Kanon Fantasia

 

 

 

第17話 覇王復活祭

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐一達と浩平達、名雪達と幽。
それぞれがそれぞれの方向から遺跡の中心部を目指す。
曰くがあるとは言え、基本的にはただの遺跡である以上、罠などがあるわけではなく、多少迷った程度で楽に先へ進むことができた。
彼らが目的地としている中心部には、数人の者達が祭壇の前に控えていた。

ピスケス 「まったくもって、タウラスの頑丈さには感心させられるわな。あれだけの傷を負えば普通ならば死んでいる」

男には違いないのだが、女のような高い声で離すのがピスケス。

ジェミニ 「でもさすがは千人斬りの幽。七年前の覇王様との戦いが原因で衰えたと聞いてたけど、まだまだ僕ら十二天宮と互角以上に戦えるんだね」

まだ幼い容貌のジェミニ。

ライブラ 「・・・お楽しみのところ申し訳ないが、覇王様の復活には今しばらくかかる。祭りの間、くれぐれも祭壇に近づけぬようにしてくれ」

祭壇で儀式の準備をしているライブラ。

ライブラ 「まったく、まさかキャンサーを欠くとは。復活祭とは言え、連中を誘い寄せたのは戯れが過ぎる」

元 「まぁ、仕方ないではありませんか。復活のためには、まだまだ血が必要なのでしょう」

ライブラ 「血など少し主らが暴れてくれば十分足りる。それをわざわざ・・・」

元 「ここの方が新鮮な、しかも力強い者達の血が得られますよ。覇王様の快復に十分なほどにね」

ライブラ 「・・・カプリコーン。いや斎藤元。私は貴様を信用していない。かつてはあの千人斬りの幽の仲間として我らとは不倶戴天の敵同士だったのだからな」

元 「・・・・・・」

アリエス 「・・・・・・」

郁未 「・・・・・・(重いわね、空気が。仲間と言ってもほんと仲の悪い)」

人のことは言えないと郁未は思っているが。
この場にいる十二天宮は六人。死んだキャンサーと戦線離脱したタウラスを含め、遺跡には八人の十二天宮がやってきていた。
残りは別の場所で任務についている。

郁未 「(これだけで十分ってことね。あとは覇王様が復活してからの計画のために動いている)」

ジェミニ 「お、どうやら最初のお客さんが到着みたいだよ」

ピスケス 「ほほほっ、我に血を見せてくれるのはどこの誰じゃわいな」

 

 

 

最奥部に当たる部屋はかなり広かった。
城の大広間と同じか、それ以上。
窓らしきものはないが、かがり火が大量に炊かれていて、十分な明るさがあった。
六人の人影と、祭壇の上の棺が見えるその部屋へ、祐一達は足を踏み入れた。

祐一 「ここか・・・」

ジェミニ 「残念。千人斬りの幽じゃないんだね」

ピスケス 「じゃが、美しい血を流してくれそうな者達ではないか」

最初に二人の十二天宮が立ちはだかった。
どちらもぱっと見ひ弱そうな子供とオカマモドキだったが、放っている威圧感は並大抵ではなかった。

舞 「・・・強い」

浩平 「だな」

祐一 「おい、そっちの。約束どおり来てやったぜ」

元 「やぁ、どうも。来ていただいて光栄ですよ」

アリエス 「・・・・・・」

祐一 「・・・・・・・・・で、どうすればいいんだ?」

状況から、どうするかはすぐにわかるが、それでも一応依頼主にここへ寄越した理由を聞く。

元 「まぁ、適当に戦ってください。それで目的は果たせるみたいですから」

祐一 「なんだよ、それは?」

元 「気になさらないでください。それとも、君の相手は私がしましょうか?」

祐一 「目的がさっぱりわからない。何を考えてるんだ。おまえらの主は七年前に死んだんだろうが」

ライブラ 「確かに我らの主、覇王ゼファーは七年前に死んだ。しかし、覇王は不死身。ここに再び蘇らん。そのためには血が必要なのだ。おまえ達が血を流してくれればそれでいい」

さやか 「血、ね・・・」

祐一達の側は八人。
十二天宮は六人。
数の上では祐一達の方が有利だったが、敵は最強と謳われた四死聖と互角に渡り合ったといわれる最強の軍団である。
しかも前哨戦でその強さは実証済みだった。

浩平 「・・・・・・(はっきり言ってこっちが不利だな。覇王復活がもし本当なら・・・。澪、状況によっては早々に引き上げるぞ)」

澪 『他のみんなはどうするの?』

浩平 「(天下をとるのに犠牲は付き物だ。場合によっては見捨てる。嫌か? こういう考え方は)」

澪 『私は浩平さんに従うだけなの。危なくなったら逃げるの』

浩平 「(だな)」

折原にとっては、覇王の存在はむしろ利益となる可能性もあるのだ。
浩平にとって覇王を倒すことは目的ではない。
先のキャンサーとの戦いでは自分の力を見せるために全力でいったが、これ以上の戦いは本意ではない。
体力的にももう一度エターナルソードを使うのは無理そうだった。

