Kanon Fantasia

 

 

 

第29話 反魔能力

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ライブラ 「皆戻ったか」

その石造りのテーブルには、十二の席が設けられていた。
うち、九つの席は埋まっている。

夏海 「タウラス、もう怪我はいいの?」

タウラス 「問題ない」

ジェミニ 「全員揃うのは久しぶりだな」

レオ 「・・・・・・」

郁未 「そういうことは全員いる場合に言うものじゃないの?」

ライブラ 「・・・・・・」

サジタリウス 「はて、いるはずの者もいないのが気になるが?」

元 「確かに、空席は二つのはずですね」

アクエリアス 「・・・・・・」

十二天宮のうち九人である。

サジタリウス 「キャンサー、ピスケスの欠員はいいとして、何故スコーピオンまでいない?」

ジェミニ 「まさかこんなチャチな任務中に死んだ、なんてわけないよね」

ライブラ 「本来ならば全員揃えるはずだったが、スコーピオンには単独任務を与えた。少々厄介になるやもしれぬ者達の抹殺をな」

レオ 「・・・それはよもや、私が戦った者達のことではあるまいな」

ライブラ 「いかにもそうだ」

レオ 「納得がいかんな。私を呼び戻しておきながら、奴などを向かわせるとは」

ライブラ 「確実に仕留めるならば奴がちょうどよい。何しろ奴は、ある意味において我ら十二天宮最強。任せておけば問題ない。他に不服なものはあるか?」

ジェミニ 「ライブラさ、本当は自分がいきたいんじゃないの? あの、相沢祐一とかいう兄ちゃんを殺しに」

ライブラ 「・・・・・・」

郁未 「そんな話はどうでもいいでしょう。それより、わざわざ全員集合までした理由を早く聞かせてちょうだい」

ライブラ 「もちろん、今後の方針に関する話をするためだ」

タウラス 「何か変更があったのか?」

ライブラ 「にっくき四死聖莢迦に覇王様が受けた傷は思いの外快復が遅い。制圧計画は一先ずカモフラージュに止め、例の計画の準備を早める」

サジタリウス 「ほぉ、いよいよか」

レオ 「我らの悲願か。そういうことなら仕方がないが、納得したわけでもない。仮にスコーピオンが倒されでもしたらライブラ、問題だぞ」

ライブラ 「わかっている。だから奴を差し向けたと言っただろう」

夏海 「話がそういうことなら、それぞれの分担を決めた方がいいわね」

元 「そうですね。制圧計画も、一応続けるのでしょう?」

ライブラ 「無論だ。皆覇王様のため、粉骨砕身して働くがいい」

 

 

夏海 「・・・・・・(スコーピオンの反魔能力は確かに厄介ね。あれを確実に敗れるのは、私の知る限りでは一人だけ・・・・・・。大変ね、祐一)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐一 「・・・なんか嫌な感じだな・・・」

森の中を進んでいる最中、祐一はそう思った。
雲行きが怪しいというのもあるが、それ以上に何かよくないことが起こりそうな予感がしていた。
戦いの中に生きる者が持つ第六感のようなものが反応している。

佐祐理 「祐一さんもですか。実は佐祐理もさっきから胸騒ぎがしてたんです」

あゆ 「うぐぅ? ボクはお腹が空いたくらいだけどな・・・」

祐一 「うぐぅは黙ってろ」

あゆ 「誰がうぐぅだよっ!」

いつもの馬鹿をやっている場合ではない。
嫌な感じは尚も募り、ついには形になって表れた。

祐一 「血の臭いだ」

あゆ 「え?」

がさっ

茂みが揺れて、そこから旅人姿の少女が飛び出してきた。
傷を負っているらしく、肩から血を流している。

少女 「た、たすけて・・・」

祐一 「おいっ、大丈夫か?」

倒れそうになる少女の体を支える。
素早く傷を確認するが、致命傷ではない。

祐一 「大丈夫だ、傷は浅い。佐祐理さん、治癒魔法を」

佐祐理 「はい、任せてください」

木の幹に少女を寄りかからせ、佐祐理が傷口に手をかざす。
柔らかい光が傷を包み込み、癒していく・・・・・・はずだった。

佐祐理 「はぇ?」

祐一 「どうした?」

佐祐理 「いえ・・・治癒魔法が全然効果を表さないんです」

祐一 「なんだって?」

少女 「・・・あ、あいつ・・・」

何かに怯えるように少女が呟く。

少女 「あ、悪魔・・・・・・」

祐一 「なんだ? 何があったんだ?」

少女 「み・・・みんなやられて・・・。ま、魔法が・・・効かない・・・」

祐一 「魔法が効かないだと?」

佐祐理 「そんなまさか・・・」

あゆ 「うぐぅ?」

少女 「一人で逃げるのがやっとで・・・」

祐一 「他に仲間がいるのか、場所はどこだ?」

 

