Kanon Fantasia

 

 

 

第14話 アザトゥース遺跡

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐一、佐祐理、舞、真琴、美汐、さやかのおてんこ小隊。
名雪、香里、潤、美凪、みちるのねこねこ集団。
浩平と八輝将の一人、上月澪。
幽と栞。
そして斎藤元が幽の宿敵と呼んだ者の一派。
全ての者が一つの場所に集まろうとしていた。
それがここ、アザトゥース遺跡である。

 

 

 

 

 

 

 

栞 「アザトゥース遺跡は、古の魔王に所縁のある地だそうです。真偽のほどはわかりませんけど、ここで神を降臨させようとした人もいたという話が残っているみたいですね」

幽 「ふん、くだらねえな。神如きを降臨させたからどうだってんだか」

人や魔物、悪魔に神すらも斬ったことのある幽にとって、その程度の伝承は驚くに値しない。
だが、もしその話が本当なら、ここを相手が示した理由は検討がついた。

幽 「あの野郎が。ここで復活しやがる気だな。上等じゃねえか」

栞 「・・・・・・」

幽が気にしている宿敵とは一体何なのか。
ここまで勢いでついてきたが、栞は自分がどうするべきかは迷っていた。

栞 「(たぶん幽さんは、その“あの野郎”さんと戦うんですよね。私は邪魔かもしれません)」

むしろ身の安全を考えるなら、自分はここで引き返した方がいいのかもしれない。
千人斬りの男の宿敵ほどの相手となれば、いかな栞とて死ぬかもしれないのだ。

幽 「ケッ、さっそくお出迎えだぜ」

栞 「え?」

二人の眼前には、一人の巨漢が立っていた。

栞 「・・・誰ですか?」

幽 「あの野郎の使いっぱしりだ。その紋章は、タウラスだな」

タウラス 「千人斬りの幽。この先に進むには、テストを受けてもらわねばならん」

幽 「ふん、誰にもの言ってやがるんだ木偶の坊。テスト料は高いぜ。てめえの命だ」

鞘から長剣を抜いて肩に担ぐいつもの戦闘態勢をとる幽。
栞は自然に幽から離れる。

幽 「かかってきな。遊んでやるよ」

タウラス 「参る」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐一 「ここがアザトゥース遺跡か・・・」

