Kanon Fantasia

 

 

 

第19話 最凶の魔女

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二つの強大な力が今まさに激突しようとしていた。

ジェミニ 「こりゃ、避難した方がいいかな。あれがぶつかり合ったら、ここ崩れるかもしれないし」

ピスケス 「なーに言ってるんだか。血が流れるわい、負けた方の、そうもちろん千人斬りの幽が血を流すの。その瞬間を見逃せるもんではないわいな」

 

 

?? 「血ぃか・・・・・・。血ぃ、足りないな〜」

 

 

ズシャッ

 

 

ピスケス 「ぐふっ・・・!」

ジェミニ 「ピスケス!?」

ピスケスの胸から手が生えていた。
背中から誰かが手をつきいれ、胸まで貫通したのだ。

ピスケス 「え・・・? 血、血だわいな・・・。あ、あたし・・・の?」

?? 「血・・・ちょうだいよ」

ジェミニ 「おまえ・・・、なんで!?」

胸を貫いた手が引き抜かれる。
大量の血が噴出し、ソイツの体にかかる。
尚も血を欲し、ソイツは手で流れ出る血を掬って飲む。

?? 「・・・まずい。でも、血だぁ・・・」

ピスケス 「ひぃぃぃ!! 血! 血! 血よぉ!! あたしの血ィィィ!!」

?? 「うるさいなぁ。そんなに血が好きなら・・・」

ソイツは足元でのた打ち回るピスケスの頭を片手で掴んで持ち上げる。
頭蓋を圧迫する力に、ピスケスは声もなく身悶える。

?? 「自分の血、流してなよ」

 

グシャッ

 

嫌な音がしてピスケスの頭蓋が潰れ、血が溢れ出す。

?? 「ほーら、血がいっぱい」

ジェミニ 「お、おまえ・・・何者だよ・・・?」

?? 「あれ〜、忘れちゃったの、双子ちゃん。昔よく戦ったじゃない。幽と一緒に、この四死聖の莢迦と」

ジェミニ 「な、なんだよそれ? だって・・・おまえがあの莢迦だって言うなら、なんであの頃よりも若いんだよっ!?」

莢迦 「んふふ、そ・れ・は〜、乙女の、ひ・み・つ♪ あっははははは・・・あー、アイツらうるさいね」

莢迦が目を向けた先は、今まさに技を繰り出そうとしていた二人の方だった。
無造作に刀を抜くと、それを二人の中心めがけて放り投げた。
軽く投げただけの刀は、魔力に吸い寄せられるように落ちて行き、二人の間に突き刺さった。

 

 

 

 

 

 

 

 

突然途切れた魔力の渦に、皆唖然とする。
十二天宮達、一番遠くで見ていた浩平、治癒の終わった祐一の周りに集まっている名雪や佐祐理達。

 

アリエス 「・・・なんてこと・・・。ここで莢迦が覚醒するなんて・・・・・・下手をしたら、この場にいる全員ごと、この遺跡が消滅する・・・!」

 

元 「こちらも起きたみたいですね。まぁ、あの二人の戦いを妨げられるのなんて、彼女しかいないでしょうけど」

 

 

 

 

 

 

 

幽 「何の真似だ? 答えろよ、莢迦」

邪魔をされた幽は殺気を込めた目で莢迦を睨み付ける。

莢迦 「うふふふ・・・あっはははは・・・・・・」

何がそんなに楽しいのか、莢迦はしきりに体を震わせて笑っている。
傍にいたジェミニは、その異常な様子を気味悪がって離れる。

莢迦 「うふふふははははは、あはははは・・・・・・は〜」

時折甘い声を発しながら恍惚とした表情を浮かべる。
全身に自分とピスケスの血を浴び、真っ赤に染まった状態で笑っているその姿は、無気味さを通り越して妖艶さを醸し出していた。
むしろ美しいとさえ思わせるその姿。
しかしそれゆえにやはり妖しく、不気味だった。

幽 「人が訊いてんのに笑ってんじゃねえ!」

莢迦 「あははは・・・・・・」

ふと笑いが止み、さらに不気味な静寂が訪れる。
そして次の瞬間、桁外れな魔力の渦が巻き起こり、その重圧感に全員が圧迫された。

 

 

 

 

 

 

 

 

名雪 「きゃっ!」

潤 「な、なんだ、こりゃ!」

香里 「お、重い・・・」

佐祐理 「さやかさん・・・これは一体・・・」

舞 「・・・とんでもない・・・魔力」

美汐 「覇王のものさえ、超えている・・・!」

真琴 「あぅーっ!」

 

 

 

 

 

 

ジェミニ 「おいおい・・・冗談だろ・・・?」

ライブラ 「こ、こんな馬鹿な・・・・・・魔力60000以上・・・・・・こんな力、七年前の戦いでさえ見たことがないぞ!」

元 「仲間であった私達でさえ、いまだかつて見たことのない莢迦さんの真の力。それがこれか・・・」

郁未 「・・・次元が違うわ」

アリエス 「(本当に全てを吹き飛ばす気? 莢迦)」

 

