Kanon Fantasia

 

 

 

第28話 その男の名は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最近色々起こっているため忘れられがちだが、祐一達が旅に出たのは、そもそも魔物騒ぎが原因だった。
だから、城を出てからこちら、モンスターを遭遇しても何もおかしいことはなかった。
しかし、同じモンスターのはずなのに以前戦った時より強くなっているのは解せない。

祐一 「これで・・・最後か」

足元には切り伏せたモンスターが転がっている。
既に息絶えたモンスターは、放っておけば黒い塵となって消える。
自然の摂理に反した存在の末路である。

名雪 「うん、最後だね」

舞 「・・・前よりも強い」

佐祐理 「そうですね。佐祐理達が前よりずっと強くなってますからあまり感じませんが、明らかに強くなっています」

所詮は有象無象の雑魚。
楽勝であることに変わりはないのだが、以前のままの祐一達だったらはたしてどうだったか。

佐祐理 「覇王軍は、魔物をも操っていたと聞きましたけど。やはり一連の魔物騒ぎは覇王が原因なんでしょうか?」

祐一 「その可能性は高いよな。その辺りもっと詳しい奴に話を聞きたいところだな」

魔物騒ぎだったり、今回の覇王軍侵略だったり、覇王一派の動きは活発になっている。
そのわりに、覇王本人の足取りは、遺跡以来途絶えているらしい。

佐祐理 「さやかさんなら何か知ってそうですけど」

祐一 「問題はあいつが今どこにいるかだよな。・・・美凪達と合流したら遺跡に行ってみるか」

名雪 「それだけどね、なんかアザトゥース遺跡はなくなってたって」

祐一 「は?」

名雪 「聞いた話なんだけどね。アザトゥース遺跡のあったはずの場所には大きなクレーターがあるだけで、何も残ってないんだって」

祐一 「・・・マジかよ」

十中八九、それはさやかと覇王一派との戦いによるものだろう。

名雪 「それと・・・あの日の夜、アザトゥース遺跡の上空辺りに大きな竜を見たっていう話もあるんだよ。その竜が凄い光を発したかと思うと、爆発があったんだって。この世のものとは思えないほどの・・・」

『竜王と契約した史上唯一のドラゴンロードマスター』

祐一 「・・・さやかか・・・」

遺跡を吹き飛ばしたのがさやかなら、まさか自分で自分を吹き飛ばすようなことはするまい。
ならばさやかがやられたという考えは必要なさそうだ。
向こうもこちらを探していると思いたい。

佐祐理 「考えていても始まりませんよ。とにかく今は、美凪さん、みちるさん、あゆさんと合流を・・・」

 

?? 「うぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」

 

祐一 「・・・・・・」

佐祐理 「・・・・・・」

舞 「・・・・・・」

名雪 「・・・・・・何? 今の声・・・」

まるで野獣の咆哮のような声だったが、よく聞けばそれは人間のものだった。
断続的に雄叫びは続く。

祐一 「・・・行ってみるか」

あまり関わりたくなかったが、このまま正体を確かめずに素通りすると、気になって今の雄叫びは夢にまで響いてきそうだった。

 

 

声の出所を辿ってくると、開けた場所に出た。
そこには、無数の魔物の死体が転がっており、その中心では、魔物達の親玉と思しき巨大なモンスターと、筋骨隆々とした巨漢が対峙していた。

モンスター 「グワァアアアアアアアアアア!!!!!」

巨漢 「ぐぉおおおおおおおおおおおお!!!!!」

どちらが獣かわからない雄叫びの応酬だった。
叫び声の大きさを競っているかのようだ。

男は肩に巨大な武器を担いでいた。
先端は男の上半身の三分の一ほどの大きさはあるハンマーになっている。
人間が扱う大きさとは思えなかったが、男は片手で軽々とそれを振り上げる。

巨漢 「はぁああああああああああ!!!!!」

その状態で相手のモンスターを威嚇する。
まさしくその男も野獣だった。

モンスター 「グルルルルルル・・・・・・グワァアアアアアアア!!!!!」

痺れを切らしたか、モンスターの方が先に襲い掛かった。
いくら男が巨漢と言えども、相手はその何倍もの大きさを持っており、力比べでは分が悪いと思われた。
祐一達は咄嗟に助けに入ろうかと思ったが、それよりも速く男が動いた。

巨漢 「はっはぁー!! てめえ、睨めっこじゃ先に笑った方が負け、睨み合いでも先に動いた方が負けるって法則知らえのかぁ!!」

体重百キロ以上はあろうかという巨漢が、その倍以上の重さがありそうなハンマーを持ったままモンスターの遥か頭上まで跳び上がった。

巨漢 「まぁ、そんな単細胞じゃ知らなくて当然かぁ! ならドタマぶっ叩いて頭よくしてやっからよ、あの世で自慢しなぁ!!」

そしてそこからモンスターの頭上目掛けてハンマーが振り下ろされた。

 

ドゴォーーーン!!!

