Kanon Fantasia

 

 

 

第20話 遠い場所

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

浩平 「いやー、まったくもって危なかったな」

瑞佳 「心臓に悪いよ。あんまり無茶ばっかりしないでよ」

みさき 「本当だよ。澪ちゃんと私と瑞佳ちゃんがいなかったらどうなってたか」

浩平 「いざという時のためにみさきさんと瑞佳には一緒に行動してもらって、俺が澪を連れてたんだ。俺の作戦勝ちだろ」

アザトゥース遺跡から飛ばされた浩平と澪は、とんでもない場所に落ちるところだった。
澪の超音波をみさきが受け、瑞佳が空間移動をいなければ冗談抜きで死んでいたかもしれない。
それ以前に、あの場で莢迦に逃がしてもらわなければ逃げることもできなかったろう。

浩平 「柚木、アザトゥースはどうなってた?」

詩子 「茜によると、綺麗さっぱりなくなっていたそうよ。あとには隕石でも落ちたようなおっきークレーターがあるだけだったって。誰かがいた痕跡すらなし」

浩平 「そうか・・・。だが、あの場にいた全員生きてると考えた方がいいな。柚木と茜は覇王一派を探し出して、その動向を探ってくれ」

詩子 「オッケー」

浩平 「他はとりあえず待機だな。今のままじゃ、俺達に勝ち目はない」

瑞佳 「そんなに強い? 敵は」

浩平 「ああ。みさきさんが十人くらいいればな」

瑞佳 「それは食費だけで全てが終わるよ」

みさき 「・・・私そんなに食べてるかな?」

浩平 「とにかく、俺はもっと強くなる必要がある。話はそれからだ」

頭上にエターナルソードを掲げる。
折原に伝わる、エクスカリバーやラグナロクにも劣らぬ伝説の剣。
使いこなせれば覇王一派とも互角に渡り合えるが、今の浩平では剣の力を半分も使えず、使えるのも一回が限度。

浩平 「そう・・・もっと強く・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

アリエス 「強くなったわね。でも、まだまだよ」

元 「私が相手をしてあげましょうか?」

ライブラ 「勝てると思うなよ、小僧!」

いくつもの顔が浮かんでは消えていく。
敵として現れた者達、味方であった仲間達。
一つ、また一つ顔が浮かぶ度に、己の無力を感じた。

真っ赤に染まる視界。

さやか 「・・・・・・」

目の前で倒れる仲間。

ゼファー 「死ね」

破滅へと誘う閃光。

 

祐一 「・・・ぐ・・・・・・く・・・そぉ・・・・・・俺は・・・・・・強く・・・」

 

 

 

