Kanon Fantasia

 

 

 

第42話 竜王の主

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レギス 「ドラゴンロードマスター莢迦の・・・本気だと?」

莢迦 「そ」

レギス 「馬鹿な、どれほどの力を見せようと、人間風情が魔族に勝てるとでも思っているのか?」

莢迦 「言ったでしょ。やってみればわかる」

レギス 「ふん」

レギスの姿が消える。
何の力が働いたわけでもなく、忽然と消えたのだ。

レギス 「貴様ら人間が魔法を使わねばできない空間移動など、我ら魔族にとっては普通の移動手段と変わらん」

姿を表したのは莢迦の真後ろ。
しかも、既に攻撃体勢に入っている。
普通なら絶対にかわせないタイミングだった。

莢迦 「遅いね」

ドッ!

レギス 「な・・・!?」

何が起こったのか、レギスは一瞬判断できなかった。
攻撃をかわされたばかりか、自分が反撃をまともに受けていた。
まったく予測もできず、反応もできずに。

莢迦 「考えてる暇ないよ」

レギス 「!!」

時間にすれば百分の一秒もなかった放心状態だったが、その間に莢迦の放った魔法がレギスの周囲を取り囲んでいた。

レギス 「こんなものが!」

空間移動。
取り囲んだことなどまったく意味をなさないかに見えたが。

莢迦 「そこ」

ザシュッ

レギス 「ぐぉっ!?」

今度は、移動が終わる前に攻撃を受けた。
レギスの受けた驚愕の度合いは半端ではなかった。

レギス 「空間を越えて攻撃だと!?」

莢迦 「驚くのはまだ早いよ」

シュッ

レギス 「!!!」

魔法を使う気配すら感じさせずに、莢迦はレギスの真上まで移動してみせた。

莢迦 「そっちみたいな完全に魔法なしとまでいかないけど、それに近かったでしょ」

一瞬の空間移動。
本質は違っても、効果はレギスのものと大差なかった。

レギス 「馬鹿なっ!?」

莢迦 「さあ、ガンガン行くよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔獣の腹部には風穴が空いていた。
その穴はそのまま壁を外まで貫通している。
もちろん、そんな状態で魔獣が無事なはずもなかった。

グランザム 「グ・・・グァァァァァ・・・・・・・・・!!!」

断末魔の声と共に、魔獣の体が塵となって消えていく。

祐一 「やった・・・か」

佐祐理 「やりました・・・ね」

舞 「・・・やった」

体力を使い果たし、三人はその場に座り込む。
消耗しきっていたが、皆清々しい顔をしていた。

祐一 「へっ」

グッと祐一が二人に向けて親指を立ててみせる。

佐祐理 「あははーっ」

舞 「・・・・・・」

二人も応じて親指を立てる。

 

 

 

夏海 「・・・ふぅ・・・」

美凪 「・・・お疲れ様です」

夏海 「何もしてないわ」

美凪 「・・・見ていることは、自分でやるより大変なこともあります」

夏海 「・・・・・・心臓に悪いわ」

 

 

栞 「これでもまあまあですか?」

幽 「それなりだな。だが、まだまだだな」

言いながら幽は剣を手に立ち上がる。

栞 「どちらへ?」

幽 「ようやく出てきやがった」

終わったと思ったのも束の間。
魔獣グランザムに勝るとも劣らないほど強力で凶悪な魔力の持ち主が近付いてくる。
静かな足音が奥から迫ってくる。
ゆっくりなのが、むしろ不気味さを募った。

幽 「遅ぇじゃねえか、え? ゼファーよ」

ゼファー 「そう言うな。余と貴様の決戦の前座としてはおもしろかったろう」

魔獣が出てきた巨大な門から、それより遥かに小さい人間が、しかし門を覆い尽くすような強大な力を放ちながら歩き出てきた。
覇王ゼファーである。

 

祐一 「ちっ、俺達は前座扱いかよ」

佐祐理 「でも・・・納得させられちゃいますね。あの二人の力を感じていると」

舞 「・・・物凄い殺気と闘気」

 

遺跡の時以来、再び千人斬りの魔人幽と覇王ゼファーが対峙する。
どちらも、一ヶ月前より遥かに充実しているのが誰にもわかった。

 

美凪 「・・・そう言えば、莢迦さんは・・・」

夏海 「もう10分経ってるわ・・・」

二人の戦いが始まろうとする一方で、美凪と夏海はレギスと戦っているであろう莢迦のことを気にかける。
その答えは、すぐに本人によってもたらされた。

 

ドォン!

