Kanon Fantasia

 

 

 

第38話 神剣デュランダル

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐一 「(下段・・・)」

元のとった構えは下段の構えだった。
ただ、少し右に寄っている。

下段の構えは、一般には上段に対する防御の構えとされている。
体の正面に剣を持つ正眼の構えは、振り上げて振り下ろすという二動作を要するのに対し、上段の構えは振り下ろすの一動作で済むため、それに対するためには同じく、振り上げるの一動作で済む下段が一番なのだ。
しかし、下段の本質はまったくの逆、一動作で攻撃できる攻撃的な構えなのだった。
ましてや斎藤元は最強と謳われた四死聖の一人。
その剣は下からの振り上げでも上段からの振り下ろし以上の威力を持っているはずだった。

祐一 「(あそこから来るのは・・・)」

元 「行くぞ。牙刃」

祐一 「(逆袈裟!)」

ズシャァァァァァ!!!

衝撃波すら発していそうな元の逆袈裟斬り。
回避も反撃も無理と判断した祐一は、デュランダルで防御した。
強力な一撃は、受け止めても尚、剣ごと祐一の体を吹き飛ばした。

祐一 「うわっ!」

なんとか態勢を立て直して床を滑りながら停止する。

元 「よくかわしたな」

祐一 「どうも・・・」

少しでもタイミングが遅れていれば受け損ねていた。
だが、完全に防御できたわけでもなかった。

祐一 「げ・・・」

デュランダルは受けた部分から真っ二つに切られていた。

祐一 「またかよ・・・」

元 「剣に助けられたか。・・・(だが妙だな。あれだけ切れたのなら体まで刀が届いてもおかしくなかったはずだが)」

祐一 「どうして俺の剣はこう何度も何度も折れるんだ・・・」

ついていないと言うべきか。
だが、剣が折れていようがどうしようが、敵は待ってはくれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジェミニ 「ははは、どうしたんだい?」

ジェミニ 「僕はこっちだよ」

ただでさえ双子の能力で二人いるというのに、その上素早い動きで残像まで生み出すものだから、真琴と美汐は二人どころか四人も六人も相手にしているような錯覚を受ける。

真琴 「あぅーっ、うっとうしい!」

美汐 「私に当たらないでください」

真琴 「誰も当たってないわよぉ! この状況どうするのよ」

美汐 「・・・こんなもの、あの地獄の特訓に比べれば・・・」

真琴 「あぅ・・・確かに・・・」

本当にどんな特訓なのか、思い出すだけで二人の顔は真っ青になった。

美汐 「そう、あの特訓に比べれば・・・」

真琴 「こんな奴は・・・」

ジェミニ 「ん?」

真琴&美汐 「「大したことない!!」」

はじめてぴったり息のあった二人は、即座に魔法の術式を組み上げる。
まったくの迷いもなく、真琴が攻撃、美汐が防御を担当することになっている。

真琴 「バーストフレイム!」

ドドドドドドッ

無数の火炎球が複数いるジェミニを同時に攻撃する。

ジェミニ 「おっと・・・、まだまだだよ」

美汐 「そっちもですね。ハリケーンウォール!」

二人の周囲に竜巻が発生し、ジェミニの攻撃を防いだ上でさらに攻撃にも使用された。
しかも風の合間を縫って炎が襲い掛かる。

ジェミニ 「お、お、おわわ・・・!」

さしものジェミニも、その猛攻にはたじろぐ。

ジェミニ 「やってくれるじゃないかっ」

 

 

 

 

 

 

羅王丸 「ぬ・・・ぐぐぐぐぐぐ」

タウラス 「むぅぅぅぅぅぅ・・・」

一方では、二人の巨漢が両腕を組んでの押し合いをしていた。
パワーだけの勝負なら、ほぼ互角と見えた。
まだまだ拮抗状態は続いている。

 

 

 

そして祐一対元の一戦は、完全に元のペースになっている。
剣が折れている祐一は守勢に回ることを余儀なくされているのだ。

祐一 「ちぃ!」

半分以下になった剣でなんとか元の刀を弾いていく。
対する元は、攻めながらも先ほど浮かんだ疑問について考えていた。

元 「(何故無傷だった? 俺の牙刃は相手の防御など無視してダメージを与えられる。それが何故防がれた。剣は確かに折れたはずだというのに)」

どうして刀が届かなかったのか。
届いたとしても身を捻ってかわしたということも考えられるが、そんな気配はなかった。

元 「(もう一度試してみるか)」

一旦距離を取り、再び元は下段に取る。

祐一 「来るかっ」

元 「牙刃!」

剣で防御体勢をとるが、短くては受けきれない。
しかも、受けても剣の強度があの技に耐え切れないのは証明済みだった。

祐一 「こなくそっ!」

それでも他にできることはない。
剣を折って威力の落ちた刀の斬撃を回避するしかない。

ガキィーンッ!

