Kanon Fantasia

 

 

 

第25話 湖城攻防戦

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

修行をしながら祐一達を探していた名雪と舞は、途中アイル共和国西部にあるセレニア城に立ち寄っていた。
湖に突き出す岬の先に建てられたその城は、湖城と皆からは呼ばれていた。
城とそこから見える景色が綺麗だったため長居してしまったのを幸と呼ぶべきか不幸と呼ぶべきか。
二人の滞在中に、セレニア城は敵の襲撃を受けた。
しかも相手は、覇王軍を名乗っていた。

晴子 「どういうこっちゃねんっ、これは! 覇王の奴は七年前に死んだんとちゃうんか!?」

セレニア城主神尾晴子は、共和国盟主橘敬介の義妹である。
赤い鎧をまとい、赤い馬を駆り、朱天将軍と呼ばれている晴子は、七年前の連合軍においても、数々の武勲を上げていた名うての戦上手だった。
それが、さして数もいない覇王軍の奇襲を受け、民衆全てを城内に抱え込んで篭城するはめになった。

晴子 「かーっ! めっちゃ腹立つ! 酒も飲めへんやんかっ」

往人 「それに関してはいい機会だろう。たまには控えろ」

観鈴 「うんうん。お母さん、ほどほどにしないと」

激昂する晴子を宥めているのは、晴子の娘観鈴と、城の食客たる法術師国崎往人だった。
観鈴に関しては、実は橘公の隠し子との噂があるが、真偽のほどは定かでなく、また今論ずべきことではない。

この三人のやり取りは、城に来て以来名雪と舞も毎日のように見ており、微笑ましい家族団欒と思っていたのだが、状況が状況だけに今は笑えない。

佳乃 「大変なことになっちゃったね」

聖 「まったくだ。幸いまだ怪我人は少ないが、このまま戦が続くなら私は大忙しになる」

この二人は霧島姉妹。
姉の聖は医者でもあり、晴子の参謀的存在でもある。
妹の佳乃はその関係で、観鈴の遊び相手的に侍女をしている。

兵士A 「た、大変です!」

晴子 「今度は何事や!?」

兵士A 「み、湖の側に敵の船団が・・・・・・それで、敵の大将が、こちらの大将を出せと・・・」

晴子 「はんっ、降伏勧告でもする気かいな」

はき捨てるように言うと、晴子は湖側のテラスへ歩いていく。
観鈴、往人、聖、佳乃、それに名雪と舞がそれについていく。

 

 

普段ならば素晴らしい景色を見ることができるテラスからは、血なまぐさい武装船団が城を囲んでいるのが見えた。
その中心にかなりの大型船が浮かんでいる。
海から続く河から湖に入れたのだろうが、どうやって河を上ったのか。
おそらくは旗艦であるその船の先端に、鎧をまとった一人の男が立っていた。

?? 「セレニア城の諸君、私は覇王ゼファー・フォン・ヴォルガリフ様に仕える十二天宮が一人、レオである! 諸君らは完全に包囲されている。無駄な抵抗はやめ、大人しく投降せよ! 我々は無益な戦いを望むものではない、今すぐ降伏すれば、城内全ての人間の命を保証しよう! 返答はいかに!」

お決まりの文句だった。
見た感じ、レオと名乗った十二天宮は誠実そうな青年で、遺跡で遭遇した敵のような嫌な感じがしなかった。
命を保証するという言葉は信じられるかもしれないと名雪と舞は思ったが・・・。

ガッ

晴子は片足を塀の上に乗せて啖呵を切った。

晴子 「おととい来んかいっ、こんクソが! それっぽっちの兵力でこの城落とそうなんざ片腹いたいわっ!」

船の上のレオ目掛けて右手を突き出し、立てた親指を下に向けた。
それを返事と受け取ったか、それ以上相手からは何も言ってこなかった。

往人 「短慮だぞ晴子。このまま戦になって負けたら民衆はどうなる?」

晴子 「あほぬかせ。覇王の手下の言うことなんか信じられるかい。うちはあくまで徹底抗戦や。ただし、嫌や言うもんを引き止める気ぃもない。出て行きたい奴は今日中に出てったらええ」

そう言って晴子は奥へ引っ込む。
戦支度をするつもりだろう。

往人 「いいのかよ・・・」

聖 「ああいう人だ。それより国崎君。君と・・・水瀬さんと川澄さんはこの城とは無関係だ。戦にならないうちに出て行った方がいい」

往人 「それこそ、あほぬかせ、だな。今更何言ってやがる」

名雪 「わたしも、逃げたりはできないよ」

舞 「・・・覇王なら、私達の敵」

 

 

 

 

 

結局逃げ出す者は一人もなく、夜明けを待って開戦となった。
晴子は湖側の指揮を聖に任せ、自ら部隊を率いて陸側の敵に夜明けと共に奇襲をかけた。
奇襲のお返しは成功し、まずは最初の小競り合いを勝利で飾った。

