Kanon Fantasia

 

 

 

第16話 無数の解れた絆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

浩平 「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・ふぅ・・・余裕かましすぎてると、死ぬってことさ」

キャンサー 「ま、まさか・・・この私が・・・・・・不覚・・・」

体を縦真っ二つにされたキャンサーは、血を撒き散らしながら倒れ付す。
完全に絶命していた。

浩平 「・・・きっつー・・・」

勝った浩平も剣を放り出して膝をつく。
慌てて澪が駆け寄る。

澪 『ばかばかばかばか、浩平さんのばかなの!』

浩平 「ああ、悪い。けど、これを使わないと勝てなかった」

突き立っているエターナルソードを見る浩平と澪。
絶大な力を発揮する剣だが、扱い方を間違えば持ち主ごと辺り一帯を飲み込む恐るべき剣。
ゆえに普段はその力を封じている。

浩平 「ま、勝ったから結果オーライだろ」

澪 『オーライなわけないの! みんな聞いたら怒るの! 黙ってる代わりにお寿司食べに行くの!』

浩平 「わかったわかった。ここですることが終わったらな。少し休んでから先に進むぞ」

澪 「・・・・・・(うん)」

 

 

 

 

 

アリエス 「・・・まさかキャンサーが倒されるとはね。情けない男」

祐一 「仲間が死んだってのに、余裕だな」

アリエス 「私にはどうでもいいもの。それにしても・・・・・・強くなったわね」

祐一 「? なんだよ、まるで前から俺を知ってるみたいな口振りだな」

アリエス 「ええ、知っているわ。よーくね」

祐一 「どういうことだ?」

アリエス 「・・・・・・」

問いかけには答えず、アリエスは静かに杖を下ろし、仮面を外した。
露になった顔を見て、祐一は驚愕した。
そこには、よく見知った顔があったからだった。

祐一 「あ・・・秋子・・・さん?」

微妙に雰囲気は違う。
秋子が横から前に垂らしている三つ編みは、完全に後ろで編まれていたりと特徴にも違いはある。
しかし、彼女は秋子と瓜二つだった。

祐一 「ど、どういうことだよ?」

アリエス 「ふふふ、考えなさい、祐一。そして、今度刃を交える時には、もっと強くなっていなさい」

祐一 「待て! 逃げるのか! 質問に答えろ!! あんたは・・・!」

伸ばした手は届かず、アリエスは空間に溶け込むようにして消えて行った。

祐一 「なんだよ? なんなんだよっ!?」

ただ秋子に似ていたからではなく、彼女の顔を見た瞬間にひどく懐かしい感覚がした。
ずっと昔に感じたことがあるような・・・。

祐一 「くそっ、わけわかんねえよっ!」

得体の知れない感覚に、祐一はいらいらした。
敵を全て片付けて集まってきた皆が宥めるまで、祐一はずっといらいらが収まらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

香里 「・・・栞?」

栞 「え?」

自分の名前を呼ぶ者の存在に、栞は驚いて振り返る。
知らない女性が自分を呼んでいる。
けれど、何故か懐かしい感じのする人間だった。

栞 「・・・・・・」

香里 「栞・・・なの?」

栞 「えっと・・・私の名前は栞ですけど・・・あなたは・・・?」

香里 「本当に栞・・・? 生きて・・・いたの?」

栞 「そう・・・ですね。生きていたと言えば、生きていましたけど・・・」

以前、栞は死にかけていた。
その前のことは記憶が曖昧でわからないが、その時幽に拾われてから今の栞が始まった。
だから、彼女が言っているのは、その以前の栞なのだろう。
つまり・・・。

栞 「あなたは、私は知っているんですか?」

香里 「・・・何言ってるの? あたしがわからないの?」

栞 「えと・・・ごめんなさい。私、昔の記憶とかって、曖昧で・・・」

香里 「あたしよ! 香里。あなたの・・・・・・っ」

栞 「私の?」

 

無垢な視線を向けてくる少女。
その視線に、香里は居たたまれなくなる。
目の前の少女は、死んだと思っていた妹の栞に違いなかった。
しかし、死んだと思った時、香里は自ら妹の存在を心から切り捨てることでその悲しみから逃げた。
そんな自分が、今更姉だなどと名乗り出れるものか・・・。

