Kanon Fantasia

 

 

 

第22話 聖都リーガル

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐一 「魔獣で砂漠を疾駆すること約一日。随分あっさりと街についたものだな」

佐祐理 「そうでもありませんよ〜・・・。あのラクダカメさん、すっごく速かったですよ〜」

乗り物酔いしたのか、佐祐理はふらふらしている。
オアシスから美凪の召喚したラクダカメなる奇妙な魔獣の背に乗って走り、丸一日かけて砂漠を抜け、三人は街に辿り着いた。
ほとんど飲まず食わずに近い状態で三週間も砂漠をさまよっていた祐一にすればどうということはなかったが、時速二百キロで走る生き物の上に生身で乗っているのはかなり辛いものがあった。

美凪 「・・・快速・・・快適」

祐一 「いや、断じて快適ではない」

他人にはお勧めできない移動方法だった。
できれば祐一も二度と使いたくはなかった。

佐祐理 「それにしても祐一さん、逞しくなりましたよね」

祐一 「そうか?」

佐祐理 「はいっ。かっこいいです」

祐一 「そ、そう力いっぱい言われると、照れるな・・・」

砂漠からオアシスに辿り着いた後、祐一は丸二日ぐっすり眠っていた。
しかし、酷使した体は、驚くほど早く快復し、次の日にはオアシスを出発し、今に至る。

祐一 「ま、確かに自分でも驚いてるよ。それに、まだよくわからないけど・・・あの力を使うコツも掴んだみたいだし」

もう一つ。
砂漠から生還した祐一は、遺跡の時ほどではないが、魔力を扱えるようになっていた。
しかしそれは、自らの体に魔力が宿ったのとは違う感じだった。
美凪によると・・・。

 

生き物だけでなく、大気や大地にも魔力は存在している。
祐一の能力とは、つまりそれらの魔力を吸収して利用することなのだろう。
自然に存在する魔力は、人間一人が持つ量の比ではない。
器がもつのなら、無尽蔵な魔力を使い続けることができるということだった。
もっとも、それには肉体がもたないだろうとのことだった。
現に遺跡の時も、吸収した魔力を制御し切れずに暴走しかかっていたと言う。
ただ、使いこなせば凄まじい力となる。

 

祐一 「ってことだけど、問題もあるんだよな・・・」

佐祐理 「そうですね・・・」

自然界に存在する魔力というのは、飼い馴らされていない野犬か暴れ馬のようなものだった。
暴れん坊な魔力を扱うには、それに耐えられる強力な武器が必要だったが、祐一の宝剣シルフィードは、先の戦いで失われていた。

ゼファーの一撃を喰らう際、祐一は本能的に剣を引いて盾にし、急所への直撃を防いだ。
その時に、攻撃を受けたシルフィードは折れてしまっていた。

祐一 「ああ・・・秋子さんになんて言おう・・・」

佐祐理 「そっちの方が気が重そうですね」

祐一 「何しろ宝剣だからな・・・」

それも気がかりだが、何よりも並の武器では祐一の力に耐えられないのも大問題だった。
よって次なる祐一達の目的は、祐一の力に耐えられる強力な武器探しである。

美凪 「・・・聖都の大司教なら、もしかしたら」

何か知っているかもしれないということで、彼らは大聖堂へ向かっていた。
聖都はどこの国や勢力に属さず、ただ大司教の教えに従って平和を祈る街だった。
七年前、聖都はゼファーの行いを真っ向から否定しながらも、北辰王からの連合軍への協力要請には応じなかった。
そういうわけで、戦力はなくとも、ここはどの国も無視できない地なのだった。
民衆の信頼が厚いのもその理由の一つにある。