 

地震が起こったかと思わせるほどの轟音がして、大地が陥没した。
モンスターの頭蓋は粉微塵になり、体の方はまだぴくぴく動いている。

巨漢 「ざっとこんなもんだな。雑魚ばかりだったがよ」

全てのモンスターが塵となって消えていく。
陥没した大地と、折れ飛んだ木々がそこで起こった戦いのあとを示している。
その中心に、唯一の勝者が立っていた。

巨漢 「へっ、誰だか知らねえが、魔物どもは俺が全部片付けちまったぜ。おまえらにおこぼれはねえ」

男は祐一達の方へ振り返ってそう言った。
面と向かうと、凄まじいまでの存在感を発する男だった。

祐一 「あ、あんたは一体・・・」

巨漢 「イイ質問だ! ちょうどいいからおまえら、俺様のこの強さを街の連中に宣伝してくれや。地上最強の男! その名は、羅王丸!! ってな」

佐祐理 「す、すごい人ですね・・・なんか」

舞 「・・・・・・強いのは確か」

名雪 「でも、最強って・・・」

祐一 「千人斬りの幽はどうするんだよ」

羅王丸 「あぁん? おまえら幽の野郎を知ってんのか?」

祐一 「まぁな。あんたもか?」

羅王丸 「幽・・・幽ねぇ・・・」

羅王丸と名乗った男はにやにやしながら考え込むような仕草を見せる。
いまいち何を考えているのかわかりにくい。

羅王丸 「確かに幽の野郎は強え。が! いずれ俺様が倒して最強になーる!!」

祐一 「つまり、今はまだ最強ではないと」

羅王丸 「う・・・おめえ、痛いところつきやがるな・・・ん?」

祐一 「?」

羅王丸 「・・・・・・・・・そぉか・・・」

祐一 「??」

羅王丸 「はんっ、まぁどうでもいいことよ。どのみち、最後の最後に頂点に立ってた奴が最強よ!」

暑苦しいほど自己主張の激しい男だった。
そして徹底的に自分の哲学だけを披露する辺りは幽に通じるものがある。

祐一 「結局なんなんだ、あんたは・・・?」

羅王丸 「はっはっは、気にすんなって。それよりも・・・」

羅王丸は周囲を見回す。
魔物達の体は消えていたが、そこには明らかに死臭が漂っていて、戦いがあったことを物語っている。

羅王丸 「こんなに魔物どもが騒ぐのは七年振りだぜ。どうやらこりゃ、マジみてえだな。覇王野郎の復活」

祐一 「ああ、それは確かにマジだ」

羅王丸 「あん? 覇王野郎まで知ってんのか」

祐一 「その復活の場に居合わせたよ」

羅王丸 「そりゃあ、よく生きてられたな、おまえらみたいな弱っちそうな奴らが」

少しムッとする。
以前ならば弱いと言われても仕方ないと今なら思えるが、それなりに強くなった以上、弱いと言われるのはやはり気に食わない。
かといって、目の前にいる男と戦って勝てるという気もしなかった。

祐一 「(言ってること滅茶苦茶だけど、こいつは幽と同クラスの実力者だ。もしかしたら、四死聖の一人って可能性もあるな)」

舞 「・・・・・・」

羅王丸 「しっかし・・・・・・ちょっと前のでけえ気のぶつかり合いといい。久しぶりにおもしろいことになってきやがったぜ。俺様もぼやぼやしてられん。じゃあな、小僧ども。幽や覇王野郎に関わるつもりなら、もう少し強くなってきな」

言い終わると羅王丸は、その場から立ち去った。
強烈なキャラクターゆえにか、その時は感じなかったが、立ち去ったあとにその場に残っていた闘気が尋常でないことを、祐一達はあとになって感じ取った。
また一人、恐るべき力の持ち主が現れた。
その名は、羅王丸。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

各地で起こる魔物騒ぎと覇王軍の噂を聞きながら、祐一達はとある町で美凪達と合流した。

美凪 「・・・ちっす」

祐一 「よぉ。お陰様で仲間二人と合流できたぜ」

美凪 「・・・それは・・・」

ごそごそと懐を漁る美凪。
出てきたのはお馴染みの封筒だった。

美凪 「・・・お目出度いで賞」

あゆ 「うぐぅ、ひどいよ、ボクをおいてくなんて」

祐一 「だって美凪が、あの魔獣は二人乗りだって言うからな・・・」

状況が状況だけに、できるだけ急ぎたかったため、あゆは置き去りにしたのだった。
あゆも天使の羽で飛べばいいのだが、美凪の飛行魔獣の方が遥かに速かったため、追いかけるのを断念したそうだ。
初対面同士の紹介を済ませ、今後の方針を話し合う。