幽 「くだらねェな」

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐一 「っ!!・・・・・・・・」

深い眠りから一気に覚醒する。
目に映るのはどこかの家の中。

祐一 「・・・・・・夢・・・?」

脱力する。
結局誰一人に対してもまともに勝てず、負け続けでついには死にかけた。
どうやら生きているらしいが、祐一はただ惨めな思いを抱いていた。

美凪 「・・・お目覚めですか?」

祐一 「っ!?」

唐突に声をかけられ、飛び上がるほど驚いた。
起きた時から今まで誰の気配も感じなかった。

祐一 「い、いつから・・・?」

美凪 「・・・『夢・・・』の辺りから」

ほとんど起きた時からいたことになる。
狭い部屋に誰か入ってきたことにも気付かないとは。

祐一 「・・・あんたは?」

美凪 「・・・・・・遠野美凪と申します。名雪さん達の仲間です」

祐一 「名雪の?」

そう言えば意識が途切れる寸前、名雪の声を聞いたような気がした。

祐一 「ここは? あれからどうなった? さやかは・・・!? みんなは!?」

美凪 「・・・どうどう・・・落ち着いてください。今から説明します」

祐一 「お、おう・・・」

相手ののんびりペースに、祐一も勢いをそがれて大人しくなる。
そして美凪が続きを話すのを待つ。

美凪 「・・・莢迦さんが転移魔法でみなさんを逃しました、おわり」

祐一 「端的すぎ! 全然状況がわからん!」

美凪 「・・・そう? 質問のほとんどに答えたつもりですけど」

祐一 「・・・まず、さやかは無事なんだな」

美凪 「・・・はい」

祐一 「そのさやかがみんなを逃して、みんなも無事と」

美凪 「・・・はい」

祐一 「? ちょっと待て。転移魔法ってなんだ? それにみんなを逃したってことは、さやかはどうしたんだよ」

美凪 「・・・莢迦さんは一人で残って・・・戦った、と思います」

祐一 「あいつ一人でか!? 無茶だろ、あの人数を一人で・・・!」

美凪 「・・・数は問題ではありません」

祐一 「問題だろ!」

美凪 「・・・問題ありません。何故なら、莢迦さんがもっとも得意とする魔法が、召喚魔術だからです」

祐一 「召喚・・・魔術? っていうか、あいつって魔法使えたのか?」

何か話に食い違いを感じた。
自分は何か、根本的に知らないことがあるように祐一は思った。
いや、そもそも最初から・・・。

祐一 「・・・・・・さやかって、何者だ?」

美凪 「・・・呼び方は様々あります。四死聖の舞姫、四大魔女が一人漆黒の召喚術師、竜王と契約した史上唯一のドラゴンロードマスター・・・・・・・平たく言えば、剣と魔道を極めた地上最強の魔女。それが、莢迦さんです」

祐一 「最強って・・・・・・マジか?」

美凪 「・・・マジ。ちなみに、私も実は四大魔女の一人、紺碧の占星術師」

祐一 「・・・スケールが大きくて頭混乱してきた。つまり俺はこの短期間で四大魔女のうち三人にも会ったって言うのか。しかも行方不明のはずの二人にまで」

美凪 「?・・・・・・カタリナさんにも会ったのですか?」

祐一 「ああ、サーガイアでな」

美凪 「・・・・・・でしたら、全員です」

祐一 「は?」

美凪 「・・・十二天宮の中に、四人目がいました」

祐一 「・・・・・・」

魔女と言うからには女であろう。
十二天宮の女と言えば、祐一と戦った秋子と瓜二つの女性と、もう一人。
魔術師風だったのは前者の方だった。

美凪 「・・・三つ編みの方です」

祐一 「・・・・・・ああ、それでさやかと知り合いだったんだな。でも、何で四大魔女の一人がまるで俺のことを知ってるような話し方をするんだ?」

美凪 「・・・・・・今から言うことは、私の独り言です」

祐一 「?」

美凪 「・・・そこから何を思うかはあなた次第。私の意図ではありません」

祐一 「・・・・・・」

美凪 「四大魔女の四人目、青嵐の大魔導師と呼ばれる者の名は、夏海。姓は・・・・・・・・・相沢」

相沢夏海。
それが四大魔女の一人、青嵐の大魔導師の名。
そして、十二天宮アリエスの本名。

祐一 「・・・・・・」

美凪 「・・・あなたが思っていることの真偽は、本人か、或いはカタリナさんなら知っているかもしれません。私には・・・」

祐一 「そう・・・か・・・」

沈黙。
しばらく祐一は今の話を頭の中で整理する。
だが、考えても始まらないことと判断し、一区切りつける。

祐一 「・・・話が反れたな。で、さやかは大丈夫なんだったな」

美凪 「・・・はい。莢迦さんの呼ぶ魔獣は、一つ一つが5000以上の魔力を持っていますし、竜王もいます。負けることはありません」

祐一 「そうか。ならいい。で、他のみんなはどこだ? でもって、ここはどこだ?」

美凪 「・・・・・・さあ?」

祐一 「さあ?」

美凪 「・・・全員の安否はわかりません。ここがどこかも、残念ながら」

祐一 「な! 何悠長に構えてんだよっ。早くみんな探さないと・・・!」

美凪 「・・・無理」

祐一 「何が無理なもんか!」

ベッドのシーツを跳ね除けると、祐一は部屋から飛び出す。
小さな小屋らしく、扉を開けるとすぐ外だった。
木々の合間を抜けると・・・。

 

 

 

 

 

 