 

 

 

 

 

 

莢迦 「そんな姿で、偉そうな口聞いてないでよ、幽。それにゼファーも」

ゼファー 「何・・・?」

幽 「・・・莢迦」

莢迦 「だ〜ってぇ、幽ったら前と比べて全然ひ弱なんだもの。そんな幽にてこずってるゼファーもどっちも・・・・・・そんなんじゃ殺し甲斐がないじゃない」

莢迦は笑っていた。
しかし、それは血も凍るほどの冷たい微笑だった。
目を合わせたら本当に凍りつかされるのではないかと思えるほどの。

莢迦 「あ〜あ、つまんない。でも気分いいんだよねぇ〜・・・・・・・・・このまま何もかも吹き飛ばしちゃおうか」

魔力がさらに膨れ上がる。
収束されていく魔力を、莢迦は楽しそうに扱う。

莢迦 「あっはははははは、すごいことできるよ〜。この遺跡、六回くらい吹き飛ばせるかもね〜。あははは、あっはははははは!!」

高笑いを続ける莢迦。
誰もその行為を止めることなどできないかに思われたが・・・。

 

ぼふっ

 

その莢迦の背中に、飛びつくように抱きつく者がいた。

美凪 「・・・落ち着いてください・・・莢迦さん」

莢迦 「・・・・・・・・・」

笑い声が止み、集まった魔力も霧散する。
圧し掛かってくる重圧感も、嘘のように消えていた。
静けさが広がった。

莢迦 「・・・・・・血、つくよ、美凪」

美凪 「・・・もう、遅いです」

莢迦 「そうだね。もういいよ、落ち着いた」

美凪 「・・・はい」

そっと美凪の体が莢迦から離れる。
その手を、莢迦が掴んで引き止める。

美凪 「?」

莢迦 「頼みがあるの・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

美凪 「・・・っ・・・・・・・・・わかりました」

莢迦 「お願いね〜」

美凪 「・・・はい」

今度こそ美凪の体が莢迦から離れた。
解放された莢迦に、みちるが駆け寄ろうとするが、美凪がそれを制する。

みちる 「んに? 美凪?」

美凪 「・・・あとでね。今は他にすることが・・・」

みちる 「んに〜、残念。ひさびさに莢迦にぎゅってしてもらいたかったのにぃ〜」

莢迦 「あ、それは今しちゃおう」

ぎゅ〜

みちる 「んにょわっ」

不意打ち気味に莢迦がみちるを抱きしめる。
最初は驚いたみちるも、気持ちよさそうに莢迦の腕に頬擦りする。
場に似つかわしくないほのぼのムードが生まれていた。

 

ゼファー 「お遊戯は終わったかな?」

莢迦 「ん〜、無粋な輩がお待ちかねみたいだよ。じゃ、美凪、よろしくね」

美凪 「・・・はい」

みちる 「またぎゅってしてね〜、莢迦ー」

莢迦 「とーぜん」

 

ガッツポーズをとってみせてから、莢迦は幽とゼファーのもとに歩いていく。
先ほどまでのプレッシャーはなくなっているが、依然その場にいる誰よりも高い魔力を発していた。

莢迦 「いやいや、取り乱してしまったようで。アレのあとはどうしてもね〜」

ゼファー 「なんのことかは知らんが。余の楽しみの邪魔をした代償は受けてもらうぞ」

莢迦 「そうだね。でもちょっと待ってね。まずは不要な人達に退場してもらうから」

突然、地面に巨大な魔法陣が出現する。
祭壇を中心に描かれていたものとは別の、さらに巨大な魔法陣だった。
そしてその法陣が発する光が、一部を除いて皆を包み込んでいく。

 

名雪 「え? なになに?」

潤 「今度はなんだよ!?」

香里 「体が・・・動かない?」

佐祐理 「さ、さやかさん、何を?」

舞 「・・・さやか!」

真琴 「あぅーっ、なんなのよぉ!」

美汐 「見たことのない魔法陣・・・何をする気ですか?」

 

浩平 「うーむ・・・引き際を間違えたかな?」

澪 「・・・・・・」

 

美凪 「・・・・・・」

みちる 「にょわっ、なにごとだー?」

 

栞 「っ・・・! 幽さん!」

 