祐一 「あとは真琴、美汐に・・・香里と北川。そしてさやかだな」

名雪 「栞ちゃんもだよ」

祐一 「誰だそれ?」

名雪 「香里の妹。こう、髪の毛短くって、ストール羽織ってるの」

祐一 「ん? それなら会ったぞ。幽と一緒にいた奴だろ」

名雪 「あ、うん、そうだね。そっか、栞ちゃんは無事なんだね」

そこで名雪は考え込む。
見れば舞も同じ様に考え込んでいた。
普段どこかぽーっとした節のあるこの二人が考え込んでいる姿というのは珍しい。

祐一 「どうしたんだ? 二人とも」

名雪 「・・・ねぇ、祐一。わたし、一度華音に戻ろうと思う」

祐一 「?」

名雪 「今のわたしじゃ、祐一の足手まといにしかならないからね。だから、お母さんのところに戻って一度自分を見詰め直したいんだよ。駄目かな?」

祐一 「いや・・・おまえが決めたんなら、俺は何も言わないけど」

名雪 「ありがとう。香里と北川君に会ったら、よろしく言っておいて。それと・・・」

そこで一旦言葉を切り、名雪は祐一よりむしろ佐祐理の方を向く。
佐祐理はその意図を察したのか、背筋を正してその視線を受け止める。

名雪 「わたし、祐一の一番になるのを諦めたわけじゃないから」

佐祐理 「はい。佐祐理だって負けませんけど」

祐一 「??」

よくわからない祐一だったが、微妙な空気を呼んで口を出さないべきと判断した。
そしてもう一人の悩める少女へ向き直る。

祐一 「で、おまえは?」

舞 「・・・・・・私も、少し行きたいところがある」

祐一 「おまえもか」

舞 「・・・はっきり言って、私も今のままじゃ、足手まとい。強くなって戻ってくる」

美凪 「・・・では、私は川澄さんに同行しましょう」

祐一 「え?」

舞 「?」

美凪 「・・・ちょっと興味がありますから」

舞 「・・・別に構わない」

こちらも二人だけで納得して決めている。
しかし、舞と美凪の(みちるもいるが)同行。

祐一 「(か、会話がなさそう・・・)」

延々黙々としているのだろうか。
一緒に行きたくはない旅だった。

祐一 「ってことは、こっちは俺と佐祐理さんとうぐぅの三人か」

あゆ 「誰がうぐぅだよっ!」

それはさておき、戦力的には問題ないだろうと思った。
確かに名雪と舞ではこのメンバーに追い付けない。
あゆの力は幽との一件で見せてもらっていた。

祐一 「じゃあ、とりあえず三人でギルドに登録しなおすか」

佐祐理 「新生おてんこ小隊ですねー」

祐一 「ぐはっ・・・その名前忘れてた・・・」

命名者がいないのに、尚もその名前を使うというのか。
使うのだろう、佐祐理という少女は。

あゆ 「? なんのこと?」

 

 

 

おてんこ小隊

リーダー 相沢祐一・剣士
 魔力0 武器・デュランダル、攻撃力2400、魔力6300

倉田佐祐理・光魔術師
 魔力7700 武器・シャイニングホーン(光)、攻撃力1500、魔力5800

月宮あゆ・天使
 魔力6930 武器・フェザーロッド(光)、攻撃力1680、魔力4000

 

 

 

 

祐一 「大分レベルが上がったよな。前のデータと比べ物にならん」

佐祐理 「受付の人も驚いてましたねー」

祐一 「そりゃそうだろ。しかし俺としてはあゆの天使に疑問を持たなかったというのがどうも・・・」

あゆ 「どうも、何かな、祐一君?」

小さな少女は祐一的にはっきり言ってうぐぅだったが、魔力の高さは侮れない。
その上天使としての能力も、人間から見れば相当なものだった。

祐一 「人は見かけによらないと言うが・・・・・・天使にもその言葉は適用されるらしい」

あゆ 「いっぺん天国を見てみたいのかな? ゆ・う・い・ち・く・ん・は!」

怒っているのだろうが、迫力はまったく足りていない。

祐一 「さて、残りの仲間を探して出発するか!」

あゆ 「人の質問にはしっかり答える!」

こうして、新生おてんこ小隊の旅立ちとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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