刀と剣が交差し、予想通りにデュランダルは完全に砕け散った。
しかし、元の刀が祐一に届くことはなかった。

元 「これは!」

祐一 「な、なんだ!?」

柄だけになったデュランダルから、光り輝く透明な刃が出ていた。
実態ではないのか、まだはっきりと形になっていない。

祐一 「こいつは・・・」

その剣の感じを、祐一は知っていた。
試しに、自分の思ったことをやってみると、思ったとおり光の勢いが増し、剣がはっきりと具現化された。
放出されたエネルギーで、元は後退させられる。

元 「ちぃっ」

祐一 「おお・・・」

デュランダルは元の姿に戻っていた。
否、さらに美しく、神々しい魔力の刃をつけて。

 

莢迦 「どうやら、本物だったみたいだね、あのデュランダル」

あゆ 「うぐぅ、どういうこと?」

佐祐理 「あの剣、全部魔力だけで刃を形作ってますね」

莢迦 「以前聞いたことがある。魔力を吸って刃に変える剣のことを。それがあれ、神剣デュランダル。本来なら持ち主の魔力の一部を使って剣になるだけだけど、彼には森羅万象全てから魔力を吸い上げる能力がある」

佐祐理 「なるほど! その魔力をさらに剣に伝えれば、ほとんど無限に近い魔力を剣に注げるわけですね」

莢迦 「あれほど彼と相性のいい剣は他にないでしょ」

 

祐一 「これが・・・デュランダルの本当の姿か・・・」

元 「ふっ、どうやらまだまだ楽しませてくれそうだな」

祐一 「ああ、たっぷり楽しませてやるよ!」

祐一は右側から両手で担ぐような形で剣を構える。
そこから一気に袈裟斬りにする構えだ。

元 「ほう、俺の牙刃に真っ向勝負を挑むつもりか」

祐一 「小細工無用だ。来いよ」

元 「・・・・・・」

何度か剣を合わせて、実力的には元の方が上なのはわかっていた。
正面勝負を避けて、うまく攻めれば確実に元の勝ちだろう。
しかし・・・。

元 「(笑止。この斎藤元、誰が相手であろうと正面からぶつかって・・・勝つ!)・・・・・・行くぞ」

互いに必殺の構えを取る。

祐一 「・・・・・・」

元 「・・・・・・」

息の詰まるような緊張感が漂う。
勝負の瞬間だった。

どこかで天井の一部が崩れ、石の欠片が床に落ちた。
その微かな音がした瞬間、二人が飛び込む。

祐一 「うぉおおおおおおおお!!!!」

元 「おぉおおおおおおお!!!!」

ガキィンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幽 「ん・・・」

舞 「・・・・・・」

浩平 「これは・・・」

三人の持つ剣がそれぞれ一瞬何かに反応した。

浩平 「どうやら、また伝説級の武器が一つ力を解放したみたいだな」

舞 「・・・祐一?」

幽 「へっ、おもしろくなってきやがった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジェミニ 「ば・・・かな・・・」

竜巻の中に飛び込んでいったジェミニは、背後から大量の魔法攻撃を受けて跪く。
誰かが攻撃したのかと思い振り向くと、そこには美汐がいた。

ジェミニ 「そんな・・・竜巻の中にいたはずじゃ・・・?」

美汐 「竜巻に乗って外に飛び出たんですよ」

見れば美汐の体はあちこちに傷を負っていた。
まさに捨て身の戦法だった。

真琴 「ふんっ、そっちとは頭の出来が違うのよ」

竜巻の中心に残っていた真琴は、巨大な魔力を溜め込んでいた。
しかし、術者が外に出てしまった竜巻は制御ができなかったのか、真琴の体もかなり傷付いている。

ジェミニ 「こんな戦い方が・・・」

真琴 「あの特訓に比べたら、こんなの屁でもないわよ」

美汐 「チェックメイトです、十二天宮ジェミニ」

ジェミニ 「この僕が・・・こんな・・・・・・馬鹿なァ!!!」

真琴&美汐 「「バーニングストーム!!」」

ゴォオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!

