Kanon Fantasia

 

 

 

第36話 天宮予備軍

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

羅王丸 「オラオラオラァァァ!!!」

先頭を切って疾駆する羅王丸のハンマーが振られる度に、数匹のモンスターがまとめて吹っ飛ばされる。
しかもそれが何度も繰り返されるのだ。
恐るべきパワーとスピードである。

祐一 「・・・・・・」

後ろを走る祐一達は残りものを片付けていればいいだけなのだが、走る速度が速く、しかも止まらないのでとにかく疲れる。

祐一 「一体・・・どこまで走るんだよ・・・?」

莢迦 「ああ、止めないと延々と、もしかしたら城を突き破って山の反対側に出るまで走るかも。何しろ羅王丸は体力バカだから」

祐一 「な・・・、冗談じゃないぞ。おい親父、いい加減とま・・・」

止まれと言おうとしたところで、羅王丸が自ら走るのをやめて止まった。
すぐ後ろにいた祐一は思わずぶつかりそうになって慌てて回避した。
その結果視界が開け、前方の人影を見ることができた。

?? 「がははははは、ここから先へはもう一歩も進めんぞ」

?? 「その通り、この先にはおまえ達が目指す覇王城への門があるが、おまえ達がそれを見ることはなーい!」

やたらとハイテンションな男が二人、道を塞ぐようにして立っていた。
見ているだけだと馬鹿みたいなのだが、並の者達でないことは感じられた。

祐一 「なんだ、おまえらは?」

?? 「よくぞ聞いてくれた、と言いたいところだが、俺達の今の名前なんざどうでもいい」

?? 「その通り、ゆくゆくは十二天宮、キャンサーかスコーピオンかピスケスの名で呼ばれることになるのだからな」

?? 「そう! 我らは・・・」

?? 「天宮予備軍! 十二天宮に欠員ができた際、その穴を埋めるために」

?? 「或いは十二天宮の座を奪うために日夜腕を磨く者!」

莢迦 「要するに二軍でしょ」

佐祐理 「あははーっ、この間も同じ様なことを言ってる人と戦いましたよ。こてんこてんにやっちゃいましたけど」

?? 「それはそいつが弱かったのだ」

羅王丸 「おまえらも別に変わらんだろ。名前がないと不便だろうから、仮に雑魚AとBと名付けてやろう」

雑魚B 「誰が雑魚か!」

雑魚A 「我らの中には本当に十二天宮を凌駕する実力者もいるのだ。それを思い知るがいい」

二人の敵がそれぞれ得物を構える。
構えからも決して侮れない強さを感じる。

羅王丸 「あー、走りっぱなしで少し疲れたな。俺はちょっくら休憩するか。雑魚の相手してもつまらん」

雑魚B 「まだ言うか!」

雑魚A 「まあいい、四死聖の羅王丸。大物はあとにとっておこうではないか」

雑魚B 「おおそうか、ならまず他の連中から片付けてしまおう!」

洞窟の端でしゃがみこんでしまった羅王丸を無視して、予備軍の二人は他の面々に目標を定める。

莢迦 「ま、私や羅王丸が出るまでもないよね。ていうか、君一人で十分でしょ」

ぽんっと莢迦が祐一の肩を叩く。

祐一 「は?」

莢迦 「体力馬鹿のせいですーっと走り続けで、女の子達は疲れてるの。男の子の出番でしょ。ほら行った行った」

そのまま肩を押し出す。
体を泳がせながら、祐一は二人の前に出る。

雑魚B 「おまえが最初の相手か!」

雑魚A 「女を守って前に出るとはなかなか紳士だな。しかし我々に負けて無様な姿をさらす哀れな奴」

祐一 「あのな・・・」

つきあっていられなかった。
祐一は剣を抜く。

祐一 「少しは黙れよ」

雑魚A 「む・・・」

雑魚B 「ぬぬぬ」

剣を構えた祐一に気圧される二人。
まだ祐一は魔力を集めたわけでもない。
剣気だけで相手を圧していた。

祐一 「先は長いんだ。おまえら如きにのんびり構ってる暇は・・・ない!」

ブゥン!

雑魚s 「「ぐわぁぁぁ!!」」

散々前振りが長かった予備軍の二人だったが、祐一の前に一瞬で倒され、出番を終える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

栞 「どちら様ですか?」

?? 「作られた兵器の分際で、生みの親に勝手に質問など・・・いやはや欠陥品もいいところだ」

郁未 「生みの親ですって?」

白衣の男は相手を見下すような顔で郁未と栞を見据える。
いや、実際見下しているのだろう。
くいっと眼鏡を上げる仕草なども相手を馬鹿にしているようにしか見えない。

白衣 「まぁ、私の名前などどうでもいいでしょう。どうせすぐに十二天宮の名で呼ばれることになるのですから」

郁未 「予備軍の奴ね。何の用?」

白衣 「口の聞き方に気をつけたまえ。ナンバーA12、おまえは本来なら十二天宮に名を連ねることなどありえなかったのだ。そう、本来ヴァルゴたるべきはこの私なのですよ。何しろ私は、この魔導実験の責任者なのですから」