往人 「・・・まだまだこれからだな」

聖 「ああ。おそらく敵の本隊は湖側だろう。しかし岬を上ってくる手段はありえない。何をする気だ?」

往人 「・・・・・・最悪だな。答えが出たぞ」

轟音が響き、城の一部が倒壊した。
何か大きな質量を持ったものが湖から飛んできた。

聖 「これはっ!?」

往人 「大砲だ。連中が朱天将軍様の城にこんな少数で攻めてきたのは、ただそれで十分だと思ったからだろ」

陸での戦いなら、晴子は絶対に負けない自信があった。
しかし、水上戦となれば話は別だ。
ましてや飛び道具を持つ相手に苦戦は必至。

聖 「魔術師隊を前に出せ! 防御結界を張る!」

これにより大砲の弾は防げるようになったが、それでもその場しのぎでしかない。

 

晴子 「くそったれ! むかつくで」

聖 「結界は永久にはもたん。かといって、この状態ではこちらからも攻撃できん」

もとから後手にまわっていたものが、いまや完全に打つ手なしに追い込まれていた。
連合軍でも名の知れた将軍が情けないと、晴子は歯噛みした。

舞 「・・・手はある」

往人 「ああ。現状ではそれがベストだろうな。かなり無茶だが」

晴子 「どうする気や?」

往人 「古今東西戦のセオリーだ。頭を叩けば終わる」

 

 

聖 「無茶もいいところだな」

舞と往人の考えというのは、こちら側が高い位置にいるのをいいことに、少数精鋭を組織して魔法で城から大ジャンプ、敵旗艦を直接攻撃するというものだった。
途中撃墜される危険性もあり、乗り込んだからと言って十二天宮を倒せるとは限らない。

往人 「うまくやってみせるさ。連中の船まで行けば、俺の法術で大砲を乗っ取ることもできる。敵が混乱すれば、なんとかなる」

晴子 「すまん、居候。どうやらあんたに頼るしか道はないみたいや」

観鈴 「うん、がんばる」

晴子 「ってちょっと待たんかい! あんたも行く気か、観鈴?」

往人 「俺も不本意だが・・・いざという時に魔法を使える奴がいるだろうって言われてな・・・。俺の法術じゃできないこともあるし・・・佳乃と一緒に連れて行く」

聖 「国崎君。わかっていると思うが、佳乃を守れなかった時は・・・」

往人 「当たり前だ。二人とも俺が必ず守る。だから俺の傍を離れるなよ」

観鈴 「うんっ」

佳乃 「がんばるよぉ」

舞 「・・・準備はいい?」

名雪 「いつでもいけるよ」

往人 「よし・・・行くぞっ!」

往人を先頭に、観鈴、佳乃、舞、名雪と続いてテラスに出る。
そこから中央の旗艦を目指すのだ。
照準が狂えば湖に落ちるし、減速のタイミング次第で着地できるかどうかも決まる。

聖 「・・・たった五人の特攻隊・・・。しかも兵士じゃない子達ばかりか」

晴子 「自分が情けないわ。意地でも勝ったる」

 

 

 

 

 

 

 

覇王軍兵 「レオ様、今結果に穴が・・・」

レオ 「・・・来たか」

それが何か覇王軍の兵士達が気づく前に、往人達は甲板の上に着地した。
風の魔法で打ち出し、往人の法術で減速する。
無茶だが理に叶った作戦は、一先ず第一段階成功だった。

往人 「喜ぶのはまだ早い! 俺は大砲を占拠する、水瀬と川澄は敵の相手、観鈴と佳乃はサポートだ!」

名雪 「任せてよっ」

舞 「・・・一歩も近づけさせない」

突然の奇襲に驚いた敵兵だったが、すぐに五人を包囲する。
ざっと数えても五六十人はいたが、こう狭くては一時には戦えない。

名雪 「修行の成果、見せてあげるよっ」

舞 「行く!」

覇王軍兵 「かかれぇ!」

観鈴 「やるよっ、佳乃ちゃん!」

佳乃 「おっけぇーだよぉ!」

二人の合体風魔法により、五人の左右に大きく結界が張られる。

覇王軍兵 「馬鹿めっ、前後ががら空きだぜ」

結界の隙間から敵兵が斬り込んでくる。

名雪 「そのために・・・」

舞 「・・・私達がいる」

だが、斬り込んできた敵兵は尽く名雪と舞の前に倒されていく。
まったく力のレベルが違った。
一対一で名雪と舞に勝てる敵はいない。

 

レオ 「・・・なるほど。結界を一つの方向へ集中すれば強度が増す。そうしてこちらの兵が前後からしか攻撃できないようにし、前後をそれぞれあの二人の剣士が守るか。ここへの奇襲と言い、大胆かつ見事な作戦だ」

 

往人 「・・・よっしゃ。できたぜ」

往人のもっとも得意とする法術。
それは手に触れたものから魔力を送り込み、それを操るというものだった。
今往人は、この船の甲板から大砲に魔力を送り、それらを支配した。