炎の渦に包まれ、ジェミニは炎上した。
捨て身の真琴と美汐の、勝利であった。

 

 

 

 

 

 

タウラス 「む・・・」

羅王丸 「へへ、あの嬢ちゃん達もなかなかやるじゃねえか。俺もぼやぼやしてらんねえな。そろそろ決めるか?」

タウラス 「・・・ここまでか」

拮抗していた力比べで、先に退いたのはタウラスの方だった。

タウラス 「カプリコーン」

 

 

ガキィンッ!!!

グググググググッ

祐一 「ぐぅぅぅぅ・・・」

元 「ぬぅぅぅぅぅ・・・」

打ち合わされた刀と剣から凄まじい威力が全身に伝わってくる。
ほぼ互角の打ち合いは、両方が弾き飛ばされるという引き分けに終わった。

元 「ふぅ・・・・・・・・・潮時ですか、タウラス」

一勝負を終えて冷静になったか、普段の口調に戻っている元。

タウラス 「ジェミニがやられた」

元 「それはそれは。まぁ、もう十分でしょう」

タウラス 「退くぞ」

元 「ええ」

祐一 「待て! 逃げるのか?」

元 「また後ほど・・・」

二人の十二天宮は通路の奥に消えていった。
途中まで追ってみたが、すぐに見失った。
隠し通路にでも入ったのかもしれない。

羅王丸 「逃げやがったか。まぁ、いいか。それなりに楽しんだからな」

祐一 「俺は勝ち逃げされた気分だ」

羅王丸 「そりゃ仕方ねえな。相手が元じゃ、まだまだおめえの勝てる相手じゃねえよ! がっはっはっは!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ライブラ 「!!・・・・・・ジェミニの魔力が・・・消えただと? まさか、やられたと言うのか」

みちる 「よそ見してるひまなんかあるかー!」

ライブラ 「く・・・!」

美凪 「・・・こっちです」

ライブラ 「おのれっ!」

この二人を相手に、ライブラは必死の防戦だった。
みちるだけならともかく、美凪の強さは尋常ではない。
しかもまだまだ遊ばれている程度に思えた。

ライブラ 「(限界か・・・! まさか奴らがこれほどとはな。だが、時間は十分に稼いだ)」

 

 

 

サジタリアス 「そろそろ、退き際だな」

幽 「逃げんのか?」

サジタリアス 「私なんかよりも、もっと楽しめる相手を用意しているさ。ここは、退かせてもらう」

幽 「この俺様から逃げられるとでも思ってるのか?」

サジタリアス 「思っているさ」

サッ

百分の一秒もかからずに、サジタリアスは弓を構えて矢を放った。
一秒の間に百本に膨れ上がった矢は真っ直ぐ幽と、その後ろにいた者達へ向かっていく。

サジタリアス 「避ければ後ろの連中に当たるぞ」

幽 「関係ねえな」

そう言いながら幽は剣の届く範囲にある矢を全て叩き落す。

幽 「避けるってのが性に合わねえだけだ」

サジタリアス 「そういうことにしておこう。また会おう」

その隙に、サジタリアスは奥へ消えていく。

 

 

 

 

レオ 「ここまでか・・・・・・おまえ、名前を聞いておこう」

舞 「・・・川澄舞」

レオ 「覚えておくぞ。相沢祐一ともども、いずれ決着をつけてくれる」

剣を納め、レオも後退する。
ライブラも美凪を振り切り、十二天宮三人は通路の先に消えていった。

 

 

 

 

 

 

浩平 「やっぱり退き際があざやか過ぎる。時間稼ぎだな、完全な」

留美 「なら、急いだ方がいいんじゃない?」

繭 「みゅー・・・急がないの?」

浩平 「言ったろ。俺はどっちに転んだっていいんだよ」

 

三人の十二天宮を撃退し、幽達はさらに奥を目指して進む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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