 

 

 

なんとかして少女から聞き出した場所へと急ぐ祐一達。
治癒魔法が効かないため、少女には応急処置だけをしておいた。
深い傷ではないため、それで問題ないはずだった。

祐一 「ここか・・・!」

近くまで来れば、場所はすぐにわかった。
素人でもわかるほどに血の臭いが充満していたからだ。

佐祐理 「これは・・・」

あゆ 「ひ、ひどい・・・」

開けた場所に、五人の人間が倒れ付していた。
一人として血を流していない者はいない。
だが、一人も死んでいなかった。

?? 「ふふふ、来たか。相沢・・・・・・祐一とか言ったかな。ライブラやレオがてこずったと言うからどんな奴かと思えば、ただの小僧ではないか」

中心には、返り血に塗れた男が一人立っていた。

あゆ 「・・・君がやったの・・・!?」

?? 「そのとおり。十二天宮が一人、スコーピオン」

あゆ 「こんなこと、許さないよっ!」

ヒュッ

白い羽を具現化させたあゆは、高速でスコーピオンの懐に飛び込む。
以前は相手が幽だったため通用しなかったが、このスピードにはそうそう反応できるものではない。

あゆ 「天使の力、喰らいなよっ!」

光があゆの手に集まって羽飾りのついたロッドとなる。
まばゆい閃光を放ってロッドがスコーピオンに向かって振られる。
回避できるタイミングではない、完璧な高速アタックだった。
しかし・・・。

スコーピオン 「はて? 何かしたかな、天使のお嬢さん?」

あゆ 「な・・・!?」

ロッドの一撃は確かに相手の体に届いていた。
完全に直撃としか思えなかったが、スコーピオンは平然としている。

スコーピオン 「効かんな。攻撃とは、こういうものだぞ」

太い縄のようなものがついた腕が振られる。
縄の先端には刃がついている。

祐一 「あゆ! 下がれっ!」

佐祐理 「あゆさん!」

祐一が剣を抜いて走り、佐祐理が術を発動させる。
一瞬呆けていたあゆも二人の声で我に返って後ろに下がる。

佐祐理 「ライトジャベリン!」

光の槍が無数に飛ぶ。
並の魔術師ならば一度に一つが限度の槍を何本も作り出せるのは佐祐理ならではだった。

スコーピオン 「効かん効かん」

だが、鉄の壁さえ貫通する光の槍はスコーピオンが無造作に振るった手によって掻き消されてしまう。

祐一 「こいつっ!」

ブゥン!

デュランダルが水平に薙ぎ払われる。
そこではじめてスコーピオンは動き、剣をかわす。

スコーピオン 「ふふふ、危ない危ない」

祐一 「・・・なるほど、読めたぜカラクリが」

スコーピオン 「ほほう。聞いてやろう」

祐一 「どうやってかは知らないが、おまえは魔法を無力化できるみたいだな。けど、物理攻撃まで防げるわけじゃない。あゆの攻撃が効かなかったのは、あいつのロッドに込められた攻撃力のほとんどが魔力によるものだからだ」

スコーピオン 「あれだけの攻防でそれを見抜くとはまあまあだな。それで? 対策は見付かったか?」

祐一 「俺がおまえを倒す。それだけだ!」

魔力による攻撃が通用しないのなら、佐祐理とあゆは役に立たない。
しかし魔力を持たない祐一にとっては関係なかった。

祐一 「おらぁ!」

スコーピオン 「ははははは、甘い、甘いな相沢祐一よ! ならばこうするまで!」

相手の腕についている縄が伸びた。
それはあたかもサソリの尻尾のような形をしている。

グサッ!

