Kanon Fantasia

 

 

 

第18話 祭壇前の激闘

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐一の全身から、かつてないほど強力な魔力が溢れ出ていた。
その異常事態に、それぞれに戦っていた者達の視線が集まる。

祐一 「・・・・・・・・・」

その場にいる全員が、祐一の気に呑まれていた。

 

佐祐理 「祐一・・・さん?」

舞 「・・・いったい・・・?」

真琴 「何が起こったのよぉ!」

美汐 「倒れているのは・・・さやかさん!?」

浩平 「こいつは・・・」

澪 「・・・・・・」

 

元 「なんと・・・」

ピスケス 「血? 血が流れたんじゃないの? 何が起こったって言うのわいな?」

ジェミニ 「なんだよ、この巨大な魔力は?」

郁未 「どうなってるの? 彼には魔力がないはずじゃ・・・」

アリエス 「・・・これが・・・」

 

 

 

祐一 「ぐ・・・うぉおおお・・・・・・!!」

溢れ出る魔力が祐一を中心に渦巻く。
それを驚愕に表情で見詰めるライブラ。

ライブラ 「ば、馬鹿な・・・! 魔力8000だと!? 魔力など持っていなかったはずの者が、一体この魔力はどこから?」

祐一 「・・・許さん」

ライブラ 「何?」

祐一 「貴様は許さん!!」

巨大な魔力を剣に乗せて、祐一は大きく踏み込む。
ただでさえ速い打ち込みは、魔力による加速で信じられないものになっていた。
辛うじて反応したライブラは、自らの剣で防御するが、勢い余った吹き飛ばされる。

ライブラ 「ぐぉおお・・・・・・!」

祐一 「うぉおおおおおお!!!」

今までとは比べ物にならないほど強力な風、いや竜巻を宝剣シルフィードに乗せ、祐一は剣を振るう。

ライブラ 「な、舐めるなよっ!」

だが、不意打ちのショックから立ち直ったライブラは正面からそれを弾き返す。

ライブラ 「我が魔力9700! まだ貴様を上回っているのだ! これしきのことで・・・」

怒りを露にしたライブラが魔力を放出しながら祐一に向かう。

ライブラ 「勝てると思うなよっ、小僧ォォォ!!!」

二つの大魔力が祭壇の前で激突する。
その余波がドーム状の部屋に反響して大きな風を起こしていた。

 

 

ジェミニ 「あーあ、ライブラがキレちゃったよ。儀式どうするんだろ」

ピスケス 「血は流れたんだし、もう勝手に始まるじゃないのかえ? けど、自分で血を流させられなかったのは残念ねぇ」

 

 

元 「これは、思いがけない番狂わせですね。こんな力は幽にも見たことはない。同じ魔力0でも質が違うのでしょうか?」

 

浩平 「・・・潮時かな? 今しか逃げるチャンスはないかもしれないが・・・」

澪 「?」

浩平 「チッ、このままじゃあいつの力のことが気になって帰れないじゃねえか」

 

 

佐祐理 「祐一さん」

舞 「・・・祐一」

真琴 「祐一」

美汐 「相沢さん」

 

 

郁未 「・・・・・・」

アリエス 「・・・・・・」

 

 

 

全員が固唾を呑んで見守る中、祐一とライブラの激突は続く。
激しさを増す激闘は、少しずつ祐一の方へ形勢は傾いていった。
総合的な魔力はほぼ互角か、ライブラの方が上だったが、一撃一撃の破壊力が祐一の方が凄まじかった。
猛烈なラッシュを受けて、ライブラは祐一の攻撃を防ぎきれなくなっていく。

ライブラ 「く・・・ぐぉ・・・こ、こんな馬鹿な・・・!」

祐一 「おおおおおおお!!!!!」

ライブラ 「がはぁっ!」

ドンッ!

一瞬祐一の方が手数で勝り、拮抗した力関係が崩れた。
振りぬかれた祐一の剣圧にライブラが吹き飛ばされる。

ライブラ 「がはっ・・・馬鹿な・・・。この私が、二度ならず三度までも地べたに這わされるとは・・・!」

祐一 「・・・・・・」

ライブラ 「しかも・・・相手はただの小僧。千人斬りの幽でも四死聖でもない、ただの小僧なんだぞぉ! これが認められるかぁ!!」

屈辱を込めて魔法を放つライブラ。
しかしその全ては祐一の剣によって叩き落される。
もはや完全に祐一はライブラを勝っていた。

祐一 「・・・・・・」

ライブラ 「こ・・・こんな・・・」

恐怖。
負けているという事実以上に認めがたい感情がライブラの中に生まれていた。
力もさることながら、まったく得体の知れない敵に対し、はじめて恐怖というものを覚えた。
頭で否定しても、ライブラの体は全身で恐怖を表していた。

祐一の気迫に呑まれて、十二天宮達さえ動こうとはしなかった。
もはや誰に目にも祐一の勝利は間違いないと思われたが・・・。

 

 

 

ドシュッ!

