Kanon Fantasia

 

 

 

第37話 不穏な気配

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

血の道を進んでいくと、徐々に人間の死骸が転がっているところを通るようになってきた。
全て一太刀で斬られているところから見て、まず幽の仕業に間違いない。
相手は予備軍の者だろう。

栞 「なかなか追いつきませんね」

潤 「結構時間食っちまったからな」

香里 「待って! 誰か来る、後ろから」

敵もまばらになり、ひたすら走り続けていた三人はちょっとした広場で振り返る。
奇しくもそこはつい数分前まで幽とレギスが戦っていた場所なのだが、そこまでは栞達にはわからない。

潤 「複数だな。五・・・いや、六人か?」

足音はすぐに近付いてきて、広場の中まで入ってきた。

浩平 「お、広いところに出たな。けど、こりゃまだまだ先だな」

留美 「まったく、一体どこまで走ればいいのかしら」

繭 「みゅーっ」

みちる 「にょわーっ、ひっぱるなーっ!」

美凪 「・・・あ、北川さん、美坂さん、おひさ」

舞 「・・・・・・」

香里 「遠野さんに・・・川澄さん? それに・・・あなたは確か遺跡で・・・」

意外な取り合わせの面々に事態が飲み込めない。
とりあえず先へ進みながらということで、浩平は事情を説明した。

 

浩平 「まぁ、平たく言えば、山の上で一緒になった舞や美凪と一緒に来たってだけなんだけどな。ちなみにこいつらは、怪力乙女七瀬留美と、暴走娘椎名繭だ」

留美 「誰が怪力乙女ですって!」

繭 「みゅーっ」

留美 「ひっぱるなっ!」

小柄な方の少女、繭がもう一人の留美のツインテールの髪を掴んで引っ張る。
怒られると今度はみちるの方の髪を引っ張りに行く。

みちる 「いいかげんにしろーっ」

浩平 「こういう奴らだ、よろしく頼む」

栞 「よくわかりませんけど、わかりました。それで、浩平さん達はどうしてここへ?」

浩平 「そうだな・・・事の顛末を見届けに、かな」

栞 「顛末を見届けに、ですか」

浩平 「俺にとっては、誰が勝とうが関係ないんだ。最後に俺が天下を取れればな。だが、誰が勝って生き残ったかによって、今後の方針が変わってくる。そのための偵察だな」

 

 

 

 

 

 

 

城の外、隣りの山の上から城のある山を見詰める人影があった。

瑞佳 「偵察が聞いてあきれるよ」

雪見 「連れて行ったのが七瀬さんと椎名さん。正面から戦う気満々ね」

詩子 「二人とも実戦タイプだもんね。コンビもいいし」

茜 「・・・・・・」

澪 『大丈夫かな?』

みさき 「大丈夫だよ。信じて待とう。ここで待機って言われたんだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

浩平 「へっくし!・・・・・・ちっ、残してきた奴らが噂してるな」

舞 「・・・・・・敵」

潤 「ていうか、あれ幽だろ。やっと追いついたぜ」

先ほどの広場よりさらに広い部屋の中央で、幽と十二天宮が対峙していた。
敵は三人。ライブラ、サジタリアス、レオである。

ライブラ 「ここまで侵入を許すとはな。幽だけならまだしも、こんな小物どもまで」

サジタリアス 「予備軍も役に立たん奴らばかりだな。七年前に比べて質が落ちたものだ」

レオ 「だが、これ以上先に進ませるわけにはいかんな」

最強の集団と言われた十二天宮が三人もそろえば、かなりの威圧感があった。
しかし舞をはじめ皆、遺跡の時ほど圧迫される気がしなかった。
それはつまり、差がそれだけ詰まったということ。