栞 「・・・もしかして・・・お姉ちゃん・・・ですか?」

香里 「っ! あなた・・・憶えて・・・?」

栞 「姉がいたらしいことだけ憶えてるんです。でもそれ以上は・・・」

香里 「そう・・・」

完全に思い出したわけではない。
ほっとしたような、がっかりしたような複雑な気分だった。

香里 「ごめん・・・栞」

栞 「? どうして謝るんですか?」

香里 「あなたが死んだと思った時、あたし、あなたのことを忘れようとしたわ。悲しみから逃げるために」

栞 「・・・・・・」

香里 「最低よね。こんなあたしに、姉なんて名乗る資格はないわ」

栞 「・・・そんなことないですよ」

香里 「え?」

栞 「私、お姉ちゃんに会えて嬉しいです。それにほら、私だって忘れちゃってるんだから、おあいこです」

屈託なく笑う栞。
香里は込み上げてくるものをおさえられなかった。

香里 「っ・・・栞・・・しおり・・・」

栞 「えっと・・・なんて言ったらいいんでしょう? ただいま、かな?」

香里 「うん、うん・・・おかえり、栞・・・」

流れる涙を拭いもせずに、香里は栞を抱き寄せた。
懐かしい温もりに、栞もその身をゆだねた。

 

 

潤 「こんなところで美坂の行方不明の妹が出てくるなんてな。しかもあの千人斬りの幽と一緒にいたってのが・・・」

名雪 「でもよかったよ。香里あんなに嬉しそう」

みちる 「んに〜・・・」

名雪 「? どうしたの、みちるちゃん?」

みちる 「べっつに〜」

あからさまに不機嫌な声でそう応えるみちる。
その視線はまっすぐ美凪の治癒を受ける幽に向けられていた。

 

 

幽 「・・・おい」

美凪 「・・・起こしてしまいましたか」

幽 「俺に治癒魔法を使うなと言ったはずだぞ」

美凪 「・・・無理は体に毒です」

幽 「チッ」

実際、幽の傷は常人ならばとっくに気絶しているほどのものだった。
それほど十二天宮タウラスとの戦いは激しかったということだ。

幽 「どうにも御せねえ女が四人いやがる。おまえはその一人だ。気に食わん」

美凪 「・・・特別。えっへん」

幽 「もういい。とっとと行け」

美凪 「・・・でも」

幽 「チビガキの視線がうぜえんだよ。離れろ」

美凪 「・・・がっかり」

幽 「ふん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アザトゥース遺跡の奥へと続く回廊。
そこで元と郁未はアリエスと落ち合った。

元 「おや? キャンサーはどうしました?」

アリエス 「死んだわ」

郁未 「なんですって? 一体誰が」

アリエス 「折原の坊やよ。侮るからああなるんだわ」

元 「それは残念。しかしまぁ、どうでもいいですけどね。それよりも、久しぶりの再会はどうでした?」

アリエス 「片方がつまらなかったわ。全然本気にならないんだもの」

元 「おや? 片方というのは?」

アリエス 「気にしなくていいわ。そっちこそどうだったの? タウラスは手ひどくやられたみたいだけど」

元 「ええ、さすがは幽、と言いたいところですが・・・・・・」

アリエス 「が?」

元 「いいえ。(タウラス如きにてこずるようでは、昔のあなたにはまだまだ及びませんよ。幽)」

アリエス 「まあ、いいわ。それより、次の段階へ移行するんでしょ」

元 「そうですね。行きましょう」

郁未 「・・・・・・」

二人に挟まれて、郁未は息苦しさを感じていた。
この二人は十二天宮においては新参者だった。
しかし、その前身がとんでもない。
片方は元四死聖、もう片方は・・・・・・。

郁未 「(どうしてこの二人が私達の主のために働いているのか、わからないわね。復活前の今なら、この二人の力であの御方を倒せるだろうに・・・)」

何を考えているのかわからない二人。
ただ強い以上に得体の知れないあたりが、怖いと感じられる部分だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐一 「おい、話してもらうぞ」