潤 「責任者、ってことは、あいつがこのふざけた実験を始めたってことかよ」

香里 「なんて奴なの・・・!」

郁未 「・・・そう、あんたが全部の元凶だったのね」

倒れていた郁未は起き上がって白衣の男と向き合う。
やられたばかりとは思えないほどの魔力を放って相手を威圧している。

白衣 「おお怖い。力だけは強いですねェ。しかし、所詮は実験途上のプロトタイプ。この最新型には敵いませんよ」

後ろに控えているダルマ男を示して白衣の男が嘲笑する。

白衣 「最新型は、それ自体では意味をなさない。自我を残しておくと、そこの二体や事故を起こした失敗作同様、暴走する可能性がありますからね。こいつは優秀なパーツを集めて作った最高傑作で、しかも・・・」

男はダルマのもとへ歩み寄り、そこに手を付く。
すると男の体は見る見るうちにダルマの中へ吸い込まれていった。

白衣 「自我があるから暴走するなら自我を消し、こうして私が直接操る人形にしてしまえばいい! これで私は十二天宮たるに相応しい力を手に入れるのだ、ふはははははは!」

郁未 「ふざけたことをっ! 今ここで、あんたに弄ばれたみんなの分を返してやるわっ!!」

操れる限り全ての雷を集めて、巨大な雷球を生み出して突進する郁未。
巨体ゆえに動きの鈍い相手は避けられない。

郁未 「喰らいなさいっ、轟雷弾!」

凄まじい電撃を放つ弾丸が撃ちだされる。
それは確実にダルマを捉えたが・・・。

白衣 『はははははは、効きませんねェ! そんなへぼへぼな攻撃では、こいつの皮膚に傷一つつけることなどできませんよ!』

雷撃をものともせず、逆に突進したダルマの拳が郁未を床に叩きつける。

ドンッ!

郁未 「ぐっ・・・!」

血が噴出し、骨の砕ける音がした。
その程度の傷では郁未は死なないが、かといって痛みがないわけではない。

郁未 「ぐぁ・・・」

白衣 『所詮試作品が完成品に勝てるわけないのですよ。こいつに弱点があるとすれば、操縦者の私が倒されると止まってしまうことですが、この中にいる限り私には何人も手出し不能。つまり、絶対無敵ということですよ!』

ダルマの中から白衣の男の高笑いが響く。
嫌になるような笑い声に、潤と香里も苛ついて武器を取ろうとするが、それよりも早く前に進み出る者があった。

栞 「・・・言いたいことはそれで終わりですか」

白衣 『ふん、今度はこっちか。出来損ないの分際でA12を倒してのは評価できるが、所詮そこまで。この絶対無敵の完成品には勝てませんよ』

栞 「・・・・・・あなたは、紅蓮地獄というものを知っていますか?」

白衣 『何?』

栞 「凍てつく寒さに晒され、皮膚が真っ赤に腫れあがることからそう名付けられた地獄の名前です」

白衣 『ふん、それがどうした?」

栞 「その紅蓮地獄を自在に操る人を私は知っています。その人こそ絶対無敵、あなた如き、その足元にも及びはしません。今から私が、それを証明してあげます」

今までとは比べ物にならないほど巨大な冷気が栞を中心に部屋を満たしていく。
栞が立っている床は勿論、周囲の壁から天井に至るまで凍り付いていく。

白衣 『ふははは、何をする気かは知らぬが、こいつの絶対防御は敗れんわ!』

栞 「確かに外は頑丈そうですね。あの人ならその程度の硬さなんか関係ないんでしょうけど、私にはそこまでの力はありません。けど、外が駄目なら・・・」

辺りを凍りつかせながら、栞の放った冷気がダルマに襲い掛かる。

栞 「紅蓮氷花!」

凝縮された冷気がダルマを完全に包み込み、そのまま凍りついた。
あたかもそれは、氷の花のオブジェのようだった。

香里 「やった?」

ぴしっ

潤 「いや、まだだ!」

ぱりーんっ!

だが、あっさりとその氷は砕け散り、中から無傷のダルマが現れた。

白衣 『効かん効かん、少しも寒くなどないぞ。対寒冷防御も完璧だ!』

栞 「・・・・・・」

しかし、そんな敵に対し、栞は既に興味を失ったように背中を向ける。

白衣 『ははは、もう諦めたか。しかし失敗作は廃棄しなくてはな。逃がしは・・・・・・(な、なんだ、この感覚は? さ、寒い? か、体の芯が凍る!?)』

栞 「外が駄目なら、中から凍らせるまでです」

白衣 『ば、馬鹿なっ! バカなバカなッ!! この私が・・・こんな・・・こんなぁ!!!」

ダルマの体が破裂する。
しかし噴出したのは鮮血ではなく、それが凍りついたものだった。

栞 「真っ赤な氷の花を咲かせなさい」

それはあたかも、氷でできた赤い花のオブジェだった。
今度は、砕けることも溶けることすらないまま、そこに佇んでいた。

潤 「す、すげぇ・・・」

香里 「栞・・・」

栞 「えへへ、技の名前も決め台詞も、幽さんのパクリなのがちょっと問題なんですよね。でも、かっこいいからオッケーですよね」

潤 「その、なんてーか・・・パクリはよくないぞ」

栞 「そんなこと言う人、嫌いです」

潤 「いや嫌いですって・・・」

香里 「それよりも、彼女はいいの・・・・・・っ・・・北川君!」

潤 「あん?・・・・・・っ・・・あいつ!」

 