幽 「遅ぇぞ、下僕ども」

栞 「誰が下僕ですか。こっちだって色々大変だったんですよ」

栞は早くも定位置になりつつある幽の傍らに歩いていく。
それをさらに追い越して、舞が前に進み出る。

舞 「・・・祐一達を知らない?」

ライブラ 「相沢祐一ならば、別の門から中に入ったようだな」

レオ 「残念だ。決着をつけたかったのだが」

サジタリアス 「まぁ、おまえ達が奴らと会うことはないだろう。向こうにも十二天宮三人がいる上、おまえ達はここで死ぬのだからな」

幽 「てめえら三人程度で俺様の行く手を遮れると思ってやがるのか? まぁ、どのみちおまえら全員あの世行きだがな」

舞 「・・・祐一達がこの先にいるなら・・・押し通る」

舞は新たな力、魔剣レヴァンテインを抜く。
それだけで、その力が部屋中に満ちた。

幽 「ほう・・・こいつか、ラグナロクが共鳴してやがったのは」

浩平 「こりゃ、さっそくいいもの見られたな」

皆その剣と舞が放つ魔力の強さに驚かされる。
当然それは敵も同じことだった。

レオ 「これは・・・この前とは段違いだな。おもしろい、相沢祐一との決着並に楽しめそうだ」

ライブラ 「レオ・・・わかっているだろうな」

レオ 「無論だ。だが、私の戦いの邪魔はするなよ」

ライブラ 「・・・(レオの魔力は10700・・・・・・川澄舞の魔力は・・・12000!? まさかこれほどとは・・・)・・・む?」

戦おうとしている二人の魔力を測っていたライブラは、誰かの気配を感じて振り返る。
その瞬間に何か強烈な一撃を受けて吹き飛ばされる。

ライブラ 「な・・・っ?」

なんとか態勢を整えて相手を見る。
遠野美凪と、みちるだった。

ライブラ 「何の真似だ?」

美凪 「・・・ちょっと、お返しです」

ライブラ 「何?」

みちる 「おまえ、この前莢迦のことぶすってやったでしょ。そのお返しだい!」

美凪 「・・・そういうことですので」

ライブラ 「ふんっ、二人合わせても魔力5000にも満たない者が何・・・を・・・(な、なんだこれは? こんな呆けた顔の小娘から感じるこのプレッシャー・・・それに、魔力が上昇しているだと!?)」

幽 「なんだライブラ、てめえそいつのこと知らなかったのか。まぁ無理もねえか。死なねえ様に頑張りな」

静かに佇む美凪。
しかしそこから発せられる強大な力は、完全に十二天宮よりも上。
いや、ライブラにしてみれば、七年前に戦った敵、四死聖よりも上の魔力値だった。

ライブラ 「さ・・・33000・・・」

美凪 「・・・ひさびさ、本気モード」

みちる 「かくごしろー」

ライブラ 「(け、計算外だ! これほどの力の持ち主がまだいたとは・・・。その上この人数。だが、まだ時間がいる・・・!)」

一方、幽は残りものということで、サジタリアスと向き合っていた。
残りの面々は相手がいないので見物である。

幽 「久しぶりだな、サジタリアス」

サジタリアス 「そうだな。この間はいなかったからな」

幽 「十二天宮の中でもおまえはそれなりに強ぇ方だったからな、せいぜい楽しませてくれよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、祐一達の行く手にも十二天宮が立ち塞がっていた。
タウラス、ジェミニ、そしてカプリコーンこと斎藤元である。

ジェミニ 「お、来たね来たね。さぁてと、時間まで楽しむとしますか」

タウラス 「・・・羅王丸か」

元 「これはこれは」

羅王丸 「よぉ、タウラスに・・・元じゃねえか。なるほど、おめえは覇王野郎についたか」

旧知の間柄の相手に対し、羅王丸が声をかける。
しかし既に臨戦態勢でいた。

羅王丸 「どうやらようやく出番だな。なぁ、タウラスよぉ。それとも、俺の相手は元か?」

元 「遠慮しましょう、あなたの相手は。それより、私はもっと興味のある人がいる」

そう言って元の目が向けられたのは、祐一だった。

祐一 「俺?」

元 「遺跡では結局戦いそこねましたが、莢迦さんが目をつけ、しかも羅王丸と夏海さんの息子。大いに興味がわきますね。お手合わせ願えますか?」

言いながらもう刀を抜いて前に進み出ている。
選択の余地はないように思えた。
そして、祐一にも断る理由はない。

祐一 「いいぜ。見せてやるよ」

震える手で剣を抜いて構える。
かつて最強伝説を作り上げた男の一人が、自分を名指して勝負を挑んできた。
誰にも認められない思いをしてきた祐一にとって、それは喜びの震えだった。