往人 「喰らえ!」

既に弾が装填されていた大砲は、覇王軍の船団目掛けて発射された。
周囲の船が次々に爆発炎上していく。

往人 「いいぜ、やれ観鈴、佳乃!」

両側に張られていた風の結界が外側に向けて移動する。
それに押し出されるように、兵士達は湖に落ちていく。
残った敵もほとんど名雪と舞に圧倒され、戦意を失っていた。

レオ 「見事と褒めておこう」

そんな逃げ腰の兵士達を制し、レオが前に進み出る。

レオ 「無茶な作戦を考える大胆な発想と、それを実現する行動力。敬意を表するよ」

名雪 「な、なんか・・・褒められてる?」

舞 「・・・・・・」

レオ 「だが、おまえ達にこの程度の作戦しか残っていないことはわかっていた。残念ながら、今おまえの破壊した船はほとんどがダミーだ」

往人 「何?」

レオ 「我々には・・・こういう兵器もあるのだ」

辺りの水面がざわつき、何かが浮上してくる。
それは船のようだったが、下から上まで全てが覆われており、水中を進めるつくりになっているらしい。

往人 「ま、まさか・・・!」

レオ 「我々の本隊は陸上でも水上でもなく、水中にあったのだ。しかも、ダミーよりも多くの戦力がな」

観鈴 「そ、そんな・・・」

往人 「くそっ! やられたか・・・!」

完全に読み違えた。
全て敵の作戦通りだったわけだ。
もう大砲は使えない。
弾を込めている時間などない。

レオ 「さて・・・一気に攻め落とすとするか」

名雪 「まだだよっ!」

舞 「・・・おまえを倒せば、まだ勝てる」

レオ 「おまえ達は遺跡にいたそうだな。十二天宮の力を知りながらなお挑むか」

名雪 「一ヶ月前とは違うよっ」

舞 「負けない」

レオ 「いいだろう、相手をしてやる。かかってこい」

レオは背負った大剣を手にした。
騎士剣をそのまま巨大にしたような作りの剣だ。
それに対して名雪と舞は二人がかりで挑む。

名雪 「やぁあああっ!!」

舞 「はぁああっ!!」

左右から二人の剣がレオ目掛けて振られる。
剣に関しては素人である往人から見ても、それはとても回避できる様な攻撃とは思えなかった。
しかし、レオは少しもうろたえず自らの剣で攻撃を捌く。
二人の剣の腕は以前よりも上がっており、魔力も充実していた。
連携も決まっていたが、レオを相手にはまったく機能していなかった。
相手が違っていたなら、圧倒するほどの強さが二人にはあったが・・・。

レオ 「その程度か。期待外れだな」

この相手にはまったく通用しなかった。

レオ 「獅子咆哮剣!!」

ドゴォーン!

レオの必殺剣が決まり、名雪と舞の体が甲板の上に投げ出される。

名雪 「そ、そんな・・・」

舞 「か・・・勝てない・・・」

一ヶ月の修行で鍛えなおした二人でも、十二天宮の前ではいまだ無力だった。
往人、観鈴、佳乃の三人も兵士に取り囲まれ、動きが取れない。
その間にも、浮上した潜水船団は進軍を開始していた。

往人 「ここまでかっ・・・!」

観鈴 「お母さん・・・」

佳乃 「お姉ちゃん・・・ごめん」

名雪 「あ、諦めたらだめだよっ! まだ何か・・・」

舞 「・・・・・・?」

絶望を感じかけていた舞は、地面に落ちた剣に反射する光を見付けた。
最初は太陽の光かと思ったが、何か違っていた。

舞 「・・・上?」

名雪 「え・・・?」

舞が頭上を振り向いたのにつられて、名雪も上を見上げる。
何も変わったことなどない、ただ太陽が浮かぶ快晴の昼空だった。
だが舞は、そこに何かがいるのを見つけていた。

レオ 「?」

同じくそれを見つけた者がいた。
目を凝らしてそれをよく見る。
肉視でそれが何かを確認はできなかったが、レオは凄まじい魔力の波動にはじめて表情を崩した。

レオ 「いかんっ!」

その時、太陽にも匹敵する莫大なエネルギーを秘めた光が降り注いだ。
ただの光として落ちてきたその力は、湖面に反射して膨れ上がり、一気に弾けた。

 

 

ドシャァーーーンッ!!!

 

 

嘘のような光景だった。
光のエネルギーを反射した湖によって、進軍中の船団は壊滅的な打撃を受けていた。
旗艦は他の船より丈夫で、被害は少なかったが、船底に穴が空いたか、少しずつ沈みだした。

レオ 「何が起こったと言うのだ・・・・・・ん?」

また上から何かが降ってきた。
今度はそれがどんどん大きくなっていき、甲板の上に着地した。

祐一 「ったく、無茶するな、佐祐理さんは」

佐祐理 「あははーっ、手っ取り早かったものですから」

救世主が降り立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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