男 「ぐぁああああああ!!!」

祐一 「しまった!」

祐一の横を通り過ぎたサソリの尻尾は、倒れている男の足に突き刺さり、男が悲鳴を上げる。

祐一 「貴様っ!」

スコーピオン 「はははは、私の攻撃で受けた傷は治癒魔法では治せんぞ。それにしても、苦痛の悲鳴はいつ聞いても心地いいな」

祐一 「こいつ・・・!」

この男は明らかに楽しんでいた。
倒れている旅人達くらいいつでも殺せるのに、死なない程度に治せない傷を負わせてのた打ち回る様を楽しんでいるのだ。

祐一 「外道が!」

スコーピオン 「褒め言葉だ」

微妙な距離を取って対峙する。
一足飛びでは祐一の剣が届かない距離で、下手に突っ込めばあのサソリの尻尾で後ろに倒れている者達や佐祐理とあゆが狙われる。
こういう時には飛び道具が便利なのだが、魔法が効かないのではそれもできない。
さらに、時間がかかれば倒れている者達は出血多量で死ぬ。

祐一 「く・・・!」

時間にも追われている状態だ。

スコーピオン 「どうした? この程度か、レオまでも苦戦させた力は。もっと私を楽しませてくれよ」

祐一 「だったら! 正々堂々一対一で戦えばいいだろっ!」

スコーピオン 「正々堂々? はっ! レオみたいなことを。戦いは楽しく、そして勝てばいいのだ。ノーリスクハイリターン! これ最高だね」

相手を見下すような笑い。
神経を逆撫でする表情だったが、ここで飛び出せば間違いなく一人二人は殺される。

祐一 「(どうする!?)」

幽ならばどうする。
まず、無関係な者達など見捨てるだろう。
だが祐一はそれはしたくなかった。
贅沢と言われようとも、目の前で誰かが殺されるのを見るのはごめんだった。

祐一 「(誰も死なせやしない。一人でも殺されたら、俺の負けだ)」

犠牲の上の勝利など、祐一は望んでいない。
そんな戦い方をすれば、幽と何も変わらない。

祐一 「!」

視界の中に、白い羽が舞い込んできた。
スコーピオンの背後に、あゆが回りこんでいた。
それが気付かれていたが、祐一はあゆの意図を察して飛び出す。

スコーピオン 「ふっ、馬鹿め」

あゆ 「余裕言ってると、痛い目みるよっ!」

光り輝くロッドは、スコーピオンに対してではなく、その足元の地面目掛けて打ち付けられた。

スコーピオン 「何・・・!?」

あゆ 「祐一君っ!」

祐一 「うぉおおおおお!!!」

砕かれた地面から飛び散った石礫に怯んだスコーピオンに対し、祐一の剣が振られる。
怯んだ分対応が遅れ、スコーピオンはサソリの尻尾を使う間もなく後退を余儀なくされる。

スコーピオン 「ちぃ!」

あゆ 「きゃぅっ!」

だが祐一の剣を避ける直前に、あゆの羽を掴んで空中から引き摺り落とす。
地面に叩きつけられたあゆは、すぐには動けない。
そこへサソリの尻尾が繰り出される。

あゆ 「うぐっ!」

サソリの尻尾の先端は真っ直ぐあゆの胸を目指して下りてくる。
治癒のできない攻撃で致命傷を負えばただでは済まない。

祐一 「(間に合うか・・・!)」

間一髪、祐一はあゆを抱きかかえて転がる。
しかしそれで二人とも態勢を完全に崩してしまった。

スコーピオン 「ははははは、二人まとめて死ねェ!!」

避けられない。
剣も転がった際に放り出されていた。
せめてあゆだけでも助けようと、祐一は抱えていたあゆを突き放す。

あゆ 「うぐ・・・祐一君っ!」

佐祐理 「祐一さんっ!!」

これまでかと思った。
祐一は眼前に迫る刃をじっと見詰めていた。

 

 

 

 

ドシュッ!

 

 

 

刃が肉に突き刺さる音が響いた。
しかし、祐一自身の体にはなんともなく、祐一の目に映っていた刃は目の前で止まっていた。
正確には、目の前に差し出された手に突き刺さっていた。

?? 「あーあ、二度も私に庇われてるようじゃ、君もまだまだだね〜」

祐一 「な・・・」

佐祐理 「あ・・・」

あゆ 「うぐぅ?」

スコーピオン 「貴様は・・・」

長い黒髪と巫女装束。

莢迦 「やーやー諸君、おひさしぶりぶりだね〜♪」

祐一 「さやかっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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