サーガイアから東南東の方角に向かうこと三日。
荒野を越えた先にその遺跡は存在していた。

真琴 「ふっるーい」

美汐 「遺跡ですから、当たり前でしょう」

真琴 「わかってるわよ、そんなことは」

この二人は口を開くたびにこの調子で、いまだ仲直りという状態には達していない。

祐一 「やれやれ・・・」

佐祐理 「遺跡の調査ということでしたけど、どこから手をつけましょうか?」

祐一 「そうだな。ま、とりあえず真っ直ぐ進むしかないんじゃないか?」

舞 「・・・待って。誰か来る」

祐一 「何?」

祐一と舞は思わぬ人の気配に身構える。
相手は襲ってくる様子もなく、無造作に近付いてくる。

浩平 「よぉ、おまえらもここに来てたのか」

祐一 「浩平? なんでおまえが・・・」

澪 「(ぺこり)」

一緒にいた小柄な少女が頭を下げる。
はじめて見る顔だったが、浩平と一緒にいることから、八輝将の一人だろうと思われる。
見た目はまったく強そうではないが。

浩平 「頼みは聞いてくれたみたいだな」

祐一 「まぁな。でもやっぱり、おまえの利益にどう繋がるのかさっぱりだけどな」

浩平 「気にすんなって、間接的にって言っただろ。そのうち功を奏するんだよ。もっとも・・・」

少し目を細めて浩平は遺跡の方に目をやる。

浩平 「ここでの成果次第では、計画の建て直しを考える必要があるんだけどな」

その視線の先には、無数の人影があった。
今までは誰のいなかったはずなのに、いつの間にか何十人も集まっている。

舞 「!!」

佐祐理 「はぇ〜、たくさんいますよ〜」

美汐 「まさか・・・さっきまで誰も」

真琴 「どうなってんのよぉ!」

さやか 「どうやら、お出迎えらしいね」

今度の相手は浩平と澪とは違い、明らかに敵意を向けてきている。

祐一 「このことか? ここの成果ってのは」

浩平 「みたいだな」

祐一達と浩平も各々武器を構える。
それを見て、敵集団の中から一人が進み出てきた。

浩平 「へぇ、キャンサーの紋章か」

キャンサー 「ようこそ、相沢祐一殿とその一行。それに折原浩平とその連れの方ですな」

敵意とは裏腹に、キャンサーの紋章の男は丁寧な口調で語りかける。

祐一 「どうして知ってる?」

キャンサー 「簡単なことですよ。お招きしたのは我々ですから」

祐一 「なるほど、あの男はおまえらの仲間ってわけだ」

キャンサー 「ええ。カプリコーンは我々の使者ですよ。折原一門の方はお呼びでないのですが、まぁ、いいでしょう」

浩平 「まるで俺達は取る足らないとでもいいたげだな」

キャンサー 「黙っていた方が長生きが出来ますよ、折原の若者よ。少しでも長く夢を見ていたいでしょう」

浩平 「(こいつ・・・)」

丁寧な物腰であるが、言葉にはひどく冷たい印象を覚える。
その気になればすぐさま自分達を殺しにくるつもりだと浩平は感じた。

浩平 「(澪、ぬかるなよ)」

澪 「(こくり)」

キャンサー 「さて、こちらから招待しておいて恐縮ですが、皆様にはテストを受けていただきます」

祐一 「テストだって?」

キャンサー 「はい。何せこの先は非常に危険。テストに合格できない方をお通ししても、百メートルも進まないうちに死にますから」

浩平 「なら、テストに受かれば黙って通すってことか」

キャンサー 「ええ。なーに、テスト項目はいたって簡単。私達と戦えばいいのです」

浩平 「なら話は早い。さっさと終わらせてやるよ。澪!」

澪 「―――!!!」

浩平の言葉を受けて澪が口を開く。
そこからは何の音も発せられなかったが、何か大きなプレッシャーが敵の集団に向かって放たれた。

敵 『ぐわぁっ!』

衝撃の直撃を受けた者達がもんどりうって倒れる。
倒れた者達は皆顔のあちこちから血を流していた。

キャンサー 「なるほど、これが八輝将上月澪の超音波攻撃ですか。おもしろいですが、その程度でテストに合格できるとでもお思いですか?」

澪 「っ!」

浩平 「澪! チッ」

ガキィン!

背後に回ったキャンサーの攻撃を浩平が剣で受け止める。

キャンサー 「まずはあなたですか。存分に見せてもらいましょう。折原の若者よ」

浩平 「ああ、たっぷり見せてやるよっ!」

 

一方、澪の超音波攻撃から逃れた敵集団の攻撃により、祐一達一行は個々に分散させられていた。
真琴と美汐、舞と佐祐理、祐一一人に、さやかも一人になっている。

さやか 「やれやれ、さっそく楽しく・・・・・・っ!」

ドシュンッ

真上からの攻撃を転がってかわすさやか。
そのまま反動で起き上がって攻撃がきた方向へ向き直る。

アリエス 「あなたの相手は私がするわ。この十二天宮が一人、アリエスがね」

さやか 「げ、あんたは・・・!」

全身をマントで覆った女性が岩の上に立っていた。
その相手を前に、さやかは相当に緊張する。

さやか 「まさかあんたがねぇ・・・」

 

祐一はぐるりと周りを取り囲まれていた。
円の中心で剣を構えている。

祐一 「なんだよ、大将は浩平のところ行っちまったのか」

敵の数はざっと十四五人。
いずれも見ただけで手練とわかる。

祐一 「俺には雑魚で十分ってことかよ。でもな、最近俺活躍の場が少なくてストレス溜まってるんだ。容赦しないぜ!」

そう。
実は彼はこの物語の主人公のはずなのだが、このところ割と影が薄いのだった。
ゆえに今、彼は燃えていた。

祐一 「おらおらおらぁ!」

両手持ちの大剣をもって力押しで攻めるのが祐一の基本戦法である。
その上大型の武器に似つかわしくないスピードも兼ね備えている。
はっきり言って、祐一の実力は並大抵のものではないのだ。

ズバッ ザシュッ ズゴッ!

見た目同じの下っ端やられ役程度が集まったところで祐一の敵ではなかった。

祐一 「固まってると危ないぜ。ウィンドクラッシャー!!」

ゴォオオオオオオオ!!