 

 

 

祐一 「・・・か・・・はっ・・・!」

祭壇の上から伸びた一条の光が、祐一の胸を貫いた。
まさに一瞬の出来事であったが、倒れ付す祐一を見て、佐祐理達が息を呑む。

 

 

 

 

その光景を、丁度広間に辿り着いた名雪達も目の前で目撃した。

名雪 「・・・ゆ・・・・・・ゆういちーーーっ!!」

誰よりも早くその名を呼び、転がるような勢いで名雪は祐一のもとへと駆ける。
香里と潤もそれに続き、名雪の声で我に返った佐祐理達も駆け寄る。

 

 

 

狭い空間を、祐一の時以上に支配する強大な魔力が、祭壇を中心に渦巻いていた。
徐々に集まっていく魔力を吸収して、祭壇の上の棺から現れた男が体を震わせる。

幽 「・・・ケッ、クソ野郎が起きやがったぜ」

 

 

ピスケス 「!!」

ジェミニ 「!!」

元 「・・・・・・来ましたね。真打が」

郁未 「千人斬りの・・・幽」

アリエス 「・・・・・・」

 

 

そしてその反対側。
広間の入り口には、伝説の魔人が立って、祭壇を見下ろしていた。

?? 「久しぶりだな。千人斬りの幽よ」

幽 「ああ、そうだな。久々過ぎて忘れそうになっちまったぜ、ゼファーよ」

ゆっくりとした足取りで幽は祭壇の方へ向かって歩いて行く。
一方、素っ裸で現れた棺の男は、魔力を凝縮させて身にまとうと、棺の中から出て祭壇を降りて行く。

ライブラ 「・・・は、覇王様・・・」

ゼファー 「随分と派手にやられたものだな、ライブラよ」

ライブラ 「申し訳ありません。予想外の事態に戸惑いまして・・・」

ゼファー 「まぁよい、復活の儀式、ご苦労であった。よい血が手に入ったものだな」

ライブラ 「お言葉、光栄にございます」

祐一に追い詰められ、完全に取り乱していたライブラが、ゼファーの姿を見ただけで冷静さを取り戻していた。
その全身から発せられる魔力、闘気、カリスマ、全てが尋常ではなかった。

七年前まで、世界を震撼させた覇王、ゼファー・フォン・ヴォルガリフの復活であった。

ライブラ 「皆の者控えよ! 世界の統治者たる覇王、ゼファー様の御成りである!!」

その言葉に、ピスケス、ジェミニ、元、郁未、アリエスの五人が跪く。
他の者達は自ら跪きはしなかったが、ほとんど者は圧倒的なプレッシャーに立っていることができなかった。
ただ一人、千人斬りの幽を除いては。

ゼファー 「良き日だな。余が復活したのみならず、その時に宿敵の首を取れるとは」

幽 「阿呆が。復活したその日にまた地獄に逆戻りにさせられる、虚しい日だよ」

ゼファー 「ふふふ、生憎だが幽よ。今度地獄を見るのは、貴様の方だ」

幽 「ふん、最初から言葉は不要だな」

ゼファー 「そうであろうとも。どちらが正しいかは、剣を交えてみればわかること」

ライブラ 「覇王様」

ゼファー 「うむ」

横からライブラが差し出した剣を取るゼファー。
幽も剣を抜いて肩に担ぐ。

ゼファー 「七年振りの戦いだ。だが、貴様は余に勝てん」

幽 「ほぉ」

ゼファー 「余があの戦いで貴様に殺される寸前にかけた術で、貴様はかつての強靭な肉体を失った。今の貴様は、全てにおいてあの頃の貴様より劣っている。逆に余はこの通り、力に満ちている」

幽 「言葉は不要っつっただろ。とっととかかってきな」

ゼファー 「勘違いするな。挑戦者は貴様の方なのだよ」

幽 「負け犬が吠えんなよ」

相手を挑発する声の一つ一つに気が込められているかのような応酬が繰り返される。
気で呑まれれば勝ち目はない。

 

ガキィンッ!

 

何の前触れもなく、互いに踏み込んで剣が打ち合わされる。

幽 「おぉおおおおおお!!!」

ゼファー 「はぁあああああ!!!」

ギィンッ
ガキィンッ
ドガガガガガガッ!!

一度二度では終わらず、何度も何度も剣が打ち合わされる。
目にも留まらぬスピードと、想像を絶するパワーと、圧倒的な闘気と、身も凍るような殺気のぶつかり合い。
両者ともに一歩も譲らない激突が繰り返される。

 

 

 

ライブラ 「・・・覇王様の魔力26000、覇王剣カオスグラム、攻撃力4450、魔力18000。千人斬りの幽、魔力0、終末の魔剣ラグナロク、攻撃力4980、魔力25000。数字から優劣を判断することはできぬが、幽に覇王様を倒すことはできん」

 

 

ゼファー 「くくく、ヌルイわっ!」

ドォン!