幽 「何の真似だてめえ!」

莢迦 「まぁまぁ、少し頭冷やしてからまた来なよ。こんな場所であっさり決着がついちゃったらつまらないでしょ。もっともっと、何か大きなものが動いてるんだから」

魔法陣の光は覇王一派以外の全員を包み込んでいく。
そして徐々にその姿が薄れていく。

アリエス 「・・・転移魔法。しかしこれだけの人数を一度に」

莢迦 「その分、どこに飛んじゃうかわからないデメリットがあるけどね。ま、死ななきゃいいんだし」

ゼファー 「逃すつもりか。そうはいかん」

莢迦 「じっとしてなよ。すぐに終わるし、あなたの相手は私がしてあげるから」

光はどんどん激しさを増し、そして一気に弾けた。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

光が消えた時、その場に残っていたのは、莢迦、ゼファー、アリエス、郁未、元、ジェミニ、ライブラ、そして既に死体となったピスケスだけだった。

ゼファー 「・・・逃したか。まぁ、死ぬのが先送りになっただけだ。今は、おまえだけで我慢してやろう、舞姫莢迦」

莢迦 「舞姫ねぇ、幽達と一緒にいた頃は随分綺麗な名前で呼ばれていたものね」

ライブラ 「貴様、王の楽しみを奪っておいてただで帰れると思っているのか?」

ジェミニ 「いくら強くても、これだけの人数相手に一人でどうにかなるなんて思ってないよな」

アリエス 「・・・・・・」

元 「・・・・・・」

郁未 「・・・・・・」

覇王ゼファーと、残った十二天宮がぐるりと莢迦を取り囲む。
六体一、明らかに莢迦が不利な状況で、しかし莢迦は平然と微笑んでいる。

莢迦 「一人? 誰が?」

ライブラ 「・・・もしや、かつての仲間が寝返ることでも期待しているのか?」

莢迦 「まっさか〜。そんなの後ろからブスリやられそうで怖いってば」

ジェミニ 「ならやっぱり一人じゃないか」

莢迦 「さっきの魔法陣、ただの転移魔法だとでも思った?」

ゼファー 「・・・・・・」

ライブラ 「? なんだ、この無数の巨大な魔力は・・・!?」

辺り一面、莢迦とは別の大きな魔力の持ち主の気配が充満していた。
それも一つや二つではない。

莢迦 「知らなかったら教えてあげる。私は四死聖の舞姫莢迦である以前に、世界四大魔女の一人、漆黒の魔女莢迦なの。そのもっとも得意とする魔法は・・・・・・」

莢迦を取り囲んだ十二天宮を逆にぐるりと取り囲むように姿を現したのは、並の魔物とは比べ物にならない巨大な魔力を持った魔獣達だった。

莢迦 「さぁ、十分に楽しんでね。私のかわいい魔獣達と」

形状もまちまちな魔獣達は、一斉に十二天宮に襲い掛かる。

ライブラ 「馬鹿な・・・! こやつら一体一体が魔力5000以上もあるだと!?」

ジェミニ 「冗談じゃないよっ、こんなの聞いてないって!」

元 「四死聖でいる間は隠していたこんな特技があったとはね。・・・・・・やはり楽しませてくれる」

アリエス 「莢迦・・・」

郁未 「タフな相手ね・・・」

魔獣の相手を十二天宮それぞれが受け持つ。
残ったゼファーと莢迦が対峙する。

ゼファー 「おもしろい芸だ」

莢迦 「楽しんでくれた?」

ゼファー 「まだまだだな。余はまだ楽しめん」

莢迦 「そっか。じゃあ・・・」

地面に突き刺さってる刀を引き抜く。
状態を確かめるように刀身を隅から隅まで見る。

莢迦 「うん。この御神刀・久遠の封印も解けたわね。四死聖のころはこれメインで戦ってたし、あなたとやるにはちょうどいい」

ゼファー 「ふん、余には魔獣など相手にならぬしな」

莢迦 「そんなこともないと思うけど・・・・・・あ、どうやら勢い余ってカレも呼んじゃったみたい」

 

グヲォオオオオオオオ!!!!!

 

大気を震わせる魔獣の声が響き渡る。
遥か上、遺跡の外からでも、中心部である祭壇の間に届くほどの咆哮だった。

莢迦 「あー・・・、アポなしで呼んじゃったから、寝起きでご機嫌斜めみたい。今日はこれまでだね」

ゼファー 「何?」

莢迦 「ま、あなたをここで倒しちゃったりしたら、あとで幽に何言われるかわからないし。リターンマッチは、また今度だよ」

上から何かが圧し掛かり、ドームが崩れ落ちる。
天井に穴が空き、そこから覗く夜空に、巨大な漆黒の竜が飛翔していた。

アリエス 「・・・黒竜王・・・バハムート。史上唯一、竜の王族と契約を結んだ、竜王を従えし者、ドラゴンロードマスター。それが、四大魔女の中でも最凶と呼ばれた彼女、莢迦」

 

バハムート 「ヴァオオオオオオオオォォォォォォォォ!!!!!!」

莢迦 「うん、いいよ。急に呼んじゃったお詫びに、今日は思い切りやっちゃっていいから。全て吹き飛ばしても。それくらいで死ぬようなのはもうここにいないから」

バハムート 「グルルルルルルルル・・・・・・・・・・・・・」

ジジジジジジジジジジジジ・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴォーーーーーーーーーーーーンッ!!!!!!!

 

その日、アザトゥース遺跡は、地上から消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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