栞 「お姉ちゃん達は先に行ってください」

香里 「でも・・・」

栞 「私は、幽さんの戦う姿を見ていたいんです」

美凪 「・・・・・・」

莢迦 「相変わらずの女ったらし振りだね〜、幽は」

潤 「行こうぜ美坂。おまえの妹だろ、言い出したら聞きそうにない」

香里 「・・・わかったわ。でも、ちゃんと戻ってくるのよ!」

祐一 「莢迦、美凪、おまえらもだぞ」

莢迦 「だーれに言ってんの」

三人だけを残し、他は全員佐祐理の魔法で空いた大穴に入る。
少し傾斜があったが、登れないほどではない。
羅王丸を先頭にして全員で駆け上る。

 

留美 「折原、大丈夫?」

繭 「みゅ?」

浩平 「問題ない。走るくらいは全然平気だ。外に出たらみんなと合流するぞ」

 

真琴 「あぅー、なんかここ来てから走ってばっかり!」

美汐 「確かに・・・勘弁してほしいですね」

あゆ 「逃げるのは得意だよ」

祐一 「自慢にならんわ!」

潤 「そんなことないぞ、兵法では逃げるのも大事だ」

佐祐理 「あゆさんの場合は食い逃げですけど」

香里 「それはよくないわね」

舞 「・・・よくない」

あゆ 「うぐぅ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幽 「・・・・・・」

ゼファー 「・・・・・・」

見物人がたった三人になり、振動音を除けば静かになった通路で、二人はなおも対峙する。
どれほどの時間そうしていたのか。
実際にはほんの数分だろうが、本人達と見ている者にとってはあっという間のような、物凄く長い時間のような気さえした。
それほどの緊張感だった。

 

ギィンッ!!

幽 「ぐ・・・!」

ゼファー 「ぬぅ・・・!」

何の前触れもなくそれは始まった。
動いたのはまったくの同時。
打ち合いも完全に互角だった。

幽 「おぉらぁぁ!!」

ゼファー 「ハァアッ!!」

キィン カキィンッ ギィンッ!!

二人の剣が休みなく繰り出される。
ほぼ互角の二本の剣と、二人の力。
秒間何十というスピードで撃ち出される剣撃は絶え間がなく、まるで弾幕だった。
先に途切れた方が一気に押し込まれる。

幽 「うぉおおおおお!!」

ゼファー 「ぬぁはぁぁぁぁぁ!!!」

だが二人にとっては、ダメージなど何の意味もなさなかった。
お互い防御のために弾幕を張ることはせず、ただひたすらに攻撃していた。
それぞれの体には次々と傷がついていく。
剣撃のいくつは僅かだが相手に届いている。

ガギィンッ!!!

ザザァッ

甲高い音とともに剣と剣が打ち合わされ、その威力の相殺で二人は後退する。

幽 「無限斬魔剣! 紅蓮・翔!」

後退時の反動をさらに利用して幽が跳びあがり、頭上からの一撃をゼファーに見舞う。

ゼファー 「甘いわっ! ヘルスプラッシュ!」

すかさずゼファーが反撃し、また二人の攻撃は相殺される。

 

 

 

栞 「・・・互角・・・でしょうか?」

美凪 「・・・そうですね。ほぼ」

莢迦 「どうかな?」

見守る三人は三様の表情をしていた。
栞ははらはらどきどきといった感じ。
美凪は変わらぬ無表情。
莢迦は少し厳しい表情をしている。

莢迦 「ゼファーは復活後十分に力を蓄えて心身ともに絶好調。対する幽は気迫は十分だけど、果たして今の体がそれに追いつくかどうか」

栞 「そう言えば前にもそんな話を聞きましたけど、どういうことなんですか?」

莢迦 「七年前にね、ゼファーが幽に倒された時にちょっとした呪法を幽の体にかけていったの。それで幽の身体能力はそれまでよりもかなり落ちてる。並の人間と比べたらまだまだ化け物的だけど、昔の幽はまだまだあんなものじゃなかった」

 

 

ゼファー 「くわっはっは! ぬるいわ!」

少し前まで互角の打ち合いだったが、段々ゼファーの勢いが上回っていく。

幽 「チッ・・・!」

ゼファー 「言ったはずだ! 今の貴様は全てにおいて余に・・・及ばん!」

ドォンッ!

幽 「ぐ・・・っ!」

ゼファーの剣が幽の剣を上回って弾幕を突き破る。
その刃が幽の体を切り裂き、幽は吹き飛ばされて地面に倒れた。

 

栞 「幽さんっ!」

莢迦 「やっぱり・・・パワー負けしてるね」

 