幽 「ぐ・・・!」

ゼファーの覇王剣から発せられた闇の波動に押され、幽の体が後退する。
予想以上の威力に、幽がよろけて膝をつく。

幽 「野郎・・・」

ゼファー 「わかったか、幽よ。これが貴様と余の力の差だ」

一見互角に見えた打ち合いだったが、ゼファーがまったくの無傷なのに対し、幽の全身はいたるところから血が流れていた。
手数で劣っていた証拠である。

ゼファー 「パワー、スピード、闘気、殺気、覇気、魔力、何から何まで余は貴様を上回っているのだ。最初から貴様に勝ち目などないということだ」

幽 「寝言は寝てる時に言えや。少し調子がいいからって図に乗るなよ」

ゼファー 「減らず口を叩く元気はまだあるようだが、満身創痍のその体でどう戦う?」

幽 「・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

栞 「・・・幽さん」

郁未 「力の差は歴然。千人斬りの幽に勝ち目は万に一つもないわ」

栞 「郁未さん。・・・それが、あなたがあのゼファーという人についていく理由ですか?」

郁未 「ええ。強い者のために力を振るうのがね」

栞 「私は嫌です。あの人は強いですけど、雰囲気が嫌いです」

郁未 「けれど、圧倒的な現実の前では、そんな思いなど・・・」

栞 「まだです。幽さんはまだ負けていません」

郁未 「まさか・・・あの深手であれ以上・・・」

 

 

 

 

 

 

幽 「・・・くくくくく」

ゼファー 「?」

幽 「なるほどな、少しはデキるようになりやがったか。だがな、てめえ俺を誰だと思ってやがる」

幽は立ち上がった。
その金色の眼に見据えられると、思わずゼファーは背筋に冷たいものを感じた。

幽 「千の人と千の魔物、そして天使に悪魔、神すら斬った魔人。千人斬りの幽だぜ」

ドクンッ

魔剣ラグナロク。
幽が持つ剣が脈動とともに真紅に染まっていく。

幽 「ひさしぶりに千人斬りの剣を見せてやる。見たら死にな」

ゼファー 「無限斬魔剣だったか。無駄なことだ」

覇王剣カオスグラム。
ゼファーの剣に闇の魔力が集まっていく。

二つの巨大な魔力が互いを削るように渦巻く。
両者、己の持つ最大の力を解き放とうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

名雪 「祐一! 祐一ぃ!」

戦いが行われている中、名雪達と佐祐理達は祐一の周りに集まっていた。
魔法を使える者が治癒を試みるが、出血が激しくて傷口が塞がらない。

美汐 「く・・・血が止まらない」

佐祐理 「そんな・・・、祐一さん! しっかり・・・!」

潤 「くそっ、こういう時に魔法が使えないってのは歯がゆいぜ」

香里 「そうね・・・。任せるしかないなんて」

真琴 「あぅーっ、魔法使えたって治癒魔法が使えなかったら同じよぉ!」

舞 「祐一・・・しっかりして・・・」

必死に手当てを試みるも、まったく効果が上がらない。

美凪 「・・・どいてください」

名雪 「美凪・・・ちゃん?」

美凪 「・・・私にお任せ」

他の者達を押しのけ、美凪は祐一の傍らに跪く。
そしておもむろに手をかざすと、魔力を集中し始めた。

美凪 「・・・リザレクション

佐祐理 「え? 最高の治癒魔法・・・」

高い魔力と媒介さえあれば死者すらも蘇生させると言われる究極の治癒魔法である。
幻の魔法の一つで、世界でも数えるほどしか使い手がいないと言われる魔法だった。

 

 

 

アリエス 「(祐一・・・・・・? あれは・・・美凪?・・・・・・・・っ! この魔力は!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

いよいよ幽とゼファーの力は最高潮に達していた。
二つの剣が発する魔力が二人の技によって極限まで引き出される。

幽 「無限斬魔秘剣・紅蓮烈火。赤く燃え上がる花となりな」

ゼファー 「覇王剣闇奥義、カース・オブ・ヘル。闇の底に沈むがいい」

まさに、二つの秘奥義が激突せんとした瞬間・・・。

 

 

 

 

ギィンッ!!

 

 

 

 

幽 「!!」

ゼファー 「何っ!?」

二人が激突するはずだったその場所に、どこからか飛んできた一本の刀が突き立った。
たった一本の刀、それだけで二人の極大まで練られた魔力が霧散していく。

ゼファー 「余の魔力をいとも容易く消し去るとは・・・」

幽 「何の真似だ?」

幽が振り返った先。
そこにいたのは・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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