逃げの算段を立てている浩平とは違った意味で、さやかもこの戦いに乗り気ではなかった。
まず勝ち目が薄いことと、自分自身の調子が出ないことが理由だった。

さやか 「(こんだけの敵が揃ってる状態で、このメンバーじゃ万に一つも勝ち目はないよね。どうしよっかなぁ)」

そんな一部の者達の逃げ腰とは反対に、祐一はやる気満々だった。

祐一 「覇王復活なんてふざけた真似、させるわけないだろっ」

佐祐理 「あははー、そのとおりです。また戦乱に逆戻りする気ですか」

舞 「・・・それは許さない」

真琴 「あたしの魔法で吹き飛ばしてやるわよっ」

美汐 「悪巧みもこれまでです」

ライブラ 「ふむ・・・・・・相沢祐一、魔力0、幽と同じか。だが奴ほどの力はあるまい。倉田佐祐理、魔力2500。川澄舞、魔力1800。沢渡真琴、魔力2760。天野美汐、魔力2110。・・・・・・その程度の力で我らに挑もうとは愚かな。まぁよい、こちらとしては血を流してくれればいいのだからな。皆好きなようにせよ。ただし祭壇を壊すなよ」

リーダー的立場にあるらしいライブラが各人に指示を出す。
しかしそれよりも早く皆戦う姿勢を見せていた。

ピスケス 「ほほほほほ、血、血ィを見せろォ!」

ジェミニ 「遊んであげるよ」

元 「私も行きましょう。楽しませてくださいよ」

アリエス 「・・・・・・」

郁未 「・・・私はどうしようかな?」

十二天宮がそれぞれ動く。
祭壇の間での戦闘が始まった。

 

 

 

 

 

ジェミニと対峙するのは真琴と美汐。
本人達はコンビを組むことをひどく嫌がったが、自然とそうなってしまっていた。

真琴 「あたしの足引っ張らないでよっ」

美汐 「あなたこそ、馬鹿みたいに大技を連発しないくださいね」

ジェミニ 「はははっ、仲いいね、君達」

真琴 「誰がよっ!」

美汐 「心外です。それよりぼーっとしてていいのですか?」

ジェミニ 「ん?」

話をしているうちにジェミニの周囲には美汐が生み出した風の塊がいくつも浮かんでいた。
囲まれているジェミニに対し、真琴が炎を発生させて攻撃の構えを見せる。

ジェミニ 「へぇ、やるね。これだけの数の風を同時に作り出し操る。うん、なかなかできないね」

真琴 「余裕かましてんじゃないわよぉっ!」

少しでも動けば風の結界に触れる。
身動きの取れないジェミニに向かって、真琴が炎の魔法をかける。
それをジェミニは防ごうともせずにただ喰らう。

真琴 「やった・・・・・・って、うわぁ」

直撃と思った瞬間、背後からの攻撃を受けて危ういところでかわす。

ジェミニ 「はははっ、どこを狙ってるんだい?」

美汐 「まさか!? だってこっちに・・・」

炎の魔法による煙が晴れると、そこにはまったく無傷のジェミニが立っていた。
だが、丁度反対側にも鏡にでも映ったようにもう一人ジェミニがいた。

ジェミニ 『ははははは、ジェミニとは双子座のこと。僕らは二人で一人なのさ』

美汐 「幻覚? いえ、本物」

真琴 「どっちも本物? 何よそれ! いんちきぃ!」

二対一のはずが、何故か二対二の戦いになっていた。

 

 

 

ピスケスに向かうのは舞と佐祐理のコンビ。
おてんこ小隊でも最大の戦力を誇るコンビであった。

佐祐理 「先手必勝です。ぱぱっとやっつけちゃいましょう!」

舞 「・・・行く!」

前衛の舞が突撃をかけ、後衛の佐祐理が術式を組み立て、魔法を放つ。
並の敵ならばこの連携で確実に倒せた。

ザシュッ

舞 「っ?」

初太刀はかわされると思って第二撃目以降に重点を置こうとした舞は、あっさり剣を受けた敵に戸惑う。

ピスケス 「ほほほほほほっ、血ィ、血ィ! 血よっ、血なのよっ、ほほほほほ」

佐祐理 「笑ってる暇はありませんよ。シューティングレイ!」

杖から放たれた光線がピスケスに向かう。

ピスケス 「ほほほっ、みんな血を流しなさいっ!」

だが、光線はピスケスの目前で弾かれ、無数の細かい線となって四方八方へ飛び散った。

舞 「く・・・!」

佐祐理 「きゃっ」

危うく飛び散った光線を回避する二人。
ピスケスはまず近くにいる舞に狙いを定め、鋭く伸びた爪で攻撃を仕掛ける。

ピスケス 「血を流すのよっ!」

舞 「く・・・このっ!」

 