祐一 「大司教か。一体どんな人なんだ?」

佐祐理 「なんだか、ドキドキしますね」

祐一 「それ以前に俺達なんかに会ってくれるのか?」

美凪 「・・・大丈夫。彼は誰にでも会ってくれます」

佐祐理 「お知り合いですか?」

美凪 「・・・少し」

一緒に行動してみてわかったが、遠野美凪は非情に無口だった。
舞ほどではないのだが、あまり多くを語らず、それでいて突然奇怪な言葉を発したりする。
状況説明をしたり、試練を与えると言った時ほど喋ったのはひさしぶりだとか。

それはさておき、祐一と佐祐理は美凪の案内で大聖堂へ向かう。
街の中央、丘の天辺に建てられた城並に巨大な建造物へ。

 

 

 

 

 

 

 

門のところにいる神官と美凪が話し、少しすると中へ通された。
特別な用事がない限り、大司教は誰の訪問も受けるのだそうだ。
通されてからはすぐに会うことができた。

大司教 「美凪殿か・・・」

美凪 「・・・ちゃお」

大司教 「うむ。ちゃーお」

祐一 「だー・・・!」

いきなり崩した態度で応じる大司教。
なんというか、抑揚のない美凪よりもよほど様になっていた。

大司教 「これは失礼。客人でありましたな」

祐一 「は、はぁ・・・」

大司教 「いやいや、気になさるな。美凪殿とは若い頃からの付き合いでしてな。つい昔を思い出して」

祐一 「若い頃って・・・」

どう見ても大司教は六十を超えていた。
それに対して美凪は祐一達と同い年くらいにしか見えない。

美凪 「・・・私は、見た目よりずっと年上です。四大魔女の中では一番下ですけど」

祐一 「そ、そうか・・・」

では一体何歳なのか、と思ったが、女性に歳を訊くのはさすがに憚られたので訊かずにおいた。
以前秋子に訊いた時、三日ほど意識が飛んでいたのを思い出す。

大司教 「ふむ、見たところ、若いわりに迷いのないよい目をしておられる。何か大きなものを超えてきた強さを感じますぞ」

祐一 「ま、色々ありましたから。特に美凪のシゴキが効きました」

大司教 「ほほう、美凪殿がシゴキとは珍しい」

美凪 「・・・頼まれ事でしたから」

大司教 「なるほど。して、えー・・・お客人の名は?」

祐一 「相沢祐一です」

佐祐理 「倉田佐祐理です。よろしくお願いします」

大司教 「ほほう、相沢に倉田とは・・・」

しきりに感心する大司教。
その態度を訝しがる二人に対し、大司教は笑ってみせる。

大司教 「はっはっは、いや、倉田殿は華音有数の勇将であった。祐一殿は、水瀬殿の甥であったかな」

祐一 「はい。さすが秋子さん、どこに行っても有名人」

大司教 「英雄水瀬を知らぬ者はこの大陸にはそうそういないでしょう」

祐一 「確かに・・・」

そう聞いていたが、こうして直に聞くと、改めて自分の叔母と叔父の偉大さを思い知らされる。
しかし何故か・・・。

祐一 「(前ほど遠い感じがしなくなったな。強くなったってことか? それとも変な気負いをしなくなったからかな?)」

大司教 「これは、話が脱線してしまいましたな。懐かしい方々の話はまたの機会にするとして、ご用件を窺いましょう」

祐一 「はい。実は・・・」

祐一は事情を説明した。
細かい部分は省いたが、強くなる必要があること。
魔力を持たない自分が魔力を使う方法があるが、そのためには強い武器が必要なこと。

祐一 「・・・何か・・・秋子さんのエクスカリバーや、幽の魔剣ほどじゃなくてもいい。強い武器がほしい」

大司教 「・・・・・・なるほど。過ぎた武器は己を滅ぼしますが、あなたならば大丈夫そうだ。・・・こちらへ」

祐一 「?」

大司教は少し考えてから、祐一を奥の広間へと連れて行った。
案内された広間の祭壇には、一本の大剣が飾られていた。

祐一 「これは?」

大司教 「デュランダル。そう呼ばれています」

祐一 「これが、伝説の武器?」

大司教 「・・・かもしれません」

祐一 「はい?」

大司教 「実は・・・この剣はどのような存在なのかまったくわからないのです」

祐一 「どういうことです?」

大司教 「材質も不明、この世のものとは思えないのですが、かといって何か特別な力があるわけでもなく、ただの剣です。今まで多くの者が手にしましたが、結局普通の剣以上の働きはしなかったそうです」