 

天井から何かを撃ち破るような音が繰り返し響き、ついには天井を突き破って何かが床に落ちた。

幽 「・・・・・・」

ゼファー 「・・・・・・」

 

祐一 「な、何だ?」

レギス 「ぐ・・・ぬぐぉ・・・・・・!」

埋もれかけた体を床から引き摺り出してきたのは、人型をしていながら明らかに人間とは異なる容貌の男、レギスだった。

夏海 「アクエリアス・・・レギス」

美凪 「・・・莢迦さん」

天井に空いた大穴から、莢迦も降りてくる。
巫女服がぼろぼろになっているが、見れば明らかに莢迦が優勢なのはわかった。

莢迦 「よ、諸君。お久しぶり」

祐一 「って、つい10分くらい前まで一緒だったろ」

莢迦 「気分の問題だよ」

レギス 「ぐぬ・・・・・・ぬぅ・・・」

かなりのダメージを受けている体を無理やり起こして、レギスは立ち上がる。
空間移動で余所見をしている莢迦の真横に出るが・・・。

ドゴッ!

レギス 「ぐぁ・・・っ!」

莢迦の反撃であっさり跳ね返されて床を転がる。

レギス 「ば・・・かな・・・。なんだ、この力は? たかが人間の分際で・・・いくら竜王の力を受けているからと言って・・・」

夏海 「・・・あんた、何か勘違いしてない?」

レギス 「なんだと?」

夏海 「竜王との契約。その意味を履き違えてるんじゃないかと訊いているのよ」

レギス 「どういうことだ?」

夏海 「確かに、人間の魔術師がさらなる力を得るために神や悪魔と契約し、いくつかの条件と引き換えに力を得る、というのはあるわ。でも、莢迦の場合は違うのよ」

莢迦 「・・・・・・」

夏海 「本来なら莢迦は、四死聖とも四大魔女とも、同格なんかじゃない。さらにその上の世界にいるのよ。莢迦が今のドラゴンロードマスターの称号で呼ばれるより前に、なんて呼ばれてたと思う?」

レギス 「それ以前だと?」

夏海 「ドラゴンスレイヤー・・・・・・竜を倒せし者」

 

 

 

百年以上前。
まだ四大魔女の他の三人が生まれるよりも前。
魔界の竜族の大陸において、その名を轟かせた人間がいた。
誰の助けもなく、たった一人でやってきたその人間は、次々にドラゴンを倒し、ついには竜王の下にまで辿り着いた。

 

 

 

夏海 「契約は契約でも、莢迦と竜王の契約は主従の契約。ドラゴンロードマスターとは、竜王を倒し、その主となった者に贈られた称号なのよ」

レギス 「そ・・・んな・・・・・・ばか・・・な・・・」

単語から想像が付きそうなものだが、むしろ強大な力を持つ魔族であり、また人間よりも竜族の絶大な力をよく知っているからこそ、逆に想像できなかったと言える。
人間に竜王が倒せるはずがないという先入観から、ただ莢迦が竜王に気に入られて力の契約を結んだだけのものだと思っていのだ。
だが実際には、莢迦は竜王と戦い、これを倒しているのだった。

莢迦 「いや〜、自分の武勇伝を聞かされるのは照れるね〜。でも一個だけ訂正だよ、夏海。私とバハムートは主従じゃない。トモダチだよ」

夏海 「そうだったわね」

莢迦 「そうそう。だからね、そんな私に一魔族程度の君が〜・・・勝てるわけ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