 

 

 

元 「折原一門の若者。キャンサーを倒したそうですが、その力に興味がありますね。見せてもらえますか?」

浩平 「さーて、どうするかねぇ」

澪 「・・・・・・」

互いに剣を構えた状態で動かない浩平と元。
傍らで澪ははらはらしながらそれを見守っている。

浩平 「・・・・・・」

元 「・・・・・・」

浩平としては正面からの戦いは避けたいのだが、簡単に逃してくれる相手でもなさそうだった。

 

 

 

 

周りの敵を仲間に任せ、頭を叩こうとした祐一の前に、再びアリエスが立ち塞がる。

祐一 「またあんたか・・・」

アリエス 「まだこの先に進むのは、あなたには早いわ。私が相手をしてあげるから、我慢しなさい」

祐一 「なら、あんたの正体、聞かせてもらおうかっ!」

宝剣シルフィードを振りかぶって突っ込む。
振り下ろされた剣をアリエスは杖で受け止め、そのまま弾き返す。

祐一 「でぇい!」

アリエス 「鋭い剣、踏み込みもいい。でも、まだいけるでしょう」

ガキィンッ

二人の得物が打ち合わされる。

アリエス 「・・・・・・?」

鍔迫り合いの最中、アリエスは視界の隅にさやかの姿を捉える。
どこか足取りが覚束ず、額に手を当てている。

アリエス 「(さやか?)」

祐一 「余所見してんなよっ!」

キィン!

祐一の剣が横に薙ぎ払われ、アリエスは後ろに跳んでかわす。
目の前の相手を意識しつつも、目は自然とさやかを追う。

アリエス 「(まさか、覚醒するって言うの? 覚醒直後のさやかは・・・・・・こんなところで)」

祐一 「舐めるなよっ、戦いに集中しろよ!」

アリエス 「・・・そういう台詞は、せめて私に一太刀でも浴びせられてから言うものよ」

祐一 「なら、すぐに喰らわせてやる!」

宝剣の持つ風の力と、自らの剣技の全てを使って攻める祐一。
徐々に鋭さを増していく攻撃に、アリエスも敵のみに集中して行く。

アリエス 「(強い。気を抜けばやられるかもしれないわね。・・・本当、よくここまで強くなったわ、祐一。でもまだ、ステージに上がるには不足よ)」

一進一退、よりむしろ祐一優位の展開になりつつあった。
まさに祐一の剣がアリエスを捉えようかというところだった。

ライブラ 「まったく、どいつもこいつも戯れが過ぎる」

アリエス 「!」

祐一 「な・・・!?」

前の敵だけを見ていた祐一は、横から現れたライブラの攻撃に対処できなかった。
回避も防御もできずに倒される。

祐一 「・・・くっ!」

アリエス 「ゆ・・・」

ライブラ 「遊びはここまでだ。丁度祭壇の前まで来たことであるし、おまえの血でよかろう」

剣がかざされる。
圧しかかってくるプレッシャーと、攻撃のダメージで、祐一は身動きが取れない。
ライブラの剣が、その祐一に対して容赦なく突き出された。

 

 

 

 

 

 

ドッ!

 

 

 

 

 

 

祐一 「・・・・・・え?」

確かにライブラの剣は突き出されたが、予想された衝撃はいつまで経っても祐一のもとには届かなかった。
代わりに、生暖かい液体が顔にかかる。

祐一 「さ・・や・・・・・・か?」

目の前にさやかが立っていた。
俯き気味で表情は窺えない。
だが、その胸は刃に貫かれていた。
ライブラの剣からさやかが自分を庇ったのだと判断するまで、祐一は少し時間がかかった。

ライブラ 「ふん、予定とは違ったが、この女でも事足りるか。どこの誰かは知らぬが、自ら我が剣の前に飛び込んでくるとは、愚かな」

突き刺された剣が引き抜かれる。
大量の血が吹き出て、さやかの体は仰向けに倒れる。

祐一 「・・・あ・・・」

バケツをひっくり返したように、辺り一面に血が広がる。
視界が、真っ赤に染まって行く。

祐一 「・・・・・・・・・」

 

ドッ ドッ ドッ・・・・・・

 

ライブラ 「さて、これで我らが主復活に必要なものはそろ・・・ごっ!」

踵を返そうとしたライブラの顔面を、何者かの拳が捕えた。
まったく反応できずに、殴り飛ばされたライブラは祭壇の下まで転がって行く。

ライブラ 「な・・・何?」

顔をあげると、目の前に立っていたのは祐一だった。
だが、さきほどまでとはまるで別人のように見えた。

祐一 「・・・・・・・・・」

その全身からは、かつてないほどの魔力が溢れ出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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