祐一 「・・・・・・」

大司教 「本当にただ特別な材質なだけの普通の剣なのか。真に選ばれた者にしか使えない剣なのかはわかりません。ただ、古くから伝わる伝説とともにここに保管されてきました。私が知る武器は他にもありますが、手許にあるのはこれだけです」

?? 「ではその剣、いただきましょうか」

祐一 「なっ!?」

佐祐理 「え?」

美凪 「・・・・・・」

大司教 「何者かな?」

会話に割って入ってきた声の主が広間に入ってくる。
見た目は神官風だったが、雰囲気はとても聖職者らしくなかった。

?? 「申し遅れました。覇王様の使いで参りました・・・・・・まぁ、仮にエビルプリーストとでも名乗っておきましょう」

祐一 「なんだよ、仮にってのは」

エビプリ 「・・・なんですかこの略し方は・・・まぁいいでしょう。どうせいずれ十二天宮キャンサーかピスケスを名乗るのです。今の名前などどうでもいいでしょう」

祐一 「なるほど、つまりおまえ、補欠か」

エビプリ 「ただの補欠と思わないでいただきたい。死んだ元キャンサーやピスケスなど、私からすれば十二天宮を名乗るなどおこがましい連中・・・」

祐一 「つまりそいつらに劣るおまえは雑魚ってことだ」

エビプリ 「・・・いちいち癇に障る人ですね。まぁ、いいでしょう。覇王様は大司教の命と、各地に散らばる数々の伝説の武器を欲しておられます。それも伝説の武器のようですから、いただいていきましょう」

大司教 「断ると言ったら?」

エビプリ 「どの道、あなたはここで死ぬのですから、関係ないでしょう」

佐祐理 「あははー、黙って聞いてれば勝手なことばかり言う人ですね。佐祐理のことはすっかり無視ですか」

今まで静観していた佐祐理が大司教とエビルプリーストの間に立つ。
既に杖を構えて戦闘態勢だった。

エビプリ 「引っ込んでいなさい、お嬢さん。そうすれば十二天宮となった私の側女くらいにはしてあげますよ」

佐祐理 「冗談じゃありません。佐祐理に触れていい殿方は、一人だけですから」

祐一 「あの〜・・・、佐祐理さん?」

佐祐理 「あ、ここは佐祐理に任せて、祐一さんはゆっくりしててください。病み上がりなんですから」

祐一 「けど・・・」

エビプリ 「健気なお嬢さんですねぇ。しかし、あなたの相手をしているほど暇ではないんですよ。それに残念ながらあなた方は私の呪縛を受けているんですよ」

エビルピリーストが手をかざすと、祐一達の足元から黒い手が伸びて体を束縛しようとする。

祐一 「おっと・・・!」

辛うじて祐一は上に飛んでそれをかわしたが、他の三人は黒い手に捕らわれてしまった。

大司教 「こ、これは・・・」

美凪 「・・・・・・」

佐祐理 「きゃっ」

エビプリ 「さて、ではゆっくりと剣をいただくとしますか」

祐一 「そうはいくかよ」

祭壇まで跳んだ祐一は飾られている剣を手に取った。
大きさの割りに重さを感じないが、かといって何か特殊な力を感じるわけでもない。
だが少なくとも、並の剣よりは使えそうだった。

祐一 「そんなに欲しければ、こいつの一撃をくれてやるよ」

エビピリ 「愚か。力の差もわからないとは」

佐祐理 「その言葉、そっくりそのままお返ししますよ」

エビプリ 「何ですと?」

パァン!