祐一 「(四死聖の一人と、ついに本気で戦える時が来た。俺は、強くなったか?)」

その答えは、戦ってみなければ出ない。

祐一 「行くぜ!」

元 「来い!」

その一方で、再戦に燃える者達がいた。

真琴 「ここで会ったが百年目よ」

美汐 「この前の決着、つけさせてもらいます」

ジェミニ 「また君達か。少しは強くなってきたかい?」

ジェミニ 「いやぁ、まだまだかなぁ」

真琴 「また出たわね、同じ顔!」

また一方では七年目の戦い。

羅王丸 「オラオラオラァッ!」

タウラス 「・・・・・・」

こちらはパワーとパワーのぶつかり合いだった。

各所で戦いが行われていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

舞 「せいっ!」

キィン!

レオ 「く・・・! この前とはまるで違うな、だがっ!」

受け止めた剣を逆に押し返す。
空中に投げ出された舞は、くるりと回って着地する。

レオ 「私とてこんなものではないぞ」

舞 「・・・祐一達に追いつくまで、負けない」

レヴァンテインが舞の力に共鳴して激しい魔力を放出する。
舞と魔剣の魔力が合わさって、凄まじい力場が発生した。

レオ 「これは・・・いかん!」

咄嗟に身を翻して回避するレオ。
直前までいた場所を、何か見えない力が攻撃する。
正体は知れなかったが、舞が生み出したものに違いなかった。

舞 「はぁ!」

レオ 「むぉ・・・!」

ガキィン!

二人の戦いは、舞のペースで進んでいた。

 

 

 

 

浩平 「・・・妙だな」

繭 「みゅ?」

留美 「そうね。確かにこっち側の三人、みんな強いけど、十二天宮だってそんな簡単に押されたりしないはず」

浩平 「手を抜いてる風には見えないが、あの戦い方は、そう、まるで時間稼ぎでもしてるみたいだな」

留美 「何か狙いがあるってこと?」

浩平 「或いは時間稼ぎそのものが目的か・・・。奥に何があるってんだ?」

繭 「みゅー・・・何かある?」

留美 「かもしれないってことでしょ」

浩平 「きな臭いな・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

城の奥深く。
暗い闇の中に、レギスはいた。

レギス 「もうそろそろ、準備が整うな」

夏海 「何の準備かしら?」

そこに、いるはずのない二人目の声がした。

レギス 「・・・アリエス。帰っていたのか」

夏海 「ここで、一体何をしているの?」

レギス 「知る必要はない。暇ならば、奴らの足止めでもしていろ」

夏海 「そうはいかないわ。ようやく二人きりになれたのだから」

レギス 「・・・そうか。四大魔女などと呼ばれるほどの者が何故覇王の下にいるのかと思えば、私を探っていたのか」

夏海 「アクエリアス、おまえは何者? 何を企んでいる?」

レギス 「先ほども言ったろう。知る必要はないと」

夏海 「聞き出すわ。すごく気になるから」

レギス 「そうか・・・。愚かな、興味など抱かなければ、長生きできたものを!」

レギスはローブを剥ぎ取った。
暗闇の中だったが、そんなものは夏海には関係ない。
そこで夏海は、レギスの姿を見た。

夏海 「な・・・!? あ、あなたは一体・・・」

レギス 「三度目だ。知る必要はない。死ぬがいい、青嵐の大魔導師」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

莢迦 「・・・・・・なーんかありそうだね、さっきから。先を急ぐべきか、ここを楽しむべきか・・・」

不穏な気配を感じ取って、莢迦は先へ進みたい衝動に駆られるが、目の前で行われている祐一対元の一戦も大いに気になった。
祐一の剣技は相当なものだったが、元のそれは年月の重みが違う。
やはり全体的には元の方が優勢だった。
それでも概ね互角に見えた。

 

元 「さすがだな・・・いい腕をしている」

祐一 「そりゃどうも・・・」

褒められて悪い気はしないが、正直祐一はいっぱいいっぱいだった。
動きの速さに付いていくのがやっとである。
しかも、まだ元は全力ではない。

元 「小手調べはこれくらいにしておくか」

祐一 「(いよいよ来るか・・・)」

元の構えが変わった。
祐一も覚悟を決めて相手の動きに備える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戻る     次へ