宝剣シルフィードが発する突風が密集していた敵をまとめて吹き飛ばす。

祐一 「どうだっ!・・・・・・なっ?」

しかし、一度倒したはずの敵は再び起き上がり、祐一に向かってきた。

祐一 「このっ!」

ザシュッ

再び倒す。
しかし、腕がもげようが首が飛ぼうが、敵はお構いなしだった。
まるで亡者の群れのように突撃してくる。

祐一 「こいつら・・・人間じゃない!」

 

舞 「・・・魔物」

佐祐理 「あははーっ、だったら遠慮はいりませんね。大技で一気に吹っ飛ばしますから、舞は術が完成するまでの時間稼ぎをお願い」

舞 「わかった」

 

美汐 「早くしてくださいね。これだけの敵をまとめて吹き飛ばすだけの魔法はあなたでないと出来ないんですから」

真琴 「あたしに指図しないでよ。言われなくたってわかってるんだからっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐一達がテストと称して敵に襲われている頃、別の方角からアザトゥース遺跡に近付く一行があった。
名雪を先頭とするねこねこ集団である。
だが、彼女達の前に敵が現れていた。

香里 「どちら様かしら?」

元 「十二天宮が一人、カプリコーンと言います。みなさんにはここで、この先へ進むだけの力があるかどうかテストを受けていただきます」

潤 「つまり、あんたを倒さないと先には進めないってことか」

元 「倒すのは無理だと思いますが、私が一定のレベルだと判断したらお通ししますよ」

潤 「言うじゃねえか。なら俺がはっきりそのレベルを見せてやるよ! もちろん、おまえを倒すつもりでな!」

一行の先頭に立って、槍を構えた潤が元と対峙する。
元は柔和な表情のまま、手にしていた日本刀を鞘から抜く。

元 「一番手はあなたですか。では、はじめましょうか」

潤 「行くぜ!」

槍を小脇に抱えた状態で潤は突進する。
後ろから見ていた名雪や香里は、以前よりも切れが増してるの動きに驚いていた。
それだけの速さで潤は元の懐に入り込む。

潤 「(もらった!)」

すぅっ

潤 「何っ!?」

確実に槍で突いたはずだが、そこにあったのは元の残像に過ぎなかった。

元 「どこを見ているんです? 私はこっちですよ」

潤 「!!」

声はすぐ真後ろから聞こえた。
振り返るより早く、潤は槍の石突をそこにいるはずの元に打ち込んだ。
しかし今度も捉えることは出来なかった。

元 「遅いですね」

潤 「舐めるなっ!」

余裕の表情で立っている元目掛けて、潤は槍による連続突きを放つ。
高速で突き出される槍は無数の残像を作り、まるで槍衾のようであった。

潤 「おららららららっ! 百烈槍!!」

ぴたっ

潤 「な・・・に・・・?」

その突きを、元は無造作に突き出した刀の先端を槍の先端に当てることで止めていた。
まさしく針の穴を通すような小さな一点のみに力が拮抗する。
半端な芸当ではない。

潤 「く・・・・・・こいつ・・・!」

動くに動けない。
押すことはまったくできず、下手に引けばその隙に攻められる。

元 「もしかして、今のは技のつもりだったのかな?」

潤 「な・・・んだと・・・!」

元 「北川潤。君は華音王国では並ぶ者がいないほどの槍術の使い手と聞いたが・・・・・・井の中の蛙大海を知らず。この程度の技では、真の強者を相手にまったく通用しない」

戦っている最中さえ、ずっと笑みを浮かべていた元の目が今までとは比べ物にならない鋭い光を放つ。
押さえていた潤の槍を解き放ち、刀を下段に構える。

元 「見せてやろう。真の強者が放つ技というものを」

潤 「この・・・・・・舐めんなって言ってんだろ!!」

名雪 「! だめっ、北川君!!」

香里 「北川! 下がりなさいっ!」

元 「牙刃」

ザシュゥゥッ!!

閃光が走り、潤の体が宙を舞った。
弾き飛ばされた槍は地面に突き刺さり、潤自身の体も倒れ付す。
そのまま動かない。

名雪 「きた・・・がわくん・・・・・・?」

香里 「ちょっと・・・冗談は・・・」

名雪 「北川君ッ!!」

香里 「う・・・そ・・・でしょ?」

名雪は倒れた北川の下に駆け寄り、香里はその場で崩れ落ちる。

香里 「・・・潤ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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