祐一 「・・・は?」

 

 

 

 

 

 

そこは一面の砂漠だった。
右を見ても、左を見ても、遥か彼方を見渡しても、ただ渇いた砂の大地が広がっているだけだった。
後ろを見れば緑。オアシスらしい。

祐一 「・・・そういうことね・・・」

これでは確かにどこなのかわからない。
探しに行くのも無理そうだった。

 

パシャッ

 

祐一 「水音?」

オアシスの奥から聞こえてきた。
もちろんオアシスなのだから水溜りがあるのは当然だろうが、誰かがそこにいるらしかった。
草木を掻き分けて水音のする方へと歩いていく。

パシャッ

祐一 「・・・・・・」

逆光の所為だったか、祐一には一瞬それが泉の女神かと思えた。
きらきら輝く水と戯れる裸身がそこにあった。

祐一 「あ・・・・・・」

佐祐理 「はぇ?」

泉の中にいる少女、佐祐理が祐一に気付いて振り返る。

佐祐理 「祐一・・・さん?」

祐一 「・・・・・・さゆ・・・り、さん?」

佐祐理 「・・・・・・・・・・・・ふぇ・・・」

祐一 「へ?」

佐祐理 「ふぇ〜ん、祐一さぁ〜ん!」

祐一 「うわぁ」

水の中を走ってきた佐祐理が祐一の胸に飛び込む。
祐一は辛うじてそれを受け止めた。

佐祐理 「ふぇ〜、よかった・・・このままずっと起きなかったらどうしようかと・・・」

祐一 「え? 俺、そんなに寝てた?」

佐祐理 「五日もです。本当に心配したんですから」

祐一 「ご、ごめん・・・・・・その、佐祐理さん・・・」

佐祐理 「はい?」

祐一 「と、とりあえず、その格好・・・」

佐祐理 「へ?・・・・・・・・・きゃっ!」

バシャンッ

何も身に付けていなかった佐祐理は、その姿に赤面して水に顔まで浸かる。
佐祐理が離れると同時に祐一も泉に背中を向ける。
こちらも顔を真っ赤にしている。

祐一 「あ〜、その〜・・・逆光で、よく見えなかったから」

佐祐理 「は、はい・・・あ、あはは〜・・・さ、佐祐理の不注意ですから、き、気にしないでくださいね・・・」

祐一 「お、おう・・・」

 

その光景を、美凪は茂みから見ていた。

美凪 「・・・初々しいです」

しみじみと呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐一 「とにかく、ここにいても始まらない。砂漠を越えて、みんなを探しに行く」

佐祐理 「そうですね。舞・・・真琴さんも美汐さんも、無事だといいんですけど」

祐一 「名雪達もいたんだしな。早く見付けないと」

同じ様にこんな辺境に飛んでいたら大変である。
しかし、オアシスを出立しようとする祐一と佐祐理を、美凪が止める。

祐一 「何のつもりだ?」

佐祐理 「美凪さん?」

美凪 「・・・行かせることはできません」

祐一 「どういうことだよ?」

美凪 「・・・私は、莢迦さんから相沢さん、あなたのことを頼まれました」

祐一 「さやかから?」

美凪 「・・・いずれあなたは、また彼らと戦うことになるでしょう。けれど、今のあなたでは、彼らに勝てない」

祐一 「それは・・・!」

美凪 「・・・おわかりのはずです。あなたは、弱い」

祐一 「っ・・・!」

美凪 「・・・どうしてもと言うのなら、私を倒していってください。二人がかりで構いません。ただし・・・」

穏やかなだった美凪の体から、巨大な魔力が立ち昇る。
遺跡で感じた数々の圧倒的な力、それに決して劣らないほどの力が。

美凪 「・・・私も最強と呼ばれた四大魔女の一人ということをお忘れなく」

相変わらずのんびりとした口調。
穏やかな表情。
しかしその下に、恐ろしいほどの力が息づいていた。

祐一 「・・・どうしろって言うんだよ?」

美凪 「・・・頼まれましたから」

佐祐理 「頼まれた、ですか?」

美凪 「・・・強く・・・なりたい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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