さやか 「なーんのことだろうね〜」

祐一 「惚けるな。あの女と知り合いなんだろ。一体何者だ?」

さやか 「いいじゃない、そんなのどうでも」

皆の無事を確認して、いらいらは収まった祐一だったが、今度はあの女と知り合いらしいさやかに詰め寄っていた。
何故あのアリエスと名乗る女は秋子と瓜二つなのか、何故自分は・・・あの女に懐かしさを感じるのか。

祐一 「答えろ」

さやか 「うーん、たぶん君の望む答えは私からは聞き出せないよ」

祐一 「どういうことだ?」

さやか 「確かに私とあいつは知り合いだけど、あいつと君の関係を私は知らない。憶測はできるけどね」

祐一 「なら憶測でもいい」

さやか 「それは、私が言わなくても君自身で想像がつくんじゃないの?」

祐一 「・・・・・・」

祐一は押し黙る。
もしかしたらという考えはある。
しかしそれを口に出すことは躊躇われた。

さやか 「ま、いいじゃん、今は。とりあえず一休みしたら先に進むってことで」

真琴 「やっぱり進むのぉ? どうせ偽の依頼だったんでしょ?」

美汐 「確かに、このまま闇雲に進むのは危険でしょう」

祐一 「みんなにまで無理強いするつもりはない。けど、俺はもう一度あの女に会って確かめたい。だから、進む」

舞 「・・・祐一が行くなら、私も行く」

佐祐理 「あははー、お供しますよー」

真琴 「・・・仕方ないわね。あたしがいなくちゃなーんにも始まらないもんね」

美汐 「騒がしいだけでしょう」

真琴 「何よぉ」

美汐 「何です」

ばちばちばちばち

皆まだまだ余裕があった。
誰も脱落する事無く、先へ進むことになりそうだ。

浩平 「よう、おまえらも無事だったな」

祐一 「見せつけやがったな、おまえ」

浩平 「当然さ。ところで、あいつらを見てて思い出したことがある」

祐一 「なんだ?」

やけに真面目な顔付きで話す浩平に対し、祐一も神妙な顔で聞く。

浩平 「十二宮の紋章をつけて戦う奴らのことだ」

祐一 「さっきの奴らだな」

浩平 「ああ。十二天宮と呼ばれる、かつてあの四死聖とも渡り合ったといわれる最強の集団のことだ」

祐一 「四死聖だって!?」

四死聖。
千人斬りの幽を筆頭にする最強の死神達。
それと渡り合ったほどの者達。

浩平 「それだけじゃない。そいつらを束ねていた奴の名前も思い出した。もし本当にそいつが生きてるとしたら、これは偉いことだぞ」

祐一 「そいつの名前は?」

浩平 「・・・覇王、ゼファー・フォン・ヴォルガリフ。七年前、大陸征服目前のところで北辰王率いる連合軍に討たれた男だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

潤 「マジかよ、水瀬」

名雪 「お母さんから聞いたことがあるよ。結局直接戦うことはなかったみたいだけど、もし戦っていたら覇王軍を倒すのは何年も遅れてたかもしれないって。それが・・・」

潤 「覇王十二天宮・・・・・・あいつらそんなとんでもない奴らなのかよ」

名雪 「手加減されなかったら死んでたね、私達」

潤 「俺は遠野に助けられなかったらな。だが・・・このまま引き下がってたまるかよ」

香里 「あたしも、このままで済ます気はないわ。栞、あなたはここに残って・・・」

栞 「それはできません。私にも行かなくちゃならない理由がありますから」

美凪 「・・・私も、お供します」

みちる 「当然だー」

 

 

幽 「・・・あのクソ野郎の復活か。おもしれえ。また俺にぶっ殺されるとは不幸な奴だぜ」

戦いから一時間弱。
幽は剣を手にして立ち上がった。
そして栞達の方は一瞥すらしないで歩き出す。

栞 「あ、待ってくださいよ」

幽 「・・・・・・」

香里 「栞! あたし達も行きましょう」

名雪 「うんっ、ねこねこ集団、リベンジマッチのため出発だよ」

潤 「おう!」

みちる 「よーし!」

美凪 「・・・おー」

 

 

前哨戦を終え、再び皆遺跡の中心を目指して進みだす。
そこには、強大な存在が待ち構えていた・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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