ゼファー 「パワーだけではない。スピード、殺気、闘気、魔力、技、全てにおいて余の方が貴様よりも上だ。千人斬りの幽、貴様に勝ち目はないと言ったろう」

覇王の剣、カオスグラムに闇の力が集まる。
地震とは違う震動が周囲の大気を揺らす。

ゼファー 「これで終わりだ。覇王剣闇奥義、カース・オブ・ヘル」

暗黒の炎が幽の全身を包む。

幽 「ぐぉおおおおおおおお!!!!!!!!!」

ゼファー 「ははははははっ、漆黒の炎に焼かれて死ぬがいい! 幽よ!」

黒い炎は螺旋状に燃え上がり、天井にまで届かんとしていた。
その炎が幽の体を焼き尽くそうと激しく燃え盛る。

ゼファー 「ふはははははははっ!!! 最強伝説潰えたり! ついに我が覇道の復活だ!!」

燃え上がる暗黒の炎の前で高らかに笑うぜファー。
その姿はまさに、地獄の支配者と呼ぶに相応しいかに思われた。

ゼファー 「さて・・・涙ぐましくも幽の女どもが残っていたか」

栞 「誰が幽さんの女ですかっ」

美凪 「・・・・・・ぽ」

莢迦 「私が幽の女なんじゃなくて、幽が私の男なんだよ」

ゼファー 「この期に及んで動じないとは、さすがは最強の男がかしずかせてきた女達だな。気に入ったぞ。選択肢をやろう。このまま殺されて男の後を追うか、余の側女となってかしずくか」

栞 「絶対にお断りします。そもそも私は幽さんにかしずいた覚えはありません!」

美凪 「・・・・・・・・・ぽぽっ」

莢迦 「ていうかさ、言葉はよく考えてから発しようね〜」

ゼファー 「フッ、ますます気に入った。三人とも余の女として、飼ってや・・・」

ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!

ゼファー 「な、なんだと!?」

三人に向かって歩き出そうとしたゼファーの背後で、黒い炎が真っ赤に染まってさらに勢いを増して燃え上がった。
あまりの勢いに、上ばかりか横にまで炎が広がる。

ゼファー 「ぬぉおおおお!!!」

広がった真紅の炎はゼファーの体をも焼いた。
激しい炎にさしものゼファーも膝をつく。
そして顔を上げると、赤く燃え上がる炎の中から金色の眼の男が現れた。

幽 「ゼファーよぉ、てめえの技、ちぃーとばかり効いたぜ」

ゼファー 「貴様・・・!」

幽 「無限斬魔秘剣・紅蓮烈火。今のお返しだぜ」

まだ勢いの衰えない炎は、周囲の瓦礫を切り崩していく。
崩れた瓦礫の隙間から、ついに溶岩が噴出し始めた。

莢迦 「うわ、やば」

栞 「氷壁結界!」

氷が三人を包み込み、溶岩を防ぐ。
さらに栞は足元にも氷を作り出し、足場とした。

幽 「へっ、どうやらちんたらやってるとてめえと心中なんてくだらねえことになっちまうみてえだな。そろそろ終わりにするか」

ゼファー 「ふっ、余の技を一つ破ったくらいでいい気になるものではない。次こそ終わりにしてくれる」

二人の立っている場所だけは、激しい闘気によって見えない障壁ができているかのように溶岩が近づけずにいた。
まさに、負けた方は闘気が切れ、溶岩に飲み込まれるデスマッチ。

 

莢迦 「次で最後だね」

美凪 「・・・ええ」

莢迦 「で、どっちが勝つと思う?」

栞 「愚問です」

 

ゼファー 「・・・気に入らん」

幽 「あぁん?」

ゼファー 「あの女どもの目だ。貴様が勝つことをまったく疑っていない目だ」

幽 「当然だろ」

ゼファー 「何?」

莢迦 「そ、当然よ」

美凪 「・・・はい・・・幽さんは、絶対無敵」

栞 「常勝不敗」

幽 「地上最強の魔人、千人斬りの幽だぜ。俺様に勝てる奴はこの世にいねぇ」

圧倒的な存在感と威圧感。
放たれる殺気は七年前さえも上回っていそうなほどに激しく。
金色の眼で睨まれれば何人もその男に楯突く気を捨てると言われた魔人の眼。
最強の称号を持つ男が、まさにそこにいた。

ゼファー 「・・・・・・ならば・・・」

再び暗黒の力がゼファーの下に集まる。
今度は先ほどを遥かに上回るほどの、溶岩を防ぐどころか押し返すほどの魔力だった。

ゼファー 「この覇王ゼファーが、全て撃ち砕いてくれるわっ!!」

幽 「やってみな、ゼファー」

ゼファー 「死ねぃ! グランドヘル!!」

ドゴォォォォォンッ!!!!!!!

真っ黒い炎が固まりが、幽の上に押しかかる。
それは焼き尽くすなどという生温いものではなく、全てを消滅させる黒い光だった。

ゼファー 「ふは・・・ははは・・・・・・今度こそ・・・伝説の終わりだ・・・」

莢迦 「・・・・・・」

美凪 「・・・・・・おわり」

栞 「幽さん」

ゼファー 「何!?」

だが、全てを消し去る暗黒の光の中、幽は生きていた。
今までのどんな時よりも眼は金色に輝き、剣は真紅に燃え上がっている。

幽 「いい一撃だったぜ、ゼファー。今度は俺の番だな」

ゼファー 「!!」

幽 「無限斬魔剣奥義・・・・・・紅蓮鳳凰」

 

ケェェェェェェェェッッッ

 

鳳凰の鳴き声が響き渡った。
真紅に燃え上がる一羽の鳥が羽ばたき、舞い上がった。
辺り一面は赤い炎と、黒い煙に包まれた。

ゼファー 「ばか・・・な・・・・・・岩が蒸発するほどの炎・・・だと・・・」

幽 「火の鳥の翼に抱かれて眠りな、ゼファー」

吹き飛ばされたゼファーの体は、溶岩の中に飲み込まれていった。
決着は、ついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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