佐祐理が手にした杖を一振りすると、黒い手は光に触れて霧散した。
自由になった佐祐理が前に進み出る。

佐祐理 「あなたの相手は佐祐理がすると言ったはずです。祐一さんの手を煩わせるまでもありません」

エビプリ 「ははは、そんなに遊んで欲しいですか。わかりました、少しだけですよ」

佐祐理 「ええ、少しでいいですよ。それで終わりますから」

エビプリ 「ではさっそく、これを喰らいなさい」

今度はエビルプリースト自身の足元から無数の黒い手が現れ、佐祐理へと向かっていく。
先のものとは込められている魔力の量が違っていた。

祐一 「佐祐理さん!」

佐祐理 「そんなものですか? 本気で来ないとすぐに終わっちゃいますよ」

パシーンッ

杖が振られると、その先から生じた光によって、再び黒い手は掻き消された。
これにはエビルプリーストも驚きを露にするが、まだ余裕の表情だった。

エビプリ 「ははははは、術式を組む時間が足りなくて杖に魔力を込めて弾きましたか。しかしそんな手品ではいつまでももちませんよ。今度も本当に全開も魔力を喰らわせてあげましょう」

三度黒い手が出現する。
今度は今までとは比べ物にならないほどの大きさだった。

佐祐理 「あははー、時間がないわけじゃありませんよ。あなた如きに魔法を使うまでもないということです。それに、祐一さんや舞ほどじゃありませんけど佐祐理は結構・・・武術の腕も立つんですよっ!」

魔力を込めた杖を構え、佐祐理は黒い手に向かって走る。
掴みかかってくる手をかわしながら一つ一つを叩き落していく。

エビプリ 「な・・・・!?」

佐祐理 「もう終わりですか?」

エビプリ 「こんなものと思わないでくださいよ! 今度こそ本気の本気で・・・っ!」

しかし、次の攻撃に移る前に佐祐理の杖はエビルプリーストの喉元に突きつけられていた。

エビプリ 「・・・・・・っ」

佐祐理 「あ、すみません。本気の本気があったんですね。じゃ、やり直しましょうか」

佐祐理はあっさり杖を引くと、数歩後ろへ下がる。
そして杖を捨て去った。

エビプリ 「な、なんの真似です?」

佐祐理 「佐祐理の本業は魔術師ですから。最後はやっぱり魔法で締めですよ」

エビプリ 「ほざきましたね。ならば本気の本気、受けてみなさい!」

今までで一番速く、一番大きな黒い手が生み出される。
間合いが近かったため、一瞬にしてその手は佐祐理の眼前に迫る。
本当に魔法のための術式を組む時間もない。

佐祐理 「・・・・・・十四回」

エビプリ 「何?」

佐祐理 「あなたのその手が佐祐理に届くまでの間に佐祐理が術式を組み上げた回数ですよ」

エビプリ 「は・・・?」

佐祐理 「簡単なシューティングレイでしたけど、十四回も使うと別の魔法ですね。さしずめ・・・・・・シューティングシャワーといったところでしょうか」

ドシュゥンッ!

十四本の光が黒い手を突き破る。
光は空中で反転し、シャワーのようにエビルプリーストに降り注いだ。

エビプリ 「ひ、ひゃぁあああああああ!!!!」

ドンッ!

光の魔法の直撃を受けて、エビルプリーストは黒焦げになった。

エビプリ 「ば、ばかな・・・ライブラの話と違う・・・。こ、この女の魔力は・・・たった2500ぽっちじゃなかったのか・・・・・・」

痛みに顔を歪ませながら、プリーストは携帯型の魔力測定器を取り出す。
そこに映し出された数値を見て、さらに驚愕する。

エビプリ 「な・・・なな・・・・・・7700・・・! こ、こんな・・・遥かに超・・・・・・ぐふっ」

驚愕に顔を歪めたまま、エビルプリーストは仰向けに倒れた。

祐一 「つ・・・強い・・・」

美凪 「・・・お見事」

佐祐理 「あははーっ、佐祐理の圧勝でしたねー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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