語りながら莢迦の体が揺らめく。
ふらっとすると、そのまま崩れ落ちそうになる。

ぽふっ

倒れる前に、美凪がその体を受け止める。

祐一 「莢迦!?」

佐祐理 「莢迦さん、大丈夫ですかっ?」

舞 「・・・莢迦」

美凪 「・・・・・・・・・貧血です」

祐一 「は?」

駆け寄っていって美凪に抱きかかえられている莢迦の顔を覗き込むと、血の気が失せて真っ青だった。
貧血を通り越して、死人のような顔に見えたが、目を回しているだけである。

莢迦 「ほ〜ほ〜ほ〜・・・・・・世界が三回転半すぴ〜ん・・・」

美凪 「・・・無理もないです」

祐一 「どういうことだ?」

美凪 「・・・さっきも言ったように、遺跡での怪我、今回の力の使い過ぎで、血が足りなくなってるんです」

祐一 「そういうものか?」

わかるようなわからないような理屈だった。
そもそも、ここまで真っ青になるほどの貧血だったら、とっくに死んでいるのではないかとさえ思う。

美凪 「・・・竜王と契約している莢迦さんの体内には、その竜王の血が流れているのは知っていますね」

祐一 「ああ」

美凪 「・・・竜王の血は、普通の血に比べて長持ちする代わり、補充されるのが遅いんです。だから、快復が遅い」

祐一 「そうなのか」

夏海 「巨大過ぎる力ゆえに、莢迦には他者による快復を受け付けない。傷の治癒くらいはできるけど、体力快復は無理。ある場所に行くか、自然快復を待つかしかないのよ」

莢迦 「しょうなのよ〜。わ・た・し・は、幽や羅王丸みひゃいにゃ体力パカしゃないのお。か弱い女の子なんたからね〜」

どこがだとつっこみたかったが、割と重症っぽいのでやめておいた。
こうして貧血で倒れたりしてるあたりは確かにか弱いと言えなくもない。
減らず口は少しも減っていないが。

祐一 「で、大丈夫なのか?」

美凪 「・・・休めば、一先ずは平気でしょうけど・・・」

夏海 「しばらく本気モードは無理でしょうね。もっとも、ここでケリがつけば当分そんなに力を使う機会もないでしょうけど」

 

 

レギス 「(く・・・読み違えたと言うのか・・・。まさか奴らがここまでやるとはな。・・・・・・グランザムも倒されたが、ここでの用事も済んだな)」

傷付いた体で後退するレギス。

レギス 「覇王、もはやこれまで。こいつらを始末できなかったのは残念だが、計画が上手く行けば気にするほどのことは・・・」

ゼファー 「黙っているがいい、レギスよ」

レギス 「・・・覇王・・・貴様、私の言うことが聞けんと言うのか?」

ゼファー 「余はこれから幽との戦いを楽しむのだ、無駄な口を挟むな」

レギス 「(ちっ、人間というのはどうしてこう御し難い。誰のお陰で復活できたと思っているのか。止むを得ん)」

覇王を無視して、レギスは一人で消えた。
そんなことは少しも気にせず、幽とゼファーは一度莢迦の登場で中断された戦いを今度こそ始めようとする。
もう誰も何も邪魔するものはない。
十数年来の宿敵同士である。

ゼファー 「遺跡の時は途中だったな。少しは以前の力を取り戻してきたか?」

幽 「てめえは前より少しは強くなったみてえだな。だが、この俺はもっと強ぇ」

ゼファー 「ほざくか。まぁよい、戦えば自ずから結果は出る」

幽 「そういうこった。今更言葉はいらねえよ」

まさに天地も揺るがさんばかりの二人の闘気だった。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!

本当に大気と大地が震動を始めている。

 

 

 

夏海 「? おかしいわ、この揺れは・・・」

美凪 「・・・地震」

 

留美 「折原、これって・・・!」

浩平 「どうやら、さっきの奴の置き土産だな」

 

佐祐理 「まさか・・・!?」

祐一 「火山が活動を始めたのか!」

 

 

長年その活動を休止していたエントレアス山が活動を再開した。
深い場所に溜まっていたものが一気に溢れ出すように、それは休息に勢いを増していった。
今にも噴火しそうなほどに・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戻る     次へ