苦痛で意識が朦朧とする中、郁未が誰かが自分の体を抱き上げたのがわかった。
目を開けると、自分の顔の上に斎藤元の顔があった。

郁未 「斎藤・・・さん?」

元 「どこかへ行ったと思ったら、随分派手にやられましたね」

潤 「斎藤! てめえっ」

元 「おや、誰かと思えば君でしたか。こんなところまで来るとは、よほど命知らずですね」

香里 「今度は負けたりしないわ」

元 「待ってください。今は彼女を迎えに来ただけですから、刃を下げてくださいよ」

栞 「どうしたんですか? 幽さんならとっくに先へ行っちゃいましたけど」

元 「知っていますよ。けれど、真打対決は後の方が盛り上がるでしょう」

栞 「確かに、ドラマのセオリーですね」

元 「というわけで、失礼」

潤 「待ちやがれ!」

元 「また会えたら相手してあげますよ。ただし・・・・・・その時は今度こそ死ぬ覚悟で来ることだ」

最後に一瞬だけ殺気を見せて、元は郁未を連れて去っていった。

潤 「・・・・・・ふぅ・・・やっぱり一筋縄じゃいかないな、あいつは」

ほんの僅かに殺気を向けられただけでもう汗をかいていた。
幽の戦いでは押されていたが、やはり四死聖の力は尋常ではない。

香里 「・・・・・・」

栞 「さぁ、先を急ぎましょう。結構時間ロスしちゃいましたから、早く幽さんを追いかけないと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃の幽。

雑魚s 「ははは、来たな千人斬りの幽! 貴様を倒せば我らは新たな十二天・・・」

幽 「退きな、雑魚ども」

ズバッ
ザシュ
ドシュッ!

雑魚s 「ぐわぁぁぁぁぁ!!」

行く手を阻む雑魚を尽く切り伏せながら徐々に深部へと近付いていっていた。
敵もトラップも、何一つこの男の進攻を止めることはできなかった。

幽 「いい加減退屈してきたな、そろそろ十二天宮の一人や二人も出てきやがりな」

?? 「そこまで言うのなら、出て行ってやろうか」

突然、何の気配もさせず、いつの間にか幽の眼前に全身をローブで覆った男が現れた。
十二天宮アクエリアスこと、レギスであった。

幽 「やっと出やがったか」

レギス 「レギスと言う。会うのははじめてだな、千人斬りの幽」

幽 「らしいな。まぁ、てめえらとぐだぐだ話すこともねえ。俺を楽しませな。つまらなかったら即行で殺すぞ」

レギス 「結構だ。こちらも遊ばせてもらおう」

幽 「ほざいてなっ!」

ラグナロクが一瞬にしてローブを切り裂く。
しかし、斬った手応えが幽にはしなかった。

シュッ

幽 「ふん!」

ガキィン

背後からのレギスの攻撃を幽は振り向きもせずに払う。
そのまま剣を突き出すが、またしてもレギスの体を捉えることはなかった。

レギス 「どうした、私はこっちだ」

幽 「ちぃっ!」

幽は猛攻を加えるが、一度も剣がレギスに当たることはない。
当たったと思っても、次の瞬間レギスはまったく別の場所から攻撃してくるのだ。

レギス 「無駄だ。私を捉えることはできん」

幽 「・・・・・・」

ブゥン

レギス 「無駄だと言ったろう」

幽 「・・・・・・・・・ふん、そこか」

ヒュッ

レギス 「無駄・・・・・・!?」

再び姿を見せたレギスのローブの一部が切り裂かれていた。

レギス 「まさか・・・」

幽 「チッ、浅かったか。次は胴体真っ二つだぜ」

幽の剣がまた振られる。
何度かはかわしたレギスだったが、二度、三度とローブの端が斬られていく。
そしてついにはローブの中にまで届くほどの一撃が入った。

レギス 「む・・・くぉ・・・・・・」

幽 「どうした? 本気でこねえと、次は本当に首が飛ぶぜ」

レギス 「これが千人斬りの幽・・・・・・(神殺しやデモンスレイヤーとも呼ばれるだけのことはある)」

幽 「もう終わりか?」

レギス 「・・・そうだな。また次の機会にしよう」

音も気配もなく、レギスの姿は消えた。
しばらくその空間を見詰めていた幽は、またおもしろくなってきたと思いながら先へ進みだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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